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斎藤純の「銀輪の覇者」は、戦前を舞台にした冒険小説の傑作だ。自転車のロードレースといえば、フランスを一周するツール・ド・フランスが有名だが、日本でも明治から昭和の初期にかけて、一般道を走行するロードレースが盛んに行なわれ、国民的スポーツといっていいほどの人気を集めていた。この作品は、その自転車ロードレースを舞台にした、文字通り、手に汗握る冒険小説だ。戦争の足音が聞こえ始めた昭和9年(1934年)5月、荷台の大きな商業用自転車を使用した前代未聞の本州縦断レースが、下関をスタートした。個人優勝二千円、チーム優勝二万円という高額賞金につられて集まった選手は三百人。背広にパナマ帽の紳士もいれば、ランニングシャツにステテコ姿の男もいて、さながら自転車仮装行列。なぜかドイツ人チームも参加している。なかでも異彩を放ったのは、元チェロ奏者にして紙芝居の響木健吾をリーダーとするチーム門脇の四人組。噺家くずれの越前家平吉、小判鮫こと小松丈治、筋肉マンの望月重治。いずれも胸に一物、すねに古傷を秘めた怪しい男たちだが、この臨時編成の寄せ集めチームが、精鋭を揃えた企業チームを相手に、山陽道から中山道へと死闘を繰り広げるのだ。そして、怪しいのは選手ばかりではなかった。大会委員長はどうやら食わせ物らしく、当初からレースの成立自体が危ぶまれていた。自転車部隊の創設をもくろむ陸軍、自転車競技のアマチュア化とオリンピック出場を命題とする帝都輪士会、思想犯を追う特高警察までが潜入して、レースそこのけの謀略合戦を展開していく。著者の斎藤純は、酒・音楽・オートバイ・テニスなどに造詣が深く、センスと切れ味のいいミステリ作家としてつとに知られた人だ。その小説巧者が、この作品では戦前の自転車ロードレースという好素材を得て、冒険小説に歴史小説と社会派ミステリの風味を加えた新しい世界を切り拓いてくれたと思う。 >> 続きを読む
2019/04/14 by dreamer
【斎藤純】(サイトウジュン) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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