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佐々木譲の第142回直木賞受賞作「廃墟に乞う」を読み終えました。著者は、1979年のデビュー作「鉄騎兵、跳んだ」以来、青春小説、ホラー小説、サスペンス小説、冒険小説、時代小説と数年ごとに大きく作風を広げてきた作家だと思う。2004年の「うたう警官」(文庫版で「笑う警官」)以降は、「制服捜査」「警察庁から来た男」「警官の血」「警官の紋章」---と警察小説の力作を立て続けに刊行してきたんですね。そして今や、昨今の警察小説の一大ブームの中核を横山秀夫や今野敏とともに担う存在になっていると思う。北海道警察本部捜査1課の刑事・仙道孝司は、ある事件で受けた精神的ショックのため、休職を命じられ、自宅療養をしていた。だが、彼を知る関係者や元同僚たちは、その刑事としての能力を頼って相談を持ち込んでくるのだった。そして、仙道も持ち込まれた事件の捜査を独自に行なうんですね。警察手帳も持たず、拳銃も持たない仙道に、どんな捜査が出来るのかということを、ニセコや夕張といった北海道のいろんな土地を舞台に描いた、短篇6作からなる連作集なんですね。オーストラリア人が、数多く居住するニセコ地区の貸別荘で起きた殺人事件。警察は、オーストラリア人の実業家に容疑をかけるが-----。(「オージー好みの村」)。13年前に起きた娼婦殺害事件と似た手口の事件が発生する。刑期を終え出所していた犯人と、彼の故郷である北海道の旧炭鉱町で対峙した仙道が見たものは-----。(「廃墟に乞う」)。この「廃墟に乞う」については、この犯人というのは、母親から捨てられ、孤児として施設で育っているんですね。つまり、すごく貧しいわけで、にもかかわらず、最初に犯した娼婦殺害事件の公判で、どうして国選弁護人ではなくて、強力な私設弁護団が形成されたのかが、ちょっと疑問に思えましたね。それから、読みながら不思議に思ったのは、「北海道の警察というのは、そんなに無能なの?」と思わされることなんですね。なぜかというと、仙道はすでに警察がチェックしたところとか、すでに聞き込みに及んでいる場所に再訪しているわけなんですね。そうしたら、ぼろぼろ新事実が出てくるんですね。もう、北海道警の目は節穴なのかと思いましたね。ところが、ここでじっくりと過去の著者の作品などを思い返して深読みしてみると、実はそれが著者の言いたいことなんじゃないかと。つまり、北海道警が組織として、いかにひどいかということを、著者はずっと書き続けているんですね。北海道の各地を飛び回る仙道は、その土地が抱える問題に直面せざるを得ない。休職中の仙道は、刑事でありながら捜査権限を持たない一般人として、法の許す範囲で事件に関わるしかないのだ。そのため、この作品は、結果として、警察小説でありながら、ハードボイルド小説により接近した仕上がりになっていると思う。ニセコや夕張など、さまざまな土地の事情が、事件の背後にある点は、社会派ミステリ的とも言えるし、意外な犯人が用意された本格ミステリ的とも言えると思う。北海道の悠久の大地にそれらを溶かし込んで、ドラマ性豊かな連作を紡ぎ上げるのが著者の狙いであり、その意図は高いレベルで達成されていると思いますね。 >> 続きを読む
2018/12/04 by dreamer
僕の警官小説人生の火蓋を切った「警官の血」。僕にとっては重量級の警察小説のチャンピオンです。この本は、その「警官の血」の3代目安城和也が主人公、そして四課の独立愚連隊「加賀谷仁」は主人公に倍する圧倒的な存在感で登場します。あらすじ祖父、父を警官に持つ安城和也は、加賀谷仁の警官としての腐敗を内偵する為に部下として接近。加賀谷が捜査の為に所持していた麻薬を証拠とし逮捕、警察を追われる。2年半に及ぶ裁判で警察も暴力団もどちらの事も売らず、黙秘を続けとうとう無罪を勝ち取る。彼は誰の事も裏切る事無く潔白を証明して見せ伝説となるが、警察を退職後は三浦半島の漁村で釣り船の親父として生計を立てていた。安城は若き警部としてチームを率いるが、加賀谷の持っていた人脈、カリスマ性等とは並ぶ者も無く、暴力団の在り方自体の変貌も有り捗々しい成果を得る事が出来なかった。そんな中、覚醒剤の流通ルートの内偵を進めていた安城は、取り返しのつかないミスを犯してしまう。