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永井路子

著者情報
著者名:永井路子
ながいみちこ
ナガイミチコ
生年~没年:1925~

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このランキングは1日1回更新されます。
      茜さす
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 茜さす 上下


        女子大で国文学を専攻しているなつみは、岡崎助教授に指導されるゼミで額田王の発表をする。
        「あかねさす」は「むらさき」の枕詞か。むらさき草は白い花が咲く、違った解釈はないのかと質問され。あかねは言葉につまり、卒論は「枕詞」にする。

        無事卒業したが二度入社試験で落ち、叔母の紹介で極小の下請けの書籍企画会社に入る。女ばかりの職場で揉まれ社会の厳しさを少し知る。

        卒業前に友だちと明日香を旅して偶然発掘現場を見る。古代の遺跡をじかに見たことで衝撃を受ける、古代史でしか知らなかった明日香に生きた人々、中でも鸕野讃良皇女(後の持統天皇)に強く惹かれる。
        職場が倒産し、再度明日香を訪ねる。発掘作業中の研究員にアルバイトを頼み込み、無理やりもぐりこんで働き始める。
        このあたり、思いつめ実行に移す気力が、社会人で鍛えられ強さかもしれないし、なつみの熱中度の強さが運命を引き寄せる気がする。

        持統天皇の系図を見、そして、天智、天武時代へと思いが深まる。流れとしてついに壬申の乱に行き着く。

        研究員たちと吉野から美濃まで、大海人皇子軍の跡を歩き、書物の中の出来事を実体験する。その間に起きた争いや、王位継承をめぐる勢力の移り変わり、複雑な血縁関係で作られた皇室の歴史。そこで生き抜くための智恵。全てが遺跡の中から時を隔てて感じられる。
        彼女は祖父を殺され父母が死に、13歳で大海人皇子の后になる。姉の大田皇女も同じ大海人皇子の后になったが一足早く大津皇子を生む。8年後天智天皇が病み、可愛がっていた大友皇子が次の天皇になるという、早々に大海人皇子は紛争から逃げるように出家していたが、一族を連れ吉野宮に入り、壬申の内乱が起こることになった。鸕野讃良皇女も時に輿に乗り、急坂は歩いてともに吉野に入る。額田王と天智の子、十市皇女と大友皇子の間に子供がいた。大友が天皇になれば十市皇女が皇后、鸕野讃良皇女と女たちの戦いが、煌びやかな暮らしの底には渦巻いていた。
        援軍も多く大海人皇子軍の勝利で天武天皇が誕生する。

        研究員になり明日香の民宿におちついたなつみは、ふと知り合った泉という紳士に心を惹かれる。彼の誘いに乗りそうになるが、泉とは距離が離れているところに、粗野で見かけもよくない梶浦の思いがけず深い知識と無骨な優しさに親しみを感じたりもする。

        こうして、古代、明日香の地に生きた人々の歴史と、なつみの若い女としての生き方、友人たちの選び取った人生にも触れながら。話が進んでいく。血のつながらない伯父と結婚した叔母のキャリアウーマンらしい都会的な生活も挟みながら、稲淵の古い民宿に移り8畳の部屋いっぱいに持統天皇ゆかりの地の地図を広げて、古代史を探ろうとする、なつみの生き方に引き込まれた。

        これが書かれた頃、今読むと情勢も言葉遣いも変化している。なつみを取り巻く男たちとの交わりも筋書きとしては少々型どおりだったが、これにかかずらっていると、肝心の飛鳥時代の出来事が上滑りになったかもしれない。まだ不明な点が多い古代史を、持統天皇のお足跡をたどるという形で描いた物語はおもしろかった。

        明日香に手の届くところで育ち、中学時代に初めて読んだ「壬申の内乱」という岩波新書の地図を持って、何度も訪れてきた万葉ゆかりの土地や、陵の史跡、秋に稲淵の棚田を燃え立たせるヒガンバナ、石舞台など、なつみの自転車とともに走るのも楽しかった。その上、同じ熱中症にかかりやすい性格も大いに共感した。

