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皆川博子

著者情報
著者名:皆川博子
みながわひろこ
ミナガワヒロコ
生年~没年:1930~

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      開かせていただき光栄です DILATED TO MEET YOU
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • 【推理小説としてよりも】
         最初、内容を全く知らずにタイトルだけを見た時、「これは一体何の話なのだろう?」と不思議に思っていたのですが、読んでみて納得!
         本書は、18世紀のロンドンを舞台にした物語なんですが、そのテーマはずばり、人体解剖です。

         当時のイギリスでは、人体解剖などというものは神に背くおぞましい所行と考えられており、一部死刑囚の死体などの解剖は認められていたものの、それ以外にはなかなか人体解剖などはできなかったのですね。
         でも、医学の発展のためには是非とも必要なことです。
         というわけで、本書に登場する外科医ダニエルも、弟子達と共に、墓暴き人夫から買い取った死体を素材にして解剖にいそしんでいたわけです。
         だから、「開かせていただき光栄です」なんだ~。

         で、今から解剖しようとしているのは、妊娠6ヶ月の妊婦という極めて貴重な死体でした。胎児の状態を知るためにもこれは絶好の死体だったのですね。
         さて、これから解剖だというところで密告を受けた警察が踏み込んできます。
         この妊婦の死体も墓暴き人夫から買い取ったものですので、もちろん違法です。
         「隠せ!」ということで、大あわてで妊婦の死体を隠し、何喰わぬ顔で警察と対峙します。

         何とかごまかしたので、すぐにでも解剖を再開しようとしたところ……隠し場所から出てきたのは全く別の死体でした。
         何だこれは?!
         その死体は、若い青年の死体のようですが、四肢が切断されています。
         どういうことなの?

         そしてそして、すったもんだしているうちに死体がもう一つ!
         今度は顔を潰された成人男性の死体です。
         何でこんなに一度に死体が沢山出てくるんだよう。

         本書は、これらの死体の謎を追う推理小説として書かれているわけですが、もちろん推理小説として読んでもなかなかに面白いのですが(皆川さんによくみられるちょっと整理が尽くされていないというか、読者には不親切な混乱したパターンはあるんですけれどね)、私は、それよりも死体解剖の黎明期のすったもんだ劇として読んで楽しませていただきました。

         時にユーモラスな筆致も交えながら、大変しっかりと当時の状況を描いており、それだけで十分に堪能することができる作品に仕上がっています。
         
         でも、皆川さんは本当に懐が深いですね。
         今、実は皆川さんの別の作品も併読しているのですが、全く違う味わいの作品を書きこなせる才能には驚嘆します。
        >> 続きを読む

        2021/03/09 by ef177

    • 他5人がレビュー登録、 13人が本棚登録しています
      開かせていただき光栄です DILATED TO MEET YOU
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!
      • 【推理小説としてよりも】
         最初、内容を全く知らずにタイトルだけを見た時、「これは一体何の話なのだろう?」と不思議に思っていたのですが、読んでみて納得!
         本書は、18世紀のロンドンを舞台にした物語なんですが、そのテーマはずばり、人体解剖です。

         当時のイギリスでは、人体解剖などというものは神に背くおぞましい所行と考えられており、一部死刑囚の死体などの解剖は認められていたものの、それ以外にはなかなか人体解剖などはできなかったのですね。
         でも、医学の発展のためには是非とも必要なことです。
         というわけで、本書に登場する外科医ダニエルも、弟子達と共に、墓暴き人夫から買い取った死体を素材にして解剖にいそしんでいたわけです。
         だから、「開かせていただき光栄です」なんだ~。

         で、今から解剖しようとしているのは、妊娠6ヶ月の妊婦という極めて貴重な死体でした。胎児の状態を知るためにもこれは絶好の死体だったのですね。
         さて、これから解剖だというところで密告を受けた警察が踏み込んできます。
         この妊婦の死体も墓暴き人夫から買い取ったものですので、もちろん違法です。
         「隠せ!」ということで、大あわてで妊婦の死体を隠し、何喰わぬ顔で警察と対峙します。

         何とかごまかしたので、すぐにでも解剖を再開しようとしたところ……隠し場所から出てきたのは全く別の死体でした。
         何だこれは?!
         その死体は、若い青年の死体のようですが、四肢が切断されています。
         どういうことなの?

         そしてそして、すったもんだしているうちに死体がもう一つ!
         今度は顔を潰された成人男性の死体です。
         何でこんなに一度に死体が沢山出てくるんだよう。

         本書は、これらの死体の謎を追う推理小説として書かれているわけですが、もちろん推理小説として読んでもなかなかに面白いのですが(皆川さんによくみられるちょっと整理が尽くされていないというか、読者には不親切な混乱したパターンはあるんですけれどね)、私は、それよりも死体解剖の黎明期のすったもんだ劇として読んで楽しませていただきました。

         時にユーモラスな筆致も交えながら、大変しっかりと当時の状況を描いており、それだけで十分に堪能することができる作品に仕上がっています。
         
         でも、皆川さんは本当に懐が深いですね。
         今、実は皆川さんの別の作品も併読しているのですが、全く違う味わいの作品を書きこなせる才能には驚嘆します。
        >> 続きを読む

        2019/03/21 by ef177

    • 他3人がレビュー登録、 12人が本棚登録しています
      双頭のバビロン
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 【そしてめくるめく物語は輪環する? 濃密で重厚な傑作!】

         素晴らしくよくできた作品です。
         しかも、全てがefの趣味ど真ん中なのです。
         結構なボリュームがある作品ですが(ハードカバー、上下二段組みで540ページ)、あっという間に読了してしまいました。

         物語は、シャム双生児(今ではこういう言い方はしないのでしょうか? 作中でも「癒着双生児」と書かれていました)にまつわる数奇な物語です。
         舞台は、第一次世界大戦の前後に渡る、ウィーン、ボヘミア、ハリウッド、そして上海です。
         
         ウィーンのユダヤ系貴族である名門グリースバッハ家に、念願の跡取りとなる「一人」の子供が生まれます。
         ですが、その子供は癒着双生児だったのですね。
         体面を重んばかるグリースバッハ家としては、そのような奇形の子供が生まれたなどということは口が裂けても言えないこと。
         その子供「達」は密かに隠されることになりました。

         レントゲンによるX線が実用化されたのもこの時代のこと。
         その技術を使うことで癒着された二人は切り離すことが可能になりました。
         そうして、手術が行われ、「一人」は、ゲオルクとユリアンという「二人」になったのです。
         ですが、グリースバッハ家の跡取りは一人でよろしい!
         ……その結果、ゲオルクは、本来生まれたのはこの子であるとしてグリースバッハ家の跡取りとして残り、ユリアンはこの世界には存在しない者としてボヘミアにある「芸術家の家」と呼ばれていた癲狂院に幽閉されることになりました。

         この二人、もともとは「一人」だったこともあり、遠く離れていても精神感応力があるように思われました。
         自働筆記により、ユリアンには知りようが無いゲオルクの体験が書き出されていきます。
         その能力に目をつけたのがユリアンを庇護していたヴァルター医師でした。
         彼は、もっぱら学術的関心から、その能力の意味を知りたかったのですね。
         そして、ユリアンと共に「芸術家の家」で幼少期から育てられていたツヴェンゲル。
         彼も、重要な役回りを演じることになります。