そんな中、加賀谷には警察への復職の要請が来ていた。彼の持っている人脈もさることながら、裁判での誰も売らず身の潔白を証明した事により、「最高最強の刑事」として警察内でも、裏稼業人間からも一目置かれる存在となったのだ。彼は要請を固辞するが、かつての部下の殉職を切欠に復職する事を了承する。この本もまた僕の中では新たな金字塔として確かな位置を占める事となりました。堂々の700ページオーバー。安城の警察としての足場を固め、その中で最大限動こうとする姿勢。警察という枠組みから大きく逸脱しながら、その強力な求心力で清濁併せのみ最短ルートをひた走る加賀谷。どう見ても僕らの思う警察は安城の姿勢。けれども加賀谷の中で踏み越えてはいけない場所には踏みとどまりながら、誰にも手が届かない事柄も無造作に鷲掴みするその剛腕は、僕ら男の血を騒がせる事間違い無し。加賀谷の一挙一動から目を話す事が出来ません。さて、もっとこの本について知りたい人は、課長代理さんのレビューが非常に参考になる事でしょう。読後にもう一回課長代理さんレビュー読ませて頂きましたが、はっきり言って最高。僕のはスルーしても彼のレビューを読むべし読むべし読むべし!! >> 続きを読む
2015/06/21 by ありんこ
この佐々木譲の「ベルリン飛行指令」を初めて読んだ時の衝撃は、今でも鮮やかに覚えています。デビュー作の「鉄騎兵、跳んだ」以降、バイク小説や青春小説、モダンホラー小説に活劇サスペンス小説と多彩なスタイルの作品を発表してきた佐々木譲が、初めて本格的な政治サスペンス活劇小説に挑んだのです。しかも、期待を遥かに上回る迫力と興奮に満ち溢れた傑作を----。日独伊三国同盟が締結された1940年の秋、日本海軍の新鋭戦闘機を極秘裏にドイツへ送る計画が持ち上がりました。そのパイロットに選ばれたのは、海軍の札付きパイロットの安藤と乾。敵の包囲網を潜り抜け、給油のための中継地点を経て、二人はベルリンへと飛行を続けたのです----。大胆な仮説にもとづいた、極めて破天荒な物語なのですが、活劇小説の基本的な設定を骨格として、戦闘機の知識をはじめ植民地インドの情勢など、戦時のディテールを丹念に積み重ね、そのフィクションを見事に激動の歴史の中へ、リアルに展開させているのです。そして何よりも、主人公の人物造型と幾つもの感動的な挿話が、この作品の大きな魅力になっていると思います。知性は勿論の事、豊かな感性や強い意思をもつ彼らは、それゆえにモラルなき組織や国家などと対立、反発し、世間からはみ出してしまうのかも知れません。しかし、その対立のエピソードがどれも胸に迫り、彼らが気高く見えるのです。このような感情を抱かせるのは、佐々木譲ならではの文章力のなせる技だと思います。更にこの作品は、真珠湾作戦をめぐる日系人スパイの追跡劇「エトロフ発緊急電」、戦争終結へ向けて奔走する人たちの冒険行を描いた「ストックホルムの密使」とあわせて、"第二次世界大戦三部作"となっていますので、次回は最終作の「ストックホルムの密使」を読む予定で、この他にも佐々木譲の作品はたくさんありますが、新宿歌舞伎町が舞台のベトナム難民の少女をめぐる活劇サスペンスの「新宿のありふれた夜」へと読み進めていきたいと思っています。 >> 続きを読む
2016/10/16 by dreamer
今回、再読した佐々木譲の「エトロフ発緊急電」は、彼の"第二次世界大戦三部作"と言われる、「ベルリン飛行指令」「ストックホルムの密使」の中で二作目の作品で、第43回日本推理作家協会賞(長編賞部門)と、第3回山本周五郎賞を受賞している傑作です。零戦をベルリンまで運ぶという途方もない計画を描いた1作目の「ベルリン飛行指令」も彫りの深いキャラクターを造形した点では傑作だと思いますが、物語の後半部がやや駆け足になったのが少し残念な気がしていて、開戦前夜の状況ドラマと同じ比重で大空の冒険のエビソードをもっと書き込んで欲しかったなという印象を持ちました。その前作に比べて、この2作目の「エトロフ発緊急電」は、文句のつけようがないくらいに素晴らしい傑作だと思います。とにかくこの作品には、実に膨大な人物が登場してくるのです。日系移民の子で、スペイン内戦に国際義勇軍として参加した後、アメリカの闇社会で生きている男。