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吉村昭

著者情報
著者名:吉村昭
よしむらあきら
ヨシムラアキラ
生年~没年:1927~2006

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      羆嵐
      3.9
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      • 日本獣害史上最悪の惨事となった大正15年の三毛別羆事件を描いたドキュメンタリー。

        北海道の開拓村を襲った惨劇、羆の襲撃により二日間で6人の命が奪われる。

        羆の恐ろしさは、それが喰らった人々の遺体の描写に表れている。
        淡々語られるその様子は、これが本当にあった事件であると言う事を考えると身の毛もよだつ恐ろしさを感じる。

        この事件で、後半中心となる人物は猟師の銀次郎であろう。
        彼は、普段の素行から村人より忌み嫌われる存在であるが、この事件のさなか、人々が恐怖から冷静な行動がとれなくなっている中で唯一冷戦沈着に行動し、熊を追跡し最後にはこれを仕留める。
        人間というものは、本当に一面だけで判断できないものであり、簡単なステレオタイプ的なものに置き換えれないものであると感じる。
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        2018/01/02 by くにやん

    • 他4人がレビュー登録、 13人が本棚登録しています
      高熱隧道
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      •  黒部第3発電所建設工事に関連した隧道(トンネル)工事を題材にした すさまじい小説でした。
        ただ、「黒部の太陽」の題材となった工事とは別物です。(「黒部の太陽」は、この16年後の第4発電所建設の際の話です)

         土木工事には死亡事故がつきものの時代においても類を見ないほどの被害者を出した超難工事。
        自然の猛威を突きつけてくる冬の黒部渓谷に陣取り、きいたこともない想像を絶する破壊力を持つ雪崩などを耐え忍び、岩盤温度160℃を超える温泉地帯を掘りぬいた男たちの闘いの記録です。

         入念に取材し著者の中で書きたいものが熟成された結果の産物なのでしょう。かなり具体的な工事風景の描写、登場人物たちの心の機微をえがく筆力は見事です。

         とくに、工事の指揮をとる側の人間たちの心理描写は筆者のひとつの大きなテーマだったのでしょう。工夫らの死に対する想いと工事完成への責任感との葛藤。また、貫通の際の昂ぶり。
        なかなかに迫ってくるものがありました。
        >> 続きを読む

        2015/02/01 by kengo

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      敵討
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      • 江戸時代の末期から明治にかけて実際にあった仇討ち事件を題材に二つの話が描かれる。


        一つ目は『護持院ケ原の敵討』を題材とた敵討。そこには仇討ちの現実がみえる。時に美談として語られることもある仇討ちだが、成功するのはごくわずか。多くの場合が逃げる相手を見つけ出すことすらできないで終わる。費やした時間と労力、金により自らの身が滅ぶこともある。


        二つ目は日本史上、最後の仇討ち事件『臼井六郎事件』を題材とした最後の仇討ち。時はまさに幕末、その動乱に巻き込まれるように暗殺された父の仇討ちを誓った少年。しかし時代は変わり武士の美徳とされた仇討ちは禁止されていた。仇討ちは美徳か殺人か。彼もまた時代の波に翻弄された一人だった。


        私としては最後の仇討ちが良かった。時代の変わり目に仇討ちという行為そのものの是非が問われる。これも維新の中で生まれた歪みというか、陰の部分だと思う。
        >> 続きを読む

        2016/03/09 by TAK

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      海も暮れきる
      4.0
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      • 吉村昭さんのものした「海も暮れきる」を読みました。この中篇小説は、明治・大正期を生きた奇行の俳人、尾崎放哉(おざき・ほうさい)の、小豆島(しょうどしま)での最期の8ヶ月を綴ったものです。

         尾崎放哉は、つとに俳句の才能を示していましたが、東京帝国大学法学部を卒業し、東洋生命保険会社の東京本社契約課長になりました。でも彼は酒癖が悪く、朝から深酒をするは、酒席で飲み相手に執拗な絡み方をするは、で、会社を首になってしまいます。そして拾われた太陽生命保険会社でもおなじ失敗をして首になります。そして最愛の妻・馨(かおる)とも別れ、ひとり孤独なわび住まいを求めるに至ります。そこで、彼が行き着いたのが、瀬戸内海に浮かぶ小豆島でした。

