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土屋政雄

著者情報
著者名:土屋政雄
つちやまさお
ツチヤマサオ
生年~没年:1944~

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このランキングは1日1回更新されます。
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      4.4
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      • 面白い!上手い!
        …なんて陳腐な言葉しか言えないのは、この小説が小説そのものだから
        ジャンルはSFになるのですが、叙述型ミステリーのように、曖昧な語りからだんだん明らかになる真実の重さが読者を圧倒するというタイプの構成なので、ネタバレ一切禁止としたいです。
        なので、あらすじも語れない…。

        回想録の形で描かれているのは思い出の中の自分と親友たちの生きたすべて。
        友人との楽しい思い出、喧嘩やいざこざ、恋や性や勉強や、そんな日常のことが中心ですが、そこにまぎれもなく異質な運命が入り込んでいてなんとも言えない冷気を発しています。

        正直SFとしてはあまりにも異端です。
        通常、技術的に可能でも現在具現化していない科学技術や実存しない社会システムを描く際には舞台を近未来に設定するものですね。
        ところがこの「わたしを離さないで」は2005年に発表されたのに、1990年代末のイギリスが舞台(つまり当初から過去の物語の設定)と明言されています。
        なのに内容がこれですよ!!
        私たちが知っている世界と別の世界がパラレルワールドのように存在しているわけです。
        ファンタジーや空想には到底思えないリアリティをもって。
        科学技術的な部分については全く現実を無視しているのに。

        観たことのある方は映画の「アイランド」を想起してしまうことでしょう。(私はそうでした)
        合理性からいうと「アイランド」式であるべはずなんですよね。
        まずセレブや金持ちのために、というのが現実的な話としてあり得ます。
        時間と莫大な金がかかるのですから。
        大体なぜ彼らを社会に出す必要があるのでしょう?
        何のために彼らが生まれてきたのかを考えればそのまま施設で管理すべきでしょう。
        安全で無害なホームにいることが必須条件なはずです。
        運転とかして事故にでもあったらどうするんでしょう?
        拒絶反応が全く無視されているのもおかしな話ではないですか。


        ここで私がこの小説が「小説そのもの」だといったことを思い出してください。

        要するに合理的説明はこの際、意味がないのです。
        やはり小説とは人間をいかに存在感をもって描けるかに尽きるのではないでしょうか。
        少なくともこの小説は、テーマやプロットがすべてではないことを教えてくれます。


        千路に心が動きました。さまざまな思いが渦巻きました。
        でも決してお涙頂戴ではありません。
        小説世界にどっぷり浸りました。
        文章も語彙も平易で読みやすく(翻訳もとてもよくフィットしています。まるでもともと日本語で書かれた小説のようです)伝わるべきことが完璧に伝わります。
        登場人物に一層深い感情移入ができます。

        余韻のあるラストも素晴らしい。
        読後、私のロストコーナーを探したくて海に行ってしまいました。
        でも晴海公園は立ち入り禁止でした(T_T)
        直後はほかの本を読みたくなくなり、主人公を想い、意識がさまよいました。

        完璧です。

        思えば私たちの生もキャシーとそう大差ないのかもしれません。
        生まれた社会に規制された人生から逃げることはできない。
        いや、逃げられるのに逃げられないと思って日常を過ごしているではないですか?
        「あなたがたは教わっているようで、実は教わっていません」
        これも我々の現実と同じです。

        キャシーは知ろうとしました。
        その先に希望を見出すために。
        出口がない事を予感しつつ、現実を受け入れる為にも知ろうとしました。
        私達もそうあるべきです。
        だから読書があるのです。小説が必要なのです。
        限りある閉ざされた生の中で、人はそれなりに生き、愛し、日々の楽しみや慰めを見つけ、思い出を集め、破れた夢と現実との折り合いをつけて生き、そして死んでいく。

        「おれはな、よく川の中の二人を考える…(中略)…互いに相手にしがみついてる。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。…(中略)…けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん」

        う~~ん。なんだか悲しくなってきたぞ。

        「わたしを離さないで」とは、こんな思いを生む小説です。

        でも決して暗い小説ではないのが、不思議。
        ドラマや映画では多分徹底して「恋愛もの」という演出をしていることでしょう。
        まあそれも間違いではないですが。

        その程度の緩い小説とは思わないでもらいたいです。

        この小説を読んで生まれてしまったこの感情をどうしましょう。この思いは「私」を構成するパーツの一つになってしまいました。
        私はもうキャシーたちとともに育ったヘールシャムの子どもなのです。
        >> 続きを読む

