こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)


法月綸太郎

著者情報
著者名:法月綸太郎
のりずきりんたろう
ノリズキリンタロウ
生年~没年:1964~

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      ノックス・マシン = Knox's Machine
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • 【本格推理小説fanなら大好物!】
         私は、推理小説、それも、「本格物」、「パズラー」などと呼ばれる作品が大好きです。
         私と同じ趣味をお持ちの方なら、この本は終始にやにやしっぱなしで大変楽しめるはずです。
         本書には、4編の短編が収められていますが、どれもすこぶる機知に富んだ楽しい作品です。

        ○ ノックス・マシン
         「ノックスの十戒」と呼ばれる、ロナルド・ノックスが作った「本格推理小説の掟」とでもいうべきものがあります。
         「ノックスの十戒」5番目に何とも不思議な掟が定められているのです。
         それは、「探偵小説には、中国人を登場させてはならない。」というものでした。
         何で中国人を出してはいけないのだ?
         本作は、この「ノックスの十戒」をネタに、タイムトラベルを絡めたSF仕立てになっています。
         どうしてノックスがこのおかしな掟を定めたのかがユーモラスに謎解きされていますよ。

        ○ 引き立て探偵倶楽部の陰謀
         古典推理小説には、探偵の名相棒が登場しました。
         ホームズのワトソン、ホアロのヘイスティング大尉などなど。
         本作は、このような名脇役達だけで結成された「引き立て探偵倶楽部」なる組織が舞台となります。
         今回俎上に上げられるのは、クリスティの名作「そして誰もいなくなった」です。
         引き立て探偵倶楽部の会員であるヴァン・ダイン(フィロ・ヴァンス物の作者であり物語の語り手でもあります)が、「そして誰もいなくなった」などという作品が発表されることは推理小説の滅亡であると厳しく糾弾し、会長のワトソンもこれに同調して緊急会議が開かれることになったのです。
         そもそも、ヴァン・ダインの故国アメリカでも、名脇役などは必ずしも必要ないとする作風が流行りだしており(一匹狼のハード・ボイルド物なんてその典型ですよね)、しかも、ヴァン・ダインも、「ノックスの十戒」同様の「ヴァン・ダインの20則」(これも前記レビューでご紹介しています)を発表しており、フェアな推理小説を強く主張していたため、脇役は出てこないわ、余りにも斬新なトリックを使ってるわの「そして誰もいなくなった」など到底認められないと主張するのです。
         クリスティに出版取りやめを求め、それが聞き入れられなければクリスティを暗殺すべしとの過激な主張が唱えられます。
         さて、クリスティが産んだヘイスティング大尉(彼も引き立て探偵倶楽部の会員です)は、生みの親のクリスティを守ることができるのか?
         現実に起きたクリスティ失踪事件も絡めてのにやにや物も作品です。

        ○ バベルの牢獄
         SFです。
         人類とサイクロプス人は敵対関係にあり、人類はサイクロプス人の精神攻撃に手も足も出ませんでした。
         ところが、ある時ブレイクスルーが起き、精神攻撃に対する手段として、人類は自己の鏡像人格を生み出すことに成功したのですね。
         これは、いわば左右の手のようなものです。
         左右の手を合わせてみてください。親指は親指に、小指は小指に重なりますよね。
         でも、今度は左手の甲の上に右手を置いてみてください。
         こうすると、左手の親指の上には右手の小指が来て指が合致しなくなりますね。
         サイクロプス人は一つ目であるため、このような立体処理が理解できないのだというのです。
         そこで、サイクロプス人の精神攻撃に対する手段として、この様に鏡像人格と本来の人格を交互に入れ替えることによって防御しようという作戦なのですね(分かったような分からないような……)。
         ところが、常時シンクロしているはずの鏡像人格との同期がいきなり断絶してしまったのです。
         これは一体どうしたことだ?
         この罠から逃れるためにはどうすれば良いんだ?
         断続的に交信される鏡像人格との思念による通信から、ついにこの状態からの脱出方法を見出す主人公。
         鏡文字を上手に使った、また、本自体を使った作品です。
         さて、本作中に示されている脱出方法ですが、それは実際にあなたが読んでいるその本でもちゃんと実現されているのですよ。

