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谷崎潤一郎

著者情報
著者名:谷崎潤一郎
たにざきじゅんいちろう
タニザキジュンイチロウ
生年~没年:1886~1965

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      痴人の愛
      カテゴリー:小説、物語
      3.9
      いいね! tadahiko KEMURINO
      • 再読。
        純文学の大御所、谷崎潤一郎の代表作である。
        主人公・譲治と10才以上年下の少女・ナオミとの同棲物語。
        年下との同棲物となると漫画「りびんぐゲーム」あたりを想起するが、本作は星里もちる作品のような牧歌的な物語では決してない。
        ヒロインのナオミの性的奔放ぶり、自己中心性は尋常ではなく、特にP151,152を読んでナオミのあまりの性格の悪さにドン引きした(主人公の譲治も聖人君子ではないが、ナオミの性格の悪さは譲治の比ではない)。
        ラストの一文は「細雪」同様、余韻をもたらすものである。
        それにしても最近、一度読んだ小説を読み返すことが多く、未読の小説を読むハードルが高くなっている。
        未読の小説では、最近ではクリスティとかカーとかクイーンばかり読んでいる。
        しかも、それが滅法面白いのだから困ったものだ。
        >> 続きを読む

        2019/05/23 by tygkun

    • 他9人がレビュー登録、 39人が本棚登録しています
      春琴抄
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! chao
      • 再読。
        文豪・谷崎の代表作である。
        非常に薄い本だが、内容の濃さは異常である。
        舞城と同様改行がない文体(本当に一切ない)、段落の終わりに句読点をつけない文体であり、形式的にも異色であるが、中身は異色どころではない。
        三味線師匠春琴と奉公人佐助の師弟愛が主題だが、春琴の嗜虐性は苛烈極まりなく、「痴人の愛」のナオミのサディズムは笑えるが、「春琴抄」の春琴のサディズムは全く笑えない。
        佐助の「眼」のシーンでは「イタタタ」と声に出そうなほど、臨場感があった。
        谷崎の作品は「春琴抄」「卍」「痴人の愛」と異常性が際立つものが多く、ノーベル文学賞候補に7回も挙げられながら、受賞することができなかったのも納得できる。
        ただ、代表作「細雪」は一般人にも安心して薦めることができる傑作であり、日本純文学の頂点に位置する作品であると思っている。
        まさに天才としか評することができない才能の持ち主であろう。
        >> 続きを読む

        2019/05/28 by tygkun

    • 他8人がレビュー登録、 38人が本棚登録しています
      細雪
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね! KEMURINO
      • 「細雪」はいつか絶対読むと思っていた自分の課題図書。
        最近はとても良い本に巡り合うことが多く、その流れで満を持して…!だったのですが、読むのになんと1カ月以上かかりました。

        というのも、大きな事件が起きるわけではなく、今まで私が読んできた作品のように登場人物に癖があるわけでもなく、日常がとても丁寧に描かれているだけなのです。なので、「読むのが止められないー!」といったことにならず、隙間時間にほんの数ページ(場合によっては数行)読んで…といった読書になったからでした。

        四人姉妹のうちの幸子、雪子、妙子を中心に生活ぶりや縁談のあれこれ、街並みや当時の流行、洋服など、当時の情景が目に浮かぶようです。
        文体も美しくて彼女らの台詞などもとても楽しい。

        それでも特に大事件が起こらないストーリーは最初、正直退屈でした。でも上巻を読み終わる頃にやっと登場人物たちに親しみを感じるようになり、ページを捲るのが楽しくなりました。中巻、下巻を読み終わる頃にはもっともっと好きになりそうです。
        >> 続きを読む

        2017/11/07 by chao

      • コメント 12件
    • 他4人がレビュー登録、 18人が本棚登録しています
      細雪
      カテゴリー:小説、物語
      4.1
      いいね! KEMURINO
      • 細雪。読んでよかった。

        最後まで読んで、ただ仲の良い姉妹というだけでなく、小さなことから事件に至るまで様々な場面での会話や行動を通じて、良いところもそうでないところも知って、イヤだなと思うこともあったけれど、それも全部ひっくるめて彼女たちが好きで、鶴子、幸子、雪子、妙子、みんな幸せになってほしいなぁと心から思う。まるで、古くからの友人みたいな感覚。まだまだ読んでいたいし、時代としてはこれから戦争で大変なことになっていくはずだから彼女たちがとても心配。小説だからこれで終わりなんだけれど、ずっと彼女たちがコロンバンでお茶をしたり、手紙のやりとりをしたり、お花見をしたり、変わらずいきいきと生き続けているような気がしてならない。ラストは悲しい出来事もあったし、良かったと思えることもあったけど、結末ありきの小説ではないから、それは大きなことではない気もする。

        幸子は谷崎純一郎の奥さまがモデルになっているのだとか。
        それにしても、ここまで女性を描けるのはスゴイと思う。

        この四姉妹が好きなのはすでにレビューした通りだけど、細雪の文章もとても好き。
        読み終わってしまうのがとても惜しい。
        退屈だなぁと思って読んだ上巻。今改めて読むととても楽しく読めそう。

