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田村隆一

著者情報
著者名:田村隆一
たむらりゅういち
タムラリュウイチ
生年~没年:1923~1998

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このランキングは1日1回更新されます。
      秘密機関
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      • アガサ・クリスティはミステリーの女王としてあまりにも有名な作家ですが、今回読了した「秘密機関」は、1920年に「スタイルズ荘の怪事件」でデビューしたクリスティの第二作目の作品ですが、このデビュー直後に書いた何作かの"冒険スリラー"は、彼女の華やかでゴージャスな"本格ミステリー"のせいで、ほとんど忘れ去られているような気がします。

        この「秘密機関」は、彼女の"冒険スリラー"の代表作だと確信していますが、第一次世界大戦中にイギリス政府がドイツと結ぼうとした秘密協定の草案文書をめぐる陰謀に、主人公の若き男女トミーとタペンスが巻き込まれるという、"巻き込まれ型のスリラー"なのです。

        秘密文書の鍵を握る女性ジェーンはどこにいるのか、陰謀団の黒幕ブラウン氏とは誰なのか----という二つの謎を中心に、刻限までに秘密文書を回収しなければならないというサスペンスが、最後の最後まで私を惹きつけて離さない、これはまさしく傑作だと思います。

        監禁あり追跡ありのめまぐるしい展開も、非常に快調なテンポでスリリングに描かれていて、やはりクリスティは初期の頃からストーリー・テラーだったんだなと嬉しくなってしまいます。

        クリスティはこのトミーとタペンスという、主人公のコンビをその後も「NかMか」「親指のうずき」「運命の裏木戸」といった作品に登場させ、最後の作品ではなんと75歳前後の老人コンビになっているというのも非常に興味深く、彼女がこのトミーとタペンスのコンビにいかに愛着を持っていたのかがわかるような気がします。

        アガサ・クリスティの"冒険スリラー"の特色について考えてみると、一番怪しくない人間が犯人だという、「アクロイド殺し」に代表される"本格ミステリー"の謎を、この作品でもその"核"にしている事だと思うのです。

        そのために、この作品が"冒険スリラー"や"スパイ小説"でありながら、"謎解きミステリー"の要素が非常に濃いような気がします。

        もう一つの特色は、女性を主人公にして恋物語にしている事だと思います。つまり、ロマンス小説的な味わいもあると思うのです。

        そして、最大の特色は、物語の背景に必ず共産主義者がいて、その黒幕に国際的な犯罪組織やギャング団の首領がいるとの構造を持っている事だと思います。

        シャーロック・ホームズ物で有名なコナン・ドイル同様に、頑迷な保守主義者だったクリスティには、執筆当時の第一次世界大戦後の新しい社会の風潮が、"古き良きイギリス"を破壊していくように思えたのかも知れません。そういう混沌とした時代に対する"苛立ちと不安"が、クリスティの"冒険スリラー"には色濃く漂っているように感じます。

        とにかく、この作品は主人公のトミーとタペンスが「二人の年をあわせたところで、四十五にはならなかった」という若き日の冒険だけに、物語の全編を通して、溢れるほどの活力が漲っていたと思います。

        強烈な謎へのこだわりと巧みなプロットの展開を持つ、この作品のような"冒険スリラー"が、1930年代以降、彼女が"本格ミステリー"の世界へ移行したために、作品としてほとんどなくなっていったのは、"冒険スリラー"の大ファンとしては、残念でなりません。
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        2016/10/25 by dreamer

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      予告殺人
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      • まずまず面白かった。
        犯人の目星はすぐつくんだけれど、動機の推理が難しい。
        なぜ予告殺人までしたのかと。

        あと家政婦のミッチーの嘘がかなりの混乱要因。
        美人の下宿人が第一の被害者と事件前に密談していたという嘘。
        これが単なる嘘とは。。。これには苦しめられた。

        しかしこの初期?の作品と比べると最晩年のスリーピングマーダーは文調がかなりしっかりしてたと感じる。
        >> 続きを読む

        2017/08/19 by フッフール

    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      ABC殺人事件
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • ほとんどの「名探偵」がクラシックの世界の住人になってしまっているのに、
        エルキュール・ポアロは現代でも特に愛されている探偵ではないでしょうか。
        「ABC殺人事件」では、ポワロの推理は証拠や目撃者探しによる犯人追求ではなくて、
        犯人の心理と行動の裏に隠された「目的」を発見することに絞られます。
        犯人を今で言うプロファイリングという手法で特定しようとします。
        クリスティの提案は非常に進歩的だったということです。


        ABCの順番に選ばれた殺害現場と被害者。
        犯行現場に残された『ABC鉄道案内』の謎。
        犯人は警察の見立て通りに精神異常者の殺人狂なのか、それとも?

