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吉村昭

著者情報
著者名:吉村昭
よしむらあきら
ヨシムラアキラ
生年~没年:1927~2006

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      羆嵐
      3.9
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      • 日本獣害史上最悪の惨事となった大正15年の三毛別羆事件を描いたドキュメンタリー。

        北海道の開拓村を襲った惨劇、羆の襲撃により二日間で6人の命が奪われる。

        羆の恐ろしさは、それが喰らった人々の遺体の描写に表れている。
        淡々語られるその様子は、これが本当にあった事件であると言う事を考えると身の毛もよだつ恐ろしさを感じる。

        この事件で、後半中心となる人物は猟師の銀次郎であろう。
        彼は、普段の素行から村人より忌み嫌われる存在であるが、この事件のさなか、人々が恐怖から冷静な行動がとれなくなっている中で唯一冷戦沈着に行動し、熊を追跡し最後にはこれを仕留める。
        人間というものは、本当に一面だけで判断できないものであり、簡単なステレオタイプ的なものに置き換えれないものであると感じる。
        >> 続きを読む

        2018/01/02 by くにやん

    • 他4人がレビュー登録、 15人が本棚登録しています
      高熱隧道
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      •  黒部第3発電所建設工事に関連した隧道(トンネル)工事を題材にした すさまじい小説でした。
        ただ、「黒部の太陽」の題材となった工事とは別物です。(「黒部の太陽」は、この16年後の第4発電所建設の際の話です)

         土木工事には死亡事故がつきものの時代においても類を見ないほどの被害者を出した超難工事。
        自然の猛威を突きつけてくる冬の黒部渓谷に陣取り、きいたこともない想像を絶する破壊力を持つ雪崩などを耐え忍び、岩盤温度160℃を超える温泉地帯を掘りぬいた男たちの闘いの記録です。

         入念に取材し著者の中で書きたいものが熟成された結果の産物なのでしょう。かなり具体的な工事風景の描写、登場人物たちの心の機微をえがく筆力は見事です。

         とくに、工事の指揮をとる側の人間たちの心理描写は筆者のひとつの大きなテーマだったのでしょう。工夫らの死に対する想いと工事完成への責任感との葛藤。また、貫通の際の昂ぶり。
        なかなかに迫ってくるものがありました。
        >> 続きを読む

        2015/02/01 by kengo

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      敵討
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
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      • 江戸時代の末期から明治にかけて実際にあった仇討ち事件を題材に二つの話が描かれる。


        一つ目は『護持院ケ原の敵討』を題材とた敵討。そこには仇討ちの現実がみえる。時に美談として語られることもある仇討ちだが、成功するのはごくわずか。多くの場合が逃げる相手を見つけ出すことすらできないで終わる。費やした時間と労力、金により自らの身が滅ぶこともある。


        二つ目は日本史上、最後の仇討ち事件『臼井六郎事件』を題材とした最後の仇討ち。時はまさに幕末、その動乱に巻き込まれるように暗殺された父の仇討ちを誓った少年。しかし時代は変わり武士の美徳とされた仇討ちは禁止されていた。仇討ちは美徳か殺人か。彼もまた時代の波に翻弄された一人だった。


        私としては最後の仇討ちが良かった。時代の変わり目に仇討ちという行為そのものの是非が問われる。これも維新の中で生まれた歪みというか、陰の部分だと思う。
        >> 続きを読む

        2016/03/09 by TAK

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      海も暮れきる
      4.0
      いいね!
      • 吉村昭さんのものした「海も暮れきる」を読みました。この中篇小説は、明治・大正期を生きた奇行の俳人、尾崎放哉(おざき・ほうさい)の、小豆島(しょうどしま)での最期の8ヶ月を綴ったものです。

