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金井美恵子

著者情報
著者名:金井美恵子
かないみえこ
カナイミエコ
生年~没年:1947~

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このランキングは1日1回更新されます。
      小春日和 文芸コレクション)
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      • 【クリティカルに『あるあるのツボ』を突いてくる、ナマミの女子大生の日常エッセイ風小説】
         桃子は、上京して大学に通うことになり、本当は一人暮らしをしたいのですが、母親の強硬な反対に合い、新宿(多分)で独身一人暮らしをしている作家の叔母のマンションに居候することになります。
         本作は、そんな桃子の東京ライフをゆる~く綴った、ごくごく日常的なエッセイ風小説です。

         本作が書かれたのは1988年なのですが、読んでまず感じたのは金井さんの観察眼の鋭さです。
         とにかく随所に、「あ~、こういうのあったよね」という場面が満載なのです。
         当時流行っていたお店の雰囲気や、怠惰な大学生のモラトリアム的生活、人間関係などなどが妙に生々しく描写されていきます。

         桃子が寄宿する小説家の叔母というのは、金井さん自身がモデルなのかなと思うのですが、作中にはその叔母が書いたとされるエッセイや短い小説がそのままの形で挿入されており、もちろんその部分も金井さんが書いているので、『金井さんが書いている金井さんがモデルになっている作家の作品』を読めるという、何だか入れ子みたいな構造になっています。

         内容的には特段大きな出来事が起きるわけでもなく、親子の関係、友人関係、日常生活などがゆるゆると綴られていくだけです。
         桃子の両親は離婚しており、父親は東京でホテルの支配人をしているのですが、一応桃子のことを可愛がっているようで、結構高級な店に食事に連れて行ってくれたり、誕生日には高価な靴をプレゼントしてくれたり、お小遣いをくれたりで、一見良い父親にも見えるのですが、桃子からすれば、センスがズレている気障な中年オヤジでしかありません。

         しかも、離婚の原因は父親が他に女を作ったからだと桃子は思い込んでいたのですが、何と、父親は同性愛者であることが分かり、そのお相手の男性とも会ったりするというビミョーな展開になったりもします。

         毎週こまめに電話をしてくる母を鬱陶しく思い、真面目に大学に通うこともせず、時には10日間位家に引きこもってほぼ一日中惰眠をむさぼり、着替えもしなければ風呂にも入らないという、全くナマミの女子大生の姿が描かれます。
         桃子はあまり友達を作ろうとはせず、唯一気が合った(自称)花子と映画に行ったり食事をする程度なのですが、この引き籠り状態の時、花子が家に来ると聞き、仕方なく起き出して、ずっと着がえずにいたパジャマの匂いを嗅いだら饐えたような自分の体臭がして……などというナマな話もさらっと書かれており、等身大の女性というのはそんなもんなのだよと世のうつけな男どもの幻想を軽~く足蹴にしてしまうのです。

        金井さんは、あとがきで「少女小説というものを読んで育った者の一人として、そうした読者への<おかえし>のためにも一度少女小説を書いてみたい、と長年思ってきたのでした。」と書いていますが、これ、少女小説ですか?
         まあ、金井さん自身も「この小説を少女小説と呼ぶのは、いくつかの点で、少女小説を成立させている要素を欠いているために、いささか気が引けるのですが」と書いていますので、典型的な少女小説とは考えていないのでしょうけれど。

         とにかく桃子や花子は、色気が皆無というか女性性を完全に捨てているというか、特に桃子には全くと言って良いほど恋愛シチュエーションが無いので(花子はかろうじてあるようですが、詳しくは語られません)、少女小説のコアとも言うべき恋愛が無いという決定的な欠落があるわけなのですけれど。

         また、私が思う少女小説の一つのパターンは、主人公の不遇な境遇みたいなものがあるように思うのですが、冷静に見れば桃子だって両親が離婚し、父親が同性愛者だと分かり、ガーン!!的な状況にはあるものの、桃子自身は妙に冷めていて結構まんま受け入れてしまっているので、『ヒロインの不幸性』も欠落しているわけですのよ。

         さらに言えば、少女小説はある意味ではビルドゥング・ロマンの側面もあり、ヒロインの成長というのも重要な要素の一つではないかと愚考するのでありますが、桃子にも花子にも目立った成長は無い!
         桃子は、「東京には空が無いというけれど、結構あるじゃん」などと思い、部屋の日向でごろごろして「3キロ太った」などとほざいているのですから。

         金井さんは、「こういう桃子や花子のような若い娘たちが、将来どういう女性になるのか、不安を感じないわけではありません」とも書いており、そこに共感してしまうのは自分がオヤジになっているからなのでしょうかね?
         いや、だって、二人とも真面目に大学に通っているなんてことは全く無くて、将来についても何も考えておらず、男と言えば小馬鹿にする存在程度の認識しかなさそうなので、こいつらどうするつもりなの?と思わざるを得ないのですもの。