         尾崎放哉の酒癖は、飲んで暴力を振るうという体のものではなく、相手を執拗に詰問する、罵倒するという感じの酒乱でした。そしてこれは本人も認めていた「悪徳」でした。

         「俳句仲間」のもつ親和性というべきものがあるのかも知れませんが、尾崎放哉にとっても、小豆島を探してくれたのは師でもある荻原井泉水(おぎわら・せいせんすい)で、島に受け入れてくれた井上一二も、井泉水が主宰する自由律俳句誌「層雲」の同人でした。自由律俳句とは、河東碧梧桐が初めて提唱した、「5・7・5の定型によらず、季語もなし」・・・といった感じの俳句のことです。


        @ここまで来てしまって急な手紙を書いてゐる


        これは、尾崎放哉が島についたころ書いた句です。そうとう変格な句ですよね。

        さて、尾崎放哉には死に繋がる持病がありました。それは当時ガンより恐れられていた肺病(結核)です。島に来た際にはかなり病状が悪化していました。自分を養うにも、働く体力がない・・・そこで周囲の人びととか同人たちには、物品、お金の無心をしないわけにはいきませんでした。

         庵も決まりました。西光寺の別庵・南郷庵(みなんごうあん)でした。住職の好意によるものでした。

         神経質になっていた尾崎放哉は、一時期、彼ら支援者の善意を疑いますが、しばらくしてそれが自分の僻み(ひがみ)によるものであることに気付き、以降は彼らの善意を疑わなくなります。

         こんな環境で、尾崎放哉は彼の代表作のような句をひねり出しています。


        @咳をしても ひとり


        @墓のうらに 廻る


        @ なんと丸い月が出たよ 窓


        特に、「咳」の句がスゴイですね。尾崎放哉は、親族とも縁を切った気でいて、自分が死んでも、親族に連絡することを拒みました。自分の周りには誰一人いない・・・という叫びたくなるほどの恐怖。それを、巧みに表現しています。もっとも、身の回りの世話をよくやってくれた、シゲさんというおばさんがいましたが。

         島に着いた当初、食べるものといえば「小麦粉を水で練ったもの」と梅干・・・といった食生活をしていたので、体力は眼に見えて落ちていきます。肉、卵などの滋養のある食べ物も譲ってもらいますが、彼のからだは次第に、粥(かゆ)くらいしか食べられなくなり、下痢と強固な便秘に交互に悩まされるようになります。

        ・・・・・・・・・・・・
        四日前から便秘していたが、赤めしと汁粉を食べたので腹が強く張り、厠に這って行って力んでみても便は出ない。そのうちに、遂に腸が肛門の外に出てしまい、それを紙で押しもどそうとしても入らず、血が流れはじめた。かれは、下剤のしゃり塩を服用し、ふとんの上で突っ伏して呻きつづけた。冷汗が全身に流れ、ふとんをかたくつかんでいた。
        ・・・・・・・・・・・・・
         しかも、喉頭結核になったのか、お粥さえ喉を通らなくなってしまいます・・・立ち上がることも出来ません。声もまともに出ません。彼は死にます。42歳の若さでした。馨は死を看取りに来てくれたそうです。大正15年のことでした。

        現在、南郷庵には


        @いれものがない 両手でうける


        という井泉水の筆になる句碑が立っているそうです。

        今日のひと言:吉村昭さんも、結核を患った経験があり、それを縁に感じて尾崎放哉の評伝を書く気になったそうです。症状が出たら、きついんでしょうね、結核。

        読んだ本:「海も暮れきる」吉村昭:講談社:1980年初版
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        2012/08/31 by iirei

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      落日の宴 勘定奉行川路聖謨
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 今回読了した幕末ものの歴史小説は、吉村昭の「落日の宴 勘定奉行川路聖謨」。

        吉村昭は、埋もれた歴史を掘り起こした多くの歴史小説を書いているが、この作品は、そうした吉村昭の魅力が横溢した傑作だと思う。

        幕末の外交史は、1853年のペリー来航によって始まるというのが、一般的な歴史認識だと思う。しかし、現実の歴史はそのように明確に区分されるものではない。じわじわと迫り来る外国の影。