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        2016/09/03 by 空耳よ

    • 1人が本棚登録しています
      わが町わが旅
      4.0
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      • 女流歴史作家として著名な著者が鎌倉や大和(奈良)を訪れ、歴史物語や氏の想い等を著わしたエッセーですが、特に鎌倉の妙法寺や長楽寺の内容が面白い。妙法寺は、所謂「鎌倉の有力な御家人の一人」比企氏の氏寺だが、武蔵(今の埼玉県)を本拠し、功により頼朝から鎌倉のこの地を与えられた。源頼朝・頼家(2代将軍)の乳母が比企氏から出ている関係で幕府創立時から、御家人の中でも重要なポストであったのだが、比企氏の権勢にあせりを募らせた北条時政(幕府初代執権)の謀略により一族は滅ぼされた、という悲しい歴史の紹介や、その北条時政の娘で鎌倉幕府を開いた源頼朝の正室であった北条政子にゆかりのある長楽寺と京都の長楽寺と関連づけた話等も面白いです。鎌倉めぐりが更に楽しくなる好著です。 >> 続きを読む

        2011/08/26 by toshi

      • コメント 1件
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      ごめんあそばせ独断日本史
      4.0
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      • 特に「伊豆の修善寺」の大日如来像の中から北条政子の髪の毛が見つかった…とかの話しが鎌倉時代の歴史を背景にしながら「対談形式」で記されているのが非常に面白いです。あるいは、戦国時代の衆道(所謂男性の同性愛)の話し等ちなみに、男性の同性愛=衆道は、当時は社会的認知があり、おおらかであり、お互い「生死を共にする」というような現在のホモとは内容が異なる面も多く、時の権力者(例えば織田信長と森蘭丸とか)や他の戦国武将達にも多くの例があったようです。 >> 続きを読む

        2011/08/31 by toshi

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      はじめは駄馬のごとく ナンバー2の人間学
      カテゴリー:日本
      4.0
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      •  徳川秀忠、明智光秀、藤原不比等、源義経、平時忠等歴史上の№2達のことを記載しています。
         徳川秀忠(ニ代目将軍)は、父・徳川家康の後を受けて地味な(保守的で大人しい)感じの所謂「典型的な二代目」というような一般的イメージですが、意外と「法度」を前提に公家や大名達を厳しく統制した「強い政治」を行っていたこと。また、明智光秀が「主人 織田信長」に対する遺恨から信長を殺した(所謂・本能寺の変)という「通説」に対し、その説を否定している内容(光秀も「天下取り」を狙っており、本能寺の変はまさに絶好のチャンスであったから)とか、スタンドプレーで身を滅ぼした源義経等、面白い視点が諸々ある好著です。
         
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        2014/01/24 by toshi

      • コメント 5件
    • 1人が本棚登録しています
      新・歴史をさわがせた女たち
      カテゴリー:日本
      4.0
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      • 所謂「江島生島事件」のヒロインである、江戸城大奥の美女・江島についての内容が面白い。この事件は、7代将軍家継の生母月光院と前将軍家宣の正室天英院を中心とする勢力との勢力争いの犠牲になったという、つまり、天英院は家宣・家継の元で正徳の治を断行、幕政を牛耳っていた白石・詮房を追い落とすため、譜代大名(関ヶ原の戦い以前からの徳川氏の家臣)や5代将軍綱吉時代からの老中達とこの事件を画策したという説があります。
        その他、天智天皇とその弟の天武天皇と両天皇の妃となった、万葉集の女流歌人第一人者という才能と美貌(所謂才色兼備で反面「世間を騒がせた」)額田王(ぬかたのおおきみ)の話しも面白いです。
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        2011/07/23 by toshi

    • 1人が本棚登録しています
      姫の戦国
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • この永井路子の歴史小説「姫の戦国」は、彼女の前作「山霧」で、戦国時代の梟雄・毛利元就夫婦を主人公に、戦国時代の政略結婚が今日、我々が考えるような犠牲的な結婚ではなく、性を伴った女性大使とも言うべき晴れがましき活躍の場であったことをはじめ、守護大名が戦国大名へと移り変わっていく過程、あるいは、この時期における領主と領民の関係などを歴史的に明らかにし、戦国ものの新しい地平を切り拓いてくれたと、強く思います。

        その姉妹篇的な意味合いを持つ今回読了した、この「姫の戦国」(上・下巻)の主人公は、公家の中御門家の姫君である悠姫。

        物語は、彼女が駿河の今川家に嫁ぎ、夫の今川氏親亡き後、二人の息子を相次いで失いつつも、領国経営の面において、当時近代化のトップを走っていた今川家で、どのような手腕を振るっていたのかを明らかにしていくのです。

        公家の社会から武家社会へと、悠姫が嫁いだ家で迎える驚きの日々や、夫・氏親との間に生じた齟齬を描く前半もいいが、氏親が病に倒れる半ばあたりからの面白さは抜群ですね。