         尾崎放哉は、つとに俳句の才能を示していましたが、東京帝国大学法学部を卒業し、東洋生命保険会社の東京本社契約課長になりました。でも彼は酒癖が悪く、朝から深酒をするは、酒席で飲み相手に執拗な絡み方をするは、で、会社を首になってしまいます。そして拾われた太陽生命保険会社でもおなじ失敗をして首になります。そして最愛の妻・馨(かおる)とも別れ、ひとり孤独なわび住まいを求めるに至ります。そこで、彼が行き着いたのが、瀬戸内海に浮かぶ小豆島でした。

         尾崎放哉の酒癖は、飲んで暴力を振るうという体のものではなく、相手を執拗に詰問する、罵倒するという感じの酒乱でした。そしてこれは本人も認めていた「悪徳」でした。

         「俳句仲間」のもつ親和性というべきものがあるのかも知れませんが、尾崎放哉にとっても、小豆島を探してくれたのは師でもある荻原井泉水(おぎわら・せいせんすい)で、島に受け入れてくれた井上一二も、井泉水が主宰する自由律俳句誌「層雲」の同人でした。自由律俳句とは、河東碧梧桐が初めて提唱した、「5・7・5の定型によらず、季語もなし」・・・といった感じの俳句のことです。


        @ここまで来てしまって急な手紙を書いてゐる


        これは、尾崎放哉が島についたころ書いた句です。そうとう変格な句ですよね。

        さて、尾崎放哉には死に繋がる持病がありました。それは当時ガンより恐れられていた肺病(結核)です。島に来た際にはかなり病状が悪化していました。自分を養うにも、働く体力がない・・・そこで周囲の人びととか同人たちには、物品、お金の無心をしないわけにはいきませんでした。

         庵も決まりました。西光寺の別庵・南郷庵(みなんごうあん)でした。住職の好意によるものでした。

         神経質になっていた尾崎放哉は、一時期、彼ら支援者の善意を疑いますが、しばらくしてそれが自分の僻み(ひがみ)によるものであることに気付き、以降は彼らの善意を疑わなくなります。

         こんな環境で、尾崎放哉は彼の代表作のような句をひねり出しています。


        @咳をしても ひとり


        @墓のうらに 廻る


        @ なんと丸い月が出たよ 窓


        特に、「咳」の句がスゴイですね。尾崎放哉は、親族とも縁を切った気でいて、自分が死んでも、親族に連絡することを拒みました。自分の周りには誰一人いない・・・という叫びたくなるほどの恐怖。それを、巧みに表現しています。もっとも、身の回りの世話をよくやってくれた、シゲさんというおばさんがいましたが。

         島に着いた当初、食べるものといえば「小麦粉を水で練ったもの」と梅干・・・といった食生活をしていたので、体力は眼に見えて落ちていきます。肉、卵などの滋養のある食べ物も譲ってもらいますが、彼のからだは次第に、粥(かゆ)くらいしか食べられなくなり、下痢と強固な便秘に交互に悩まされるようになります。

        ・・・・・・・・・・・・
        四日前から便秘していたが、赤めしと汁粉を食べたので腹が強く張り、厠に這って行って力んでみても便は出ない。そのうちに、遂に腸が肛門の外に出てしまい、それを紙で押しもどそうとしても入らず、血が流れはじめた。かれは、下剤のしゃり塩を服用し、ふとんの上で突っ伏して呻きつづけた。冷汗が全身に流れ、ふとんをかたくつかんでいた。
        ・・・・・・・・・・・・・
         しかも、喉頭結核になったのか、お粥さえ喉を通らなくなってしまいます・・・立ち上がることも出来ません。声もまともに出ません。彼は死にます。42歳の若さでした。馨は死を看取りに来てくれたそうです。大正15年のことでした。

        現在、南郷庵には


        @いれものがない 両手でうける


        という井泉水の筆になる句碑が立っているそうです。

        今日のひと言:吉村昭さんも、結核を患った経験があり、それを縁に感じて尾崎放哉の評伝を書く気になったそうです。症状が出たら、きついんでしょうね、結核。

        読んだ本:「海も暮れきる」吉村昭:講談社:1980年初版
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        2012/08/31 by iirei

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      冬の鷹
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 敬愛する作家のひとり吉村昭の「冬の鷹」を読み終えました。