        ペリー来航時には、開国の機は熟していたとも言える。そして、開国による急激な変化。この作品は、その時代に生き、消えていったひとりの人間の物語だ。

        この作品の主人公の川路聖謨は、ペリー来航直後に開国を求めて長崎へ入港したロシア使節プチャーチンとの交渉役のひとりだった。幕末といえば、西郷隆盛や坂本龍馬などの有名人を主人公にした小説が圧倒的に多いが、川路のような一官僚である幕臣にこそ、幕末という激動の時代が色濃く反映されると思う。

        川路は下級旗本である川路家の養子で、太平の時代なら、さしたる出世をすることもなく生涯を終えただろう。彼が、プチャーチンと交渉した当時、勘定奉行という幕臣としてはトップの地位にいたのは、家の格式にとらわれず、川路のような優秀な人材を抜擢できる時代の趨勢があったからだ。

        倒幕を推進した薩摩や長州の志士たちが、いずれも下級の武士たちだったように、幕府側も才能次第では時代の表舞台に立てたのだ。

        この作品では、川路ら幕府側の役人たちが、プチャーチンとの交渉に苦慮する様子が終始描かれている。現場の担当者は、上司にお伺いを立てないことには何も判断できない、与えられた権限以上の交渉ができないという、外交交渉における日本人の特質は、現在もこの作品に見る川路らと同じだ。

        しかし、現在の日本の外交が大国、特にアメリカに半ば「右へ倣え」なのに比べれば、川路は「ダメなものはダメ」だと、はっきりと言い放つ豪胆さを持ちあわせていたと思う。

        後に下田へ再び来航したプチャーチンとの鬼気迫る対応ぶり、地震と津波による下田の破滅、ロシア船の損傷という思わぬアクシデントに見舞われてからの日露双方の対応は、血生臭い話や英雄物語が主流を占める幕末のエピソードにはない、ほのぼのとした魅力がある。

        栄光と挫折は、幕末のような激動の時代に生きた者の宿命かもしれない。川路もまた幕臣として最高の地位に就いたが、井伊直弼が大老に就任し、安政の大獄が始まると、川路は次期将軍候補に一橋慶喜を推したため失脚。やがて、病を得て1866年、官軍の江戸入りの最中に、ピストル自殺を遂げるのだった------。

        吉村昭の筆致は、これらの物語を淡々とまるでノンフィクションを読むかのように描きながらも、読む者を虜にしていくのだ。


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        2018/03/24 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      冬の鷹
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!

      • 敬愛する作家のひとり吉村昭の「冬の鷹」を読み終えました。

        この作品は、「解体新書」の翻訳に挑んだ前野良沢と杉田玄白を扱った小説で、いつもの吉村昭らしく、実証的に丹念に取材された跡がうかがえます。

        オランダ語の習得に人生を賭けた清廉な学究派の前野良沢と、オランダ語への興味より蘭学を医術へ応用することや、その普及を目指した杉田玄白の、人生の明暗と二人の相克が丹念に綴られていきます。

        作者・吉村昭の興味は、無謀な仕事に取り組んだ彼らの激しい情熱と、処世感覚の差による、その人生のあまりの隔たりぶりを描くことにあるような気がします。

        そして、作者は徹底して学問へと沈潜した前野良沢の潔癖な生きざまに光を当てたいと考えたのではないかと思う。

        医者ものの歴史小説は、あらゆる階級の人々の生活や人情を描けるばかりでなく、文明論に深く迫ることもできると思う。
        そして、その可能性は、まだかなり多く残されているのではないかと思いますね。
        >> 続きを読む

        2018/05/29 by dreamer

    • 2人が本棚登録しています
      海の史劇
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 日本海海戦を描いた吉村昭の記録文学の傑作。

        日本海海戦と言えば司馬遼太郎の傑作小説「坂の上の雲」のクライマックスシーンとして有名である。
        私も手に汗握りながらあのシーンを読んだものである。
        それ以来日本海海戦には関心を抱いていたが、他にも同じテーマを扱った作品で良いものがあると聞いて本書にたどり着いた。

        非常に緻密な調査の上に成り立っている作品と感じた。
        これを読んでしまうと司馬さんの作品は、彼の評価している人物とそうでない人物の書き分けが極端で、小説としては面白くなるのだろうが、現実とは乖離してしまうのだろうなと思ってしまう。