         これが基礎的な舞台設定ですが、いちいち「小道具」がそそります。
         例えば、ゲーテ/シューベルトの「魔王」、ドイツ表現主義の傑作ヴェゲナーの「ゴーレム」、ウィーンのカフェやプラータ(efは仕事で何度もウィーンに行ったのでその描写は痛いほど……)、上海の阿片窟……その他もろもろ。
         いちいちどれもefのストライクゾーンど真ん中なのです。

         その後、とある策謀によりゲオルクはグリースバッハ家を廃嫡され、ウィーンから追放されて新大陸アメリカに渡ります。
         紆余曲折あって、ハリウッドに流れ着いたゲオルクは、そこで映画監督として大成します。
         ええ、映画です。ゲオルクが作る映画、そして実際に撮られた映画のお話がとても効果的に織り込まれていきます。
         トーキーが生まれるちょっと前の頃の時代、そして遂にトーキーが出現する頃の時代を描いています。

         ゲオルクとユリアン、そしてツヴァンゲル。
         彼らの絡み合う人生が濃密に描かれる本作は、ef的には傑作と言い切ってしまいます。
         皆川博子さんは、かねてよりすごいなぁと思っていたのですが、本作は絶品です。
         ネタばれになるのでこれ以上詳しいことは書けないのですが、efの趣味をご理解いただける方には絶対の自信をもってお勧めできます。

         感性を同じくする方、あなたに是非読んで頂きたい本がこれです。
        >> 続きを読む

        2019/03/25 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      冬の旅人
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • ロシアの大河歴史ロマンの大作ということで、かつてドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読んだ時から、ロシアの正教会のことや歴史を知らないと、との思い、そして、絵画を学ぶ主人公に興味を覚え、皆川博子の「冬の旅人」を読みました。

        どういうところが魅かれるのか、よく分からないけれど、何故か引きつけられる物語で、外国にいる雰囲気、広大なロシアの中を移動する様子、貧しい人間と豊かな人間の差、聖像画の意味合い、修道院での生活、画学生の生活模様など、興味深いものがありました。

        17歳の時に、画学留学生として露西亜に来てから、24年間この国(露西亜)で生活し、清国の内乱を契機に、日露が同時に宣戦を布告、旅券もとうに切れ、帰国せずにこの国にとどまることにしたのに、間諜の疑いをかけられて、自分が誰かの証明を求められ、なすすべもなく、投獄、放置されてしまいます。

        今までの数奇な生涯に、やっと安住の希望が見えてきたのに、自分がいったい何者なのかを突きつけられる。
        祖国を離れるということが、こういうことなのかと思い知らされる心境がなんとも、もの悲しい。

        この作品は、著者の年齢からいくと、70歳を超えての出版ということですが、こんなにもエネルギーに満ち溢れた作品を書けることに感服してしまいます。

        ロシアのロマノフ王朝崩壊の歴史をかいま見たようで、フィクションが絡められているとはいえ、ロシアという国の首都と地方の風土、貧困層の生活の模様などを知り、さらにロシア文学を読んでみたくなりました。

        それにしても、画家を職業にしようとするヴォロージャに対し、絵を描くことに興味を持ち、何を描くか、どのように描くかが、時によって次第に変化してくる様は、多少絵に興味を持つものとしての納得も、この作品を面白く読ませてくれました。

        また、若くして性を破戒されてしまった経験から、精神と肉体が伴わないあたりの表現は、控えめで嫌みは感じられず、むしろ理解できましたね。

        神を信ずる迄には至らない主人公が、フェージャを見て幸せを感じ、最後は、皇太子アレクセイを何とか助けたいと思うに至るのです。

        ラストの場面は、異様というか、それまで、夢か幻想の場面が、次第になくなりつつあったのが、ここにきて、現実の行為になって実行されてしまうところは、まさに鬼気迫るほど、狂気に満ちていたと思う。

        >> 続きを読む

        2021/06/13 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      聖餐城
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 【皆川博子+佐藤賢一+ケン・フォレット!……これは『全部盛り』か?】
         厚い。厚いぞ~! 
         文庫本で850ページ越えという超大作です。
         普通なら上下(あるいは上中下)に分けて出版しても全然OKなのに、一冊にまとめてしまった超分厚い文庫本です。
         読みにくい(特に最初の方とか最後の方とか読む時はバランス悪い)ったらありゃしない。いえ、造本がですよ。
         手の小さい方なんて扱いにくいんじゃないの、このツクリは。

         と、ひとくさり造本上の文句を言った上で、内容はというと、すんばらしい!
         これは是非読むべきですよ~。
         これまでの私の中の『皆川イメージ』とはまた違った面を見せてくれています。
         タイトルからして、『伯林蝋人形館』とか『死の泉』あたりの感覚の作品かな?と思って読み始めたのですが、そこまでおどろおどろしい物ではなく、でもまた胸騒ぐような歴史をベースにした作品という、まだ私が味わったことのない皆川ワールドでしたよ。
         そうですねぇ、『伯林……』あたりのテイスト+佐藤賢一チックなと言えば伝わるでしょうか?(いや、後で書きますがそれだけじゃない!)

         物語の舞台となるのは17世紀初頭の神聖ローマ帝国です。
         カトリックvsプロテスタントの宗教戦争に端を発し、その後、宗教なんてどっちでもいい的な領土拡張意欲に満ちた戦争が勃発する世の中を描きます。
         主人公は、『馬の腹から生まれた』と言われるアディという少年。
         彼は、輜重隊に個人的に同道しているとんでもないザーラ婆さんに育てられるのですが、純粋な奴で、戦場の余りの悲惨さにショックを受けて時々言葉が出なくなってしまいます。

         「さっさと略奪してくるんだよ!」というザーラ婆さんの声にせき立てられ、傭兵による略奪、強姦、殺人の最中に盗みに走り出します。
         そこで見つけたのが手足を縛られたきれいな身なりをしたイシュアという少年。
         「これは金になるかも?」
         ええ。当時は、戦いの後、捕虜に取った身分の高い者は相手側に引き渡すことにより金になったのです。

         イシュアはユダヤ人で、その父親はウィーンで皇帝の財務を司る大富豪でした。
         この宗教戦争で皇帝側につくべきか、王側につくべきかを決める密書を抱えてプラハにいる兄のシムションの所に行く途中で捕まってしまった少年だったのです。

         ここでアディとイシュアが巡り会うんですね。
         アディは、あまりにも悲惨な略奪を見て「自分は虐げられる側ではない側にいたい」との気持ちからイシュアの頼みを聞いて、ザーラ婆の下から出奔し、イシュアをプラハに送り届けようとします。
         ええ、イシュアは「僕をプラハに連れて行け! そうしたらお前の望みは叶えてやる。」と言うのですから。
         ですが、プラハに向かう途中で、イシュアは王軍にまたもや捕獲されてしまい、密書だけを持ったアディがプラハにたどりつきます。

         とても長い話になるのではしょりますが、アディはイシュアの兄のシムションの下に密書を届けた功により、願い通り皇帝側を支持するヴァレンシュタイン旗下のローゼンミュラー隊に取り立てられ、軍人としての道を歩き始めます。

