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中野恵津子

著者情報
著者名:中野恵津子
なかのえつこ
ナカノエツコ
生年~没年:1944~

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このランキングは1日1回更新されます。
      冬の犬
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 北アメリカの5大湖の東オンタリオ州から東に位置する半島の先、左には「アン」のプリンスエドワード島が見える。
        そこにケープブレトン島ある。ガボット海峡を越えるとニューファンドランド島。
        イギリスから渡ってきた最初の人々が住み着きそこで根を張って、子孫を増やしてきた。言葉はいまだに古い人たちはイギリス、スコットランド地方の、ローランドまたはハイランドなまりを聞くことが出来る。
        その島で育った、アリステア・マクラウドの珠玉の短編集。

        彼は31年間に16編の短編を書いた。この「冬の犬」は後半の8編を納めている。

        何代にもわたる家系を引き継ぎながら、狭い島で農業と牧畜で暮らす人たち。四季を通じて周りの海は姿を変え色を変え、日に染まった夕暮れ、霧の深い朝。四季それぞれの移り変わりの中で暮らす子沢山の一家の一日であったり、兄弟の絆や、父親が息子に伝える、牧畜の智恵だったり。忘れていた遠い暮らしの懐かしい風景が繰り広げられる。
        今は移住者も分化して血のつながりも曖昧になったがやはり名前を聞くと遠い遠い血のつながりがあるような人たちや、よそからきて住み着いた人たちとの交流、牛の種付け、馬の交配。生まれる子どもの世話。春から始まる牧草集め。暮らしは営々と続いている。

        四季折々のささやかな心浮き立つ行事の様子など、すべてが命を繋いでいくという終わりのない生活の中で、悲しみや喜びを載せて鮮烈にまた刺激的な出来事もこめて、濃く暖かく暮らしを描きだす。
        時には厳しい雪との戦い、馬で走ると巻き上がる光の粉の様な雪のかけら、馬の白い息。都気に襲う猛吹雪。冬の描写は美しく厳しい。
        春一面の芽を吹く一面の緑。そのなかでで生きている人と家畜の愛情深い交わりが今では遠くなった暮らしをしみじみと見せてくれる。


        「幻影」

        船の舳先からカンナ島の湾曲した先が見える。小さな半島だったが当時は船で行くのが近かった。やっと許されて双子がそこに行き、不思議な盲目の老婆に会う。その先に2人の曽祖父と曾祖母が住んでいた、雨を避けて駆け込んだ盲目の老婆の荒れた家の中は、犬と猫がすみつき、寒い日は壁板をはずして燃やしているようだった。
        ある日遠く黒いけむりがたち昇るのが見え老女の家が焼けたのを知った。盲目の父はその半島の昔のことを知っていた。
        今では車で海伝いに池が近い距離だが、子ども時代には遠く離れた不思議な島だと思っていた。陸地では酪農、海では兄弟は父とともに海老もとっている。なんだか「フォレスガンプ/一期一会」を思い出した。、子犬を拾って育て、その犬の子どもたちに殺された話。それは今でも死を前にした人の前に灰色の大きな犬が幻のように現れるという、その言い伝えは心の奥深くひそかに受け継がれていた。父の臨終で犬の気配はないか、父は何かを怖がってはいないか。子どもたちは息をつめて見守っている。

        冬の犬

        12歳のとき子犬が箱に入れられてやってきた。犬は大きくなるにつれ足は毛で覆われ、コリー特有の金色の毛に変わった。しかし訓練しても役には立たなかった。犬はますます大きくなり、羊は追い払う役立たずの乱暴犬になった。
        力があるのでそりをひかせて流氷を見に行った。アザラシが流れているのを見つけたが重くて海岸まで運ぶのに骨が折れた。氷の割れ目に半分浸かりながらもがいていると、流れていく流氷を飛び越えて犬は案内をするように走り陸にあがった。そしてなぜか安全な氷を渡ってまた戻ってきた。
        風の強い日だったので私の声が聞こえたのかそれは知る由もなかった。
        家にそっと帰り誰にも気づかれず服を着替えて居間に戻った。犬はそのまま寝そべっていて「どこへ行ってきの。こんなにびしょびしょで」叱られる前にわたしは犬の周りを何気なくモップで拭き取り。犬に助けられたことは誰にも言わなかった。それから二度目の春。こんもりした丘の上に座っていた犬が撃たれた。弾は肩を射抜き犬は宙に跳び上がった。それでも1キロも歩いて家に帰ろうとしたのだ。
        犬は私たちと暮らしたのは短い年月で、犬はいわば自業自得で自分で運命を変えたのだが、それでもまだあの犬は生き続けている。私の記憶に中に、私の人生の中に生き続けている。