        連続殺人といっても、猟奇的、ホラー的な要素を期待するべき作品ではありません。

        ポアロの態度がのんびりしているので、読んでいるほうがイライラするかも。
        けれど、事件が進行していく様がじんわりと怪しげに描かれることで
        奇妙な緊張感と不気味さを醸し出すことに成功してもいるのです。

        ポアロ自身は動かずに、関係者として事件に巻き込まれた数人の男女がチームを組み、
        ポアロに協力し、素人探偵として事件解決に乗り出すという点も目新しいです。


        殺人は予告通り起こるのか?被害を防ぐことはできるのか?
        犯人との知恵比べに勝ち、とらえることはできるのか?

        捜査線上に浮かび上がってきたイニシャルA.B.C.の男の存在。
        本名アレグザンダー・ボナパルト・カストとは何者なのか?

        さあ、みんなで騙されよう!


        田村隆一氏翻訳の旧早川文庫版です。真鍋博さんのカバーも人気でした。
        田村氏には時々誤訳だか誤植だかがあるのですが、日本語的に文学的な文章になっていて、
        クラシカルな雰囲気を伝えてくれよい訳なので、今でもファンが多いのです。
        誤訳といっても文脈を想像すれば正しい意味で読み替えられると思いますので、
        作品のテイストを壊す翻訳よりはよほどマシだと私は思います。
        (つまり田村訳が好きだといいたい訳です)

        問題の誤訳はたとえばこの部分です。

        【第一の挑戦状】
        MR.HERCULE POIROT―You fancy yourself,don't you,
        at solving mysteries that are too difficult for our poor thick-headed British police?
        Let us see,Mr.Clever Poirot,just how clever you can be.
        Perhaps you'll find this nut too hard to crack.
        Look out for Andover on the 21st of the month.
        Yours,etc.,
        A.B.C.

        「ミスター・エルキュール・ポワロ――きみはうぬぼれているようだね、
        あわれなる、愚鈍なわがイギリス警察が手におえない事件でも、自分なら解決できる、と。
        では、お利口なポワロ氏よ、きみがどれほど利口か、みせてもらおうか。
        おそらく、このクルミは固くて、きみには割れないだろう。
        今月21日、アンドーヴァ(Andover)に注意せよ
           草々 ABC 」    (中村能三氏訳)

        「エルキュール・ポアロ氏へ
        あんたは頭が鈍いわれらが英国警察の手に余る事件を解決してきたと自惚れているのではないかね。
        お利口さんのポアロ氏、あんたがどこまで利口になれるかみてみようじゃないか。
        たぶん、この難問(ナッツ)は、固すぎて割れないことがわかるだろう。
        今月21日のアンドーヴァーに注意することだ。  敬具 ABC」 (堀内静子訳)

        「エルキュール・ポアロ殿
         貴殿は、かのあわれむべき鈍物のわが英国警察の手にあまる難事件の解決をなし得るのは我をおいて他に人なしと自惚れておられるのではないか。
        そこで、賢明なるポアロ氏よ、貴殿がいかに敏腕か、ひとつお手並みのほど拝見いたしたい。
         おそらくこの胡桃は砕くに固すぎることはないであろう。今月の21日、アンドーヴァを警戒されたし。
             草々 ABC」 (田村隆一訳)

        『クルミは割れるだろう』という意味になっている点が誤訳です。

        もちろん犯人の言いたいことは、きみには謎は解けないだろうという挑発です。
        こういう誤訳は本来は編集者が直せばいいだけのことなんですけどね……。



        【おまけ】
        クリスティは、事件を解明し犯人を指摘するだけではなく、罪がどう裁かれるべきかを考えます。

        どうやらクリスティって犯人のことが好きだと逃がし、
        同情すると自殺させて、嫌いだと縛り首にする傾向がありますよ。

        不幸にも犯罪に関わりを持たざるを得なかった人物を救済することも忘れません。

        ポワロ作品のこういう厳しさと優しさが私は大好きなんです。
        ホームズ等の探偵ものと決定的に違う点だと思います。
        私はその人間的なドラマや人物の深さからミステリー作家としてだけでなく、
        小説家クリスティを、いいえ、人間としてのアガサが好きだなあと思うのです。
        >> 続きを読む