         シムションを核とするユダヤ財閥は皇帝を、いや、それよりも有能とにらんだ弱小貴族であるヴァレンシュタインに投資することにし、ヴァレンシュタインはユダヤの金を背景にのし上がっていきます。
         
         この辺りの展開が佐藤賢一チックなんですよね~。
         戦乱の中の人間模様が大変巧みに描かれていて、佐藤賢一さんがお好きな方なら文句なしに楽しめる書きぶりです。

         ですが、そこに加わる皆川ワールド!
         イシュアは、何と、ホムンクルス(人造人間)ではないか?という疑惑が!
         はいはい。出てきますよ~。
         錬金術、カバラ、ケプラーの占星術……オカルティックな様相がぞろぞろと。

         この辺りでタイトルの意味を少しだけ書きましょう。
         どうやら『聖餐城』という城があるらしいのです。
         それは、ルドルフ2世がいずこかに築いたらしい城(?)らしいのですが、問題はそこにあったとされる『青銅の首』なる機械です。
         その作り物の首は、意思を持ち、国の重大事を問いかけると的確な答えを返したのだとか。
         それは既に破壊されたようなのですが、その残骸が未だに『聖餐城』に残されているのだとか……。
         そんなスーパーコンピュータのような物があるのなら是非我が物にしたいという野望が、この戦乱時にうずくのもよく分かるお話ですよね。

         シムションは、幼い頃にそんな話をちらっと聞いたことがある位だったのですが……。
         そうそう、イシュアのことを書かなければ。
         彼は、王の牢獄に囚われていたのですが、自力で脱出します。
         ですが、その時には、まだ幼い子供だというのに髪は老人のように銀色に変わり、顔つきも老成したようになっていました。
         そもそもが、『せむし』(?)のように、背中に瘤を持った奇形だったのですが。

         イシュアは、まるで『青銅の首』のように、的確に未来を見通し、豊かな学識を示し、その存在感を増していきます。
         兄のシムションは思います。
         「人工的に『青銅の首』を作れるのなら、ホムンクルスだって人工的に作ったものだ。あいつがホムンクルスなら、もしやイシュアこそが新しい『青銅の首』なのではないのか?」

         一方、アディは、貧民出なのですが、その一途な気持ちが功を奏し、また、銃の腕前が良かったこともあり、隊長の覚え目出度く、中隊長にまで出世します。
         相変わらず輜重隊につきまとっていたザーラ婆らにたかられつつも『自分の道』(?)に進み始めた……と思った時に、刑吏の娘ユーディトに熱烈に恋をしてしまいます。
         ですが、それは禁断の恋。
         当時、首切り人である刑吏は不浄の者とされ、一般人は触れることすら許されませんでした。
         一度触れたら、己も不浄の身に墜ちるのだとされていました。

         ですが、ある夜……ユーディトと結ばれたのです。
         それは、ユーディトの家族の思いやりにより『幻想』と設えられたことなんですが。
         これであきらめろと……

         ですが、アディはその思いを捨て切れません。
         隊長を裏切ることはできない。だけど、ユーディトを諦めることもできない。
         そんなアディを、イシュアは「偽善だ」とクリティカルに諫めます。
         「お前の一番は隊長なんだな。じゃあ僕を2番にしろ」と迫るイシュア。
         「2番は……ユーディトだ」
         「仕方ないな。だが、僕は3番は嫌だ。同じ2番にしろ。誓うか?」
         誓ってしまうアディ。
         「お前は、その誓いをいつか後悔するぞ」というイシュア。

         物語は大河ドラマのように、まだまだ続きます。
         その壮大さは、リードにも書いたケン・フォレットをも彷彿とさせます。
         はい、あの『大聖堂』シリーズ的な味わいもある作品なんです!
         『大聖堂』シリーズも、長い作品ですがぐいぐい読ませる面白さがありましたよね。
         あの感じもある作品なんです。

         皆川さんは歴史物も書いていますが、日本の歴史物は、面白いのですが陰惨さもあって眉間に皺を寄せながらも読んでしまうという感じなのですが、それともまた違い、ケン・フォレット的な、『明るい』と言っては語弊がありますが、そんな歴史物と感じました。
         そこに佐藤賢一チックな動乱と人の心が動く歴史が加わり、さらに、皆川さん御得意のオカルトテイストがふりまかれているという、何とも『全部盛り』のような美味しさなのです!

         いやぁ、堪能しました。
         これはとても分厚い本ですが、分厚い面白さがそこに詰まっています。
         厚さにおそれをなすな!
         その厚さは『見せかけ』に過ぎない。
         さあ、手に取って読み始めよ!
         だって、読み始めたらほら、もうこんなに読み進んでいるじゃないか。
         そんな大変面白い作品です。
         ストロング・リコメンド!!
        >> 続きを読む

        2019/06/29 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      結ぶ
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!
      • 【恐いよ、恐いよ~】
         本書は1988年に刊行され、高い評価を受けたにもかかわらずなかなか再刊されなかった短編集「結ぶ」に、未刊行作品4編を加えて新たに刊行された短編集です。
         幻想的、耽美的な作品を集めていますが、何より恐いんですよ。
         いや、ホント。
         では収録作から何作かご紹介。

        ○ 結ぶ
         「そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。」で始まるものすごく恐ろしい作品です。
         何を縫っているかというと、人体なのです。
         人体を縫って、ダンゴムシのように丸めてもらっている女性のモノローグがこの作品なんです。

        ○ 水色の煙
         幼い頃、叔母から話してもらった奇術師のお話が好きでした。
         そのお話は、村にやって来た奇術師が、村人が差し出す色々な物を様々な形の煙に変えてしまう話でした。
         猫の形になったり、鳥の形になったり。
         村人達は大喜びで、次々と品物を持ってきてはもっと不思議な物の形にしてくれと言うのでした。
         困ってしまった奇術師は、最後に……自分自身を煙に変えるしかなかったのです。
         そんなお話を愛した私は、ある時、納戸を開けたところ、叔母さんの足を見つけてしまったのです。

        ○ 城館
         子供の頃、叔父の家に遊びに行くのが大好きでした。
         叔父の部屋には、大きな地球儀や、クラゲの化石や、柄に浮き彫りのある青銅製のペーパーナイフなど、不思議な物が沢山あったから。
         外国の本もありました。
         「閉じこめられたカスパール」というお話だったけれど、全部訳して読んでもらう前に家に帰らなければならなかった。
         その後、一人で叔父の家に行き、カスパールの本を探していたら、知らない女の人が部屋に入ってきたんだ。
        「たちまち城は焼け失せた。ボール紙の城だから、ひとたまりもなかった。城の中の骸も灰になった。」


        ○ 川
         「橋の手すりにもたれた老人は、昏い川面に視線を落としていたが、やがて片手で左の眼をおおった。老人の手は眼窩から義眼を取り出し、水に投げた。」