        下巻単体でいうと☆4かなぁと思うけど、トータルでは文句なしの☆5です。
        >> 続きを読む

        2017/12/14 by chao

    • 他4人がレビュー登録、 13人が本棚登録しています
      猫と庄造と二人のおんな
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!
      • なんとなく谷崎の気分になったので、図書館で借りてきました。新潮文庫の谷崎は表紙ですぐにわかりますね。200ページもない短い話です。相変わらず、谷崎は話の構成が上手い。引き込んできます。

        二人のおんなとは、前妻の品子と後妻の福子です。そして庄造は猫のリリーを溺愛している。
        谷崎といえば『痴人の愛』のナオミのような、ファム・ファタルを愛する倒錯趣味の印象が強いのですが、ここでのファム・ファタルは猫のリリーだなと思いました。リリーは猫ならではの気まぐれさで周囲を手玉に取り、庄造ばかりではなく、かつてはリリーに嫉妬し憎んでいた前妻の品子すらも跪かせるのです。お見事。

        リリーは庄造のところから品子のところへもらわれていくんですが、詳しい経緯は実際に読んでもらうとして、もらわれていったリリーを一目見ようとする庄造の書かれ方がほんと、愚かな男の書き方が、谷崎だなぁ。
        とはいえ二人の女もリリーを超えられはしないのであって、猫を取り巻くすべての人が滑稽に見えます。愚かさを実にうまく描くのが谷崎ですね。

        ちなみに舞台は芦屋。巻末の注解に関西弁の注釈があるのが変な感じです。正直註なんていらないでしょと思うのですが…
        >> 続きを読む

        2016/11/16 by ワルツ

    • 他2人がレビュー登録、 9人が本棚登録しています
      卍
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • 一言で言えばレズビアニズムの2人の主人公を中心に展開される愛憎悲劇(喜劇とも言える)に近しい作品なのだが、作者がこの作品によって表現することを目指しているところの、その根源的なものは、あくまでレズビアニズムによる官能性にあるのではなく、そこから生まれ出た登場人物一人一人のサディズム、マゾヒズムにある。
        風俗的な官能性は、序盤の描写において早々にクライマックスを迎え、その後は個的な心理、耽美的なエロティシズムの根源に存在する性的衝動、衝動心理と言えるものが前面に押し出され交叉するドラマが物語られていく。この流れから、我々は悲劇か喜劇となる結末を予想する。しかし、主人公二人のように物語を生み出すという器量があるとは言い難く、物語の進行においてほとんど石地蔵に蜂であったり、むしろ破壊的であったりするが故に、前述のようにこの作品を悲劇や喜劇に近しくも異なる作品としてしまう、明らかに役不足である二人の男性の介入によって、その予想は覆されていく。さらに、全編が柔らかな印象のある関西弁で語られる説話体の文章であることも、それを助長することに繋がってしまっている。
        それこそが悲劇と呼べるものなのだが、しかし、そのハンデを逆手に取り、基本主題であったサディズム、マゾヒズムとそれに起因するレズビアニズムの描写をも放擲し、悲劇にも喜劇にもなり得ない空前の“虚偽”を生成したところにこの作品の素晴らしさがある。作品を、悲劇にも喜劇にもなし得なくさせる文体や登場人物を、しかしひどく人間的で滑稽、抱腹絶倒ものながら限りなく瀟洒な”虚偽の悲劇・喜劇“足らしめるものの生成に不可欠な存在に仕立てる谷崎氏の手腕は、流石としか言えないものであろう。
        >> 続きを読む

        2017/12/15 by ヒズミ

    • 他2人がレビュー登録、 9人が本棚登録しています
      細雪
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね! KEMURINO
      • 上巻を読み始めた時は数ページずつちょこちょこ読んでいた細雪。
        中巻に入ってからは面白くて読むのをなかなか止められず、久しぶりに寝不足覚悟で夜中読んだりしました。

        「日常生活を描いているだけ」と上巻でレビューをしましたが、中巻では大雨による洪水が起きたり、自由奔放でたくましい四女妙子の周りで事件があったりと、日常生活を超えたストーリーの起伏がありました。でも、面白いと思えているのは、ストーリーに起伏があったからではなく、私が細雪の世界観に入り込んだからだと思います。本を開くとそこには細雪の世界がたしかにあって、鶴子、幸子、雪子、妙子とお春どんや啓坊やシュトルツ夫人といった人たちが生きている。彼らが彼らの意思で生きているとしか思えない。その世界を表現する会話や文章も本当に良くて。読み始めは上中下巻は長いな…と思っていましたが全く飽きません。

        ☆5にしたかったのですが、妙子の結婚について、家柄や世間体を気にする幸子や雪子の考え方を少しイヤだなと思ってしまって☆4。でもこういう気持ちになるのも、物語に心が入っているからこそ。それに、おそらくこの時代ではやっぱり幸子や雪子の考え方の方が普通なんだろうな。。