        2014/05/12 by 月うさぎ

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      ゴルフ場殺人事件
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • クリスティの3作目にしてポアロの第2作目。
        どんでん返しがいっぱい。
        この物語はノリが軽くて妙な雰囲気なんです。
        ポアロの相棒でワトソン役のヘイスティングズの恋愛に
        ポアロ対フランス警察のジローとの対抗戦が見もの。
        ポアロったらジローと事件の解決勝負の賭けまでしちゃいます。

        ヘイスティングズときたら、たった2冊の中で、4人の女性に恋をして、
        2人にプロポーズしてる。
        なんて、純粋で惚れっぽい男なんだ(^m^ )
        連続殺人らしき事件も起こり、怪しいなかにコメディーの要素もあり。
        なんとアクションシーンも飛び出します。
        ちょっと雑ですが、盛りだくさんで楽しい作品です。

        ポアロに「人間猟犬」扱いされるジローという刑事がポアロの引き立て役となり
        最後まで笑わせてくれます。
        この作品で、クリスティは、ポアロを些細な「物証」よりも
        事件の論理的な筋道をたどる方法で犯人を捜すという操作方法を明確に打ち出しています。


        「パパ・ポアロ」のヘイスティングズに対する温かい視線がなんともほほえましい。
        ヘイスティングズって、こんなにアホだったかしら?
        とは、思いましたけど。
         
        それにしてものんびりした時代のお話で、現代なら考えられないことだらけです。
        被害者の遺体をそのまま物置に置いておくとか、凶器を厳重保管しておかないとか。
        凶器も手で触ってるし~。(^_^;)
        現代の警察でこんなことがあったら、大問題だろうなあ。

        シンデレラのセリフで、その訳は変。と思う部分が数カ所。
        言葉づかいも古めかしいことは否めませんが、それでも田村隆一氏の翻訳が私は好きです。
        >> 続きを読む

        2012/09/20 by 月うさぎ

      • コメント 16件
    • 3人が本棚登録しています
      邪悪の家
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 登場人物が全員怪しい人ばかりという複雑さ。評価が割れる作品でもあります。

        「犯人あて」にこだわるのか、ポアロの仕事ぶりに名探偵らしさを求めるのか、
        心理劇として楽しむのか、人物の魅力や作品の構成を評価するのか、オカルトチックなムードを楽しむのか。
        どのポイントに気持ちを合わせるかにより、様々な感想を持つでしょう。
        それが、この作品の好き嫌いを分けている気がします。
        正直、私もいろいろ詰め込まれていてどれも中途半端な印象を持ちました。

        でもそれは、この作品が本当はかなり『実験的な作品』だということによるでしょう。
        レビューが難しい作品だと思います。


        【内容】
        ポアロは滞在中のホテルで、若き美女ニック・バックレイと出会う。
        彼女が「三度も命を狙われた」という話をしているまさにその時に
        一発の銃弾が彼女の帽子を撃ち抜いた!
        彼女を守るべくホテルの近くに建つ邸宅「エンド・ハウス」に向かうポアロだが
        パーティーの夜に惨劇が起きる…


        ストーリーの展開や経過については、とにかくいろいろありすぎて追うのが精いっぱいです。

        怪しい人物、さまざまな証言、次々に起こる事件、実際にたくらまれている悪巧み。
        伏線もあれば、ミスリードもフェイクも、これでもか。というほどヒントが出てきます。
        ポアロすら徹底的に翻弄されていて、名探偵としての冴えが今一つありません。

        ヘイスティングズやジャップも出演してるんですがねえ。


        ポアロの容疑者リストもこんな混乱ぶり(^^;)
         A.メイドのエレン
         B.エレンの夫のウィリアム
         C.エレン夫妻の子供、アルフレッド
         D.クロフト老人
         E.クロフト夫人
         F.フレデリカ・ライス
         G.ジム・ラザラス
         H.ジョージ・チャレンジャー海軍中佐
         I.チャールズ・ヴァイス
         J.?――外部の者かもしれない。ただし、上にあげた人々の中の誰かと関係があるやもしれず。


        ニックの人物像については、いろいろ興味深い点があります。

        また、家というものの存在感の大きさに関してですが、
        自己の存在基盤を故郷や生まれ育った家に持っている人は意外に多いと思います。

        従兄のチャールズ・ヴァイスが、ニックはエンド・ハウスに狂信的な愛着を持っていると語る場面がありますが、
        ニックの態度として「家への執着」。それがあまり見えてこないのが、残念。
        だって確か、普段はここには住んでいないみたいなこと、言ってたような…?