        ○ 論理蒸発-ノックス・マシン2
         すべての書籍がデータ化され、ネットワーク上で管理されている未来社会が舞台です。
         最初に収録されている「ノックス・マシン」の続編でもあります。
         ある時、ネットワーク上の書籍が炎上し始めるという事件が勃発します。
         まさに、ブラッドベリの「華氏451度」の世界がネットワーク上で起きてしまうのです。
         火は飛び火し、データ化された書籍が次々と灰になっていきます。
         何とか阻止しなければ。
         火もとはどうやらエラリー・クィーンの「国名シリーズ」の中の一作、「シャム双生児の秘密」らしいのです。
         クィーンの「国名シリーズ」は、すべての情報は読者に与えられたとして、物語の途中に「読者への挑戦」が挟まれていることで有名なシリーズです。さあ、犯人を当ててみたまえというわけですね。
         ところが、「国名シリーズ」であるにもかかわらず、「シャム双生児の秘密」にだけは、この「読者への挑戦」が挿入されていないんですね~。
         全く、良いところに眼をつけました。
         これも「本格推理小説fan」ならにやにやものです。

         というわけで、私は大変面白く読ませて頂きました。
         同好の士には絶対の自信を持ってお勧めしちゃいます(ただし、ハードSF苦手という方は除く)。
         
         それでは、最後に私の推理が間違っていたことをご披露してこのレビューを締めることにしましょう。
         著者の作品を読むのはこれが初めてでした。
         ええ、もちろん、著者のお名前は存じ上げておりましたよ。
         法月綸太郎。
         私は、このペンネームは、当然、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」に登場する、ウルトラ・ペダンティックな名探偵、「法水麟太郎」から取ったものと推理して全く疑いませんでした。
         ですが、この度、レビューを書くに当たり確かめてみたところ……間違っておりました。
         ペンネームの由来は、「鳴門秘帳」に登場する隠密の「法月弦之丞」から取られたんですって。
         参りました m(_ _)m
        >> 続きを読む

        2019/03/31 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 9人が本棚登録しています
      生首に聞いてみろ
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね! Tukiwami
      • 【よく練り込まれた新本格ミステリ】
         いわゆる『新本格派』と呼ばれる著者による、よく練り込まれたミステリです。
         まぁ、『新本格派』と言っても、島田荘司氏がこと細かく定義したほど犯行現場などを限定しない場合も含めて、広く『社会派』の後に再生された『本格派』を総称して『新本格派』と呼んでいるようなので、その実質は基本的に『本格派』と大きな違いはないのではないかと思ってはいるのですが(この辺りの認識にはやや自信が無いので誤っていたらごめんなさい)。
         もちろん、『新』を名乗る(呼ばれる)だけあって、過去の『本格派』の弱点と言われた点についてはよく研究されており、そういう弱点を克服して再生した『本格派』だろうと思っているのですが。

         さて、本作の事件の発端は、前衛彫刻家の死にまつわる盗難事件でした。
         癌に冒されていた前衛彫刻家は、死期が近いことを知り、最後の制作として、自分の娘をモデルにした石膏像を造りました。
         この彫刻家の得意な手法は、モデルの身体を直接石膏で型取りして、それを雌型として石膏像を造るというものでした。
         この手法の弱点は、必ず目を閉じた像ができるという点です。
         目を開けたまま石膏で直接型取りしたら目を痛めちゃいますからね。
        彫刻家は、この弱点を克服しようと過去に色々やったことはあるのですが、うまくいかず、この手法を封印していたこともあるのですが、最後の作品はやはり自分の代名詞でもあるこの手法による制作を決意したのでした。

