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増田まもる

著者情報
著者名:増田まもる
ますだまもる
マスダマモル
生年~没年:1949~

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      ミステリウム
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • フーダニットと、ハウダニットと、ホワイダニット。
        ミステリの世界では、たいていの場合、犯人もトリックも動機も明らかにされるけれど、それはお話だからです。

        犯人とトリックはともかく、現実の世界において、動機が白日の下にさらされることは少ないものです。
        いや、動機そのものが存在しないことすらままあるものです。
        世界で起きる多くの出来事は、恐ろしいことに、ただ起きるんですね。

        今回読了したカナダの作家エリック・マコーマックの「ミステリウム」は、そのような動機なき世界のありようを描いて、戦慄的な作品でしたね。

        物語の舞台は、〈島の北部〉にある小さな炭鉱町キャリック。
        周囲を低い丘が連なり、霧に包まれることの多いこの町に、ある日、〈植民地〉から一人の男がやってくる。

        水の循環を研究する水文学者を名乗るその男カークは、町にひとつしかない宿に滞在する。
        やがて、町のそこここで不審な事件が発生する。

        戦死者の記念碑や墓地の墓石が破壊され、強い酸性の液体をかけられた図書館の本は溶け、羊飼いの男が撲殺されたうえ、唇を切り取られる猟奇的な殺人までが起きるのだ。

        そればかりか、まずは動物が、やがて子供たちが原因不明の病に侵されて次々と死んでいき-------。

        大学に通うかたわら新聞社で記者見習いをしている〈私〉が、行政官ブレアの依頼で、それらの事件を取材することになる。
        町の薬剤師ロバートが書いた文書を読み、死の床についている住民たちから話を聞くことで、器物破損や殺人事件の犯人は誰なのか? 町に蔓延する死病は伝染病なのか? 飲料水に毒が混入されたのか? を調査していくのだった。

        だとすれば、犯人は一体誰なのか? そもそも動機は何なのか? といったたくさんの謎に迫ろうとするのが、この物語の骨子なのだ。

        粗筋だけをみると、いかにも順当なミステリだという気がしますが、この小説のタイトルは「秘密」「儀式」といった意味を持つ古いラテン語の「ミステリウム」。
        一筋縄ではいかない小説なんですね。

        語り手の〈私〉と読者である私たちは、はじめ、すべては植民地からやってきたカークの仕業だと疑うロバートの文書によって、キャリックという小さな町を翻弄している事件の渦中へと入っていくんですね。

        つまり、ロバートの誘導によって、ある意味、安心して謎の核心へと近づこうとする。
        しかし、その後、ロバートの幼馴染みのアンナをはじめとする、住民たちへの聞き取りを進めていくにつれ、〈私〉と私たちが抱いていた予断は大きく揺さぶられ、やがて、核心の周囲を回るばかりで、一向に近づけないもどかしさに身をよじることになるのだ。

        その過程で明らかになる町の昏い過去。
        すると、〈私〉と私たちは、溺れる者は藁をもつかむの伝で、今度は過去の因果としての現在の町の悲劇という予断を持つ。

        だとしたら、過去と現在をつなぐキーパーソン、つまり犯人は誰なのか? カークなのか? カークだとするなら、余所者である彼にどんな動機があるのか? 結論を急ぐ〈私〉と私たちを、しかし、アンナはこんな言葉で、さらに混乱させるのだ。

        「真実? 真実を語るのが可能なのは、あなたがあまりよく知らないときだけよ」-------。

        かくして、語り手と読者は二転三転するプロットの果てで、驚くべき"真実"を前に慄然とさせられるわけですが、それが明らかになるまでの過程には、ミステリとしての愉しみだけでなく、文学理論を応用したパロディをはじめとする知的な遊びや、それ自体、短篇小説のように味わえる、おぞましかったり、美しかったりする、たくさんの印象的なエピソードが用意されていて、読んでいて退屈するということがない。

        久し振りに格闘しがいのある、現代文学の愉悦に浸れましたね。

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        2018/06/20 by dreamer

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