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脇功

著者情報
著者名:脇功
わきいさお
ワキイサオ
生年~没年:1936~

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このランキングは1日1回更新されます。
      タタール人の砂漠
      カテゴリー:小説、物語
      3.4
      いいね! Tukiwami
      • 【時に絡め取られる】
         主人公ジョヴァンニ・ドローゴは、士官学校を卒業してすぐにヴァツティアーニ砦への赴任を命ぜられました。
         この砦は国境を守備する砦ということで、(以前は)この砦で勤務するということは大変名誉なこととされていたということもあり、勇んで赴任したものの、砦の周囲には何もなく、至って淋しい場所でした。

         着任早々音を上げてしまい、上官にさっそく転任を申し出たのですが、4ヶ月後に軍医の健康診断があるので、その際に軍医に頼んで病気だということにしてもらうのが一番良いと言われ、そうして欲しいと願い出たのでした。

         ところで、この砦の北方には広大な砂漠が広がっており、その砂漠にはタタール人がいて、いつか砦を攻めてくるという話がまことしやかに囁かれているのですが、それにしては何も起こりませんし、過去にも何も起きてはいないようなのです。

         ドローゴは、こんなさびれたところで任期の2年間を過ごすなんてとても耐えられないと考えるのですが、すでに何十年もこの砦に勤務し続けている上官もいるのですね。
         そして、ドローゴも、いつしか変わり映えのしない砦の生活に埋もれていくのでした。

         待ちに待ったはずの4ヶ月目の健康診断の日が来ました。医師は上官から話を聞いているようで、事情を承知しており、すぐに病気の診断書を書いてくれました。
         ところが……ドローゴは何故か砦を去りがたい気持ちに襲われてしまい、その診断書を破棄してくれと軍医に頼んでしまったのです。ええ、まだしばらくは砦にいようと決意してしまったのです。

         しかし、その後も砦に攻め込んでくるというタタール人などまるで見あたらない毎日が続きます。
         しかし、ドローゴは、「俺はまだ若いんだ。この砦にあとしばらくいたところでまだまだ先はある。」などと考え、まるで時間に絡め取られるように砦での生活にしがみつくようになっていくのです。
         たまに休暇で生まれ故郷に戻ることがあっても、そこではすでにドローゴは浮いた存在になってしまっており、そそくさと砦に戻ってくるようになってしまいました。
         そして、いつか必ずタタール人が攻めて来るに違いないので、その時は軍人として活躍するのだと固く信じるようにもなっていくのでした。

         出だしの粗筋はこんな感じの物語なのですが、日々繰り返される砦での単調な生活に時間の感覚がどんどん麻痺していき、自分にはまだまだ先があると思い込んでいるものの、その思いよりも速く時は流れ去っていくのでした。
         また、いるのかどうかすら分からないタタール人との戦闘を固く信じるようになっていく経緯にはうすら寒いものすら覚えます。
         確かに、「すわ!攻撃か?」と思われるような事態も、この後起きないではないのですが……

         この「タタール人の砂漠」が刊行されたのは、イタリアが終戦を迎えて間もない時期だったそうですが、当時のイタリア人達は、記憶に生々しい戦争を描いたような作品を好み、この「タタール人の砂漠」のようにいつまで経っても何も起こらないような小説は「現実不参加」の小説だとしてあまり評価はしなかったのだそうです。
         しかし、その後徐々に評価が高まり、今では世界的に著名な作品になっていることはご承知のとおり。

         ある面では、カフカの不条理な小説のようでもあります。
         あるいは、非常に寓意的な作品とも言えますし、幻想的な作品と言うこともできるでしょう(その意味では、同じイタリアのイタロ・カルヴィーノを彷彿とさせるところもあるかもしれません)。
         また、私が一つ思い浮かべたのは、ジュリアン・グラックの「シルトの岸辺」という作品でした。この作品も戦争なんて起こり得ないような海辺の基地を舞台にしているのですね(その後の展開は本作とはまた違うのですが)。

         大変不思議な魅力をたたえた作品ではないでしょうか。
        >> 続きを読む

        2019/06/08 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 7人が本棚登録しています
      七人の使者・神を見た犬 他十三篇 他十三篇
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【大変上手な短編集です】
         手練れのブッツァーティによる、上質で非常に巧い短編集です。
         収録作からいくつかご紹介。

        ○ 七人の使者
        父の治める王国を踏査するために、従者と7人の使者を連れて旅に出た王子の物語。
         王子は国境を目指して旅を続けているのですが、どこまで行っても一向に国境に到達しません。もう8年と6か月と15日も旅を続けているというのに。
         王子は、連絡のため7人の使者を準備しており、一人ずつ都へ送り出していましたが、王子が進むに連れて徐々に使者が戻ってくるまでの時間がかかるようになっていきます。
         使者が王子の居場所を出て都に到達し、再び王子の進んだ場所まで戻ってくるのに、概ね、王子が旅を続けた日数の5倍の日数がかかることが分かってきました。
         ある日、王子は、「明日が使者を送る最後の朝になるだろう」と考えます。
         だって、その使者が王子のもとに戻ってくるまでおそらく34年がかかる計算になるのだから。
         その次の使者を派遣したとしても、自分が生きている間に戻ってくることは不可能だろうから、明日が最後の使者になるのだと。
         そして、国境などどこにもないのかもしれない……と思うのでした。