         その像は完成したようですが、完成後間もなく、彫刻家はアトリエで倒れてしまったのです。
         完成した彫刻にはカバーがかけられていたため、まだ誰も見ておらず、いや、そんなものを見ているなんていう場合じゃなく、彫刻家を病院に運び込むなどバタバタしていました。
         彫刻家はその後、間もなくして息を引き取ってしまったのですね。

         密葬等も終えて、一息ついた時、彫刻家を運び出した後、施錠されていたアトリエに、モデルになった娘が一人で入り出来上がった彫刻を見ていました。
         その後、娘により再びアトリエは施錠されたのです。

         その後、通夜、告別式なども済ませ、ようやく一段落した後、親族等が娘から鍵を受け取ってアトリエに入ったところ、何と、完成していた石膏像の首が切断されて盗まれているではないですか。
         外に通じる窓ガラスが割られており、どうやら犯人は窓からアトリエに侵入したのではないかと思われます。
         娘の話では、自分が見た時には確かに首はついていたと言うのです。
         彫刻家の遺作を毀損されたことも問題ですが、娘がモデルになっている像の首が切断されたという点から見て、単に石膏像を破壊しようとしただけとは考えられず、もしかしたら娘に危害を加えるという脅迫ではないかとも心配されました。

         そこで、調査を依頼されたのが、著者の作品でシリーズ探偵を務める法月綸太郎というわけです。
         法月綸太郎は、作者と同名の探偵役で、作中でもミステリ作家という位置づけになっています。
         父親は警視庁の現役警視であり、この辺りはエラリー・クイーンを踏襲しているわけですね(但し、著者の作品はクイーン作品とは異なり、神の視点から三人称で描かれます)。

         綸太郎が調査を進めていくと、娘は過去に写真のモデルになったことがあったのですが、その際の写真家にしつこくつきまとわれ、亡くなった彫刻家の父によりその写真家が遠ざけられていたという事実も判明しました。
         どうも、この写真家、素性がよろしくなく、あちこちで恐喝めいた事件を起こしているようなのです。
         もしや、この写真家が、邪魔な彫刻家の父親が亡くなったことを良いことに、仕返しのためにこんなことをしたのではないか?とも疑われます。

         そうこうしているうちに、娘が失踪し、彫刻家の遺作展が企画されていた愛知県の美術館に、娘の切断された首が送りつけられるという事件が発生します。
         この遺作展を企画していた彫刻家と知り合いのプロデューサーのような男が、丁度愛知県の美術館に打ち合わせに出かけた日を狙ったかのように首が送りつけられ、プロデューサーが宅配便を開けて首を発見したのです。
         そして、その後、プロデューサーも行方をくらましてしまうのです。
         綸太郎の調査の結果、どうやらこの事件には娘の出生に関する秘密が関係しているかもしれないということも明らかになっていきます。

         と、まあこういうストーリーなのですが、とにかく伏線が細かく張られており、非常に練り込まれたミステリだという感想を持ちました。
         トリックらしいトリックが無い作品という点でも『新本格派』らしいと感じます。
         トリックなど無くても本格ミステリは書けるという良いお手本ですね(一応、アトリエにどうやって侵入したのかというトリックめいたものはあるのですが、これは物語の早い段階で綸太郎によって謎解きされてしまいますし、このトリックだけで引っ張っている作品では全くありません)。

         いわゆる首無し死体殺人の逆ヴァージョンのような作品なのですが、もちろん顔が残されていますので、死体の身元を偽るというトリックを狙ったものではありません。
         第一、昔の作品ならいざ知らず、現代の作品では死体の首を切断して隠しても、指紋やDNAから死体の身元は判明しますので、身元を偽るために首を切るという手口はもはや使えないのですが。
        では、何故、石膏像や娘の首を切断したのでしょうか?
         単に猟奇的な犯罪という以上の理由付けをしないことには『新本格』の名が廃りますが、この点についてはそれなりの説明が加えられています。