        このあたりをもっと書きこんでくれていたら、インパクトのある普遍的な作品になったと思います。


        けれど、読後の虚しさ、無常感とでもいいましょうか…。

        特にラストのポアロのひかっかっていた謎への回答は、印象的。
        これが効いていて、非常に寂寥感のある作品になっており、心に残ります。
        友達も、真の友達じゃなかったって…。


        「どこが実験的か」という問題も語りたいのですが、
        これは完璧なネタバレになるので申し上げられません。
        非常に残念ですが、読んでみてください。


        【おまけ情報】
        「邪悪の家」の原題は、「PERIL AT END HOUSE」
        創元社の文庫及びテレビ版「名探偵ポワロ」では、
        「エンド・ハウス(の)怪事件」というタイトルで出ていますのでご注意ください。
        >> 続きを読む

        2013/04/09 by 月うさぎ

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      リスタデール卿の謎
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • ダークな殺人事件から軽い日常の謎や夢みたいな冒険まで楽しめる多彩な短篇集。
        ミステリーを期待しないで読んでほしい1冊。
        全てノンシリーズ(ポアロもマープルも出ません)でまとめられていて、
        メジャー作品ではないですが、クリスティの想像力の逞しさには驚かされますよ。


        1.【リスタデール卿の謎】(The Listerdale Mystery)
          ヴィンセント夫人は困っていた。
          暮らしがひっ迫し、しかも娘の縁談のために身分にふさわしい家も必要だったのだから。
          ふと、格安の家賃で執事付きの屋敷を貸すという新聞広告が目に留まる。
          条件は上流階級の人ということだけ。
          無駄と思いつつ家を見に行った途端に気に入ってしまったのだが、
          息子のルパートは持ち主のリスタデール卿が失踪している事実を指摘し、
          実は卿は謀殺されているのでは?と疑う。
          失踪事件を調査すると、執事のクウェンティンが謎の鍵を握っているようだ。

        2.【ナイチンゲール荘】(Philomel Cottage)
          長いつきあいの男性を振って、ジェラルドと結婚したアリクス。
          夫と二人で田舎の家を購入し、幸せいっぱいだった。
          しかし庭師との会話をきっかけに夫の嘘を知ったことで、幸せな世界が綻び始める。  

        3.【車中の女】(The Girl in the Train)
          裕福な伯父から解雇されたジョージはローランド・キャッスルズへ旅立とうと思いつく。
          そこへ列車に若い女性が飛び込んできて彼に助けを求めた。
          訳ありの美女に魅了されたジョージは危険な香りにわくわくしながら、
          事情も聞かないままに助力を申し出るが…。
          初期作品でお馴染みの冒険ミステリー&ラブロマンス。

        4.【六ペンスのうた】(Sing a Song of Sixpence)
           一線を退いた王室勅撰弁護士のサー・エドワードの元に、旧知の女性が相談に訪れた。
          伯母殺しの疑いを晴らして欲しいというのが彼女の願いだった。 
          マザーグースの歌が謎の解明のヒントになる。
          …のだがトリックはなく、みたて殺人でもないのですごく物足りない。
          

        5.【エドワード・ロビンソンは男なのだ】(The manhood of Edward, Robinson)
          エドワードには恋人に秘密を持っていた。
          しっかりしすぎの彼女が不満な彼は、彼女に内緒で
          懸賞で当たった金をぴかぴかの高級車につぎ込んでしまったのだ。
          車に魅せられ、一人夢見心地でドライブした帰り道、
          車のポケットに大粒ダイヤのネックレスが隠されていることに気づく。
          あろうことか、下車した際に車を間違ったのだ。
          犯罪?怯えながらも冒険気分でメモにあった場所へと向かう。
          そこに待ち受けるのは、小説で読んだような黒髪の美女!
          ロマンスと冒険!男は1夜にして変身できる?!

