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【デリケートで、感受性が強く、優しすぎたお兄ちゃん】 本作は、著者の『ナイン・ストーリーズ』や『フラニーとゾーイ』に登場する、グラス家の長兄、シーモアについて、次男のバディが綴った二つの文章を収録したものです。 本国では何故か『ナイン・ストーリーズ』以外の短篇はサリンジャー本人によって封印されていて出版できないのだそうですが、日本では読めるんですね~。 それは幸運なことなのでしょう。 『シーモア序章』の方は、シーモアが自殺した後で、長兄を思い出してバディが綴った文章という形を取っていますが、いささか観念的で読みにくいと感じました。 シーモアの人となりをうかがわせるシチュエーションが沢山出てくるのですけれど。 ここでは『大工よ……』の方をご紹介します。 この作品ではシーモアの結婚式の回想が綴られます。 シーモアは、1942年(25歳の時になるのかな?)にミュリエルという大変な美人と結婚することになります。 ところが、両親も含めてグラス家の面々は世界中のあちこちに散らばっており、ニューヨークで開かれる結婚式に参加できそうなのは次兄のバディしかいそうにもありません。 バディも軍務に就いていて、しかも肋膜炎を患っていましたのでちと辛い状況にはあったのですが、妹のブー・ブーから絶対に「出席しなさいよね」という手紙をもらい、強引に休暇を取得して参列することにしたのです。 ここで一大事が起きてしまうのですね。 どうやらシーモアは結婚式をドタキャンしてしまったようで、式場に姿を見せなかったのです。 花嫁は泣き崩れて会場を去っていきます。 集まった参列者(花嫁側の関係者ばかりです)は、花嫁の家に向かうべく、用意された車に分乗していきます。 バディとしては大変居心地の悪い状況になってしまったわけですが、どういう拍子か花嫁の関係者を満載したバスに乗り込んでしまったのです。 さすがに自分からはシーモアの弟だとは言い出すことができず、適当に話を合わせてはいるのですが、険悪な空気です。 そりゃそうですよね。 バディにもどういう事情なのかはよく分からないのですが、どうもシーモアは結婚式の前夜に花嫁を呼び出し、自分はあまりにも幸せ過ぎるので、この幸福感がもう少し収まらないことには結婚式などできそうもない……などというよく分からない理由をこねて結婚式をボイコットしたらしいのです。 参列者を乗せたバスは途中でパレードの交通規制とぶつかってしまいます。 いつ動くか分からないバスの中で待たされ続けるのに業を煮やした面々は、近くの冷房が効いたお店で何か飲み物でも飲もうということで三々五々バスを降りていきます。 何故か同行するバディ。 ところがお目当てだった店は閉店中で、参列者のイライラは募ります。 実は、この場所の近くに、シーモアとブー・ブーが使っていた部屋があったことから、バディは近くに休める部屋があり、電話もありますと申し出たのです。 そこで数名の参列者はバディの案内で部屋に向かうことにしました。 さて、この作品のタイトルって変わっていますよね。 これは、バディが案内した部屋の洗面所の鏡に、ブー・ブーが書き残したシーモアの結婚式を祝う言葉の一節なのです。 バディは、部屋にシーモアの荷物が残されていることに気付き、その荷物の中からこっそりと日記を取り出します。 洗面所にこもって日記を読むバディ。 その日記には、シーモアのミリュエルに対する真の思いが綴られていました。 ミリュエル側の参列者たちは、シーモアは精神分裂症だとか男色家だとか言うわけですが、そんなことではないということが日記から分かります。 この物語、一応目出度く(?)終わることになります。 いや、シーモアは結婚後、花嫁と出かけた旅行先で自殺することになっていますので、結婚してもらわないと話が続かないのですけれど。 『ナイン・ストーリーズ』や『フラニーとゾーイ』で断片的にしか語られていなかったシーモアの一端をうかがい知ることができる作品でした。読了時間メーター□□□ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2020/04/19 by ef177
【井上謙治】(イノウエケンジ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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