        ○ 心臓売り
         姉は金魚売りが好きで、私は心臓売りが好きだった。
         夏は金魚売りのほかに氷売りもくるし、風鈴売りもくる。
         秋は虫売り、冬は猫売りがくる。
         心臓売りは梅雨のころにくる。
         私は、長押に釘をうって、三つだけ心臓を吊していた。
         猫売りが好きだったのは祖母で、毎年冬になると新しい猫を買う。でも、春になると捨ててしまう。
         猫を夏までおいている家はない。どうして、と訊ねたら、わかりきったことを訊くのはばかだと、姉は言った。
         ゴミ穴に猫を落として水で流すのは兄の役目だった。同じ頃、隣近所でも同じことをしている。
        >> 続きを読む

        2019/07/18 by ef177

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      聖女の島 傑作幻想ミステリー
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【軍艦島で狂気に陥る。】
         物語の舞台は、おそらく軍艦島。
         ある修道院が、島で女子の矯正施設を運営しています。
         9人の成人職員と、31人の9歳から15歳までの少女たち。
         少女たちは、いずれも売春や盗み、薬物などの違法行為に手を染めた者たちばかり。

         島にはまだ居住できる鉄筋コンクリート造りの建物もあるのですが、少女たちは、修道院が建設した木造の家に住み、3つの疑似家庭を作っていました。
         ところが、ある時、少女たちが反抗し、住宅に火を放ってしまったのです。
         島の院長の藍子は、本部に対して建物の再建と援助を要請しました。

         そうしてやって来たシスターは、藍子の姉にそっくりだったのです。
         藍子は、動揺してしまいますが、住宅の再建も進められており、もう一度やり直すのだと心に誓っています。
         ただ、既に、島から脱走しようとした3人の少女は、ボートが転覆したため亡くなってしまっているのですけれど。

         ところが、再建なった住居に呼び集められた少女たちは31人いるではないですか。
         どうして亡くなったはずの3人がいるの?
         藍子には、どの娘が亡くなったのかもはっきり思い出せません。
         これは……きっと、ボートの転覆事故など無かったのだ。
         そう信じこもうとする藍子です。

         物語は段々おかしな様相を呈してきます。
         藍子は、狂気に陥っていくように思われるのです。
         幻想を見、過去を思い出せず、ただ無駄に饒舌にしゃべりまくるだけ。
         シスターは、そんな藍子をただじっと見つめているだけです。

        本作は、島という閉鎖的環境の中で、徐々に狂気が支配していく様を描いた幻想譚ということになると思います。
         島にやって来たシスターは結局は誰だったのか?という謎をはらみます。

         本作は、一時絶版になっていたそうですが、『綾辻・有栖川復刊セレクション』として再刊された作品のようです。
         巻末解説を書いている恩田陸さんも、噂に「すごい作品がある」と聞いたけれどその時点では既に絶版になっていたため、知り合いの編集者に頼んで読んだのだと書いています。
         2007年に再刊されたのですね。

         ただ……講談社ノベルズ自体がそうなんですけれど(滝田ゆうさんは嫌いじゃないのですが、新書にあの犬のマークは気に入りません)、本書もこの表紙絵は何とかならなかったものでしょうかね。
         どうもセンスが古いというか、決定的に皆川作品に合わないというか……。
         どうやら大変評価の高い作品のようなのですが、この装丁でかなり損をしていると思います。


        読了時間メーター
        □□      楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
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        2020/10/18 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      ゆめこ縮緬
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 【これは現代の泉鏡花だわ~】
         最近文庫化されたので読んでみようと思ったのですが、図書館にはハードカバー版しかなかったのでそちらで読んでみました。
         短編集なのですが、いずれも和のテイストの作品であり、読了した感想は、「これは泉鏡花だ」というものでした。
         現代の作家でここまで泉鏡花に近づけるのは皆川博子くらいしかいないのではないでしょうか。
         それでは収録作品から何作かご紹介しましょう。

        〇 文月の使者
         「指はあげましたよ。」という一言から始まる大変耽美的な短編です。
         この作品、他の本にも収録されていますね。
         どの本だったか思い出せなくて申し訳ないのですが、そちらの本には本作と、連作になっているもう一つの短編と両方が収録されていた記憶です。
         中州にある怪し気な病院と、若い後家と二人で暮らす老人、そこに訪ねてくる若い書生という奇妙な状況が描かれます。

        〇 影つづれ
         「衣くだされ、布くだされ」……
         この言葉が効果的に用いられる一編。
         逗留中の宿で眠れなくなった男のもとに、やはり眠れないという女性逗留客が訪れ、部屋の板戸越に語り合うという一編です。
         九尾の狐伝説を織り込んだ一編で、鏡花の『荒野聖』を思い浮かべてしまいます。

        〇 桔梗闇
         「み、みィと、地蔵が鳴いた。」という印象的なフレーズから始まる一編。
         これもどこかの本に収録されていましたっけ。
         囲われ妾になっている桔梗(主人公の少年が勝手にそう呼んでいるのです)、とまだ大人になり切れていない少年を耽美的に描きます。
         ラストの描写は大変印象的です。

        〇 青火童女
         ある屋敷で囲われている幼い妻に請われて、泊まり込みで絵を描くようになった画家の物語です。
         妻は、画家に兄だという少尉の姿絵を描くように所望するのですが、軍服姿ではなく、まるで責め絵のような絵を描けと言うのです。
         絵の中の兄の姿はどんどん恐ろしいものになっていきます。
         魔性を感じさせる一編。

         いや、こんな作品を書けるとは、恐れ入りました。
         皆川さんは西洋を舞台にした幻想譚も大好きなのですが、こういう和の作品も素晴らしい。
         脱帽です。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2021/08/31 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      総統の子ら
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【ドイツの視点で描かれた皆川流子供たちの第二次世界大戦】
         皆川博子さんは、大戦中のドイツを舞台にした幻想的な作品をいくつか書かれています。
         それらの作品は、もちろんフィクションであり、しかも耽美的かつ非現実的な物語で、それが大戦中のドイツの耽美的とも言える雰囲気とよくマッチして見事な効果を生んでいる作品でした。

         本作も第二次世界大戦を描いた作品なのですが、本作はドイツ側の視点から描かれており、しかも歴史小説と言って良いような作品になっているのです。
         具体的には、主人公のカールがまだ少年の頃の事から始まり、ナポラというエリート学校に入学し、SSに志願して戦場に出て行き、捕虜に取られ、終戦を迎えて戦争犯罪人として裁かれる過程を追っているのです。

         第二次世界大戦をテーマに書かれた作品はそれこそ山ほどあるわけですが、その多くは戦勝国側の視点から、ナチスの残虐な行為を批判的に書いている作品が多いのではないかという印象を持っています。
         それはそれで書かれる必要がある作品なのでしょう。

         ただ、敗戦国であるドイツの視点で、しかも、子供の頃からドイツで育ち、教育され、終戦まではナチスによるホロコーストを知らなかった者たちは、何を考え、どう生き、どう死んでいったのかも書かれてしかるべきテーマだと思うのです。
         彼らは、何を教えられ、何を信じ、何に殉じていったのか。

         この作品には『終章』として、皆川さんがこの作品を書くに当たり、ドイツに取材に行った際の一コマが描かれています。
         そこまで読んだ時、皆川さんが、何故、このテーマでこの作品を書いたのか、その理由の一端がうかがえるように感じました。