        6.【事故】(Accident)
          元警部のエヴァンズは女の過去の犯罪について疑いを強めていた。
          証拠不十分で釈放されたが、新たな男と結婚し次なる殺人をたくらんでいると。
          妻を受取人にした生命保険に入った話を聞き、未然に犯罪を防ぐため
          女に立ち向かうことを決意するのだが。

          ぞくっとさせられるお話。

        7.【ジェインの求職】(Jane in Search of a Job)
          失業中のジェインが新聞で求人を探していると、年齢、顔つき、身長などを指定する広告を発見。
          ジェインは自信満々で指定された場所へと向かった。
          見事高い倍率をかいくぐり、皇女の身代わり役を仰せつかるが…。

          自らの危険も顧みず若き女性が冒険に飛び込むという初期の典型的な作品パターン。
          当然恋愛もあり。

        8.【日曜日にはくだものを】(A Fruitful Sunday)
          日曜日にドライブに出かけたドロシーとエドワードは、路上でかご入りのサクランボを買った。
          かごの底から赤いルビーのついたネックレスがでてきた。
          まさに新聞で5万ポンドのルビーのネックレスが紛失したというニュースを読んだばかりだった。
          ネックレスは盗品なのか?
          宝石の魔力に憑りつかれたドロシーは、なんと
         「いまがチャンスなのよ。盗んだわけじゃないのよ」と言い始める。

        9.【イーストウッド君の冒険】(Mr.Eastwood's Adventure)
          タイトルは『第二のキュウリの謎』。決まっているのはそれだけ。
          推理小説作家のイーストウッドはアイデアに詰まっていた。
          そこに掛かってきた見知らぬ女性からの謎の電話。
          危険を訴え、助けを求め、最後に言ったのは「合言葉はキュウリ」?!

          作家の捜索活動を描いた奇妙な1篇。
          ネタに困った作家は藁をもつかむ?

        10.【黄金の玉】(The Golden Ball)
          伯父から解雇宣告を受けシティ(金融街)に立ちつくしていたジョージに声をかけてきた女性は
         社交界の令嬢として知られる美女だった。
          「(車に)お乗りになりません?」
          「あなた、わたくしと結婚する気がおありになる?」

          「黄金の玉」とは絶好のチャンスのこと。
          コントみたいなお話しです。

        11.【ラジャのエメラルド】(The Rajah's Emerald)
          彼女と海辺のリゾート・キムトン海岸を訪れたジェイムズ・ボンド君。
          ところが服装にはケチをつけられ、彼一人が仲間外れにされ、非常に不愉快な展開に…。
          海で泳ごうとしても着替え用のテントは満室。
          扉が開いていた個人用の小屋をこっそりと使わせてもらったのだが。
          ラジャの高価なエメラルドが盗まれ、それが彼のズボンのポケットに入り込んでいた!
          
          「なぜジェイムズ・ボンド」?というほうが気になってしまって…(^^;;
           
        12.【白鳥の歌】(Swan Song)
          当代随一のドラマティック・ソプラノと目されるオペラ歌手のポーラ・ナツォルコッフに
          ラストンベリー伯爵夫人から、居城にある個人劇場で
          『蝶々夫人』の公演をしてほしいという依頼が来た。
          ナツォルコッフは演目を『トスカ』にすることを条件に依頼を受諾する。
          「トスカ」は彼女の十八番なのだ。
          
          「トスカ」の話を知っていればすじ書きは読めるけれどもみごとな感動作。
          
          ラストのセリフが短編集をも締めている。見事な出来栄え!
          「お芝居はこれでおしまい!(ラ・コメディア・エ・フィニータ)」
          歌劇「パリアッチ」の一節だそうです。

        *スワンソングとは、詩人・作曲家・演奏家などの生前最後の作品・曲・演奏をいう。
        死ぬ間際の白鳥は、最も美しい声で歌うという伝説から生まれた言葉。

          「わたくし『トスカ』を歌うことはもう二度とないのよ」のセリフは作品のタイトルと呼応したものだということがわかります。
        >> 続きを読む

        2013/05/22 by 月うさぎ

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      シタフォードの秘密
      カテゴリー:小説、物語
      2.0
      いいね!
      • やっぱり読者を裏切るのが好きなお方ですね。確信犯だな~。

        若き女性エミリーと新聞記者のチャールズ・エンダビイが活躍するノンシリーズのミステリー。
        エミリーは初期のクリスティ作品に登場する意志が強く活発でかわいらしいという典型的なタイプ。
        でも、冒険ものではありませんよ。

        雪に閉ざされたエクスハンプトンの自宅で退役軍人のトリヴィリアン大佐が何者かに撲殺された。
        甥のジェイムズ(ジム)・ピアソンが容疑者として警察に逮捕される。
        ジムの婚約者エミリーは彼の無実を晴らそうと、記者のチャールズを頼り、二人で捜査を開始。

        この作品は割と早い段階で、犯人&動機はかなり確信を持ってわかってしまいました。
        でも、トリックが不明でした。

        ふたをあけてみれば「な~んだ!」なんですが。
        簡単すぎで思いつかなかったよっ。(負け惜しみか~?)