        2017/10/13 by 月うさぎ

      • コメント 15件
    • 他9人がレビュー登録、 38人が本棚登録しています
      日の名残り
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 是非読んでみてください。
        満たされました。読み終わって心がいっぱいになりました。
        私は多くを語りますまい」。主人公のスティーブンスっぽく言ってみました。
        私がここで読んだことについて、何かを語ったとしても、それはただの陳腐な言葉の羅列になってしまうのは確実なので、ただ「心が満たされ晴れやかになるようなすばらしい作品」とだけ言っておきます。
        フィナーレもとても美しく郷愁的で、何か印象派の絵画を思い浮かべるような感じがしました。そして一番最後のオチもまた、素晴らしい前フリからの美しい落とし方でした。

        ースティーブンスが海辺の町であったジイサンの台詞ー
        「なあ、あんた、わしはあんたのいうことが全部理解できているかどうかわからん。だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。いいかい、いつも後ろを振り向いていたらいかんのだ。後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。何だって?昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなきゃいかん。」

        こういった作品を世に送り続けるカズオ・イシグロが、ノーベル文学賞をとったのは本当に意義深いと思います。私も含め彼の作品に出会える人が沢山増えたという点で。

        >> 続きを読む

        2017/10/16 by Reo-1971

      • コメント 3件
    • 他6人がレビュー登録、 19人が本棚登録しています
      終わりの感覚
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • ジュリアン・バーンズの、情けない男の描き方が好きだ。
        若い頃の友人や恋人を回想していた主人公(60代男性、離婚して今は独身)、ふとしたきっかけがあってその恋人と再会し、彼女と昔の友人の死の謎を解いていく、ちょっとサスペンスっぽい雰囲気のある小説です。

        主人公が実に格好悪くていとおしい。若いときも主導権を握っていたのは彼女のほうだし、一度結婚した元妻との会話も、なんだか垢抜けない。いかにもうだつの上がらない男です。

        昔の彼女は実にわがままで、思わせぶりな態度で一を聞いて十を知ることを強要してくるのですが、いやあ、この主人公には無理だろう。言葉を額面通りに受け取るしかしないのでは、到達できない場所があるものです。しかも、察して動く先を間違えると女王様はお怒りになる。難しいですね…無理だろって気もしますが。

        主人公男性の情けない感じもいいのですが、もうひとつ、忘れてはならないのが若くして死んだ友人エイドリアンです。彼は非常に頭のいい少年なのですが、若くして自殺してしまいます。彼の死がこの小説の要なので、詳しいことは書きませんが、すごく良かった。ものすごく良かったです。

        だんだん年を重ねると、回想する材料が増えていくのが楽しい。若いときには記憶のストックがないので、いろいろと考えすぎてしまうように思います。少なくとも私はそうだった、と思う。ストックがないと自分でひねり出すしかないので、思想が偏るのでしょう。だんだん大人になると、昔好きだった人のことだとか、友達とのやりとりだとか、引出の中身が増えていくので、わかってくることが多くなっていく。大人になればわかるよ、なんて、当時はうそだろと思っていましたが、本当でしたね。ジュリアン・バーンズは、この小説に限らず、回想することの効用をよく知っている人だと思います。とても素敵な人だと思う。いい小説でした。
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        2016/12/15 by ワルツ

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      月と六ペンス
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 【あらすじ】

        「私」がストリックランドとはじめて出会ったとき平凡な男であるという印象を受けた。17年間株式仲買人をして妻子を養ってきた平凡な男。そんな男がある日 なんの前触れもなくパリに出奔してしまう。夫人の依頼を受けて「私」はストリックランドを連れ戻そうとする。なぜ17年間も連れ添った妻と子供を捨てて、パリに訪れたのかと問うと彼は絵を描きたいからとおよそ常人には理解できない返答をするのだった。

        今でこそ天才画家と称されるストリックランド。彼は有名人の例に漏れず、世間から様々な人物像を描かれることとなる。多少なりともストリックランドと交流があり作家である「私」が、彼がどういう人物であったかを書こうと思う。

        【感想】
        ストリックランドは人でなしとしか言いようのない人物だ。「私」は妻子を捨てたストリックランドに対して常識的な非難を浴びせるのだが、彼は微塵も揺るがない。

        「奥様はどう暮らしていけばいいんです」
        「十七年も食わしてやったんだ。そろそろ自力でやってみてもいいと思わんか」
        「無理です」
        「やらせてみるさ」
        (中略)
        「奥様がどうなってもいいのですか」
        「いいとも」(p81)