         この作品は、ドイツを、ナチスを擁護する意図で書かれたものではないことは、この作品を読み通せば理解できることと思います(たとえ登場人物の言葉の中にそのように読み取れる部分があるとしても、だからと言ってナチス擁護の作品だなどという読み方は皮相なものだろうと思います)。
         そうではなくて、戦争というものは、戦った者たち、それがどちら側の人間であろうとも、それらの者たちにとって非道なものであり、特に、子供時代をその時に生きなければならなかった者たちにとって、どういうものだったのかを考えさせる作品なのだろうと感じました。

         大変重い作品で、また、本書はハードカバー上下段組で619ページという大作になっており、また、労作だと思います。
         読む側にもそれなりの体力を要求する作品でした。


        読了時間メーター
        □□□□□   しばらくお待ち下さい(5日以上、上限無し)
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        2020/10/29 by ef177

    • 2人が本棚登録しています
      恋紅
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 好きで好きでたまらない作家というものがいるものです。
        そんな作家の中のひとり、皆川博子の第95回直木賞受賞作「恋紅」を読了しました。

        この作品は、幕末から明治にかけての吉原と芝居の世界を対比して扱い、吉原から芝居の世界へと足を踏み入れた女の成長のさまと、情念の模様を描き出した時代小説の傑作だと思います。

        この物語には、遊女屋と旅役者と大名題の役者、母と娘、花魁と禿、徳川幕府と明治新政府など、いくつもの対比がなされています。

        こうした対比の中から、遊女を束縛する側に立つよりも、漂泊の暮らしを選んだゆうの情念が浮き彫りにされていく。

        こうした二重三重の構造を物語の内部に抱えることで、著者の皆川博子が狙いとした「縛り縛られることの無惨を幼くして自覚させられた少女の成長小説」を密度あるものにしているのだと思います。

        そして、著者のもうひとつの狙いは、「正史の裏に隠れた芸能の流れ」をたどることにあったのではないかと思うんですね。

        人の心の奥に潜む魑魅、華やかな狂気を追求した、このような作品として、続篇の「散りしきる花」をはじめ「花闇」「二人阿国」があり、続けて読み進めたいと思っています。

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        2018/09/20 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      死の泉
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 【退廃と悪夢と復讐と】
         皆川博子さんは、大変多彩な作家さんです。
         様々なジャンルの作品を幅広く手がけており、例えば児童文学あり、時代小説あり、推理小説あり、はたまた幻想文学あり。
         本作は、そんな皆川作品の中でも、『薔薇密室』や『伯林蝋人形館』などと同じタイプの、私が最も好きなジャンルの作品です。

         物語の舞台は、第二次世界大戦中、及び戦後のドイツです。
         大戦中、ナチスにより様々な人体実験が行われてきましたが、主要な登場人物であるクラウス博士もそんな実験に携わっていた一人でした。
         医師でもあり、SSの高級士官だったのです。

         クラウス博士は『レーベンボルン』(生命の泉)と呼ばれていた児童収容施設の最高責任者でもありました。
         当時、ナチスは、金髪碧眼の典型的な北方ゲルマン系の子孫をドイツ国民として残そうとしており、その様な子供達を集めて養育していた施設がレーベンボルンだったのです。
         また、戦争により男児が失われていくことを補充するため、ドイツ人男性には婚外子を作ることが奨励されてもいました。
         そのような子供を孕んでしまった女性は、レーベンボルンに入所すれば出産の支援をしてもらえたのです。
         そして生まれてきた子供が金髪碧眼の持ち主であれば、以後も施設で養育されていたのですね。

         このような金髪碧眼の子供達は、その内SS隊員の養子として引き取られていき、正統なドイツ国民として認知されていきました。
         とは言え、実際にはポーランドなどの子供でも金髪碧眼の条件に合いさえすれば、親から強制的に引き離してこの施設に入れ、『ドイツ化』を施した後、ドイツ国民としてSSの養子に出していたのでした。

         さて、クラウス博士は音楽に偏執的な愛情を抱いていました。
         特に、ボーイソプラノに対して。
         当時、レーベンボルンには、ポーランドから強制的に連れてこられたフランツとエーリッヒという二人の男の子がおり、特にエーリッヒの歌声にクラウス博士は魅了されていました。
         博士は、この二人だけはSSの養子に出さず、手元に置いて歌手として育てたいと熱望しており、ナチス上層部にも自分の養子にしたいとの申請を出していました。
         しかし、クラウス博士は独身だったため、この申請はなかなか聞き入れられずにいたのです。

         そんな時、レーベンスボルンに美しい女性が出産のために入所してきました。
         彼女、マルガレーテは、若くしてギュンターという裕福な家の青年と関係を持ち、子供を身籠もってしまったのです。
         ギュンターは、反ナチス運動をしていた知人をナチスに売ったことで『愛国者』として名を馳せ、また、家柄も良かったことから女性に不自由はしませんでした。
         マルガレーテも、そんな数いる女性の一人に過ぎませんでした。
         ギュンターは、マルガレーテから妊娠したことを告げられますが、子供を養育する意思などこれっぽっちもなく、自分は入隊すると言い残して軍隊に入ってしまったのです。

         クラウス博士はそんなマルガレーテに目をつけ、マルガレーテに結婚を迫ります。
         もちろん、それはフランツとエーリッヒの二人を自分の養子にするためです。
         マルガレーテも醜いクラウス博士に愛情など抱いてはいないのですが、自身とお腹の中の子供を庇護してもらうためにこの結婚を受け入れます。
         そして、マルガレーテは男の子を出産し、その子はミヒャエルと名付けられたのでした。

         ここまでが戦前のお話です。
         戦後は、終戦時の混乱もあり、クラウス博士があれほど渇望したフランツとエーリッヒとは生き別れになってしまいます。
         クラウス博士は、今はマルガレーテとミヒャエルと一緒に暮らしていたのですが、このミヒャエルがまた美しい声を持っていたのです。
         クラウス博士の厳しいレッスンもあり、ミヒャエルは17歳だというのに未だ変声期を迎えず、美しいボーイソプラノのままだったのです。

         さて、ここで運命の数奇な歯車が回り始めます。
         戦後のミュンヘンに、ゲルトという男の子が自堕落な母親と二人で生活していました。
         母親は男にだらしのないブリギッテという女性。
         実は、ブリギッテも戦前レーベンスボルンで働いていたことがあり、マルガレーテが玉の輿に乗って裕福な生活をしていることに嫉妬し、自分からクラウス博士に言い寄り、クラウス博士の子供を身籠もったのです。
         ええ、その子供がゲルトでした。
         ブリギッテも、クラウス博士と生き別れになってしまい、今はゲルトを抱えてミュンヘンで生活していたのでした。

         そして、ここで再び登場するのが、あの『愛国者』ギュンターです。
         ギュンターは、今は設計技師として働いていますが、折からの不況のため仕事にもあぶれている状態でした。
         そんなギュンターに接近してきたのが、何とクラウス博士だったのです。
         ギュンターは先祖代々維持していた古城を相続していたのですが、クラウス博士はその城を売って欲しいと持ちかけてきたのです。
         何のためにあんな荒れ城が欲しいのか?
         不審がるギュンターでしたが、クラウス博士はギュンターの歓心を買うため、ギュンターの事務所の窓から翌日催されるパレードが良く見えるから妻と子供の見せてやりたいなどと頼み込むのでした。