ロシア青年と日本娘の間に生まれ、数奇な運命を生きる択捉島出身の娘。北の島までアメリカのスパイを追って来る軍曹。更には、日本で諜報活動に従事する宣教師。日本に憧れ、講師として来日後は幻滅し、海軍情報部に勤務するアメリカ女性。情報部の極東課に勤務し、地下工作専従者を日本に送り込む巨漢の少佐などなど----。そして、アメリカのスパイとなって日本に潜入して来る男を中心に、その一人一人のドラマが丁寧に、こと細かく描かれ、やがてそれらが渾然一体となって、真珠湾奇襲作戦をめぐって緊迫したドラマが展開していくのです。アメリカ海軍情報部が日本に送り込んだスパイ、ケニー斉藤は真珠湾攻撃の真実を本国に打電出来るのか?----というサスペンスを核に展開するこの長編小説は、過不足なく北の島の冒険の行方を描いていて、我々読者をハラハラ、ドキドキさせながら、たっぷりと楽しませてくれるのです。この作品は「ベルリン飛行指令」に続く、"第二次世界大戦三部作"の第二部にあたりますが、物語自体は前作とは全く別物なので、この作品だけでも独立して十分に読む事が出来ます。連作の匂いは、前作の登場人物の数人がこの作品にもだぶって登場する事だけです。例えば、前作の作戦を指揮した大貫中佐と山脇書記官は、この「エトロフ発緊急電」にも登場しています。ベルリンに飛んだパイロットの安藤大尉の妹、真理子と前作で知り合った山脇書記官は、この作品で彼女と結婚する事になりますが、その結婚式が行われる教会の宣教師が、潜入したアメリカのスパイの連絡係という関連もあったりしますし、安藤大尉の馴染みだったシンガーの消息がちらっと出て来るなどの"芸"も非常に細かいなと感心させられます。再読して思う事は、とにかく、全編を通して静かな物語ではありますが、彫りの深いキャラクター、テンポのいいスピーディーな展開と、全く言う事がありません。北の島で交錯する、手に汗握る日米開戦前夜の諜報戦を、迫真のディテールで描き切った傑作だと断言してもいいと思います。 >> 続きを読む
2016/09/15 by dreamer
この方のストーリーは私にとってとても情景が浮かびやすくてそして現場にいる感覚になりやすいから、好き。あとにおいたつものが、好き。 >> 続きを読む
2017/06/13 by 自由じゃん
刑事や警察ものが多い佐々木さんの作品だが、この作品は駐在さん。しかも田舎町に左遷されたという設定。そういう状況だから退屈なのかと思いきや、些細な事件でも大事になってしまう。そんな事態に直面する川久保の活躍を描く中編集。1話目からその特徴は出ており、駐在なので事件に深く関われない。前任では刑事課だったのに何も出来ないジレンマが。ラストの行動はその憂さを晴らすとでもすればいいのか。また5話目の13年前の女児誘拐から、再び起こる事件。救出の過程で田舎という町の特殊性が関わるというのは意外だった。 >> 続きを読む
2018/10/24 by オーウェン
最大風速32メートル。十勝平野が10年ぶりの超大型爆弾低気圧に覆われた日の午後、帯広近郊の小さな町では、いくつかの悪意が蠢いていた。暴力団組長宅襲撃犯、不倫の清算を決意した人妻、職場の金を持ち出すサラリーマン-------。それぞれの事情を隠した逃亡者たちが、辿り着いたペンション・グリーンルーフで、恐怖の幕がきって落とされる。すべての交通が遮断された町に、警察官は川久保篤巡査部長の他には、誰もいなかった-------。この現代のエイターテインメント小説の優れた書き手である、佐々木譲の「暴雪圏」は、パニック小説に群像サスペンス小説を加味したような作品だ。そして、この作品は、ウエスタンスタイルの警察小説でもあり、密閉空間での群像小説という、今までにない作品になっていると思う。エンタメ小説の可能性を追求してきた著者ならではの面白エンタメ小説になっているんですね。密閉状態で、様々な人物が登場し、サスペンスフルな展開が勢いを増していく。そんな中でも、川久保篤巡査部長の視点は穏やかで、実に頼もしい。読み終えて、この作品の全篇を覆っている怖さがじわじわと身に沁みてくる。 >> 続きを読む
2018/10/30 by dreamer