        戦国大名の幕法からの初の独立宣言とも言うべき成文法「今川仮名目録」の作成に関与し、御台所寿桂尼となってからも、日本の女性には稀有な女性の印判を押した文章を登場させるなど、ヒロインの行なったことは、歴史のページを次々に塗り変える偉業に他ならないと思います。

        ただし、その一つ一つが、彼女が歴史の連続性や偶然性に対して、女性ならではの肝の座り方で立ち向かっていった結果として捉えられており、小説的な感動は凄いものがありますね。

        今川家のイメージを一新させた作品としても、実に読み応えのある力作だと思います。


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        2018/02/22 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      わが千年の男たち
      カテゴリー:日本
      4.0
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      • 特に、山崎(天王山)の戦いで、羽柴(後の豊臣)秀吉と明智光秀と
        どちらにつくか形勢を見てから…という方針で臨んだ為に「洞が峠を決め込む=日和見主義」という不名誉な言葉で有名な筒井順慶についてが特に面白い。
         その他「桶狭間の戦い」において織田信長に見事に負けた(しかも織田軍の10倍以上の兵を擁しながら)ことでカッコ悪い代表のように思われている今川義元についての記載も面白い。他にも歌人で有名な西行や足利幕府を創った足利尊氏についての内容も興味深いです。
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        2011/07/23 by toshi

    • 1人が本棚登録しています
      朱なる十字架
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      •  母親の書棚から借りて読みました。1981年第6刷の文庫本で、当時の価格280円です。
         それはさておき、お玉(細川ガラシャ(恩寵))の物語です。
        彼女は、明智光秀の娘で、戦国武将の細川忠興の妻です。
        子供の頃から、屈託なく無邪気で類まれな美貌の持主。
        けれど芯はつよく、頑ななまでに真直ぐです。
        荒木村重、父の光秀、夫の裏切り(家名を重んじるばかりではあるのですが)に遭い、いつしかキリスト教に救いを見出します。
         「信はすなわち不信、不信はすなわち信。」
        登場人物の心は揺れ動きます。これがこの物語の軸です。
        あえていえば、光秀が「不信」の賽の目に賭ける部分を描いてほしかったけれど、これは歴史物語ではないのでしょう。
        久しぶりに遠藤周作も読みたくなりました。
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        2012/10/15 by Hiropika

      • コメント 2件
    • 3人が本棚登録しています
      乱紋
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 浅井三姉妹の三女おごうを、侍女のおちかの目を通して描く歴史小説。二人目の夫である豊臣秀勝が死ぬところまで。ときどき登場するちくぜんがあやしいが、読みやすい娯楽戦国モノ。 >> 続きを読む

        2019/06/19 by 和田久生

    • 1人が本棚登録しています
      乱紋
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 浅井三姉妹の三女おごうを、侍女のおちかの目を通して描く歴史小説。上巻はおごうのこともよく描かれていてコクもあったが、下巻の特に後半は、お茶々を中心に話が進んでいくようになり、ネタ切れなのかな。やや残念は印象。ちくぜんの正体を明かさないほうが良かったね。トータルでは読みやす歴史ものと感じた。
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        2019/07/06 by 和田久生

    • 1人が本棚登録しています
      炎環
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
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      • 小説のジャンルで歴史小説と時代小説というものがありますが、歴史小説が歴史上の事件や人物を史実に沿って描くものであるのに対して、時代小説や伝奇ものは、時代の衣裳を借りて、作者の夢を自由奔放に展開したもの----と言えるのではないかと思います。

        つまり、端的に言えば、歴史小説は作者の歴史観が、そして、時代小説は作者の物語作家としての技量が問われる小説だと言えると思います。

        私が特に好んで読むのは、やはり歴史小説であり、その中でも、司馬遼太郎、永井路子、杉本苑子の作品が大好きなのですが、この歴史小説の根幹をなすものとは何なのかという事を考えてみた場合、まず題材の自由な選択であり、作品の持つ強い現代性であり、また、その採り上げる時代の権力構造や下部構造の重視、そして、表現の斬新さといったことではないかと思います。

        つまり、戦後の皇国史観から解放された、我々、歴史好きの読者の方で、真の意味での正しい歴史認識を持ち始めたことに対応して、作家の側でも、歴史を現代と切り離した過去としてではなく、現在へと繋がる時間の脈絡の中で、捉えようという自覚が生まれたからだと思うのです。その中で生まれた歴史小説作家が、司馬遼太郎、永井路子、杉本苑子だったと思います。