        あっさり自分の罪を認めた上で、妻がどうなっても構わないと言い切る場面は「私」と同じく、思わず笑ってしまいそうになった。しかし、世間からどう思われようと気にしないと心から言うストリックランドからは薄情さよりも先に野生の力強さを感じた。

        後にストリックランドはパリで、唯一自分の才能を見出す三流画家のストルーブと出会う。しかし、ストリックランドは散々世話してくれたストルーブの人生を滅茶苦茶にする。ここがこの小説のクライマックスだと思う。鬼畜としかいいようのないストリックランドへの怒りや嫌悪はほとんどわかず、道化として描かれた善人ストルーブへ嘲笑を浮かべさせる構造になっているのはなんとも意地が悪くて面白い。善なるものは時に六ペンスほどの価値もないのかもしれない。

        パリ編が終わり、タヒチ編ではストリックランドの生涯の終わりが描かれる(ロンドン→パリ→マルセイユ→タヒチ)。ここは大きな展開があるわけではなく、彼の生涯を第三者から断片的に聞かされるという構造になるため、エンタメ性がガクッと落ちる。けれど、それがかえってストリックランドという画家の実在感を高めている気がする。理想郷、楽園、黄金時代。社会や常識、文化や文明という鎖を食いちぎり、ここではないどこかへ辿り着いた人間が確かにいたのだ。
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        2016/12/24 by けやきー

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 前置きとして、まず読んで思いに浸りましょう、それぞれに。
        だからちょこっとだけ感想書きます。

        読み終えた時、とても静かな悲しみが自分の周りに広がっていた。冬、誰もいない海岸、目の前の広大な海に、ブイだけがぽつんと浮かんでいる、そんな静かな悲しみ。

        その静かな感じはどこから来るのか?

        カズオ・イシグロが自然に、とても自然にストーリーを運んでいっているからだ。だから主人公のキャシーは次々に起こる死を静かにに受け入れていく。キャシーと同じように私たちも死を(死の場面を)静かに受け入れる。それは私たちが提供者の宿命を分かっているからかもしれないが、カズオ・イシグロのストーリー運びの絶妙さに依る所もかなり大きいと思うのである。

        一番私の心に居座っているのは、我々が他人や自分の死を受け入れる時の心の持ち方を(提供者というフィルターを作品から少し獲得した心で)、改めて考えることである。

        火をつけるとパチパチ火花が勢いよくはぜて、そのうち小さなチリチリになって、そして小さな火の球ほのかに光り、最後にポロッと落ちる、そんな線香花火のような風情の作品だと感じました。
        >> 続きを読む

        2017/10/18 by Reo-1971

    • 5人が本棚登録しています
      IBM奇跡の"ワトソン"プロジェクト 人工知能はクイズ王の夢をみる
      カテゴリー:情報科学
      4.0
      いいね!
      • DeepBlueでチェスの世界王者に勝利したIBMが21世紀に入って次に挑戦したのは人気クイズ番組でクイズ王達との対決に挑むという無謀なプロジェクト。

        コンピューターはどこまで人間に近づくことが出来るのか?前代未聞の挑戦の内情を記録した科学ドキュメンタリー作品。

        全世界の航空管制を担うことが出来るほどの驚異的な性能を誇る2880個の並列POWER7プロセッサと数億ページに相当するテキストデータを収納したストレージを武器に天才たちが育て上げたワトソンプログラムが出題内容を瞬時に理解し回答する・・・。

        自然言葉を理解するというのは人工知能の基本ともいえる機能でSF映画では古くから描かれているものの、現実世界でのその分野は未だ人間の頭脳には遠く及ばない。

        ましてや相手は驚異的な正解率と早押しテクニックを有する二人のクイズ王。果たしてIBMは赤っ恥をかくのか、それともDeep Blue以来の偉業を達成するのか?

        今日ではiPhoneにユーザーの問いかけに答えてくれるSiriが搭載され、チェスよりさらに複雑な将棋でもコンピューターがプロ棋士に勝ち越し、自動運転の車の公道試験が始まるなどなど人工知能の時代の幕開けを身近に感じるようになりました。
        一方でこの作品を通して現在の人工知能の難しさ、限界を知ることができます。

        この作品では後日談は描かれていませんがIBMは「ワトソン」の事業化を目指しているそうです。
        自然言語を理解した上で過去の膨大な医療データ(ビックデータ)から瞬時に症例を導き出しアドバイスする。そんな有能な助手が若手医師を助け医療ミス防止に貢献する日が来るのも近いのかも・・・。
        >> 続きを読む

        2014/05/11 by ybook

      • コメント 5件
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【土屋政雄】(ツチヤマサオ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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