この小説ほんとすき。昔映像化してるそうですがキャスト見たら私のそれぞれのイメージとなぜかぜんぜん違う私なら誰でみたいかなーと考えるだけでゾクゾクするような。そして早瀬を誰にするかがだいじ。 >> 続きを読む
2017/02/13 by 自由じゃん
佐々木譲の第21回新田次郎文学賞受賞作「武揚伝」(上・下巻)を読了しました。歴史のヒーローたちの物語は、いつでも読み手の心を熱くさせるものです。今回そこに加わったのは、榎本武揚の物語だ。榎本武揚は、江戸幕臣の子として生まれ、幕末期の長崎の海軍伝習所に入り、維新の動乱の中でオランダに留学し、機関・造船・操船術を学んでいる。もともと関心があったのは、科学技術だった。この幕末の留学生の生態が、とても興味深く描かれていると思う。彼が学んだのは技術ばかりではなく、当然、戦術も学んでいる。そして、帰朝して幕府の海軍の中心的存在となっていく。戊辰戦争の時、官軍に抗して開陽丸をはじめとする艦隊を率いて脱走、箱館に渡った。榎本武揚が外国で学んだものには、さらに国際法がある。また、共和政体に対する関心がことさら深く、箱館の地で「蝦夷ガ島自治州」を作り、選挙によってその総裁となり、諸外国にこれを政権として承認させたんですね。この幻の共和国の実態、特に外国との互いに腹に一物持っての交渉が、非常に面白い。結局、敗北して箱館五稜郭が滅び、官軍に降伏する三十三歳の頃までが「武揚伝」上下二冊の内容になっているが、実際の武揚は、七十二歳まで生存し、明治政府に出仕し諸大臣を歴任している。榎本武揚の写真を見ると、そこにはとても日本人とは思われないような人物が写っている。司馬遼太郎によると、オランダ留学中に、彼はスペイン人に違いないと思われていたそうだ。顔だけではなく、精神が当時の日本人からは大きく離れていたのだと思う。むしろ現在の日本人、あるいは、これからの日本人に近いのかもしれない。日本の歴史小説は、今まで"日本人とは何か"ということを追求してきたが、榎本武揚のような人物を描くほどには成熟していなかったように思える。この人物は、明らかに過去よりは未来に属しているのではないかと思う。「武揚伝」が、伝記ではなく小説であることが、とてもいいと思う。この未来型の日本人を描くには、書き手の情熱が直接表に出る小説というスタイルこそ望ましいと思いますね。 >> 続きを読む
2018/08/12 by dreamer
6編に及ぶ連作短編集。過去の事件を捜査中に、深い心の傷を負ってしまった刑事。英気を養うために休職している彼の元に次々と事件が持ち込まれる。そんな設定です。刑事で有るにも関わらず、休職中の彼は、警察組織を使った捜査ができません。もちろん、内情に通じているし、同じ警察官のよしみで協力を得られたり(得られなかったり)はしますけれど。この辺りの描写が、トラブルが発生して警察に相談に行っても、おざなりな対応しかしてもらえないというよく聞く話を思い出させ、イライラハラハラさせてくれます。全体的に静かというか暗い感じで、独特の雰囲気を醸し出しているのは良いのですが、それほど印象に残る作品ではなかったため、直木賞受賞作品という期待感には応えられていないかも。風景描写が豊かなので、北海道に住んでいる人だったら、もっと楽しめるのではないかと思いました。 >> 続きを読む
2012/10/04 by emi
警察小説をまた読むのにまたちょっと覚悟が必要だった。 でも、面白かった!。 たしかに殺人事件は起きるんだけど、強姦殺人とか、子供を殺すとか、そういう私が苦手な部分が無かったのと、どちらかといえば、人間の良心に重きが置かれているので。 組織が一枚岩ではない事が救い。無実の仲間を殺されてたまるか!という気概。長い者に巻かれて、あわよくばおこぼれにあずかろうという人は必ずいるし、自分の保身の為に人を切り捨てる、というのは警察に限った話ではないと思う。隠蔽とか捏造とかも、現実にあり得るけど、それ、おかしいですよね、って思う人も絶対にいるはず。それに立ち向かうのは相当勇気がいるけど、その希望がこの小説にはあった。 もっと色々な見方ができると思うけど、ど素人のただの読者が完全に趣味として読書をする分には、面白いの一言。変なストレスが無く、読み切れた。 >> 続きを読む
2018/05/26 by チルカル