        日本海海戦とは日本史だけではなく世界の海戦史においても類例を見ないほどの圧倒的な勝利であった事が理解できた。
        戦力的に不利な日本が損害において水雷艇3隻と引き換えにロシア海軍をほぼ壊滅させるという信じがたいものであったという。

        本書を読んでいるとロシア艦隊は、その長大な航海の途中、自分たちの空想の中で膨れ上がる日本海軍の脅威に終始おびえていたように思われる。
        その為に味方艦艇や他国の商船にみだりに誤射を行ってしまっている。
        いかに強大な戦力を持っていてもそれを充分に発揮できるかは扱う人間によるということが実感された。

        後、戦後日本人と言えば礼儀正しく、国難があっても暴動などが起らない自制のきいた国民性という評価が定着しているが、この本を読んでいると日露戦争の講和内容に不満の持った国民が暴動を起こしたりしている描写があり、戦前の日本人の気質と戦後のそれの違いが判り興味深かった。




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        2018/05/04 by くにやん

    • 2人が本棚登録しています
      ポ-ツマスの旗
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 本書は、日露戦争当時外務大臣であった主人公の小村寿太郎が、条約締結の全権となり、ポーツマスでロシアの全権ウィッテと互いの腹を探りあいながら条約締結にいたる日々の息詰まる交渉の進捗状況を史実を元に描き出した歴史小説です。外見的には非常に小柄で弱弱しくさえ見える小村が堂々と対応していく様は痛快でもあります。また、講和条約に反感を持った民衆暴徒の日比谷焼き討ち事件について、感情的な民衆、新聞・政治家の扇動、政府の情報開示の難しさ等考えさせられる事項が多くある好著です。 >> 続きを読む

        2011/04/25 by toshi

    • 3人が本棚登録しています
      破船
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 近代国家の道のりを歩み始める前の日本の閉鎖した貧しい漁村の物語。
        伊作というまだ年端もいかない主人公の目線で淡々と語られるその生活は、現代社会で暮らす我々には想像もできない過酷なものであるが、あたかも本当に当時の人間が語っているような自然な語り口のリアリティーにより違和感なく読者はその生活に入っていく事が可能となる。
        自然のリズムに身をゆだね、そのもたらす恵みにより細々と命をつないでゆく人々。
        生活は厳しく、身売りも普通に行われている。
        生きるための非情な選択として灯火により交易船を岩礁地帯に誘い込み座礁させ積み荷を奪うという犯罪行為を村ぐるみでおこなっている。
        これらの村の暮らしが丹念に無駄な情感を排した文体により語られる事により、物語にリアリティーを与える事に成功している。
        異なる時間と世界を体験させてくれることが小説の醍醐味と言えるのならば、まさにこの本はそれを体現しているといえる。
        >> 続きを読む

        2017/12/28 by くにやん

    • 5人が本棚登録しています
      破獄
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 米澤穂信先生の本にあった参考図書(折木ほーたろーの本棚)だったので買ってみた。
        中戦後の社会情勢を交えたドキュメンタリーかと思ったら、ほとんど事実そのままだが、一応は小説らしい。堅苦しい感じで読破に時間がかかってしまった。
        (社会という監獄で生きていく)人の一生とは何なのか、そこから脱出できて何が得られるのか、考えてみるとちょっと面白い。
        >> 続きを読む

        2018/08/17 by たい♣

    • 4人が本棚登録しています
      雪の花
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 江戸時代末期から明治にかけて福井で天然痘と戦った町医の話。

        現代の人間である私には想像できな事だが、天然痘の惨禍は凄まじいものであったらしい。
        感染した人間の1/3は死に、生き残った者にも生涯消えない痘痕を残す恐ろしい病で、種痘が広まるまでは対処方法がなかったという。

        西洋では広まりつつあり効果を上げ始めていた種痘を日本に導入することに尽力し、日本の天然痘の治療の先駆けとなった福井藩の医者笠原良策。
        人の命を救うために自分の財産もなげうって、それだけではなく命の危険すら冒す。
        そこまでの壮絶な努力をしてすら役人や医者たちの非協力的な態度、迷信に満ちた庶民たちの悪意によって思うように種痘が進まない。
        そこに至るまでの道のりは想像を絶する困難に満ちていたが、彼の志は最後に実を結ぶ。

        クライマックスのシーンはやはり種痘を施した子供とその親と共に雪中の山道を越えるシーンであろう。
        あと一歩で遭難してしまうところまで行きながら奇跡的に全員無事で生還する。

        これがフィクションでなく実際にあった事なのだと認識するたびに深い感動が沸き起こってくる。

        >> 続きを読む

        2018/05/04 by くにやん

    • 4人が本棚登録しています
      天狗争乱
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!