        中姉ちゃん、雪姉ちゃん、こいさんたちの幸せを願いつつ下巻へ…

        と、読み始めようとした瞬間、下巻が手元にないことに気が付いた!
        自分のバカー!!!
        >> 続きを読む

        2017/11/24 by chao

      • コメント 2件
    • 他2人がレビュー登録、 12人が本棚登録しています
      金色の死 谷崎潤一郎大正期短篇集
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      •    成熟のその手前

         暇さえあればオクタビオ・パス著の『弓と竪琴』を読んでいる。分からない、いくら読んでも分からない。引っ切りなしに引用される書名の波に押し流され、道をたずねても相手は聞いたこともない名前の学者や小説家たち。じぶんに理解できるのはじぶんが理解していないという事実だけ。つい昨日会ったばかりの人を持ち出すようにアリストテレスを引用する奇癖をもつ、このメキシコが生んだ、明哲で抜けめのない批評家の論考を、そう易々と飲みこめる私ではないが、それでも、繰り返し、繰り返し読むうちに何か味がしてくるから読書はおもしろくて、読書百篇ではないけれど、義自ら通じた先になぜか谷崎潤一郎がいた。
         前々から感じていて敢えて口に出してはいないが、もし、谷崎潤一郎から藝術家の才分が失われたとしたら、ただの変態、あるいは瘋癲老人になるだろう。藝術家とはそういうものかもしれない。それにしても、谷崎の女体崇拝はちょっと常軌を逸しており、どうして女性の足にそこまで執着するのか、とくに若い頃は不思議で仕方なかった。男性には見られない曲線美があるのは分かるし、僕もエスカレーターに乗ると、踵からふくらはぎ、その小丘からベルトが掛る腰までのラインを隈なく見ます。華のある歩き方をする人のラインには「美」が充溢していて、もうひとつの顔と呼べるほどの多様性と情報量に富み、そこには確かな個性がある。たとえば、パスピエの女性ヴォーカルの子がいい。「つくり噺」のPVの終わりのほうに、階段を昇っていくシーンがあって、歩き方と例のラインをじっくりと観察できる。しかも顔が隠れているから、その分よりいっそう美人に見える。いや、きっと美人と断定して間違いないと思う。これだから谷崎を読むのはイヤなんですね。話が逸れた。
         話を谷崎にもどして、肝心の作品論をしてみたい。いいえ、個別の作品論ではなく、総論としての、やや抽象的な戯言かもしれないが、谷崎の作品からは西洋文学を学んだペンだこがほとんど見受けられない。と言えば言い過ぎだが、大岡信がみずからの愛するポール・エリュアールの影響を自作からは隠すように、谷崎も(谷崎の愛した西洋の作家って誰だ?)そういう抑制する力をもっていたから、我が国の大古典である源氏をほんとうの意味で創作に活かせたのではないだろうか? ここで前述のオクタビオ・パスが、ポエムとポエジーを区別した事情を思い出すと、ポエジーの要素のなかでも「放棄」が詩学の世界では肝腎なのだろうか? 放棄するためには獲得しなければならず、獲得するためには対象を認識しなければならない。それとも「放棄」とは、捨てたあとに残ったものを指すのだろうか? もちろん、事はそう単純ではないし、詩学の世界では一体化するような事例もあり、例をあげると大岡昇平とスタンダールや、バルガス=リョサとフロベールなど。しかし、そういう作家であっても、ほんとうに輝いているときには、語りの言葉のうちに霊魂が宿り、その作家は人間として独り立ちしている。この立ち姿のことを人は文体と呼び、この立ち姿こそ谷崎文学の醍醐味である。それは初期作品といわれる、大正期の短篇でも変わらない。松子夫人の手ほどきを受けるまえで、あの息の長い調子は鳴りを潜めているけれど、これらの短篇には、ゆくゆくは大家になる自負心が推量され、円熟期を迎える萌芽が散りばめられている。
        「金色の死」は、これまでの藝術に対する内省とこれからの決意がテーマで、三島由紀夫っぽい友だちと主人公の二人舞台。この友だちがおもしろい。「母を恋うる記」と「富美子の足」、このふたつは題名から察してもらいたい。坂口安吾の作品のような「小さな王国」もなかなか読ませる。他に「人面疽」、「途上」、「青い花」。谷崎の初期短篇はすこし軽視されがちだけど、円熟期や後期にそれほど引けを取らないと私は思う。文豪と認められるまえの若い作家のつよい気魄や色々の意匠に、藝術家としての伸びしろや、成熟してゆく定められた未来を予感することができる。


        付記
         我奈覇美奈さんの「With A Wish」という曲がなかなかいいです。歌声がなんか胸にくるものがあるし、繰り返し聴いても飽きにくい。女性ヴォーカルの魅力が詰まっている気がします。
         この本には既レヴューがありまして、過去のじぶんのノー天気なコメントをみて冷や汗が出ました。
        >> 続きを読む

        2016/06/11 by 素頓狂

      • コメント 12件
    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      刺青
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • 「刺青・秘密」 新潮文庫 谷崎潤一郎