佐々木譲の「夜を急ぐ者よ」は、多様な魅力を持つ佐々木譲ワールドを満喫できる作品だ。この物語の舞台は南国沖縄。その地を訪れた泰三にリゾート気分は皆無だった。ある種の活動に巻き込まれ前科者となった泰造。彼は刑務所を出た後も、警察の嫌がらせなどでまともな職を続けることができず、裏社会に寄り添わざるを得なくなっていた。ある取引がこじれ、国外逃亡を余儀なくされた彼は、まず那覇まで逃げて来たのだ。その先に逃げる手段を模索するために訪れたこの土地で、泰三は彼の人生にとって重要な女性と再会してしまう-------。台風に襲われた沖縄を舞台に、強烈なサスペンスと切ない恋愛劇を堪能できる濃密な一冊だ。現在に回想が絡むスタイルの作品で、長篇だけあって物語が起伏に富んでグイグイと読ませてくれる。特に、この作品で注目したいのは、派手なドンパチを抑制しつつ、圧倒的な緊迫感を醸し出している点だ。国外逃亡のためのルートを求める一歩一歩をきっちり描くことで、著者はそれを成し遂げていると思います。そして、恋愛に関する過去と現在、あるいは男と女の対比も絶妙だ。 >> 続きを読む
2018/12/30 by dreamer
佐々木譲のゴキゲンな痛快小説、「五稜郭残党伝」を一気に読了。著者・佐々木譲「初の時代小説」というキャッチコピーに、つい油断してしまったが、読み始めてからしばらくしてハッと気付いたんですね。これは"西部劇小説"ではないのかと。それも、佐々木譲版「明日に向って撃て!」なのだと。1869年(明治二年)五月十六日、箱館・五稜郭で榎本武揚率いる幕府軍の命運が、尽きようとしていたその夜、歩兵隊指図役の蘇武源次郎は、降伏投降を潔しとせず、脱走を決意する。彼は、榎本軍随一の狙撃の腕を誇る名木野勇作と共に、奥蝦夷を目指し、海岸線を北上していく。彼らは、途中で知り合ったアイヌのシルンケと共に蝦夷地を渡り歩いていくが、その過程で各地を支配する和人たちがアイヌを虐げ、暴利を貪っている実態を目の当たりにする。一方、その頃、箱館では戊辰戦争で数々の戦功を上げた仮軍監・隅倉兵馬が討伐隊を組み、執拗な追跡を開始していた-------。ストーリー自体は、実にストレートなんですね。新たな随行者であるアイヌとの出会い、悪行を重ねる街の支配者たちとの小競り合い、切支丹を初めとする様々な入植者たちとの交流、そして討伐隊との追いつ追われつの死闘と、実にオーソドックスな追跡活劇になっている。冒険小説好きの私にとってこの展開は、それだけでも応えられないところですが、著者の佐々木譲は、さらに主人公の二人に、アイヌを率いて新政府軍を打ち破った後、蝦夷地のアイヌに一斉蜂起を呼び掛けるという"自主独立の夢"を託すことによって、はみ出し者=異人の再生ドラマをも織り込んでいくんですね。その意味では、蘇武と名木野は、従来の佐々木譲の小説に登場したヒーローの原型と言うべきなのかもしれません。この作品でも、例によって、著者はこの二人の熱い戦いぶりをクールな筆致で描いていくんですが、ラストに至っては、まさに目頭が熱くなるほどの盛り上がりを見せてくれるんですね。 >> 続きを読む
2018/05/06 by dreamer
今回読了した佐々木譲の「疾駆する夢」は、自動車職人の生きざまを通して、日本の戦後史を描いた力作だ。今でこそ、中国や韓国などのアジア企業に押されているが、かつて日本には「世界の工場」「ものづくり大国」と呼ばれた時代があった。そして、それを支えた二本柱は、エレクトロニクスと自動車だ。しかし、太平洋戦争が終わった直後の日本は、自動車の普及など夢のまた夢と思われた時代だった。そのような状態から、自動車大国になるまでには、筆舌に尽くし難いドラマがあった。この作品は、自動車という視点から、日本経済の戦後史を克明に描き切った、読み応えたっぷりな大作になっていると思う。この作品は「ひとの夢を乗せて動く」自動車づくりに精魂を傾けた主人公・多門大作の半生が描かれている。終戦後、自動車やオートバイの整備からスタートし、原動機付きの自動車からオート三輪の製造へと幅を広げていった。やがて、多門自動車も小型乗用車の製造に着手。まだ年間400台程度しか売れていない小型乗用車の販売促進を狙って、多門が行なったのは、ルマン自動車24時間耐久レースへの参戦であった。