         とは言え、金井さんは「それは、言ってみれば、おばさん的心配にすぎないのかもしれません。」とも書いており、やっぱりそうなんですかねとしみじみ渋茶を啜りたくなってしまうわけなのでした。

         なお、金井さんの作品と言えば、あの読点のない、非常に一文が長い独特の文体がすぐに思い浮かぶのですが、本作に関してはそういう文体は使っておらず、ごくごく普通に読めるのですよ。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2020/12/23 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      目白雑録
      3.0
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      • 小説、批評、エッセイなどなど、読んで面白いものを書くには色々知ってなきゃいけないのが大前提で、それに加えて文才に大きく左右される。物書きは昔から憧れるが届きそうにない。せめてちゃんとした読者になりたい。 >> 続きを読む

        2013/06/15 by freaks004

    • 1人が本棚登録しています
      ピクニック、その他の短篇
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 金井美恵子の『小春日和』を読んだとき、小説家を生業とするおばが書いたエッセイが作品の合間合間に挟まっていたのですが、そこで書き手であるおばが昔書いた作品として『窓』というのを引用していました。ちょっと気になって調べてみたら、金井美恵子自身が『窓』という作品を書いていることがわかったので、引用もそこからなのか?と気になって読んでみた次第。結論としては、金井美恵子の『窓』からの引用で間違いなかったですが、この短編集自体がものすごい引力が強くて、たまらなかった。なんだこれ!

        『小春日和』は金井美恵子流少女小説ということだったようなのですが、たぶん彼女はこっちの文体のほうが自然なのでしょう。<>を多用した幻想的な文章で、ねちっこいようで妙に乾いていたり、官能的で匂いの描写を具体的にすることで映画のように情景が目の前に広がる感じ。映画は匂いがしないのに。ある空間を思い浮かべるとき、たぶん一番入りやすいのが嗅覚なんでしょう。どこかで読んだような、しかし誰とも違う文章で、完成された印象。アンナ・カヴァンとか長野まゆみあたりが近いかと思いますが、昭和特有の落ち着いた文章のようでもあり、いや、これ、すごいですよ。名文揃いで。こんなに力強く美しい文章はそうそうない、と思う。

        現代のはやりの文章は軽さを持っていて、たぶんネットやスマホの影響もあるのでしょうが、昭和の文体と比べるとやっぱり種類が違うように思います。昭和と明治も文体違いますもんね。戦時中・戦後の書き手は独特だ。金井美恵子の文章はそれに輪をかけて独特だ。五感を刺激される文章なのか、けっこう体力がいる。

        短篇集で、どれも良いのですが、一つ選ぶなら『月』が一番好きです。いやしかし、金井美恵子、すごいな。
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        2017/06/08 by ワルツ

    • 2人が本棚登録しています
      柔らかい土をふんで、
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね! Tukiwami

      • 金井美恵子の「柔らかい土をふんで、」を再読。

        この小説を初めて読んだ時の驚きと興奮を、私は今も覚えています。
        さまざまな声と時間と記憶が絡み合い、縒り合い、境目を失っていく語りにに陶然としたものです。

        夫と子供を置いて男のもとに走った女。同棲の末、その女に去られてしまった男。

        官能的な関係がやがて冷え切って、「長い退屈な時間の反復に耐えること」に成り下がり、彼女が置き手紙を残して去るまでのループ状の時間を、彼女の言動や体や着ていたもの、幼い頃の思い出、映画のシーンを反復・呼応させ、反復・呼応させるたびに描写を増やしながら、時系列を無視して幾度も生き直す「私」。

        そうした反復・呼応を描く、もともと数ページにも及ぶ息の長い一文が、しまいには読点すら失って、その長い長い一文の中で、在ったことと記憶、事実と虚構が溶け合い、ひとつになっていくラストは、何度読み返してもうっとりするほどエロティックでスリリングだ。

        小説が言葉でできていて、文体によって小説に成っていくという当たり前のことを思い知らせてくれる、これは世界文学クラスの傑作だと思う。

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        2019/02/11 by dreamer

    • 2人が本棚登録しています
      文章教室 文芸コレクション)
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 最近お気に入りの金井美恵子。私が読んだのはたぶん版が古くて、表示されている画像とは装丁が違いますけど。
        とりあえず目白四部作を読むつもりでしたが、個人的には短編集のほうが好きでした。

        文章教室に通うことにした主婦が書いた文章を地の文に取り入れたり、実験的で面白い書き方だと思います。月並調をユーモラスに批判したり。
        とはいえ、なんていうかストーリーが実に俗っぽいので、なんだかそこだけどうもなじめず。昭和の香りがするというのもある。短篇集で幻想的な文章に打ちのめされたので、こういう話だと同じ作家なのか、という驚きもあります。幅の広い作風だ。それでもやっぱり根底に流れるのは金井美恵子っぽいですけどね。
        >> 続きを読む

        2017/06/19 by ワルツ

    • 1人が本棚登録しています

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