        ○ 七階
         ちょっとした軽い症状を覚えたジョゼッペは、有名な病院に入院することになりました。
         その病院は変わったシステムを導入しており、症状の軽い順に七階の病室から入院させられるのです。
         七階の入院患者など、ほとんど健康体と同じ程度の者たちなのですが、階を下るに連れて徐々に症状の重い患者が入院しており、一階の入院患者はもはや死を待つのみ、手のほどこしようが無いような患者だというのです。
         ジュゼッペは、検査の結果七階に入院することになりました。
         そりゃそうだ。大した症状でもないのだし、ちょっと熱が出るけれど数日で退院できるだろう。
         数日後、看護婦がジュゼッペの下にやってきます。そして、七階に親子連れの入院患者が入ってくるのだけれど、生憎七階の病室が埋まっているので、便宜的に六階に移動して欲しいというのです。
         いささか嫌な感じがしましたが、別に病状が重いために下の階に移動するわけでもないのだし、病室が空いたらまた七階に戻るというのだから……と思い了承しました。
         六階も快適な病室でしたが、ある日、医師から、あなたの症状は大変軽いので七階に入院してもらっても一向に構わないのですが、症状がやや広く出ているので効果的な治療をするために五階に移動してはどうでしょう?と持ちかけられるのです。
         そして五階に行くと……

        ○ 神を見た犬
         パン屋のデフェンデンテはふざけた遺言に頭を悩ましていました。遺産を相続するためには毎日5キロのパンを焼いて貧しい者達に無料で配らなければならないというのです。
         こんな馬鹿げた遺言を実行するくらいならいっそのこと遺産を放棄してしまおうかとも思ったのですが、とは言えパン屋を続けなければならないし……
         ということで、デフェンデンテは遺言どおり無料でパンを配り始めました。
         村の人々は「お偉いこった」などと揶揄して笑っています。
         ある朝、一匹の犬がやって来て、貧しい者達にまぎれてパンを一つ持っていってしまったのです。
         これを見た村人達は大喜び。「おいおい、今度は犬にまでパンをくれてやり始めたぜ」と。
         デフェンデンテはからかわれるのが恥ずかしくて仕方がありません。
        ある日、一体どこの犬か確かめるために犬の後を自転車でつけてみたのです。
         そうしたところ、犬は山の上に座っている隠者の下へパンを届けていると分かりました。
         この犬は隠者と暮らしている……。きっと神を見たのだ、と村人達の間で評判になりました。
         それからというもの、村人達はこの犬を見かけると気まずい思いにかられるようになりました。
         いつものような罵詈雑言を言おうとすると犬に見つめられていることに気づき、つい言葉を慎んでしまいます。
         今まで自堕落な生活をしていた村人達は、犬が現れると己の行いを正すようになったのです。それはあくまでも後ろめたさから。
         しかし、誰もが犬のせいで行いを改めたなどと認めたくはないのです。
         いっそのことあんな犬なんていなくなっちまえば良いのに。
         しかし、山の隠者が亡くなった後も、犬は村に現れ、盗みをしようとしている者をじっと見つめたり、不品行な行いをしようとしていると必ずそこに現れたりし続けたのです。
         もはや村には悪い行いは一切見られなくなっていきました。

        ○ なにかが起こった
         列車は北へ向かって驀進し続けていました。
         もう10時間以上も快調に進み続けています。
         しかし、車外の様子が徐々におかしくなっていくことに気づきました。
         列車に向かって手を振る者、大声で何かを叫んでいる者、深刻な顔つきで列車を眺めている者。
         どれもほんの一瞬見えるだけですし、声も爆音にかき消されて届きません。
         何か不安を感じるけれど、一体なんだというのでしょう。
         しかし、車外の様子はより深刻になっていきます。
         誰もが荷造りをしているようではありませんか。
         そして、段々、南に向かって移動する多くの人たちが見え始めました。
         もはや人々は列をなして南に向かっていました。
         南行きの列車とすれ違いましたが、どの列車もすし詰め状態なのです。
         通過する駅にの南行きプラットホームには沢山の人々が待っており、誰もが驚いたような顔をして私達の列車を見ているのです。
         北で何かが起きている!
         しかし、列車は特急便で、終着駅まであと5時間どこにも止まらないのです。
        >> 続きを読む

        2019/07/22 by ef177

    • 1人が本棚登録しています

【脇功】(ワキイサオ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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