1970年に、自動車の排出ガス汚染物質の濃度を現行の10分の1にせよという、マスキー法がアメリカで成立すると、それをクリアする新型噴射・希薄燃焼エンジンを発表する。そして1975年には、ガソリン価格の高騰を追い風に、25万台のコンパクトカーをアメリカに輸出。さらには、ホンダについで二番目に、アメリカ現地工場の建設に着手する。1980年代に入って多門自動車が、海外生産を急拡大するために、多額の資金調達を必要とした時、元隅銀行との関係が深まった。大株主としての影響力も増したのだった。そして銀行からやって来た役員が提案する拡大路線には、猛反対する多門だったが、待っていた現実はなんと-------。この作品に用意されている結末は、現時点では誰も考えつかないような選択肢のようだが、もしかしたら日本の自動車メーカーが、いずれたどる道なのかも知れません。戦後日本の自動車産業が抱えた問題・課題とは? そして、それらは、どのようにして解決されていったのか?。個々の企業にとって、当時の通産省の産業政策は、いかなる意味を持っていたのか?-------。いろいろなことを考えさせてくれる作品だ。終戦直後の日本には、噴き出すようなエネルギーと熱気があった。それは、たんに貧しかった時代の賜物なのか。豊かになった今の時代にも、熱いエネルギーを再現することは出来ないのだろうか-------。そんな著者の嘆きと期待が聞こえてきそうな作品だ。 >> 続きを読む
2018/10/03 by dreamer
後半はだいぶ駆け足でした。敵役の反撃等、若干の物足りなさもあり。
2014/03/18 by gas4476
佐々木譲氏の作品を最近は再読している。直木賞を獲る以前から気になっていた作家であり──この人はいつ評価されるのか?──と思っていた作家のひとりだった。本書では過去の郷土史を研究していた佐々木氏が見つけた「黒頭巾」とは何者かについて書かれている。一読してこんな人も居るのかと驚いた。蝦夷地は榎本のあと和人が占領しアイヌの民人を苦しめているというところから始まる。そこに黒頭巾を被った男が現れて鞭を自由自在に動かしながら次々と悪事を働く和人をこらしめる。ここまで読んでまるで「水戸黄門」のようだなと思った人もいるかもしれない。しかし黒頭巾の正体は決して権力者ではなかったのである。ある意味、和人とアイヌの人々の橋渡しとしては意外な存在かもしれない。アイヌの人々はそれぞれのコタン(村)を守りながら平和に暮らしていた。しかしそこに新政府軍がやってきてアイヌの人々を苦しめたのである。そこに登場した黒頭巾はアイヌの人と交流を持ち、やがてはアイヌの人に助けられるという物語が自分を勇気づけた。佐々木譲氏は北海道の作家だという。確かに北海道を舞台にした作品が多い。隠れた名作が眠っているので興味のある人はぜひ読んでほしい。 >> 続きを読む
2013/10/29 by frock05
いやホント 面白かったです。 私個人のレビュー評価基準から 作品の性質上★4つになってしまいますが、 面白さや読み応え度でいったら★5つでもいいくらいです。 最後はお爺さん(清二)の死の真相やら 父親(民雄)の殉職時の心境、 さらには子(和也)自身のストーリーが 一気呵成に進行して 読者をラストへ押し流していきます。 物語が終わってしまうのがもったいないというか 残念だなぁ と思っていたら、 和也時代を舞台にした続編があるんですね。 もちろんそちらも読みます! >> 続きを読む
2015/02/05 by kengo
大作「警官の血」の続編、 というかスピンオフ作品です。 三代目警官:和也と前作にも和也の上官として登場した 加賀谷の2人を主人公にした物語。 和也よりも加賀谷の方が魅力的というか気になる存在で、 780ページ近くありますが一気に読めてしまいます。 若くして警部にまで昇進した和也と かつての上司 加賀谷の対決という構図を設定していますが、 その実 ラストシーンではそうではなかったんだなぁ と思わされます。 余韻の残るエンディングです。 ちょっとホロッとくるかも。 読了して、 厳格には許され得ないのかもしれませんが、 加賀谷みたいな捜査スタイルの刑事は 必要なんじゃないかなぁと思いました。 実情を知らないから、いるのかいないのかは分かりませんけど。 いずれにしても十分楽しめました。 著者の作品はこのシリーズが初めてでしたが、 他のものも読んでみたくなりました。 >> 続きを読む