        この作品は、「解体新書」の翻訳に挑んだ前野良沢と杉田玄白を扱った小説で、いつもの吉村昭らしく、実証的に丹念に取材された跡がうかがえます。

        オランダ語の習得に人生を賭けた清廉な学究派の前野良沢と、オランダ語への興味より蘭学を医術へ応用することや、その普及を目指した杉田玄白の、人生の明暗と二人の相克が丹念に綴られていきます。

        作者・吉村昭の興味は、無謀な仕事に取り組んだ彼らの激しい情熱と、処世感覚の差による、その人生のあまりの隔たりぶりを描くことにあるような気がします。

        そして、作者は徹底して学問へと沈潜した前野良沢の潔癖な生きざまに光を当てたいと考えたのではないかと思う。

        医者ものの歴史小説は、あらゆる階級の人々の生活や人情を描けるばかりでなく、文明論に深く迫ることもできると思う。
        そして、その可能性は、まだかなり多く残されているのではないかと思いますね。
        >> 続きを読む

        2018/05/29 by dreamer

    • 2人が本棚登録しています
      海の史劇
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 日本海海戦を描いた吉村昭の記録文学の傑作。

        日本海海戦と言えば司馬遼太郎の傑作小説「坂の上の雲」のクライマックスシーンとして有名である。
        私も手に汗握りながらあのシーンを読んだものである。
        それ以来日本海海戦には関心を抱いていたが、他にも同じテーマを扱った作品で良いものがあると聞いて本書にたどり着いた。

        非常に緻密な調査の上に成り立っている作品と感じた。
        これを読んでしまうと司馬さんの作品は、彼の評価している人物とそうでない人物の書き分けが極端で、小説としては面白くなるのだろうが、現実とは乖離してしまうのだろうなと思ってしまう。

        日本海海戦とは日本史だけではなく世界の海戦史においても類例を見ないほどの圧倒的な勝利であった事が理解できた。
        戦力的に不利な日本が損害において水雷艇3隻と引き換えにロシア海軍をほぼ壊滅させるという信じがたいものであったという。

        本書を読んでいるとロシア艦隊は、その長大な航海の途中、自分たちの空想の中で膨れ上がる日本海軍の脅威に終始おびえていたように思われる。
        その為に味方艦艇や他国の商船にみだりに誤射を行ってしまっている。
        いかに強大な戦力を持っていてもそれを充分に発揮できるかは扱う人間によるということが実感された。

        後、戦後日本人と言えば礼儀正しく、国難があっても暴動などが起らない自制のきいた国民性という評価が定着しているが、この本を読んでいると日露戦争の講和内容に不満の持った国民が暴動を起こしたりしている描写があり、戦前の日本人の気質と戦後のそれの違いが判り興味深かった。




        >> 続きを読む

        2018/05/04 by くにやん

    • 2人が本棚登録しています
      ポ-ツマスの旗
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 本書は、日露戦争当時外務大臣であった主人公の小村寿太郎が、条約締結の全権となり、ポーツマスでロシアの全権ウィッテと互いの腹を探りあいながら条約締結にいたる日々の息詰まる交渉の進捗状況を史実を元に描き出した歴史小説です。外見的には非常に小柄で弱弱しくさえ見える小村が堂々と対応していく様は痛快でもあります。また、講和条約に反感を持った民衆暴徒の日比谷焼き討ち事件について、感情的な民衆、新聞・政治家の扇動、政府の情報開示の難しさ等考えさせられる事項が多くある好著です。 >> 続きを読む

