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八木圭一

著者情報
著者名:八木圭一
やぎけいいち
ヤギケイイチ
生年~没年:1979~

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      一千兆円の身代金
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 前代未聞の身代金を要求する、史上最凶の誘拐劇。
        若者へ負担を押しつける日本の政治や、財政赤字への不満・不安をブログで訴える平岡ナオト。
        彼のもとに保育士や大学生らが集まり、ある計画がスタートする。
        やがて、元首相の孫にあたる小学生が誘拐される事件が発生。
        犯人「革命係」からの要求は、財政赤字の見直し、もしくは一千兆円の身代金だった! 政府、マスコミ、国を巻き込んだ事件の行方は…。

        第十二回『このミステリーがすごい!』大賞作品。

        審査員の皆さん、ちょっと待ってください…。
        なぜ本作が単独で大賞を得られなかったんですか?

        佳作です。
        他作を貶すのは本意ではありませんが、どうしても同時受賞作として比較せざるを得ない『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』と本作とでは現段階での完成度、また著者の将来への期待値で、明らかに本作の方が、『警視庁~』を凌駕しています。
        どの切り口から読めば、両作を甲乙つけがたい…となるのか、本読みの素人の僕にもわかるように説明していただきたいくらいです。


        警視庁刑事部捜査一課特殊捜査係:通称SITへ配属されたばかりの新任刑事が誘拐の第一報を受ける緊迫したシーンから物語は始まります。
        誘拐されたのは元総理大臣の孫。
        「革命係」を名乗る誘拐犯からの要求は「財政赤字と同額の一〇八五兆円を支払うか、もしくは巨額財政赤字を招いた政治的責任を政府として正式に謝罪し、直ちに速やかに具体的な財政再建案を示せ」というもの。
        前代未聞の誘拐劇に狂奔する警察、政府、マスコミ、そして囃し立てる世論。
        混乱の中、捜査の糸口すら見つけることができず、暗礁に乗り上げた捜査本部内の刑事、公安の軋轢。
        そんな中、犯人からの要求と酷似した内容の、ネットサイト「嘆願ブログ」の情報が捜査本部にもたらされる…。


        だいたいあらすじを読んだ段階で、大多数の読者の方々は、ある程度の物語の大枠は予想がつくのではないでしょうか。
        物語は、その予想通りに展開し、終わるのですが、こういう悪く言えば使い古されたような手垢のついたネタを、読者を最後まで飽きさせず連れて行けるのは著者の力量の賜物であると言わざるを得ません。

        全体的に、登場人物の造形は粗削りですが、主要なキャラクターはしっかり作りこまれていますので、感情移入がしにくいということはありませんでした。
        また、短いスパンで切り替えられる登場人物たちの視点という構成。
        これが実に巧み。
        このブツン、ブツンと短く切られる構成が、物語の緊迫感の度合いを否応なしにあげ、また、語られない部分を読者の想像に任せて、次へ進むというスピード感を効果的につくりだしています。
        犯人の名乗る「革命係」というネーミングも斬新、こういうところにセンスの良さを感じました。

        現在の日本が抱える財政的な問題を根幹にして、その周辺の諸問題をもあたかも教科書のように提起し、物語とうまく絡ませながら、読者に問題意識を植え付けることに成功しています。
        目新しい知識をあちこちに散りばめることで、読者の知識欲にも応えています。この辺り、熟練ささえ伺えます。
        テーマが一貫しているので同じことを繰り返し語っているように感じ、それが冗長、もしくはエンタテインメント性に乏しい印象を与えるきらいはありますが、補って余りある論理的な主張と構成の巧みさ、展開の妙に、ミステリの枠を超えた可能性を感じます。

        また、ある世代の熱量を帯びた叫びを小説にぶつけています。
        それが本作のいちばんの肝要部とも言えましょう。
        共感できないとしたら、世代が当該世代よりも上へずれているか、そもそも政治経済にまったく興味がないのいずれかだと断言できると思います。

        「人生に長けた思慮深い大人がいない」という評もありました。
        特にラストシーンなどバリバリのセンチメンタリズムで彩られ、確かに現実はそんなに優しくないとも思います。
        そんなシーンが多いという印象も拭えませんので、上記のような評を受けたのだと思いますが、しかし、そのように殊更評されるほど、本作が現実感に乏しい登場人物だけの理想空間だとはどうしても思えないのです。
        語り口は確かに未熟で青臭く、聞く人がきけば陳腐でしょう。
        しかし時に小説には現実感を押しのけてでも前に出る青い強さの表現があって良いと思います。
        現実感を損なうほどの瑕疵を作品に与えるほどのものでなければ。
        僕には、むしろ、ラストのこの場面での「くささ」は物語の結末を作り上げるうえで必要不可欠なものと思いましたが、いかがでしょうか。

        「このミス」大賞はあくまで新人賞です。
        僕は、乱歩賞受賞作と同様に、この賞を受賞された作品を読むときは、そのことを強く意識して読んでいます。
        つまり、受賞作の現段階での完成度はある程度は問いますが、次作、次々作への期待値、可能性をより重視して読むといった読み方をしています。
        本作の著者、八木圭一氏はコピーライターをなさっておられると紹介されていますが、本作が当然デビュー作。
        これだけ論理的に、現実感のある作品を書くことができる人であれば、当然、将来有望と思いました。
        唾をつけておいて、間違いない作家さんだと思います。
        大賞受賞後の次作を、真実、期待しています。

        いまや「このミス」大賞は乱歩賞と肩を並べるほどの栄誉ある賞に育ちました。
        宝島社さんはじめ選考委員の先生方のたゆまぬ努力と工夫に対して賛辞を惜しむものではありません。
        ですが、今回の同時受賞だけはいただけません。
        電卓をたたかない電卓女刑事の物語は、本作と肩を並べるほどのエンタメ性を有していたでしょうか。
        世代ギャップでしょうか。
        選考委員の顔ぶれが変わらないというのは、より優れた作品の発掘を妨げるものであるのかもしれません。

        選ぶ方にも覚悟を求めたい、そういう感想を持ちました。
        >> 続きを読む

        2014/09/25 by 課長代理

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