         翌日、ギュンターの事務所に現れたのはマルガレーテとミヒャエルだったのです。
         ギュンターは、一目でマルガレーテと気づきますが、マルガレーテはまるで腑抜けのようになっており、ギュンターに全く関心を示しません。
        ギュンターは、17歳だというのに子供の声で話す、発育不全とも思えるミヒャエルを見て、これが俺の子なのかと感慨に耽ります。

         その時、パレードの雑踏の中から得も言われぬ美しい歌声が聞こえてきました。
        歌っているのは若い男生徒美しい女性でした。
         この二人の歌声を聞いたクラウス博士は血相を変えて表に出て行き、この二人を追いかけますが人混みに遮られて見失ってしまいます。

         ええ、この二人こそがフランツと女装したエーリッヒだったのです。
         二人は戦後の混乱期の中を生き延び、今は大道芸人のようにして、その美しい歌声で金を稼いでいたのです。
         エーリッヒは女装して美しいソプラノで歌い、曲が終わると胸を見せて男性であることを示すことにより人気を博していたのでした。

         何故、エーリッヒはいつまで経ってもソプラノで歌えるのか?
         それは、終戦間際の爆撃の中、クラウス博士がエーリッヒを去勢したからなのです。
         美しいボーイソプラノを残したいという勝手な願望だけでそんな手術をしたのですね。
         その手術が終わった直後、クラウス博士の家も爆撃を受け、マルガレーテは自分の子供であるミヒャエルを助け出すのが精一杯で、いわば、フランツとエーリッヒを見捨てたような結果になってしまったのです。
         気を失って倒れていたマルガレーテはクラウス博士によって助け出され、戦後ミヒャエルも交えて三人で暮らしていたというわけです。

         もちろん、フランツもエーリッヒも、クラウス博士やマルガレーテ、あるいは一人助けられた子供のミヒャエルに深い恨みを抱いていました。
         復讐してやるという気持ちを持ち続けて。
         しかし、フランツもエーリッヒも、この時点ではクラウス博士の居場所を知らずにいたのでした。

         この先、ゲルトの動きもあって、このような運命的な邂逅の輪が狭まっていき……
         そんな物語です。

         ナチスドイツの退廃的で悪魔的な色彩、優生学思想や人体実験の数々、偏執的なボーイソプラノへの相、裏切りと後悔。
         そんな諸々のことがない交ぜとなってめくるめくような展開を見せる物語です。
         いやぁ、堪能させて頂きました。
         皆川さんらしい素晴らしい作品でした。
        >> 続きを読む

        2019/07/11 by ef177

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      薔薇密室
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 【何と耽美的で濃密な長編なのだろう】
         物語は二つの世界大戦をまたぎます。
         まずは、第一次世界大戦下のドイツ国境に近いポーランドが舞台になります。
         脱走兵のコンラートは、戦場で負傷した美しい士官を救出すべく馬を駆けます。
         ほとんど意識を失うようにしてたどり着いたのは、薔薇の僧院でした。

         ここに住んでいたのは医学博士のホフマン。
         彼は、何と人体と薔薇を融合することに成功していました。
         コンラートが運び込んだ美しい士官も、このままでは助かりようが無いほどの重症でしたが、薔薇と一つになることで普通の人間よりも長く生き長らえるのだと言います。
         そうして、ホフマン博士は士官をオーディンと名付け、美しい薔薇と一体化させたのでした。
         その薔薇園には、ヨリンゲルという元男娼も薔薇と一体化させられていましたが、それは失敗作だということで、ヨリンゲルの身体は醜く崩れ落ちていたのです。
         しかし、意識は保ったまま。

         コンラートは薔薇の僧院に住み着き、ホフマン博士の助手として薔薇の世話をするようになっていったのです。

         そして時間が過ぎ、第二次世界大戦へと舞台は移ります。
         既にポーランドはドイツとソビエトに分割統治されており、ドイツ人の記録写真家の手助けによりミルカというポーランドの少女はドイツに逃げ出すことになりました。
         そして、例の薔薇の僧院はというと、ナチスのSSらに接収されており、そこでは奇形を持った美しい少年達が尼僧の庇護の下生活していました。

         僧院で下働きをしていたのは、口がきけない魯鈍者を装った中年の男性です。
         彼は僧院で薔薇の世話をしていたところ、そのままSSに使われるようになったのです。
         コンラートなのか?
         しかし、彼は記憶を失っていました。彼の記憶にあるのは、自分は若い頃男娼だったということです。ならば失敗作のヨリンゲル?
         しかし、彼の肉体は薔薇と一体化され朽ち果てていたのではなかったのか?

         この様な物語に、梅毒治療法を確立したホフマン博士の治療法が絡み、何とも濃密な世界が展開していきます。

         以前レビューをさせて頂いた「双頭のバビロン」に似たテイストの作品です。
         非常に重厚かつ耽美的です。
         時として、これは本当のことなのだろうかと、作中の文章が疑わしくもなります。
         とにかく、この雰囲気は非常に素晴らしい。
         耽美性が色濃く出ており、私の趣味にばっちり合います。

         「双頭のバビロン」のレビューをした時に、ちょっと苦手だという方もいらっしゃった記憶ですので、そういう方には辛いところがある作品かもしれませんが、私は高く評価します。

         何と言っても、薔薇と人間との一体化、奇形を持った美少年を集めているSS、梅毒に崩れ落ちる身体なんて、まぁ退廃的で耽美的な極みではありませんか!
        >> 続きを読む

        2019/04/26 by ef177

    • 2人が本棚登録しています
      死の泉
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 私の大好きな作家のひとり、皆川博子の第32回吉川英治文学賞を受賞した「死の泉」を読了。
        高貴と野蛮の相貌をそなえた絢爛たる、ゴシック・ロマンの豊饒な物語世界に魅了されてしまいました。

        カストラート-----去勢手術によって、変声期前のソプラノを保ったまま成人した男性歌手たち。
        十七~十八世紀のヨーロッパで全盛を誇ったその歌声には、一種、魔性の魅力があったというが、今日では最末期に残された不鮮明な録音から、わずかにその片鱗をうかがうしかない。

        この「死の泉」は、西欧的な高貴さと野蛮の双貌をそなえた倒錯的な存在と、同じく西欧的な高貴さと野蛮の産物であるナチス優生学の悪夢とを結び付けるという、卓抜な着想から生み出された、華麗にして絢爛たる長篇ロマンの傑作だと思いますね。

        第二次世界大戦末期のドイツ。
        アーリア民族純血化計画の一環として設けられた、児童養育施設に入所したヒロインは、生まれてくるわが子を守るため、SS幹部で所長のクラウスの求婚を受け入れ、類まれな美声の持ち主である二人のポーランド人孤児の養母となる。

        科学と芸術の狂的崇拝者であるクラウスは、怪しげな生体実験を繰り返すかたわら、少年たちに厳しい声楽のレッスンを課し、さらに-------。

        帝国崩壊によって四散した"偽りの家族"の絆が、十五年の歳月を経て再び結び合わされた時、凄惨な復讐劇の幕が上がるのです。

        複雑に絡み合う愛欲恩讐の因縁の糸で、絢爛と織りなされる"運命の悲劇"であるこの作品には、ミステリやサスペンスよりも、むしろ古色蒼然たるゴシック・ロマンという呼び名こそが、ふさわしいのではないかと思いますね。