「天下一の築城師となれ」信長の命を受け一人の男が戦火の欧州を駆け抜けた。天正遣欧使節団とともに遥かリスボンの港に降り立った若き石積み職人・戸波次郎左は、貪欲に西洋の技を身につけ、たちまち名を上げていく。異国人に対する嫉妬の目、密告、逃避行、戦乱の日々。帰国を夢見つつも、イスパーニャ軍の暴虐に反旗を翻すネーデルラント共和国軍の力となり、鉄壁の城塞を築き上げた男の波乱の生涯を描く。新潮社から2013年10月刊行の、佐々木さんの歴史小説です。ハードボイルド・サスペンスにおいても、本作のような歴史物においても登場人物たちの会話はブツッブツッと切れる感じ。また、情景描写は詳細ながらも、心象風景は最低限度に感じるほど少ないというのも著者のスタイル。どちらも著者独特の硬派な小説を醸成する欠かせないスパイスです。安土の城も完成し、日に日に信長の世が定まりつつあった天正9年。信長直々に欧州へ城塞作りの技術習得のための留学を命じられた戸波次郎左は石積みを生業とする穴太(あのう)衆の若きホープでした。折しも、ローマ教皇への使節団が編成される中、イエズス会の協力を得て、次郎左は九州の大名の使者たちから成る使節団の随行員として長い船旅にでます。道中、瀬戸内航行の際、用心棒として船に乗り込んできた浅井牢人・瓜生小三郎・勘四郎兄弟と意気投合し、互いに胸襟を開く間柄に。瓜生兄弟は、次郎左の旺盛な探究心と、未知なる土地へ臆することなく未来を求める冒険心にあてられ、自分たちも東インドを経てヨーロッパへと向かう決意を固めるのでした。やがて2年以上に渡る長く苦しい航路。脱落者が続く中、ついに次郎左はヨーロッパの地を踏むことに成功します。ローマ使節団が、その役割を終え、日本へ帰ることとなったのでしたが、次郎左はイタリアに残り、現地での石積みの修行を続行することを決断します。それは自然とイエズス会の支援を受けられなくなるという事でした。もし支援を続けて欲しいならば改宗せよとの言に、次郎左はかたくなに首をふります。支援も縁故もない次郎左は、ただひとり己の腕と、日本人らしい実直さや新しい技術習得の執念だけを武器に、戦乱の只中のヨーロッパの大地へと双眸を向けるのでした。他方、瓜生兄弟は長崎から合流した武田牢人衆と傭兵団を組み、ヨーロッパ各地を転戦していました。ここにも、慣れぬ異国で己の青春を戦争に散らす、若者たちの峻烈な姿がありました。やがて、それぞれが名を上げ、成果を得だしたころ、次郎左と瓜生兄弟は異国の地にて運命の再会を果たすのでした。見慣れぬ土地の名や、知らない歴史背景が舞台の本作のような作品は、僕はたいがい敬遠してしまうのですが、佐々木譲さんの作品という事で、外れがないという安心感から手に取りました。日本の戦国時代、貪欲に進んだ西洋文化に興味を抱き、取り入れようとした革命王・織田信長。彼の存在や、その目線の遠さ・高さが「進んだ異文化を取り入れる」という、旧態然をよしとする者たちを震撼させるような文化革命を推し進めていました。格式は重んじず、ただ、才のみ用いる。それは次世代を担う血気盛んな若者たちには光り輝く未来を夢見せ、わが世のぬるま湯に浸った権力者たちには戦慄を覚えさせます。しかし、時代はいつの世も、そうして切り拓かれてきました。切り拓いた者が早逝するのも世の習い。その後の世は、開拓者の志を継いだ、ひとまわりスケールが小さい者達が、それなりに時代の成熟に向かって政治を行います。その先駆者・信長から、西欧式の築城術を習得してくるよう命を受け、主人公・次郎左は勇気雀躍します。現在からは想像もできない程、物理的に遠かったヨーロッパ。技術を習得し、日の本の大地を、再び踏むことができるのか定かではない中、新しい文化を肌で感じたい、時代を創りたいという若者の欲求は、そのリスクをたやすく越えてゆきます。まばゆいほどの躍動感、好奇心。ヨーロッパの地に降り立ってなお続く試練の数々、困難と同じだけ出会えた暖かい人々や幸福な出来事。日本の世はいつしか徳川へと移り、次郎左の帰還する目的や必要性は無くなってしまいます。それよりも、必要としてくれている現地の声に応えたい。やがて壮年期を迎える次郎左は、ヨーロッパでも指折り数えられるほどの、名の高い築城士へと成長してゆくのでした。