        「完璧なる調和」

        父、アーチボルトはみんなでゲール語の歌を歌ってほしいと言うリクエストが来た。ちょっとした紹介番組だったが、歌を途中で切られるのが気に食わなかった。でもアーチボルト一族の歌のうまい人たちが集まった。
        最後まで読んで、長い長い涙まじりの溜息が出た。

        たまにこうした「完璧な宝石のような文章」といわれている本を読むのも読書の楽しみかもしれない。何を読んでもすぐに忘れるのに、これは何かいつか見たことや感じたことが思い出されるようだった。長く記憶できそうな作品だった。
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        2016/09/13 by 空耳よ

    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      クリスマスの木
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! Moffy
      • 後一ヶ月でクリスマス。
        クリスマスの出来事を綴った物語かと思いきや、クリスマスの前準備に関連するお話でした。
        主人公はクリスマスの為の立派な木を探していた。
        ついに「これだ」という木に出会う…が、その木はある女性の「友人」であった……

        一人の少女(?)とドイツトウヒ「トゥリー」の友情を描いた一冊。
        返事も感情表現もできなかったが、独りぼっちだった彼女の心に、「トゥリー」はしっかり寄り添ってくれた。
        このような「無言の友情」もあるんだなぁと思いました。まだそれがどういったものなのか、今の私には言えないけど。いつか分かる日がくるかもしれない。

        「返事も感情表現もできなかった」と述べたが、実はそうでもないかもしれない。
        彼女の愛情があったからこそ、「これだ」と思わせるような立派な木になれたのだろう。
        そして、「トゥリー」を手放した彼女もすごい。
        もちろんずっと一緒にいて、傍におきたかったのだろう。でも、それ以上の、自分自身の利益を考えた上でない大きな思いやりがあった。
        だから「トゥリー」は輝けた。その木の「人生」の終わりに、多くの人にぬくもりを届けられるクリスマスツリーとして。
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        2017/11/20 by モッフィー

    • 1人が本棚登録しています
      灰色の輝ける贈り物
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • わたし自身は知らない作家であったが、読書家の中では大変評判のいい作家だということを知り、是非一度読んでみたいと思ったアリステア・マクラウド。
        この作家は寡作のひとらしく、文庫化されているものは見当たらない。主に短編を書くようで、その短編をまとめた二冊をようやく見つけたので一冊購入してみた。

        八編からなる短編集。
        マクラウドの初期の短編をまとめたものらしい。
        年代順にまとめてあり、1968年から1976年の作品までが収められている。

        全編通して感じることは、炭坑労働者の父や祖父と息子といった設定のものが多く、大人になる手前の青年が等身大の姿で描かれている。
        炭坑という言葉から想像される、暗く厳しく貧しい生活と哀愁や侘しさが丁寧な状況描写によって、読み手の胸に映像のように浮かび上がる。

        物語は派手なものではなく、ある一日を切り取ったようなもので、ままならない人生や変わりのない日常、生命の儚さといったものが感慨深く綴られる。

        時に露骨な性や遺体の描写があったりするが、不快さは不思議と感じられず、物語に馴染んでいる。

        少年が家族で父親の故郷に行き、過ごす姿を描いた「帰郷」、少年と生活が貧しく売らざるを得ない老馬とを描いた「秋に」、「失われた血の塩の物語」の三作が特に印象に残った。

        好みは別れるかもしれない地味な作品ばかりだったが、わたしは早速もうひとつの短編集「冬の犬」を購入した。
        静かで色褪せたようなマクラウドの世界は、居心地の良ささえ感じた。
        >> 続きを読む

        2016/09/16 by jhm

      • コメント 2件
    • 2人が本棚登録しています
      密会
      カテゴリー:小説、物語
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      • アイルランド、いや世界を代表する短編作家ウィリアム・トレヴァーの短編集。

        「死者とともに」「伝統」「ジャスティーナの神父」「夜の外出」「グレリスの遺産」「孤独」「聖像」「ローズは泣いた」「大金の夢」「路上で」「ダンス教師の音楽」「密会」

        トレヴァーは、人々の何気ない日常とか、些細な出来事で起こる人の心の動きとを、流れるような文章で描きます。
        読んでいると、いつのまにかその作品の中に引き込まれ、主人公と同じ目線でアイルランドの田舎の風景をながめている自分がいたりします。
        「密会」では、不倫する男女の、別れにと向かっていく2人の気持ちが徐々にずれていくその自然な描写が秀逸です。
        「大金の夢」でも、結婚を約束した男女が、遠距離恋愛になり、それによってお互いの気持ちの距離も、少しずつ遠くなっていってしまい、静かに終わりを告げるように物寂しく描かれています。

        読後にふと、深いため息をついてしまいます。
        >> 続きを読む

        2017/10/31 by Reo-1971

      • コメント 4件
    • 1人が本棚登録しています

【中野恵津子】(ナカノエツコ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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