        とりわけ、作中の人物が次々に、甘美なる死の暗冥へと退場していく最終章には、"悪意と惑乱"のストーリーテラーたる作者・皆川博子の面目が、まばゆいほどに輝いていると思う。

        >> 続きを読む

        2018/05/10 by dreamer

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      アルモニカ・ディアボリカ
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 前作『開かせていただき光栄です』の続編。
        前作を読んでないと話の内容が判らない。
        回も皆川ワールド。
        18世紀のイギリスの風景が目に浮かぶ。

        あの事件から5年。
        エドとナイジェルを失い
        残された解剖医ダニエルの弟子達は
        犯罪摘発情報新聞『ヒュー・アンド・クライ』の発行編集をしていた。

        採石場の坑道内で空を舞う天使の目撃情報と共に屍体が発見され
        その事件の情報が欲しいという広告依頼が
        『ヒュー・アンド・クライ』に……。
        この屍体には謎の言葉が書かれていて…
        ダニエルの元弟子達と
        盲目の治安判事ジョン・フィーリング、助手で姪のアンが
        事件の謎を追う事になるが
        坑道の中で発見された屍体はなんと
        5年前に出奔したダニエルの弟子・ナイジェルだった!!(゚Д゚;)

        何故、ナイジェルが殺されたのか?
        ナイジェルの屍体に書かれてる
        “ベツレヘムの子よ、よみがえれ!アルモニカ・ディアボリカ”とは?
        調べていくうちに判る
        ナイジェルの過去と精神病院ベドラムの実体
        14年前に隠蔽された洞窟事件

        視点変わり話が進む
        そしてナイジェルの手記
        過去が現在に繋がった時に判る真実
        重厚な物語。

        最後の一行が物悲しい…。


        読み応えがあり面白かったけど
        切なさと悲しみが後を引く。
        まさかこんなに悲しくなるとは……。


        『アルモニカ・ディアポリカ』とはグラスハープのこと。
        >> 続きを読む

        2014/06/07 by あんコ

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      伯林蝋人形館
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 【精密・緻密・濃密】
         何と素晴らしい!! 読了後、思わずため息が出てしまいました
         本作は、第一次世界大戦終戦後のベルリン(1920年代)を舞台にした、デカダンで超濃密な作品です。

         本作は、6人の登場人物の名前を冠した6章から成り立っています。
         そして、それぞれの章は、その名前を冠された者を主人公とする「本編」と「作者来歴」と題する2つのパートから構成されています。
         「作者来歴」に綴られているのは、その章の主人公となっている者の来歴なのですね。
         つまり、それぞれの章は、その名前の主が作者なのだという体裁を取ってはいるのですが、読者としてはそんなことはにわかには信じ難いところ(だって、文体が全部同じなのですもの)。

         真の作者が、それぞれの者を主人公とする「本編」を書いて、そして、その者が作者であるように装って、その者の人生を「作者来歴」の形で添えているように思われます。

         「本編」と「作者来歴」の違いを書くとするのならば、「本編」の方は、あくまでもその主人公視点で描かれた、主人公が見た世界です。
         これに対して「作者来歴」の方は、ストレートにその事柄を描いているのではなく、その者がその出来事に遭遇するまで、そしてその後のことを極力客観的に描きます。
         この対比がまた上手いんだなぁ。

         そして、登場する6人の人物は、それぞれが人生のどこかで接点を持ち、各々の人生が巧緻に絡み合っているのです。

         最初に登場するのは、アルトゥールという男性ですが、彼を主人公とする最初の章を読んだだけではこの作品全体の巧妙な仕掛けは分かりません。
         あるいは、短編集なんだろうか?とも思ったり。
         「ふ~ん、こういう話か。でも、この『作者来歴』ってどういうことなんだろう?」というような感想を抱くのではないでしょうか?
         ところが、読み進めていく内に皆川さんの仕掛けに段々気付いてきます。
         「待てよ、あの時のこの人物はこの人だったんだ!」ってね。
         そうして徐々に全体の構造が見えてきて、最後の章で謎解きのように全てが明らかになります。

         まったく見事な手腕としか言いようがありません。
         よくもまぁ、これだけ凝った構成にしたもんだ。
         掛け値無しに賞賛してしまいます。

         同じ出来事を別の者の視点から見たらどう見えるのだろう、それは、それぞれの者にとってどのような意味を持った出来事だったんだろう。
         あぁ……そう。ロレンス・ダレルの「アレクサンドリア・カルテット」がそんな感じの構成を持っていますが、それを1冊の本でやってしまったのが本作です。

         退廃と享楽、戦後のハイパー・インフレに苦しめられる人びと、左翼と右翼の衝突、麻薬と男色、混沌としたベルリンに繰り広げられる得も言われぬ「香り」を持ったエロスとタナトス。
         「すべての物語を書き終えた者には、自殺の特権を与えよう」と、蝋人形師は言います。

         読了後、もう一度最初から読み直したい気持ちにかられた作品でした。
         大変親切に、巻末解説では全ての出来事を時系列に並べてくれています。
         これは大変よく整理できているのですが、本編を読む前にこのタイム・テーブルは見ない方がよろしい。
         全ての章を読み、物語を追いながら、「そうだったのか!」と感じつつ全体を把握する事こそが本作の魅力なのですから。
         大変よくできた「年表」は読後のお楽しみにとっておきましょう。

         皆川博子さんの作品は、これまでに色々読ませていただきましたが、本作は、私の中では間違いなくベスト3には入る作品だと思います(いや、現時点ではもしかしたらベスト1かもしれない)。
         それだけ感服致しました。絶賛!!
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        2019/06/05 by ef177

    • 2人が本棚登録しています
      少女外道
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【たいへんデリケートな作品群】
         皆川博子さんの短編集です。
         タイトルのとおり、いずれの作品も『少女』が出てきますし(『有翼日輪』を除く)、その少女はいずれも『外道』、つまり道を外れているのです。
         とは言え、その『外道』というのは、当時の時代の常識的な線から言えば外れているというだけのことで、少女達の振る舞いがケシカランとかそういうことではありません。
         むしろ、薄幸だと言えるのではないでしょうか。

         そして、多くの作品は何気ない一こまを描いているのであって、劇的なクライマックスがあるようなお話ではありません。
         それは、例えば画学校時代に知り合った女生徒同士の関係だったり(『少女外道』)、膝を悪くしている母親の代わりに親族の葬式に出席した際の出来事だったり(『巻鶴トサカの一週間』)、戦時中の学生勤労奉仕に従事していた地元の女生徒と疎開してきた女生徒の一幕だったり(『アンティゴネ』)です。

         そう、時代のことにも触れなくては。
         いずれの作品も、戦争中やその前後の日本を舞台にしています。
         その当時の風俗が描かれているのです。

         そうして、どの作品もたいへんにデリケートです。
         やたらに感動的だったり、劇的だったりなどすることなく、ひっそりとしたたたずまいの作品ばかりです。

         『皆川博子コレクション1』のレビューの際に、皆川さんは推理小説はお書きにならない方がよろしいなどとナマイキナことを言ってしまいましたが、本作には推理小説は一作もありませんし、その様な気配が漂う作品もありません。
         やっぱり私はこういう皆川さんの方が好きだなぁと思うのですね。
         以前レビューした皆川さんの『蝶』のような作品と言えば分かりやすいでしょうか?