      • 幕末ものの歴史小説を貪るように読み耽っていますが、今回読了したのは、幕末に起きた天狗勢の争乱を、"時代に葬られた悲劇"として、迫真の筆致で描いた吉村昭の長篇歴史小説「天狗争乱」。

        「戦艦武蔵」で歴史小説に新境地を開いた吉村昭が、いつもの彼の史実を徹底的に調べ上げるという手法で、天狗勢の悲劇的な結末までを緻密に描き上げた秀作だと思う。

        このような題材は、えてして難解な資料だらけの歴史小説になりがちなのですが、吉村昭のこの作品は、文体はある時は小説になり、ある時はドキュメントと絶妙なタイミングで切り替わり、実に読みやすくまとめられていると思う。

        天狗勢とは、徳川幕府が攘夷の命令を朝廷から受けながら、なんの挙にも出ないことを憂い、1864年に水戸藩の攘夷派が筑波山で挙兵した一派のことだ。しかし、残念ながら一部の武士の暴挙のために、人々から恐れられる存在となってしまう。

        この物語が俄然、面白くなるのは、後半、水戸藩の内紛に巻き込まれて、幕府軍に追討される立場になった後だ。

        天狗勢は、それまでの混迷から脱して、純粋で非の打ちどころのない理想的な軍隊として描かれていく。この時代には考えられないほどのダイナミックな行軍が、じっくりと語られ、本当に興味深い。

        思えば、作家・吉村昭は、これまで一途な信念をもって行動してゆく人々を、数多く題材として取り上げているような気がします。

        同じくこの作品も、水戸から京都までの苦難に満ちた大行軍という題材を、一途な信念に基づく行動として敬意を込めて描き出した作品だと思う。


        >> 続きを読む

        2018/03/22 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      わたしの流儀
      3.0
      いいね!
      • 並ぶのに躊躇すると、「人の列」という文章で述べている。
        筆者は、味が良いといわれる評判のラーメン屋の前にいつも列ができていて、
        一度は味見してみたいと思ってはいるものの、若い男女が並んでいる中に
        中年の私が並ぶと、侘しい姿にみえるだろという、恥ずかしさもあるが、
        食べ物を口にするために並ぶ気にはなれないと、述べている。

        まさに、そのとおり、私の場合は、連れがいてると食べる期待に負けて
        平気だが、一人では、到底並ぶ事は、できない。

        でも、甘いものも好きな私、結構デパ地下で、ケーキとかを買ってますが、
        それからいうと、待っている時間の長さか基準ですか、
        まあ恥ずかしさに絶える時間は、3分ぐらいが限度でおますな。

        この様な、自分に置換えて、考えさせられる、お題が100以上綴られている。
        吉村昭氏が描く、ユーモアがありながら、硬派なエッセイ集。
        50才以上のおっさん、いや,おじ様に、ご推薦いたしあす。
        >> 続きを読む

        2013/05/24 by ごまめ

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      桜田門外ノ変
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね! dreamer

      • この吉村昭の歴史長編小説「桜田門外ノ変」は、襲撃時、直接の現場指揮者であった水戸藩脱藩の関鉄之介を主人公とし、他の類書を圧倒する歴史資料の踏査により、この事変の全貌を描いた傑作だと思います。

        安政四年(1857)正月二日、水戸の城下は異様な空気に包まれていた。水戸藩内の派閥抗争で劣勢になっていた元家老の結城朝道を中心とする門閥派の再起を願い、徳川斉昭を頂点とした改革派の壊滅を企てた、元奥右筆頭取の谷田部藤七郎とその実弟の大嶺荘蔵が、その日、護送されてくる予定であったからなのだ。

        そして、その護送を見物する人々の中には、後に安政七年(1860)三月三日、江戸城桜田門外において、大老井伊直弼の暗殺を指示する、水戸藩北郡務方、関鉄之介の姿があったのです。