        遡れば約一年半ほど前のこと。通信制高校生である私は、国語の授業で日本の古典文学に目覚めました。
        それに連なる形で近代日本文学に関心が湧いた私は、三島由紀夫の「金閣寺」を読み、その「日本語」で表現された豪華絢爛な文章の「妙」に触発され、日本の純文学を耽読するようになります。
        しかし、この「谷崎潤一郎」という作家は、日本の文学を語る上で避けては通れないとは思っていましたが、この作家だけは避けていました。なぜならば私は「クリスチャン」であるからです。

        谷崎のウィキペディアを徒然と覗いてみた私は、妖しい、倒錯した世界観を構成する単語の並ぶ作者の情報を見て、「これは、クリスチャンとして読んではいけない。」と、馬鹿に真面目に心に決めていました。
        ですが、待ち時間に書店に行き、谷崎の処女作の収録された、新潮文庫出版の本書、「刺青・秘密」を手に取ると、その表紙カバー(梅の花でしょうか)の妖艶さから、まず魅了されてしまい、「処女作だけ、読んでみて判断しよう。」と、本書を読むことと相成ったのです。 「きっと倒錯しきった耽美主義の世界が描写されているにちがいない。」、そう決め込んでかかっていた私は、表題作である「刺青」「秘密」以上に、本書収録の「異端者の悲しみ」に、いたく共感してしまったのです。

        主人公の章三郎は、東京帝国大学の文学科の学生ですが、ろくに通学もせず、実家である日本橋の八丁堀の二階で、親への反抗手段としてだらだら午睡したり、ふらふらと遊び呆けたりして暮らしています。
        そして、根拠のない自信、「俺には、とてつもない芸術の才がある! 今に見ていろ、お前らのような健常な、幸福者をアッと言わせてやるからな。」、そんな風に己を鼓舞するのですが、いざ原稿の前に膝を正しても、すぐに女のことを考えたり、酒のことを考えたりと、とにかく怠惰な若者です。
        私が「いたく共感した」というのは、私がかつては、クリスチャンになる前は章三郎のような若者であったからです。特に下記に引用する作中の地の文に「いやあ、似てる、俺と似ている。」と、嘆息のような笑みが浮かびました。

        ーーー閑寂な孤独生活に憧れる瞑想的な心持ちと、花やかな饗宴の灯を恋い慕う幇間的な根性とが、常に交互に起こって居た。友達の金を借り倒して、世間へ顔向けが出来なくなると、彼は暫く韜晦して八丁掘の二階に屏息したり、漂白の旅に上ったりする。そう云う時に彼は自分を非常に偉大な人物であるかの如く己惚れる。ーーー

        さすがに友達の金を借り倒してフラフラできるほどの「不道徳的器用さ」を私は持っていませんが、約二年前、今よりまだ落ち着きのなかった時分、インターナショナルなたこ焼きパーティーの席で、アメリカ人女性に「これ、飲め!」と言われて差し出されたのは、タコのドリップ、ドブの水のように混濁した色の「タコ汁」で、そこで私の心には、上記の「幇間的な根性」がふつふつと出しゃばってきた末に、その「タコ汁」を飲みほしてしまったのでした……。
        そんな下品な「幇間的」な振る舞いをしたかと思えば、「閑寂な孤独生活に憧れる瞑想的な心持ち」で、本の虫になっている時の自分、短歌を詠む、何か作品を創っている時の自分をして「非常に偉大な人物であるかの如く己惚れる」、鉄面皮な、厚顔無恥な「自我」が、「へりくだりなさい」というキリスト教倫理とせめぎあうようにして相対し、いざ自分よりも優れた同世代の人々、自分よりも本気で人々の事を考え、祈っているクリスチャンの人々の輪に入ると、「俺は一体全体、人生について何も分かってないじゃないか。自分の創る作品だって、所詮は狂言綺語じゃないか。人生の何に役立つのだ。」と、「自惚れ」の生じた自分を恥じるという、章三郎同様、なんとも七面倒臭い性格をしているのです。

        そして、河盛好蔵氏の解説を読んで初めてわかったことですが、この「異端者の悲しみ」は、大正六年(1917年)に発表された作らしく、この時代にもこのような、ある意味で「とても若者らしい不器用な若者」はいたんだなあ、という思いに駆られました。
        それ以上に驚いたのは、この作品は作者、谷崎潤一郎の「半自叙伝」の中編小説であり、そのことを知った私は、谷崎潤一郎という人物に親近感を抱いてしまいました。

        この他にも「二人の稚児」という、「浮き世」を、「この世」をほとんど知らずして比叡山延暦寺に引き取られ、それ以来、勤行に修行を重ねて育った、二人の少年が抱える、未だ見たことのない「浮き世」「女人」と「仏道信仰」への葛藤を描いた作品も、とても豪奢な文章・物語の調べとなっており、多数の仏教用語や、その経典の示す世界観の描写も、注解と合わせて読むことで、日本の仏教の、その片鱗を見ることが出来るので、クリスチャンである自分としては、こういった作品は大変勉強になりますし、とても興味深いです。

