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田中一江

著者情報
著者名:田中一江
たなかかずえ
タナカカズエ
生年~没年:1953~

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このランキングは1日1回更新されます。
      ねじまき少女
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね! Tukiwami
      • 【ねじまき少女の存在が何とも切なくさせます】
         SF作品の多くは、独自の世界を創造していることが多く、読者は、それがどういう設定の世界なのかを理解することが重要になる場合がありますよね。
         ところが、最近のSF作品の中には、極めて特異な世界を構築しているにもかかわらず、その世界に対する説明がほとんど無いものが多く見られるように思います。
         読者は、作品を読み進める過程で、徐々に世界に対する理解をしていくように求められており、作者側から積極的に、まとまった説明がなされないのですね。
         本作もまさにその様なスタイルの作品の一つです。

         作品の舞台になっているのは、未来のタイ王国です。
         どうやら人類は大規模な食物危機を迎えているようです。
         それは、ニッポン・ジーンハック・ゾウムシという害虫や瘤病等という作物の病気が大発生したために、多くの食物が被害に遭い、未曾有の食物危機が発生し、多くの人間が飢えて死に、あるいはそれら病害虫に犯された食物を食べることにより人間も新種の病気に感染して死亡するという大厄災に見舞われたようなのです。

         また、石油資源が枯渇したため、エネルギー欠乏に陥っており、人類はゼンマイ動力や人力、廃棄物から産出されるメタンガスなどにエネルギー源を頼らざるを得なくなっているようです。

         作物危機を乗り切るため、遺伝子操作による食物の品種改良が何度も繰り返されたのですが、病害虫や疫病もその度に種やウィルスが変異していき、いたちごっこの様相を呈しています。
         人類は、病害虫や疫病に耐性のある数少ない種類の食物しか食べることができず、それら遺伝子操作した食物を生産しているのは、いくつかの世界的大企業だけに限られており、これら大企業で働く者はどうやら『カロリー・マン』と呼ばれているようです。

         そんな世界的危機の中、タイはかなり上手く立ち回ることに成功し、独自の耐性のある種のデータベースを構築できたため、カロリー企業に隷属することなく確固たる地位を保持できているようです。
         しかし、タイの気候は大変厳しい。
         酷暑が続きますが、現在のように冷房など稼働させるエネルギーはなく、人々はうだるような暑さと湿度の中で気息奄々となりながら生きているのでした(氷だって大貴重品です)。

         遺伝子操作は食物以外の分野にも浸透しています。
         その一つが、とある大富豪が娘へのプレゼントとして作り出したチェシャ猫です。
         ええ、あのアリスに出てくる、にやにや笑いを残しながら消えていく猫です。
         あれが作り出され、世界に蔓延したため、通常の猫が絶滅してしまい、世界中にはチェシャ猫がはびこっているのです。
         
         また、標題の『ねじまき少女』もそのような遺伝子操作技術により日本が生み出した『新人類』なのです。
         日本では、新人類は広く認知されており、非常に美しい『ねじまき少女』が生み出されて秘書などとして社会に溶け込んでいました。
         また、異形の新人類は、兵士として戦争に投入されもしたようです。
         新人類を使役する習慣がある日本は特殊な国であり、多くの国では新人類は違法であり、タイもまた同様でした。
         エミコも、そのような『ねじまき少女』の一人で、日本の大企業で秘書として稼働していたのですが、その大企業の重役がタイを訪れた際、日本に連れ帰る費用を惜しみ、タイに残した『ねじまき少女』だったのです。

         タイにも、非合法の新人類はいくらかは存在しているようですし、一般人はそのような新人類を見つけても無関心に放っておくのが通常ですが、タイの環境省の実力部隊である『白シャツ隊』に発見されれば、即座に逮捕され、廃棄される運命でした。
         しかし、タイは贈収賄が蔓延している社会です。
         金を持っている者の中には、そのような『ねじ巻き少女』を売春婦として使役している者もおり(確かに人工的にではありますが、大変美しく作られた女性ですから)、賄賂をばらまくことによって、目こぼしを受けているのでした。

         エミコも、現在ではそのような売春婦として生きていくしかなく、また、新人類の特長として、動作がどうしてもぎくしゃくしてしまうため、不用意に売春宿の外に出れば迫害されたり、官憲に通報されて廃棄されてしまう危険を抱えながら生きていました。
         希望は……ほとんどありません。
         ただ、タイの北には、エミコのように暴力と恐怖によって支配されていない、新人類だけの村があるという噂だけが希望と言えば希望でした。
         北へ向かうためには沢山の許可と莫大な費用がかかるのですが、エミコは何とかして北へ行くことができないものかと、淡い希望を抱いているのでした。

         上巻では、この様な極めて特殊な世界が描かれることにほぼ紙幅の全てを割いています。
         エミコの存在は、非常に哀しく、切ないキモチにさせます。
         また、カロリー・マンは、現在は病害虫等に耐性のある食料を生産することにより覇権を握ってはいるものの、いつまた新種の変異した病害虫が発生しないとも限らないため、新種の食物の開発と効率の良いエネルギー資源の開発にやっきになっており、特に、タイ政府が保持している種のデータベースへのアクセスを渇望しています。