        似たようなトリックはこの後、ごまんと存在する気がします。
        誰が最初に書いたのか。謎ですが。

        いずれにしても、うまく隠されちゃったな。と思いました。
        これを隠し通すのはかなり苦しいな~とも。(^^)

        【ストーリー】
        深い雪に閉ざされたシタフォード村の山荘に集まった隣人たちが退屈しのぎに行った降霊会。
        現われた霊魂は、たった今トリヴィリアン大佐が殺害されたという恐ろしい宣告を下した。
        時刻は5時25分
        大佐の住むエクスハンプトンの家まで、6マイル、雪道を徒歩で2時間半もかかる。
        しかし山荘に連絡手段はない。

        この物語の特徴は『降霊会』が舞台装置として怪しい役割を果たすということです。
        「降霊会」って、クリスティの話の中に比較的よく出てくるのです。
        彼女のミステリーにおいてはオカルト的な雰囲気を出すために、
        また、理性的な犯人捜しの目くらましとして使われている気がします。
        私は霊云々のエピソードはあまり好みじゃないのですが、
        英国では占いのような位置づけにあったのかもしれません。
        「降霊会」や「霊媒」は、かなりの程度、この時代の一般人に信じられていたと考えるべきでしょう。
        クリスティ自身に関しては、どっぷり信じるでもなく、否定するでもなく。でも関心はある。という印象ですが。

        手段とアリバイ崩しがミステリーの要ですが、この部分はあまり論理的ではないです。
        どっちつかずというか。
        ミステリー・ファンとしては、たぶん物足りないでしょう。

        若い男女の探偵っぷりや、ダメダメ婚約者の青年やら、脱獄犯人を巡る謎やら、
        そんな人間関係を追っていくことがメインのお話しになっています。

        そして、なんと、今回のどんでん返しは…。
        クリスティーはそう来たか。
        エミリーは(クリスティも)女だなあ。と思いました。
        >> 続きを読む

        2013/02/19 by 月うさぎ

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      なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? クリスティー文庫)
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」そう言い残して男は死んだ。

        なんて魅力的なタイトル!
        題名を見るだけでもうミステリーが始まっているじゃないですか?
        彼女のテクニックを学んだ後輩作家がいかに多いことか。計り知れませんね。

        ダイイング・メッセージもの。ということになりますが、
        この謎は最後の最後まで明かされません。

        若い男女のしろうと探偵二人組が謎解きに挑戦する
        初期クリスティに多かった冒険とロマンスとユーモアのたっぷりつまったスリラーです。


        (ストーリー)
        がけからの転落事故死で落着しそうだった事件が、ボビーの毒殺未遂で状況が一転。
        今際の際に言い残した「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」の言葉を聞いたボビーを、
        殺人者が消そうとしたに違いない。
        幼馴染みのレディ・フランシス(フランキー)は殺人事件の真相を解明すべく奔走を始める。
        疑惑の人物を直撃するという貴族らしい突飛なスタイルで。

        やがて転落死した男性の身元が別人と判明し、疑惑は確信に変わる。
        精神病と麻薬中毒患者の治療を専門にするニコルソン医師と夫に殺されると怯える憂いの美女モイラ、
        麻薬中毒を疑われるヘンリーの拳銃自殺まで起き、事件はますます混迷を深める。


        恋愛ものとしても楽しめます。
        幼馴染の二人が同じ目的に向かって協力し、命の危険を乗り越えていく中で、
        恋のライバルも登場し、自分の気持ちに気づいていく。
        さて、身分違いの二人の関係はどうなる?


        ロマコメ・タイプのミステリーの中では知名度がたぶん最も高い作品だと思います。

        ノン・シリーズものの長編には、お転婆な女の子と
        ちょっと野暮ったくても誠実でかわいいタイプの、
        機転は効かなくてもいざという時に頼れる男の子の組み合わせがいくつもあります。
        展開もどんどん変化して、盛りだくさんな内容です。
        きっと楽しんで描いていたんだろうなと思えます。

        トリックを追求するのではなくいろいろな謎がばらまかれ、それを収斂するタイプのミステリー。

        最大の謎が「エヴァンズ」なのですが、その謎が解ける時、
        彼らは「お腹の皮がよじれるほど笑いころげた」!?