        2011/04/25 by toshi

    • 3人が本棚登録しています
      破船
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 近代国家の道のりを歩み始める前の日本の閉鎖した貧しい漁村の物語。
        伊作というまだ年端もいかない主人公の目線で淡々と語られるその生活は、現代社会で暮らす我々には想像もできない過酷なものであるが、あたかも本当に当時の人間が語っているような自然な語り口のリアリティーにより違和感なく読者はその生活に入っていく事が可能となる。
        自然のリズムに身をゆだね、そのもたらす恵みにより細々と命をつないでゆく人々。
        生活は厳しく、身売りも普通に行われている。
        生きるための非情な選択として灯火により交易船を岩礁地帯に誘い込み座礁させ積み荷を奪うという犯罪行為を村ぐるみでおこなっている。
        これらの村の暮らしが丹念に無駄な情感を排した文体により語られる事により、物語にリアリティーを与える事に成功している。
        異なる時間と世界を体験させてくれることが小説の醍醐味と言えるのならば、まさにこの本はそれを体現しているといえる。
        >> 続きを読む

        2017/12/28 by くにやん

    • 5人が本棚登録しています
      破獄
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 米澤穂信先生の本にあった参考図書(折木ほーたろーの本棚)だったので買ってみた。
        中戦後の社会情勢を交えたドキュメンタリーかと思ったら、ほとんど事実そのままだが、一応は小説らしい。堅苦しい感じで読破に時間がかかってしまった。
        (社会という監獄で生きていく)人の一生とは何なのか、そこから脱出できて何が得られるのか、考えてみるとちょっと面白い。
        >> 続きを読む

        2018/08/17 by たい♣

    • 4人が本棚登録しています
      雪の花
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 江戸時代末期から明治にかけて福井で天然痘と戦った町医の話。

        現代の人間である私には想像できな事だが、天然痘の惨禍は凄まじいものであったらしい。
        感染した人間の1/3は死に、生き残った者にも生涯消えない痘痕を残す恐ろしい病で、種痘が広まるまでは対処方法がなかったという。

        西洋では広まりつつあり効果を上げ始めていた種痘を日本に導入することに尽力し、日本の天然痘の治療の先駆けとなった福井藩の医者笠原良策。
        人の命を救うために自分の財産もなげうって、それだけではなく命の危険すら冒す。
        そこまでの壮絶な努力をしてすら役人や医者たちの非協力的な態度、迷信に満ちた庶民たちの悪意によって思うように種痘が進まない。
        そこに至るまでの道のりは想像を絶する困難に満ちていたが、彼の志は最後に実を結ぶ。

        クライマックスのシーンはやはり種痘を施した子供とその親と共に雪中の山道を越えるシーンであろう。
        あと一歩で遭難してしまうところまで行きながら奇跡的に全員無事で生還する。

        これがフィクションでなく実際にあった事なのだと認識するたびに深い感動が沸き起こってくる。

        >> 続きを読む

        2018/05/04 by くにやん

    • 4人が本棚登録しています
      わたしの流儀
      3.0
      いいね!
      • 並ぶのに躊躇すると、「人の列」という文章で述べている。
        筆者は、味が良いといわれる評判のラーメン屋の前にいつも列ができていて、
        一度は味見してみたいと思ってはいるものの、若い男女が並んでいる中に
        中年の私が並ぶと、侘しい姿にみえるだろという、恥ずかしさもあるが、
        食べ物を口にするために並ぶ気にはなれないと、述べている。

        まさに、そのとおり、私の場合は、連れがいてると食べる期待に負けて
        平気だが、一人では、到底並ぶ事は、できない。

        でも、甘いものも好きな私、結構デパ地下で、ケーキとかを買ってますが、
        それからいうと、待っている時間の長さか基準ですか、
        まあ恥ずかしさに絶える時間は、3分ぐらいが限度でおますな。

        この様な、自分に置換えて、考えさせられる、お題が100以上綴られている。
        吉村昭氏が描く、ユーモアがありながら、硬派なエッセイ集。
        50才以上のおっさん、いや,おじ様に、ご推薦いたしあす。
        >> 続きを読む

        2013/05/24 by ごまめ

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      殉国 陸軍二等兵比嘉真一
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 記録文学。
        確かに沖縄戦で現実にあったであろう情景が、ある意味では抑揚の無いタッチで描かれています。
        英雄的な人物や、戦場の恋が出てくるでもない。
        映画化には程遠いと思います。
        それでもほぼ一気に読みきりましたし、読後に胸にせまるものがあります。
        圧倒的に「リアル」だからだと思います。
        もう少し他の作品も読んでみます。
        >> 続きを読む