        口語における日本語はもちろんのこと、江戸の下町方言、江戸落語のような語り口の作品、そして、文語と、ありとあらゆる日本語を超絶技巧で展開し、幅広い芸術や風俗の知識をふんだんに馳駆して作品の世界観を構築する「谷崎文学」の世界は、あまり立ち入らぬ方が吉とは知りながらも、今後も立ち入ってしまいそうな「鍵」を、私に持たせた本書でした。
        >> 続きを読む

        2018/11/30 by KAZZ

    • 他1人がレビュー登録、 16人が本棚登録しています
      蓼喰う虫
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! april Tukiwami
      • wikiに「愛情の冷めた夫婦を軸に理想の女性美の追求を描いている。」と紹介されています。

        本書が理想の女性美の追求をしていたとは、私は全く思いませんでした。

        ひなびた地方の人形浄瑠璃の観客の雰囲気が心地よく、最後の一文の終わらせ方も良かったです。 最後の一文が唐突で、図書館へ本当に最後なのかを確認しに行ってしまいました。

        人形浄瑠璃にハマっている50代男性と、その若い妾と、娘婿の3人の人形浄瑠璃鑑賞旅行の話です。この人間関係で旅行とは一体どのようなものになるのかと、興味津々です。これだけでも素晴らしいなと思いました。

        あの人形浄瑠璃の雰囲気と3人の人間関係が混ぜ合わさった時の空気と、最後の場面を表現したくて書かれた本なのかと思いました。

        読んでいると、小屋の老若男女の賑わいや、弁当の香り、夏の日差しがありありと思い浮かび、私も当地へ飛んで行る気分でした。

        とても良かった。また読み直したいです。
        たまたま病院の待合室にあって10回通って読み終えた本でしたが、この後、谷崎潤一郎をランダムに色々と図書館で借りて読むようになりました。

        そしていつか人形浄瑠璃を見てみたいです。
        あの弁当持参のパティション付き小屋やゴザを敷いたりするものが現在はもう無いのが残念です。
        >> 続きを読む

        2019/01/21 by april

    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      鍵
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 1月28日に行こうと思っている文芸漫談のお題が「鍵」なので読んでみました。
        谷崎潤一郎は「春琴抄」と「細雪」を映画で観たことがあるだけで、小説を読むのは初めて。
        わ、わー!なんと、これ、官能小説!?
        と、のけぞりながら読み終えました。

        大学教授という地位も名誉もある夫と、貞淑な妻。
        お互いに盗み読まれているかもしれないというスリルを感じながら、日記を書き鍵をかける。

        さてさて、この夫婦のなんともアブノーマルなお話を、いとうせいこうさんと奥泉光さんが、どんな風に読み解いてくれるのか、楽しみです(*^_^*)




        >> 続きを読む

        2017/01/13 by shikamaru

      • コメント 6件
    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      陰翳礼讃
      5.0
      いいね!
      • 谷崎はやっぱり美文家ですね。惚れ惚れする文章。
        これは中公文庫版で、西洋と東洋を比較した以下の6つの随筆が入っています。

        『陰翳礼讃』
        『懶惰の説』
        『恋愛及び色情』
        『客ぎらい』
        『旅のいろいろ』
        『厠のいろいろ』

        言わずと知れた表題作と、客ぎらい以外は初読でした。
        興味深かったのは『恋愛及び色情』で、日本においては恋愛小説の地位が低いという指摘。あぁー、確かになぁ、と。個人的には恋愛小説には感情の機微がぎゅうぎゅう詰まっていてとても好きなのですが、日本では娯楽小説や女子供が読むものって感じで、大の大人が、しかも日本男児が読むものではないと思われているというのは、ちょっと感じます。歴史小説とかに含まれた恋愛部分を楽しんでいるかもしれませんが、いわゆる純文学でも自己とは何か、とかそういう視点できても、恋愛そのものを扱うと直木賞候補って感じになっているような。

        『厠のいろいろ』も面白かったです。ぼっとん便所から水洗便所への過渡期を生きた著者の厠談義。TOTOという会社が日本に生まれたことは必然だったのでしょうね。。

        折に触れ読み返したいです。
        >> 続きを読む

        2017/09/02 by ワルツ

    • 他1人がレビュー登録、 12人が本棚登録しています
      幼少時代
      4.0
      いいね!
      • 明治がどのような生活をしていたのか、どのような日本だったのかをリアルに知ることができた気がする。

        谷崎の小説はまだ読んだことがなく、人から聞くにはよく変態だというが、この幼少時代を読む限りは特に変態だとは思わなかった。

        私は歌舞伎を見に行くのが好きで、この本にも歌舞伎の話がたくさん出ているので理解できたのがうれしかった。

        教養とは時代を超えて共有できるものだと思った。

        それにしても昔の文豪など、奇跡や廻るめくして文豪になった人が多いこと。
        谷崎もその一人で、決して裕福で学のある家庭で育っているわけではないということ。
        谷崎の小説を読んでみたいと思った。
        >> 続きを読む