        そこで、今回読了したのが、永井路子の第52回直木賞受賞作の「炎環」です。この「炎環」は、四部からなる連作の形を取り、第一話「悪禅師」は源頼朝の弟で義経の兄である僧全成を、第二話「黒雪譜」は、石橋山の合戦で頼朝の命を助けた梶原景時を、第三話「いもうと」は、北条政子の妹で全成の妻・保子(阿波局)を、そして、第四話「覇樹」は、政子の弟・四郎義時を主人公にして、それぞれの視点で描いており、そして、それらの人物が権力の座を目指し、「一人一人が主役のつもりでひしめきあい傷つけあううちに、いつの間にか流れが変えられてゆく----そうした歴史というものを描くために一つの試みとして」と作者の永井路子が述べているように、連作の形が取られているというわけです。

        こうした手法が、総体として鎌倉幕府の誕生から崩壊までの歴史を、重層的に捉えることを可能とし、特に、源実朝暗殺の黒幕を"三浦義村"とする指摘(この歴史的な新説は歴史学界でも注目されています)や、歴史の背後から影響力を及ぼした"乳母制度"の発見は、歴史家の上を行くものとして高く評価されているのです。

        永井路子という作家は、それまで歴史小説が扱わなかった題材や時代を、積極的に取り上げ、更に、それらを現代の権力構造と対応させる方法に優れた才能を発揮していると思いますが、彼女の作家的な内面の必然性として、戦中派としての忸怩たる思いが、その根底に横たわっているのではないかと思います。

        永井路子は、多くの鎌倉時代に材を得た作品を発表した際に、ボロボロになるまで読み込んだ、鎌倉幕府の正史と言われている「吾妻鏡」を、北条氏サイドに偏った記録が多く、全く信用出来ないとして、「戦時中の『大本営発表』を経験している我々には、そのカラクリが透けて見えるのだ」と述べているのです。

        永井路子は、こうした問題意識を"核"として、やがて「吾妻鏡」の存在意義を見つめ、更には、鎌倉時代というものを、一つの大変革の時代、封建道徳の成立期として捉え、これを近代日本へと連なる歴史の連続性の中で考えようとする歴史観を、この「炎環」をはじめとする一連の鎌倉時代を背景とした小説の中で表現しているのだと思います。

        そして、このことは、それまでの戦国時代と江戸幕末期という、二つの大きな変革期のみを重視する傾向があった歴史小説の世界における、"第三の時代の発見"となったのだと思います。
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        2016/12/05 by dreamer

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      山霧 毛利元就の妻
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 私が大好きで敬愛してやまない作家、永井路子の長篇歴史小説「山霧 毛利元就の妻」(上・下巻)を、久し振りに再読しました。

        永井さんの小説は、何度読んでも、本当に読書の楽しみ、愉悦を私に与えてくれます。

        毛利元就と言えば、"名将言行録"などの三本の矢の挿話が有名ですが、この作品は冒頭に「これは乱世の梟雄、毛利元就の物語ではない。
        中国山脈の山裾の霧の中を這いずりまわりつつ、十六世紀を生きた若い男と女の話である」とただし書があるように、その元就が人生の勝ち札を手中にする以前の、周囲を霧に囲まれた若き日を共に生き、そして逝ってしまった妻おかたにスポットを当てた長篇小説なのです。

        戦国乱世の政略結婚というと、現代の感覚から言えば、即、悲運の女人像を思い浮かべがちですが、作者の筆はそうして嫁いでいった女性が、意志なき人形どころか、双方の家の生殺与奪さえも握る外交のエキスパートとして、果敢に状況に関与し、かつまた、女としての幸せを求めていったことを明らかにしているのです。

        何事にも用心深い夫と、「天と地がひっくり返るわけじゃなし」が口癖の、ものに動じない妻----、この夫婦が、たかだか三千貫の所領を振り出しに、大内氏と尼子氏という戦う大国の間で翻弄されつつ、地保を固めていくさまが、戦国大名輩出の過程として生き生きと描かれ、権威の崩壊期におけるバランス感覚の問題は、作品が内包する極めて今日的なテーマを喚起していると思います。

        また、後半の尼子氏との間に繰り広げられる攻防戦からは、息もつかせぬといった展開で、さまざまな恩讐を乗り越えての旧臣の息子・通の死や、諜者・小三太の死が伝えられる場面では、思わず目頭が熱くなってしまいます。

        >> 続きを読む

        2021/07/27 by dreamer

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【永井路子】(ナガイミチコ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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