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黒岩重吾

著者情報
著者名:黒岩重吾
くろいわじゅうご
クロイワジュウゴ
生年~没年:1924~2003

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      背徳のメス
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • しばらくぶりで、"社会派推理小説"を読みたくなり、私の本棚に眠っている数十冊の黒岩重吾の小説の中から「背徳のメス」を取り出して来て、今回、いつものように小説を読む悦びを満喫しながら、一気に読了してしまいました。

        黒岩重吾という作家は、以前レビューした「天の川の太陽」という"古代史小説"や、大阪の西成を舞台にした自伝的要素の強い小説で有名ですが、しかし、彼はもとはと言えば、れっきとした"社会派の推理作家"であり、彼の数々の"社会派推理小説"は、今、この時点で読み返してみても、全くその鮮度が落ちる事なく、社会の様々な不条理な問題点を内包し、それらに翻弄される人間たちの生きる上での苦悩や哀しみを、等身大の生身の人間を通して、鮮やかに描いていて、いつも読むたびに考えさせられるのです。

        このような黒岩重吾の作家的な資質は、彼の巷に溢れている生半可な小説よりも、遥かに激烈でドラマティックな半生にあるような気がします。同志社大学在学中に学徒動員で戦地へ出陣し、北満洲に送られます。戦後、逃避行の果てに命からがら内地に帰還し、闇屋のアルバイトをしながら、大学を卒業し、証券会社へ就職します。

        そして、その頃、株で大儲けしますが、やがて大人の小児麻痺という奇病にかかり、4年間の闘病生活を強いられます。その後、株価の大暴落で無一文になり、釜ヶ崎のドヤ街に住んでトランプ占いなどで生計を立てるという凄まじい生活を送っています。

        ただ、このような激烈で凄まじい人生経験が、その後の彼の作家としての頭だけで考える作家ではなく、生活に根を下ろしたシビアでシニカルに社会を、そして人生を見つめる厳しい視点が備わったのだと思われてなりません。

        その後、彼は1960年に書きおろし長編「休日の断崖」で直木賞の候補になり、翌年に今回読了した「背徳のメス」で、第44回直木賞を受賞するに至ります。

        その後も彼は精力的に何かに憑かれたように、「腐った太陽」「真昼の罠」「脂のしたたり」「肌は死なない」「廃墟の唇」「女の小箱」などの私が愛してやまない"社会派推理小説"を矢つぎばやに発表し、当時の"ポスト松本清張"時代を代表する作家の一人になっていったのです。

        しかし、彼が数々の社会派推理小説を執筆する動機として、「自分が推理小説を選んだのは、それが人生の真実を追求するのに最も適した形式だからだ」と語っていたように、1960年代後半からは次第に、"西成物"と呼ばれる自伝的な色彩の濃い作品や、夜の女たちを主人公にした生々しい生態の風俗小説にシフトしていき、1970年代に入ると、彼のライフワークとも言える、"古代史小説"を手掛けるようになっていったのです。

        この今回読了した「背徳のメス」は、黒岩重吾の出世作にして、彼の"社会派推理小説"の代表作であり、物語の内容は、キリスト教団の資金で運営されている阿倍野病院は、医者も患者も質が悪い事で有名で、この小説の主人公の産婦人科の医師・植秀人は、科長の西沢とことごとく対立している関係です。

        旧帝大出身の西沢が、医専上りの植の助言を無視して、安井光子という患者を死なせてしまいます。光子の夫はこの阿倍野界隈を仕切っている暴力団で、病院に対して二千万円の慰謝料を請求して来ます。

        これを受けて、西沢は植に対して、自分に有利な証言をするように命じますが、植はそれを拒否してしまいます。

        この主人公の植秀人という男は、患者には親切ですが、薬剤師の加納伊津子を部屋に忍び込んで犯すなど、およそ女性関係には節操がなく、全く主人公らしくないキャラクターになっています。まさしく、この主人公の造形こそが、黒岩重吾が狙ったミソなんですね。