        2016/05/22 by snoopo

    • 1人が本棚登録しています
      谷崎潤一郎マゾヒズム小説集
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • 「没後50年に伴い谷崎潤一郎氏の版権が切れる」
         去年の暮れのニュースです。

         谷崎潤一郎? もちろん名前くらいは知っておりますとも。昭和の文豪でしょ。でも、読んだことはありませんね。なんだかとっつきにくくて。なにせ文豪というくらいなので。

        ……という具合に当初は敬遠ぎみでした。しかし、谷崎氏の作品について少し調べてみた後、嬉々として飛びつきましたね。ナゼって、非常にアウトな匂いがしたからです笑

         内容云々はとりあえず脇に置いておいて、とにかく文章が巧いです。特に「魔術師」では、語り手が表現をこねくり回したような言葉で長々と話しているにも関わらず、リズミカルで読みやすい。まさに言葉の「魔術師」でした。それぞれの短編で書き方が違うのも見所です。

         収録作はどれも背徳的な香りを孕んでいますが、「マゾヒズム小説集」というには少しタイトル負けしている感が否めません。解説でみうらじゅうさんが書いておられるように、谷崎文学がそこに至る前の「萌芽」というのが正しいかと思います。
         表紙絵は中村佑介さんで、人目をはばかると同時に人心を惹き付ける書籍となっていますが、ちょっと狙いすぎかなとも思えます。

         これから代表作を読んでいこうという場合には、良い導入になる一冊です。
         ちなみに、『春琴抄』はもう青空文庫で読めます。
        >> 続きを読む

        2016/01/16 by あさ・くら

    • 6人が本棚登録しています
      春琴抄・吉野葛
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 『春琴抄・吉野葛』(谷崎潤一郎) <中公文庫> 読了です。

        谷崎というと「美しい文章」というイメージがありましたが、私には「素直な文章」という印象を受けました。
        全くどこにも引っかかりがなく、ごく自然に読んでいけるのです。

        しかし、これが当たり前のことだと思ってはいけません。

        「春琴抄」は作者、春琴伝、てる女という三つの視点、「吉野葛」は現在の吉野、伝説の吉野、津村の母の思い出、津村の最初の吉野行の四つの次元が、ときにはそれぞれに、ときには絡み合い混濁し、実際は非常に複雑な構成、文体でできているのです。
        それを「全くどこにも引っかかりがなく、ごく自然に読んでいける」のは神業と言っても過言ではないと思います。
        それを現実にできる彼のような人を「天才」と言うのではないでしょうか。
        # 今更私がそう表現するのは陳腐極まりないのですが……。

        「春琴抄」では、あらゆることが非常に詳細な描写で綴られていますが、一つ、春琴の妊娠、ということについては、その結果しか述べられていません。
        一体春琴と佐助とはどのように結ばれていたのか、そこだけは欠け落ちてしまっていて、読者の想像に任されています。
        そんなところも「うまいなあ」と唸らざるを得ません。

        谷崎潤一郎も先物買いで、中公文庫から出ている小説はあらかじめ全て購入してしまったのですが、この作品を読む限り、安心して楽しむことができそうです。
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        2015/08/01 by IKUNO

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      瘋癲老人日記
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね! Tukiwami
      • 文章はカタカナであるが意外と慣れると大丈夫。一番印象に残っている作品(挿絵もgood)。「鍵」もお薦めです。 >> 続きを読む

        2019/01/13 by Mura_P

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      卍
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 『卍』(谷崎潤一郎)<中公文庫> 読了。

        文豪谷崎潤一郎が書いたレズビアン小説として名高いが、そういう興味からはいってしまうとすぐに飽きてしまうだろう。
        そういうシーンが無いではないが、直接的な表現はほぼ無いし、あったとしても軽い内容だし、回数も少ない。
        そもそも、レズビアンの設定が必要だったのか、という気さえしてくる。
        (もちろん、最後まで読むとその効果がはっきり分かるのだが)

        この事件が不幸な結末を迎えることは早々に仄めかされる。
        読み進めると新たな登場人物が現れ、次々に新たな事実が提示されるが、しかしその事実も何が嘘で何が本当なのか、どんどんわからなくなっていく。
        もちろん、どんな不幸な結末を迎えるのかも想像できない。

        全文がこの事件の当事者である園子の独白だけで語られている。
        園子の激しやすい性格を打ち出しながらも、どこも余すことなく秩序だって状況が説明される。
        他の登場人物たちの会話も違和感がないし、人物描写にも実にいきいきしている。
        この小説のような複雑な構造を、独白だけで綻びなく作り上げてしまう技量は、さすが谷崎潤一郎と思わせられる。

        常識的な世界から少しずれた世界の描写は、どこか江國香織の作品を想起させた。
        しかし、谷崎潤一郎は全く手を緩めることはしない。
        常識の世界までもをこの異常な世界に引きずり込み、やがてすべてが地獄のような世界だけになってしまう。