         さらに、贈収賄が蔓延する社会の中で、環境省の白シャツ隊の隊長だけは頑として賄賂を受け付けず、食物の密輸や違法な遺伝子操作による有害食品などの取り締まりを苛烈に行っていたのですが、それは利益を追求したい通産省と利害が対立することであり、目障りになった白シャツ隊の隊長が抹殺されるという事件も描かれていきます。

         上巻はまだ物語の前提となる状況を描き出す段階にとどまっており、コアな部分はこれからという感じなのですが、極めて特異な世界を生み出している事は間違いなく、下巻の展開が楽しみになる一冊です。
        >> 続きを読む

        2019/08/14 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      エンダーのゲーム
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! Tukiwami
      • 新年からSF小説ばかり。おすすめの図書にあったので読んでみたが、物語に引き込まれる面白さがある。たった6歳の子供が地球を救うという設定。天才児たちのゲームのやりとりは文字だけでも十分想像できて楽しめる。はてさて、この先どうなるのだろうかと続けて下巻も一気に読んでしまった。
         最後は、あっと驚く展開だった。主人公エンダーが成長していくさまがよくわかる。この小説はまだまだ先があるようだが、とりあえずここで読了しておくとする。
        >> 続きを読む

        2019/01/09 by KameiKoji

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      ヴァーチャル・ガール
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【ロボットに人間の心は宿るか?】
         古来、人造人間テーマの作品は数多く書かれてきました。
         美しい女性を象った像に命が宿る『ピュグマリオン』を初めとして、シェリー夫人は『フランケンシュタインの怪物』を書き、リラダンは『未来のイヴ』で人造人間を作りだし、はたまたホフマンは『砂男』でオリンピアという人造人間を登場させました。
         最近では、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』に登場したタングが何とも可愛らしかったのが記憶に新しいところです。

         さて、本作もアーノルドという天才的科学者が、マギーという美しい女性の姿をした人間と見分けがつかないロボットを作り出すというお話です。
         アーノルドは、実は大富豪の息子なのですが、ロボット開発に熱中し、当時施行されていたAI法はロボットの製造を禁じていたにもかかわらず違法な研究にのめりこみ、対には在籍していたMITを放り出され、その後は裕福な生活を忌避して父親から逃げながら自動車修理工場を営んだりスクラップ漁りをしながら金を稼いでガレージ・ハウスでマギーを作り上げてしまうのです。

         完成したマギーはまるで生まれたばかりの子供のようです。
         世界のことを何も知らず、初めは本や映画の知識を与えますが、現実に触れることはそれとはまた全く違うことでした。
         アーノルドは少しずつマギーを家の外に連れ出してこの世界のことを理解させていきます。
         しかし、マギーの世話に時間を取られてしまうため、どうしても稼ぎが悪くなってしまいます。
         自由に使える巨額の口座はあるのですが、父親がその口座の動きを監視しており、下手に手をつけると居場所がばれて父親の手が回り、家に連れ戻されてしまうおそれがありました。

         アーノルドはぎりぎりまで口座に手を出さなかったのですが、もう限界です。
         口座からまとまった金を引き出し、追っ手が迫っていることをマギーの力によって察知するや、マギーを連れて逃亡の旅に出たのです。
         世間のことを十分に知らないマギーは危なっかしくて仕方がありません。
         美しい女性に作ってしまったために男に目をつけられることもしばしば。
         アーノルドは、ホームレス生活をしながら、生きていく術をマギーに教えていくのでした。

         しかし、こんな物騒な世の中でこんな生活が長続きするわけもありません。
         アーノルド達は遂に暴漢に襲われ、アーノルドはナイフで刺されてしまいます。
         その時、マギーのセキュリティ・プログラムが発動し、マギーは暴漢を殺してしまいます。
         「逃げろ!」というアーノルドの指示に従い、セキュリティ・プログラムはマギーの真意を無視して逃亡を開始するのでした。
         こうしてマギーとアーノルドは別れ別れになってしまいます。
         その後、マギーが自我を確立していく過程が描かれる物語です。

         というわけで、本作はSFではあるのですが、良く言えばファンタスティックで、SFが苦手という方にもそれほど抵抗無く読める作品になっています。
         逆に言うと、マギーは、最初は(疑問を感じつつも)アーノルドの指示に従っていましたが段々と自我を確立するという過程が描かれはするものの、どうも最初から自分の意思や人格を備えているように読めてならず、最初からそんな人格や感情を備えている高度なロボットをガレージ・ハウスなんかで作り上げてしまうってどうよ?という気もしてしまいます。
         まぁ、SF読みみたいな細かいこだわりは持たずに、素直に気楽に読むのがよろしいでしょう。

         マギーを人間だと思っている間は親しく接してくれた人でも、一度マギーがロボットだと分かると、恐れ、遠ざけようとする人もいるということ。
         あれほどマギーを愛してくれていると思っていたアーノルドの心の奥底にあったこと。
        人間というのはいかに壊れやすいものであるかということ。
         そういう多くのことを、マギーというロボットの視点から綴った作品です。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
        >> 続きを読む

        2020/06/23 by ef177

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