         皆川さんは1929年(又は1930年)生まれだそうですのでもう80歳を越えていらっしゃいます。
         健筆でなによりと思うのでした。
        >> 続きを読む

        2021/12/28 by ef177

    • 5人が本棚登録しています
      倒立する塔の殺人
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 【乙女ちっくだわ】
         太平洋戦争末期、空襲の最中、一人の女学生が亡くなります。
         本書は、その女学生の死に疑問を持った下級生が、一冊の本を手に入れたことに端を発するミステリです。

         その『本』というのは、本の装丁が施されたノートなのです。
         そのノートには、冒頭に『倒立する塔の殺人』とだけタイトルが書かれ、その余は白紙のまま図書館の本の中に紛れて書棚に置かれていたというのです。
         図書館のシールも貼ってありませんので、図書館の蔵書というわけではなさそうです。
         発見した女学生は、この本に興味を抱き、こっそり図書館から持ち出すと、何も書かれていなかったページに、『倒立する塔の殺人』という物語を書き始めた、とされています(そう書かれています)。
         その本が次々に女子学生の手に渡り、連作小説のように続きが書き継がれていったのです。

         最後にその本を手にした三輪小枝(みわさえだ)は、自分にその本を託した上級生が空襲時に謎の死を遂げたことから、自らその小説の続きを書くと共に、その本を親友に見せ、上級生の死の謎解きを依頼するという展開になっています。

         推理小説としてどうかと言えば、それは、まぁ、それなりにという感じでしょうか。
         皆川博子さんは大好きなのですが、どうも彼女の推理小説には点が辛くなってしまいます。
         むしろ、本作は、謎解きミステリとして読むのではなく、少女時代特有のあの雰囲気を味わう作品としての面白さが強いように感じました。

         自分が慕う女生徒に菫の花をあげたり、『S』と呼ばれるステディな関係になることに憧れたり。
         学徒動員で工場で働かなければならないにしても、休み時間ともなるとコーラスの声が響いたり。
         物資が乏しい中、蓄音機でこっそりクラシックを聴いたり、ワルツを踊ったり。
         そんな『乙女らしい』雰囲気の中で学園にまつわる怪談話が囁かれたり。

         ええ。『倒立する塔の殺人』というタイトルも、学園に語り継がれている怪談話なんです。
         何でも、この学校のどこかの部屋は、ある時突然倒立するというのです。
         その時に部屋の中にいた者は逆さ吊りにされ、上になった床から落ちてくる刃物で切り刻まれるのだとか。
         こういう怪談話が語り継がれるというのも学校にはよくあること。

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        2019/07/20 by ef177

    • 4人が本棚登録しています
      壁・旅芝居殺人事件
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 皆川博子の日本推理作家協会賞受賞作「壁・旅芝居殺人事件」の小説としての構造は、念入りに仕組まれている。

        芝居は、当然のことながら、役者と観客、またこの両者が一堂に会する場所としての劇場、それから、これらを目立たぬように支えている裏方と表方、以上の五つの要素によって成立している。

        この五者のうちで最も目立たないのが、裏方と表方でしょうが、この作品の構造では、その表方が物語の進展につれて、グイグイと前面に出てくる仕掛けになっており、その速力感が私を酔わせてくれます。

        そして、決して陽が当たることのない表方が、物語の舞台前面の檜舞台まで出て来た時、すでに劇場は取り壊されてしまっていたという結末は、実に皮肉なものがあります。

        しかも文章は、さすがに皆川博子だけあって、格調高い美文調で、この古風で神秘的な物語とよく適っており、美文調の作家・連城三紀彦に相通じる、文章で読ませる推理小説の秀作だと思います。

        >> 続きを読む

        2021/01/14 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      少年十字軍 = La Croisade des enfants
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 実際に起こったとされる出来事をモチーフに描かれた作品。

        果たしてエティエンヌ達がエルサレムへたどり着くことができるのか手に汗を握り、一気に最後まで読んでしまった。

        2014年に劇団スタジオライフが舞台化。
        >> 続きを読む

        2014/02/19 by HITTON

      • コメント 2件
    • 2人が本棚登録しています
      皆川博子コレクション = Minagawa Hiroko COLLECTION
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【推理小説ではない方が良いです】
         「双頭のバビロン」を読んで完全にやられてしまったことから、皆川博子さんをもう少し読んでみたくなりました。

         本シリーズは、皆川博子さんの作品のうち、文庫化されていないもの、一度も本になっていない未刊行作品を収録したものだそうで、中には古書店でもめったに見かけない、稀覯本になってしまっている本の作品も収録してあるそうです(おぉ、貴重だ!)。

         第1巻に収録されている作品は、1974年~1980年の初期の作品となっていますが、そもそもミステリを多く書いている作家さんだけあって(デビュー作は児童文学だったそうですが、すぐにミステリに転向)、初期作品には推理小説が多く含まれています。
         いや、そもそも第1巻はミステリの巻のようです(純粋に推理小説とは言えない作品も収録されていますが)。

         ですが、敢えて申し上げるならば、皆川博子さんは推理小説はあまりお書きにならない方がよろしい。
         いや、最近も推理小説をお書きになっていて、初期の頃とはまた違っているのであれば(それは拝読していませんし)大変失礼な物言いになってしまうのですが、少なくとも初期の推理小説を読んだ限りでは皆川さん向きではないように思われました。

         まず、残念ながらトリックに無理があります。また、叙述が十分に整理されていないように感じられるところもあり、読みづらさを残しているようです。
         ですから、推理小説として読む時には申し訳ありませんが余り評価できません。

         ですが、持っている独特の世界観、雰囲気には惹かれるところが多々ありました。
         こういう部分が存分に発揮されたのが「双頭のバビロン」なのではないかと思うのですね。

         また……大変湿度が高い作品をお書きになる。
         これは、実はちょっと苦手な所でもあるのですが、女性作家の中には、極めて湿度の高い作品を書かれる方を時々お見受けします。
         「女流」らしいという言い方もできるのかもしれませんが、実は私はその辺りは苦手なのです。
         中には意識的にそのような作品を目指していらっしゃる方もいるようですが、余り度が過ぎると何だかはらわたを見せつけられているようで辟易してしまうことがあります。

         女性作家でも、例えば山尾悠子さんなどは硬質でドライな感じで、私はそちらの方が好ましく感じます。
         余りにも湿度が高くなりすぎると……読んでいて辛くなります。
         でも、「バビロン」ではそのような湿度の高さは余り感じませんでしたので、この辺も作風が変わってきているのかもしれません。

         もう少し読み込んでみないと軽々しいことは言えないのですが、まずは第1巻を読んでみた感想でした。
         ちょっと辛口で書いてしまったかもしれませんが、でも、惹かれるところは多々あるのですよ。
        >> 続きを読む

        2019/06/05 by ef177

    • 1人が本棚登録しています

【皆川博子】(ミナガワヒロコ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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