        読んでいて、とても沈鬱な気分になった。
        この沈鬱さに打ち勝つ自信のある読者だけが読むべき作品だと思う。


        ※ 以下、内容に触れます。また、性的な表現があります。
        ※ 嫌な方は読まないでください。


        性的不能者にもかかわらずプロの女性をも虜にしてしまうという綿貫のテクニックを身に着けた光子と園子との間には、どんな行為が行われていたのだろう。
        それは読み進めていけばだれもが思うところだが、それよりも気になるのは、孝太郎のことだ。
        孝太郎はたった一度だけ光子と接しただけで、光子に絡め取られてしまった。
        男をたった一度だけで破滅へと突き進めさせてしまうそのテクニックは、一体どこで身につけたものだろうか。
        まだ二十三歳だった彼女は、一体どのような人生を送っていたのだろうか。

        登場人物の中で唯一正常な世界の住人であった孝太郎がこの世界に落ち込んだことで、この物語の陰鬱な終結を迎える。

        最後の悪夢のような三ヶ月。
        その日々は園子、孝太郎、光子が三人で一緒に過ごしていたはずだ。
        一体、三人の間ではどのようなことが行われていたのだろう。
        「今日死ぬか、明日死ぬか」と思いながら生きていたあの日々、薬で衰弱しているために燃えるような感覚を与えられなければ満足できなかったあの日々。
        そして、最後の日に、光子を観音として描いた絵を飾り付け、その前で死を図る。

        谷崎潤一郎は『春琴抄』『吉野葛』を読んだだけだが、こんなに陰鬱な作品ではなかった。
        谷崎潤一郎は先行買いして大量に積読してあるが、この先読み続けられるのか、ちょっと心配になってきた。
        読み続けた先には孝太郎のような終末が待っていないだろうか。
        >> 続きを読む

        2019/03/16 by IKUNO

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      痴人の愛
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • "耽美主義の作家谷崎潤一郎の観念が生み出した魔性の女ナオミ"

        作家の三島由紀夫は彼の著書「作家論」の中で、谷崎潤一郎の耽美主義的傾向の一連の作品、「痴人の愛」のマゾヒズム、「卍」のレスビアニズム、「秘密」のトランスフェティシズム、「金色の死」のナルシシズムなどについて、『氏の小説作品は、何よりもまず、美味しいのである。支那料理のように、フランス料理のように、凝りに凝った調理の上に、手間と時間を惜しまずに作ったソースがかかっており、ふだんは食卓に上らない珍奇な材料が賞味され、栄養も豊富で、人を陶酔と恍惚の果てのニルヴァナへ誘い込み、生の喜びと生の憂鬱、活力と頽廃とを同時に提供し、しかも大根のところで、大生活人としての常識の根柢をおびやかさない。氏がどんなことを書いても、人に鼻をつまませる成行にはならなかった。』と語っています。

        私はこの三島の谷崎論の中で語られている、"陶酔と恍惚"と、"生の喜びと生の憂鬱"と、"活力と頽廃"という言葉が、谷崎の一連の耽美主義的傾向の作品のキーワードになるのではないかと思っています。

        『私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私たち夫婦の間柄について、できるだけ正直に、ざっくばらんに、ありのままの事実を書いて見ようと思います。それは私自身にとって忘れがたい貴い記録であると同時に、おそらくは読者諸君にとっても、きっと何かの参考資料となるにちがいない。殊に、この頃のように、日本もだんだん国際的に顔が広くなって来て、内地人と外国人とが盛んに交際する。いろんな主義やら思想やらが入ってくる。男は勿論女もどしどしハイカラになる、というような時勢になってくると、今まではあまり類例のなかった私たちの如き夫婦関係も、追い追い諸方に生じるだろうと思われますから。------』

        主人公の"私"が、このように語り出すところから、この小説「痴人の愛」は始まります。この長編小説の全体が、主人公である"私"が語る話という形態をとっています。

        主人公の名前は河合譲治、月給百五十円をもらっている電気会社の技師で、当時28歳の青年です。質素で堅実で真面目な、田舎育ちの純朴な青年です。今まで異性との交際など、全く経験がなく、趣味といえば"活動写真"を見るくらいの、そんな堅物の男の前に浅草のカフェーの女給見習いだった、数え年15のナオミが現われるという事になります。この主人公が自分の懺悔話を語っている現在から、8年前の事です。

        顔だちが、アメリカの映画女優のメリー・ピクフォードに似ていて、日本人離れのしたところが、気にいったと言うのです。彼はこのナオミを引き取って、西洋人の前に出しても、肉体的な魅力において、ひけをとらないような、自分の好みの女性に仕立てあげる事に熱中していきます。

        増村保造監督の映画「痴人の愛」でも、主人公の譲治とナオミとの関係を象徴的に表す場面として表現された事でも有名な、自分が馬になり、ナオミを背中に乗せて部屋の中をはい回るような狂態もしでかすようになります。

        譲治のあらゆる計画を凝らした刺激によって、ナオミは自分の中にある"娼婦性"に目覚め、見る見る、その肉体というものが、妖しい魅力を発散するようになり、彼女自身もまた、マントの下に一糸もまとわないというような奔放で大胆な行動に出るようになります。