壮大なスケールの物語をお金を掛けずに、脳内で想像を逞しくして悦に入ることができるという事も読書の利点です。本作で取り上げられるような城塞建築の場面など絵で著すのもたいへんでしょうし、映像なら何をかいわんやです。具現化しにくい世界に、飛んで連れて行ってくれるのも、活字の醍醐味ですね。本作で痛感しました。佐々木さんの中世西洋の築城技術の知識、それからなる丹念な記述は、会話は無くとも、そこで働く労働者の息遣いが聞こえてくるほどです。やはり、優れた書き手さんであることは間違いないですね、実力者です。個人的には、やっぱり人名が横文字なのは辛かったです。カタカナ表記が単なる記号に思えて、人物像が頭の中で形になりません。翻訳ものを読破するのは、もっとたいへんそうです。 >> 続きを読む
2015/02/19 by 課長代理
1970年12月。選挙に出馬、初当選を果たした社会党の寺久保は、党から秘書を押し付けられた。それが野崎との運命の出会いだった。北海道の同じ町で同じ年に生まれた二人の男―片や若手論客として頭角を現わし、一方は裏工作をこなしていく。幾多の軋轢を乗り越え、理想と謀略を両輪に政権交代へと邁進する二人に千載一遇のチャンスが。「世界は変わる」と熱く語る政治家像が胸を打つ、傑作ポリティカル・サスペンス。1993年に講談社さんから刊行されたものを、早川書房さんが新装版として2009年に再販した小説です。佐々木譲さんの埋もれた作品を探し出して、そのネームバリューで売上アップを狙ったものと思われます。ポリティカル・サスペンスと紹介されているように国政の政局にまつわる物語なのですが、僕のように背表紙を見ずに先入観無しで読もうと決めているファンにとってはタイトルとカバーのイメージ写真が、読む前の全情報なので、佐々木さんのハードボイルドと思い込み読み始めてしまい、そのあまりの違いにふふんと鼻を鳴らしてしまいました。昭和45年、弁護士である寺久保浩也は、急逝した父の地盤を継ぎ、国政へうってでることを決意します。物語は、第一回の当選を辛くも勝ち取ったシーンから始まります。社会党代議士である寺久保の出馬には、選挙前から党内反発がありました。世襲は認めない、ブルジョア階級の右派じゃないのか…。時は、未だ戦後です。地盤の北海道の炭坑町は、労働者階級の運動盛んなお国柄です。社会党が、ソビエト連邦がとる社会共産主義社会を模範と言って憚らぬ時勢のこと、東大卒業後、弁護士として一時は実社会に出た寺久保はおとぎ話のような理想論よりも、現実的な民主社会主義政治の実現を目指し、さらには政権交代までの青写真を広げます。そんな勢いに掉さすのは社会党の旧態依然とした体質でした。寺久保には当選直後から、野崎浩平という党のつけた第一秘書がつきます。言ってみれば人気はあるがはねっかえりの新人議員のお目付け役。しかし、野崎には密かな野望がありました。寺久保と、その考え方を全面的にバックアップすることで、自分の欲望(政界の裏で蠢くフィクサー役)を実現するということでした。野崎のサポートのもち、順調に当選回数を重ねてゆく寺久保。政局は大きな奔流をみせ、大平内閣総辞職からリクルート社疑獄までの55年体制崩壊までを、政権側からではなく、社会党代議士の目線で描いた政局サスペンスです。様々なジャンルが書けるというのは作家として強みに他なりません。警察小説や冒険小説でおなじみのビッグネームですが、こうした政治的色合いが強い作品も、それなりの体で書くことができます。しかも、時代背景や、政治の裏面など相当量の資料の読み込みや、取材がなければ書けないレベルの現実感を伴った重厚な一冊です。道警シリーズなどのクライムサスペンス、スピード感のあるハードボイルドを期待してしまうと、こむつかしく人物描写の深堀も少ない作品に思えますが、一方で、事象を正確に追いかける丁寧な仕事に感心もする評価の別れる一冊と言えるでしょう。 >> 続きを読む
2015/12/03 by 課長代理
【佐々木譲】(ササキジョウ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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