        水戸の下級藩士の家に生まれ、水戸学の薫陶を受け、尊王攘夷思想に目覚めた関鉄之介を主人公に、日米修好通商条約締結等をめぐる幕府と水戸藩の対立から、大老井伊直弼暗殺に到る桜田門外ノ変の全貌を描いた歴史大作で、読み終えた後の充実感はもの凄く、読書をする悦びに満たされてしまいます。

        この作品の中でしばしば、水戸藩士による井伊大老襲撃が、赤穂浪士の吉良邸討ち入りに譬えられる箇所がありますが、桜田門外ノ変を引き起こした安政の大獄をめぐっての井伊大老と水戸藩との確執、あるいは、襲撃後の関鉄之介らの逃亡生活や薩摩藩の背信等が詳細に描かれている点は、作風の違いこそあれ、大佛次郎が「赤穂浪士」において、初めて、浪士たちの討ち入り前後の状況を、当時の政治・社会・文化の各方面より綿密に浮かび上がらせたことに匹敵するのではないかと思います。

        また、この事件を水戸藩側からリアルに描くことを可能にした8年にわたる作者の歴史資料の収集は、襲撃に際して五挺の短銃を提供した加藤木賞三の存在をクローズ・アップし、鉄之介捕縛の地をこれまでの説とは異なる越後国湯沢とする等の新たな発見を、この作品にもたらしているのです。

        中でも面白いのは、水戸藩と井伊大老(彦根藩)との対立の要因に、異国船の襲来をめぐる地形の相違という視点を盛り込んでいる点です。

        長い海岸線を持ち、太平洋に面している水戸藩領は、外敵が侵入してくる場合の格好の上陸地であり、しかも江戸に近い。全国でこのような条件を備えている海岸を持つ藩は水戸藩以外になく、こうした対外的な危機感が、苛酷なまでの尊王攘夷思想を生んだというわけです。

        だが、一方、海岸線を持たぬ彦根藩主であった井伊大老にとって、こうした危機感は理解の外のものであり、外国との協調を図ろうとする立場から言えば、水戸斉昭は単なる危険思想の持主でしかなかったのです。

        作者の吉村昭は、この日本史のエポック・メイキング的な事件を、常に海との関わりにおいて描いてきた作家だと思います。この作品は、海からの外圧が過激な尊王攘夷思想という一個の「狂」を生み、さらにそれが安政の大獄という今一つの「狂」となり、両者が絡み合いながら歴史の歯車を転がしていく様を描いた作品として捉えることができると思います。

        そして、作者が、桜田門外ノ変に興味を抱いたのは、この事件を機に、倒幕運動が加速され、明治維新が達成されるまでの経過と、二・二六事件によって軍部が政治を支配し、日本が第二次世界大戦に突入して敗北するまでの経過が、酷似していたからだと語っています。

        前者が8年、後者が9年と時間的にもほぼ一致しています。時代の間を自在に往還する吉村昭の筆致は、時として「歴史は繰り返す」という感慨となって私の胸に強く伝わってくるのです。


        >> 続きを読む

        2017/09/18 by dreamer

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      殉国 陸軍二等兵比嘉真一
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 記録文学。
        確かに沖縄戦で現実にあったであろう情景が、ある意味では抑揚の無いタッチで描かれています。
        英雄的な人物や、戦場の恋が出てくるでもない。
        映画化には程遠いと思います。
        それでもほぼ一気に読みきりましたし、読後に胸にせまるものがあります。
        圧倒的に「リアル」だからだと思います。
        もう少し他の作品も読んでみます。
        >> 続きを読む

        2014/08/03 by Hiropika

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      海軍乙事件
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 「海軍乙事件」「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の4編を集録。
        どれも素晴らしいが、表題作と巻末の「調査メモ」が特に心を打ちます。
        作品中の大西大隊長と福留中将。前者の「一貫して沈黙をつづけた武人ぶり」と後者の「旧海軍のエリートとしての復活」。それを綿密な取材で作品とした著者。この題材で映画が出来そう。
        しかし、著者は主観的な事は一切述べず記録文学に徹します。
        こんな武人も著者も現在の日本にはいないと思います。
        少しでも彼らを目指したいと気持ちを新たに。
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        2014/08/13 by Hiropika

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【吉村昭】(ヨシムラアキラ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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