        譲治はナオミの肉体の魔性の魅力に酔いしれ、彼女の淫靡な支配に甘んじてしまう事に無上の喜びを感じるようになっていくのです。

        この二人の関係を描写する谷崎の筆は、甘美的でもあり、優美でもあり、とにかく谷崎の美意識、美学が見事な文体を駆使して表現されていて、その官能美の世界に魅了されてしまいます。

        やがて彼らは夫婦になりますが、ナオミはその"娼婦性"の赴くままに、次々と他の男と関係が出来て、譲治を悩ますようになって来ます。そして、彼はナオミと別れようと努めるのですが、その魅力の呪縛から逃れようがなく、屈辱的とも言える同棲を続け、親から送ってもらった遺産を、ナオミの好みの生活に注ぎ込み、その"娼婦的な生活"の保護者としての役割に、むしろ"生き甲斐"というものを自分の心の中に見い出すようになっていきます。

        この自虐的で自嘲的な譲治のナオミに対する、精神の在り様、関係性を、谷崎は心憎いほどの精緻な人間凝視の眼で、華麗で絢爛たる筆致で描きつくして見事というしかありません。

        『これを読んで、馬鹿々々しいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、いい見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。ナオミは今年二十三で、私は三十六になります』

        こういう主人公"私"の告白で、この小説は終わっています。

        女が一たび、自分の持つ魔性の性的魅力を自覚するにつれて、男に対して支配する力を発揮し、男はそれに屈辱的に甘んじるしかなく、場合によっては、男を"破滅"まで追い込んでいきかねません------。

        考えてみれば、このような男女のある意味、倒錯した関係は、谷崎が
        処女作の「刺青」以来、好んで描いて来たテーマでもあり、その後の名作「春琴抄」の春琴と佐助にも相通じるものがあるような気がします。

        人間というものは、いくら高尚ぶったところで、性の荒々しい暴力の前では、引きずり回される存在だという"観念"は、谷崎潤一郎という作家にとっては、彼の"作家的な美意識、美学の核"をなすもので、彼の作品の大部分は、この"観念"から生み出されたものだと思います。

        何故ならば、この事は主人公の譲治を、わざわざ、生真面目な堅物にしている事からも明らかだと思います。世之介のような、生まれながらの好色な男とは全く違います。そして、女の魔性の妖しいまでの性的魅力に溺れ、その屈辱的な犠牲になりながら、むしろそれを男の何物にも代えがたい"幸福"と考えているところに、この谷崎という作家の本質があるのだと思います。

        つまり、"ナオミ"という妖しいまでの魔性の性的魅力を持つ女を創り出したのは、あくまでも作家・谷崎潤一郎の"観念の産物"なのです。

        そして、人間というものは、性の荒々しい暴力に無残に引きずり回されている存在にすぎないという"観念"を、もっと徹底的に追求し、展開し、実験的な作品として完成したのが、「卍」という作品だと思います。

        三島由紀夫が言うところの女性のレスビアニズムを、当事者のひとりである、大阪生まれの女性が告白するという形態の小説ですが、この小説には谷崎潤一郎の人間存在についての"観念"が、異常ともいえる状況の中で、更にもっと深化して徹底的に描かれていると思います。
        >> 続きを読む

        2016/04/04 by dreamer

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      夢の浮橋
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      •  日本でもっとも偉大な小説家は谷崎潤一郎だろう。人気があるのは漱石で間違いないが、谷崎の作品の質には及ぶまい。『細雪』だけならまだしも、『蘆刈』、『卍』、『猫と庄造と二人のおんな』、『吉野葛』、『少将滋幹の母』等、読める作品を挙げるだけでも切りがない。これに『陰翳礼讃』や『文章読本』など、高級な文明批評や作文指南書が加わる。しかも、実人生がけっこう充実していた。三人も奥さんをもらったりして女性関係には恵まれていたし、三人めはあの松子夫人ですからね~。うらやまけしからん。これだけ褒めれば十分でしょ、きょうは谷崎をこき下ろしてみます。
         なんだこのマザコン野郎、ってみんな思いません? 少なくとも、わたしはそう思っていました。『夢の浮橋』を取り上げたのは、じつをいうとマザコンについて話したいからで、というより、谷崎を罵った手前打ち明けにくいが、わたしはもちろん男はみんなマザコンだと、このごろ考えるようになったからだ。
         わたしの場合は谷崎とは反対で、母親があまり好きではなかった、いや、むしろ嫌いだった。そして、そのことが自分の性的嗜好につよい影響を与えた事実をこの小説が教えてくれた。こういう反発もおそらくマザコンでしょう。いや~、母親について語るのはむつかしいし、恥ずかしいなあ~。こんな話題を藝術の高みまで昇華させた谷崎は、やはり本物の藝術家の一人にとどまらず、誰からの謗りも受けない生粋のマザコン野郎だ。
        >> 続きを読む

        2015/03/24 by 素頓狂

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      ちくま日本文学全集
      カテゴリー:作品集
      4.0
      いいね! Tukiwami
      • ちくま日本文学全集007

        2017/10/27 by Raven

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【谷崎潤一郎】(タニザキジュンイチロウ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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