        そして病院の創立記念日の夜、酔って当直室に泊まった植は、ガス中毒で危うく死にそうになります。原因はストーブのガス栓がゆるんでいたからなのです。

        これは単なる事故ではなく、故意に仕組まれた事件だと直感した植は、自分が手を付けた看護婦を使って情報を収集しますが、真相はなかなかつかめず、闇のままなのです。

        その後、西沢との対立は更に深刻化し、植は次第に病院内で追い詰められ、孤立化していく事に----。

        そんなある日、事件の夜遅く白衣の女が当直室に忍び込むのを見たという目撃者が現われて----とワクワクするような推理小説の面白さをはらんで、物語が展開していくのです。

        読み終えて、この小説は、作家・黒岩重吾の社会の不条理や人間存在の意味までを問うような"深遠なテーマ"を、決して頭だけで考えたような独りよがりの内容にならず、厳しい現実の社会の中で必死にもがき、苦しみ、哀しむ人間たちをシビアでシニカルな視点の中に、ひと筋の優しいまなざしも見せながら描き、推理小説という枠を超えた、人間ドラマ"の傑作になったと思うのです。

        このように、作家・黒岩重吾の作家的な姿勢、矜持に基づき描かれた、社会を、そして人間を考える小説世界の旅を終え、私は静かにページを閉じたのです。




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        2016/10/11 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      茜に燃ゆ 小説額田王
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 黒岩重吾の"古代史小説"は、他の作家があまりアプローチしていない、古代という時代を舞台として、その陰謀渦巻く政治ドラマや人間ドラマを描いていて、歴史的な興味も重なって、一度読み始めるとあまりの面白さに、あれもこれもと読みたくなってしまいます。

        そこで、今回の"古代史小説"は、大化の改新と壬申の乱という二つの大きな政治的事件の狭間で、大海人皇子と中大兄皇子に愛された女流歌人の額田王の生きざまを描いた、情感溢れる「茜に燃ゆ 小説額田王」を読了しました。

        それまで、この額田王を描いた作品は、井上靖の「額田王」がありますが、この黒岩重吾の作品は、女性を主人公としている事から、熾烈な王権争いを"愛憎劇の視点"から捉える手法が斬新で、"政争と愛憎"が過不足なく重なり合って、古代王朝の世界が、作者・黒岩重吾一流のバイタリティを伴った人間らしさの表象として描き出されている点が、この作品の核であり、素晴らしいところだと思います。

        作者お得意のエロティシズム溢れるラブ・シーンも用意されており、妊娠した額田王に向かって大海人皇子が、「吾は吾のもので子袋を破ってみせるぞ」と挑みかかる場面と、その大海人皇子に見せつけるがごとく、額田王が湯の中で中大兄皇子と悦楽にふける場面は、この小説の上下巻、それぞれの圧巻の描写になっていると思います。

        "誇りと自立"をもって生きようとする額田王とパラレルに描かれる、息子の中大兄皇子に夫、蘇我入鹿を殺された皇極女帝や、中大兄皇子の野望の道具とされつつも、耐える事によって、愛を貫き通そうとする鏡女王など、三者三様に描き分けられた女人たちの姿というのも、この作品の読みどころの一つだと思います。あらためて、黒岩重吾という作家の女性を描く視点、描写力の凄さに舌を巻きます。

        読み終えて、この「茜に燃ゆ 小説額田王」は、額田王が後世に遺した、数々の歌に想いを馳せながら、黒岩重吾が古代の人々の生きざまをロマンの源流として解き放そうとする、作家としての姿勢を感じる事ができ、古代における政治的な争いという、大きなうねりに翻弄されながらも、自分自身の誇りや矜持を失わずに生きた女人たちを練達の筆で描き切った、古代史ロマンの傑作だと思います。
        >> 続きを読む

        2016/10/12 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      剣は湖都に燃ゆ 壬申の乱秘話
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 古代史上、最大の戦乱である壬申の乱を描いた内容です。
        壬申の乱は、要するに天智天皇の後継者争いだが、大海人皇子(後の天武天皇)の臣下である根麻呂の活躍等が面白く描かれています。結局この乱に勝利した大海人皇子が第40代の天武天皇となりますが、ちなみに天武天皇がそれ以前の「大王」という呼称を『天皇』に改めるよう命じたとする説があります。この説を前提としますと天武天皇が天皇としては初代ということになります。 >> 続きを読む

        2011/04/21 by toshi

    • 1人が本棚登録しています

【黒岩重吾】(クロイワジュウゴ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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