        そして犯人の鮮やかな転身が意表を突きます。

        最も疑わしい人がやはり犯人?最も意外な人が実は犯人?
        今回はどっちなんだろう?って悩みますよね?悩んで当然です。
        その両方をいっぺんにかなえる犯人なんだもの。
        またしても、クリスティにやられました。



        【おまけ】
        Why didn't they ask Evans?
        クリスティは、このタイトルが浮かんで、そこからその作品を思いついたのかもしれないと思うんです。
        短篇「イーストウッド君の冒険」の中で、ミステリー作家の主人公の言葉として
        「物語において重要なのは、タイトルと筋書の2点」なんて言わせています。
        クリスティがタイトルを大事に考えていたということですね。
        そして、編集者が勝手に「うんざりするようなタイトル」に変えてしまうというといって嘆いています。

        この「なぜ、エヴァンズに…」も邦題がたくさんバージョンがあって
        「海辺の殺人」とか他にもネタバレ気味のタイトルまであるのですが、
        アメリカで発売されたタイトルが "The Boomerang Clue"というのだそうで。
        これ、勝手に改題されたのかしら?
        「なぜ、エヴァンズに…」のほうが断然ステキだと思うのですが、
        みなさんはいかが思われますか?
        >> 続きを読む

        2013/05/29 by 月うさぎ

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      チョコレート工場の秘密
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • チョコレート好きにはこたえられない、夢のようなチョコレート工場のお話し。
        映画やミュージカルにもなっている、世界的な大ベストセラー&ロングセラーです。

        ロアルド・ダールは鬼才と評される作家なのですが、
        この童話を読んでもものすごい想像力の持ち主であるということを実感できるでしょう。
        そして、誰もが夢にみるでしょう。
        こんなチョコレート工場が自分のものだったらなあ。と。

        【ストーリー】
        外界から隔離され秘密めいたワンカ氏の巨大なチョコレート工場。
        チャーリー一家はその工場の目の前で暮らしていた。
        4人の祖父母、おとうさん、おかあさんとチャーリー。全部で7人。
        仲は良いけれど食うにも困るひどい貧乏暮らし。
        年寄りたちは寝たきりだし、働き手は父さん一人なのだ。
        ある日、チョコレート工場の工場主ウィリー・ワンカ氏が
        秘密のチョコレート工場に5人の子どもを招待すると発表した。
        板チョコに隠された5枚のゴールデンチケットを求め、世界中が熱狂する。
        チャーリーにだって、もちろんチャンスはある!

        工場見学の日の朝、10年間人目を避けていた鬼才ワンカ氏がついに姿を見せた。
        黒いシルクハット、干しブドウ色の燕尾服、緑色のズボン、灰色の手袋。
        アゴヒゲをはやし、手にはステッキを持った見るからに風変わりなとても小さな人物だった。

        秘密の工場の中に広がっていたのはワンカが作り上げた奇想天外な世界!
        彼の招待の本当の目的は何だったのか?

        【登場人物】
        チャーリー・バケット(Charlie Buchet)
        貧しい家庭に生まれたが、家族愛には恵まれている。チョコレートが大好きだが、貧乏なので年に一度、誕生日に1個しか買ってもらうことができない。

        バケット夫妻(Mr.&Mrs.Buchet)

        ジョーじいさん(Grandpa Joe) 父方の祖父。
           ウォンカのチョコレート工場の見学にチャーリーの保護者として同行する。

        ジョセフィーンばあさん(Grandma Josephine) 父方の祖母。
        ジョージじいさん(Grandpa George)ジョージナばあさん(Grandma Georgene) 母方の祖父母

        ウィリー・ワンカ(Willy Wonka)  天才的なチョコレートメーカー。
          ライバル会社の産業スパイ行為のため従業員を全員解雇し引きこもりに。

        ウンパルンパ(Oompa Loompa) チョコレート工場で働く小人一族。

        オーガスタス・グループ(Augustus Gloop) 大食漢の肥満少年。

        ベルーカ・サルト(Veruca Salt) 金持で何でも欲しがるワガママ娘。
           
        バイオレット・ボールガード(Violet Beauregarde)  ガム中毒のお行儀の悪い少女。

        マイク・テービー(Mike Teavee)  テレビ中毒の少年。
           ギャングものが大好きで体中にモデルガンをくくりつけている。


        この本は「大人向けのファンタジー」などではありません。
        まさに「子どものために書かれた子どもの本」です。
        だって大人か読むと眉をひそめたくなるか、耳が痛くなるからね。

        ダールは大人向きの小説ももちろん書いていますが、かなりキツイ作風で、怪奇小説ともグロともいえる。
        場合によってはうなされます。(^◇^)
        私のイメージはダール=ダークです。