        2014/08/03 by Hiropika

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    • 1人が本棚登録しています
      海軍乙事件
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 「海軍乙事件」「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の4編を集録。
        どれも素晴らしいが、表題作と巻末の「調査メモ」が特に心を打ちます。
        作品中の大西大隊長と福留中将。前者の「一貫して沈黙をつづけた武人ぶり」と後者の「旧海軍のエリートとしての復活」。それを綿密な取材で作品とした著者。この題材で映画が出来そう。
        しかし、著者は主観的な事は一切述べず記録文学に徹します。
        こんな武人も著者も現在の日本にはいないと思います。
        少しでも彼らを目指したいと気持ちを新たに。
        >> 続きを読む

        2014/08/13 by Hiropika

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      深海の使者
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【サブマリナー達の苦悩】
         吉村昭さんの戦記物、今回は第二次世界大戦中の日本の潜水艦艦隊を描きます。
         当時、日本は、英米などに比較してもかなりの数の潜水艦を保有していたんですね。
         攻撃としてはさほどの戦果は挙げなかったと分析されていますが、物資輸送、人員輸送、その他の方面では大活躍したのだと。

         さて、ご存知の通り、第二次世界大戦中、日本は、独、伊と同盟関係にあったわけですが、極めて距離が遠かったこともあり、十分な連絡体制は取れずにいました。
         戦争が激化していけば尚更で、例えば、日本としては技術的に進んだドイツのレーダー等の装備が喉から手が出る程欲しかったのですが、それを輸送することができません。

         イタリアが、一度長距離飛行機を飛ばして日本にやって来たことがあったそうですが、距離の短い北方ルートを取り、ソ連の領空上を飛んだため、下手をすると(まだ友好条約を結んでいた)ソ連との関係が悪化し、参戦を招くのではないかと危惧されたため、この方法も取れませんでした。

         唯一可能(そんなに簡単な話じゃないんですけれどね)だったのが、潜水艦による喜望峰を迂回してドイツと日本を結ぶルートでした。
         とは言え、哨戒が厳しくなるとこれだって相当に危険な方法です。
         実際の所、無事にドイツと日本を往復できた潜水艦は1隻だけで、他はすべて撃沈されられたというのですから。

         潜水艦というのもかなり悲惨な乗り物で、雷撃を避けるためには航空機や戦闘艦を発見したらすぐさま急潜行しなければならないわけですが、そうそう長時間潜行し続けることは困難です。
         すぐに空気が汚れてきてしまいますし、これは知らなかったのですが、海上航行をしないとバッテリーに充電ができないのだそうですね。
         バッテリーが切れてしまうと、海中を潜行することもできなくなります。
         ですから、必然的に、ある程度の時間は海上に顔を出さざるを得ないのですが、そこを狙われると相当にキビシイ。

         また、日本とドイツの間を航行しようというのですから、航海は長期間にわたります。
         水も貴重品ですから、風呂なんてもとより、洗顔すらできないのだとか。
         そんな状態で何ヶ月も狭い潜水艦の中で生活しなければならないのですから、異臭は立ちこめるは、垢だらけになるは、でそういう点でも過酷だったようです。

         本作は、そんなサブマリナー達の苦悩を柱に、第二次世界大戦終結までを描きます。

         いつもの通り、吉村昭さんの筆は大変冷静で、豊富な取材に基づき、淡々と語ってくれています。
         ところが、吉村さんは、本作を最後に戦記物を書くのをやめたのだそうです。
         その理由は、当時の事を記憶している人達が次々に亡くなってしまい、もはや十分な質、量の証言を得られなくなったからだとか。
         真摯な執筆姿勢ですね。
        >> 続きを読む

        2019/08/28 by ef177

    • 1人が本棚登録しています

【吉村昭】(ヨシムラアキラ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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