        ダールは児童文学を多数書いています。
        社会への痛烈な皮肉とおちょくりが、児童文学においても見られます。
        子どもならではの心の純粋さにもきちんと訴えかける、美しさがある。
        そして一方で下らない冗談と残虐性に溢れています。
        でも、それと気付かぬうちに、実は倫理的だったりもします。

        悪い子(と親)に、お仕置きを!(`・ω・´)


        実はこの作品、日本ではずっと田村隆一氏が翻訳した本作が読まれていたのですね。

        新訳が出て「田村訳がよかった」という意見が噴出し、評価が真っ二つに割れているようです。

        私も田村さんの翻訳は好きなので、クリスティの翻訳を新訳にしないでほしい~(T_T)
        と訴えている一人であります。

        でも、冷静に比較してみましょうよ。
        旧訳支持者の言い分にはヒステリックで幼稚で見当違いな意見があるように思うのです。
        そこまで言うのなら原文に当たってみて。他の作品も読んでみろよ。と。言いたい。
        だって原作の英文はとても読みやすいよい文章でテキストとして最高です。
        翻訳に問題があるというのなら、児童文学くらい原文と照らして批判しましょうよ。

        「子供にどっちを読ませたいかというと、田村訳かなあ。」なんてイメージで決めつけないで。

        今回旧訳を読んでみて、田村さんだなあ。と思いましたもの。
        ダールは田村さんのように子どもに「優しい」人ではないのです。
        これは、ダールの作品ではなく、田村さんの「チョコレート工場の秘密」なんですよね。
        だって彼は詩人なんです。彼の世界はとても品がいいんです。
        もちろん、田村ファンが多いことも納得がいきました。
        「田村版のほうがチョコレートがおいしそう」という声も。
        これにも私は異論がありますけれどね。

        新訳は教育上良くない?それも嘘です。

        旧訳には「禁止ワード」が出てくるんですよ。
        「気ちがいだ!」「発狂したんだ!」「頭が変なんだ!」
        「馬鹿!」「白痴!」「低脳!」「変わり者!「狂人!」
        ね?すごいでしょ?

        だから新訳に直したんじゃないか?とも考えられます。
        (最近の出版社の自主規制って過剰だと常々感じています。)

        あと(よく知られていることですが)田村訳には小さな誤訳があります。
        例えば、half a mileを1マイル半と誤訳しています。
        これは半マイルが正しいので、ちょっとしたミスです。
        1マイルは1.609344 キロ
        柳瀬氏は「1キロ近く」と訳しています。
        彼は4フィートも1メートル以上と訳しています。
        子どもには子の方が親切でいいと私は思います。

        チョコレートを貪り食うシーンでsolidという単語が出てきますが、
        これを田村氏は「固形物」と訳しているんですよね。
        これは、濃厚なとか食べでのあるとかが正解なんですよ。
        田村さんは物語を訳すのは上手なんですが、簡単な単語チェックは甘いんです。
        簡単な言葉に時々間違いがあるのです。
        些細な点ですし、大人で英語感がある人なら気づくからいいんですけどね。

        何が何でも田村訳。という方は、多分きちんと本を読んでいないのでしょう。

        くどい様ですが、私はアガサ・クリスティは田村訳が好きです。
        外国文学は本当は複数の訳を読めるようにしておいていただくのが、
        一番いいと思うのです。
        せめてそれを保存するのが図書館の役目ではないかと私は思います。

        全国の図書館さん、旧訳本を処分しないでくださいね。
        お願いします。(^人^)

        余談ですが、ダールの短編集「あなたに似た人」(ハヤカワ文庫)も新訳になったそうですよ。
        これを期に読む人が増えるなら、いいことですが、
        またも田村隆一訳が消えるのか…と思うとそれはとてもとても残念です。
        仕方ない。捨てないで持っていよう……。


        【おまけ】
        『チャーリーとチョコレート工場』は作者の学生時代の思い出から生まれた作品でした。
        カドベリー社(日本語名「キャドバリー」)のチョコレート工場から学校の寮に、
        しばしば開発中のチョコレートの見本品とアンケート用紙が送られて来たとのだいう。
        (私の高校時代、同じ経験があります!)
        ダールは研究室に勤務し、おいしいチョコレートを発明して
        カドベリー氏に誉められる場面を夢想していたんだそうです。
        >> 続きを読む

        2013/08/28 by 月うさぎ

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【田村隆一】(タムラリュウイチ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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