         一点だけ、残念に思ったのは、探偵役の綸太郎があまり賢く見えないという点なのです。
         というのも、本作においては登場人物のうち複数の者が、この事件の真相(あるいは真相にかなり近いところ)を見抜いてしまっているのですが、綸太郎はなかなか真相にたどり着けずにいるからなのです。
         巻末のインタビューを見ると、著者は頭脳明晰で快刀乱麻のように謎を断ち切って真相にたどり着くタイプの探偵役よりは、間違えながら、迷いながら真相にたどり着くタイプの探偵が好きだということですし、また、綸太郎はあくまでもアマチュアであって、本業の作家業の傍ら、頼まれて調査をしているという立場なので、そんなに名探偵としては描きにくいということもあるのでしょうけれど、『本格』の流れを汲むからにはやはり名探偵が登場して欲しいなぁと思ってしまうのでした。

         そうそう、もう一点気になった点がありました。
         それは本作のタイトルなんですね。
         私はあまり良いタイトルとは思えなかったのです。
         『生首』として登場するのは被害者の娘の首だけなのですが、この首に謎を解く鍵があるわけでもありませんし、何だかホラーじみた印象を与えるタイトルで、ここはもうちょっと何とかならなかったかな~とも思いました。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
        >> 続きを読む

        2020/04/22 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      キングを探せ
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • 久々の法月綸太郎作品は、交換殺人もの。
        だがこれが4人で行われたらという前例のないものに仕上がっている。

        それぞれの事情によって殺したい者がいる人間同士が集まって、交換殺人を行うと画策。
        それぞれの証としてトランプのエースとジャック、クイーンにキングのカードを1枚づつ持つことに。

        そして起こる殺人によって、法月警視と綸太郎が思案していく案件に。

        いかにして交換殺人を見抜くのか。また4人という関係をどうやって知るのか。

        犯人側との駆け引きでも楽しめるが、このシリーズにしてはライトな中身なのでさらっと読める。
        >> 続きを読む

        2019/10/09 by オーウェン

    • 他2人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      9の扉
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! ooitee
      • リレー形式の作品だけど、基本は独立した作品。
        そのなかで次の作家にお題を与えるという趣向。

        難しいと思うのだが、そこは力のある作家が揃っているの心配なし。
        表紙に載っている作家は皆代表作を持っている売れっ子だから。

        20~30ページほどなのですごく読みやすいし、その中で急激な変化が起こる作品もある。

        貫井さんから歌野さんへの連作というサプライズもあるし、ラストの辻村さんから冒頭の北村さんへと繋がるというのには納得。

        他にも法月さんの真田幸村だったり、麻耶さんの意表を突く趣味だったり。
        大きく外れがないというのは、選ばれた作家がいかに優秀かよく分かる。
        >> 続きを読む

        2018/03/30 by オーウェン

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      生首に聞いてみろ the Gorgon's look
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! Tukiwami

      • 友人の写真家の個展を訪れた名探偵・法月綸太郎は、そこで旧知の翻訳家の川島敦志と姪の江知佳に出会う。

        江知佳の父親は、前衛的な彫刻で知られる川島伊作。
        近年は、創作上のスランプに陥り、随筆家として活躍していたが、ちょうど大病の手術を終え、江知佳をモデルにした久々の新作の彫刻に取り掛かっているところだった。

        しかし、ちょうどその日、新作に情熱を注ぎ過ぎたためか、アトリエで倒れ、帰らぬ人となってしまう。
        その上、葬儀が終わった直後、江知佳をモデルにした件の彫刻「母子像」の首が切断され、持ち出されているのが発見される。

        まるで殺人予告かのような盗難に江知佳の身を案じ、敦志は綸太郎に捜査を依頼するが、伊作の追悼展が開かれる名古屋の美術館に江知佳の切断された首が送りつけられてしまう-------。

        この法月綸太郎の長編ミステリ「生首に聞いてみろ」は、第5回本格ミステリ大賞受賞作で、著者が受賞時のコメントで「はじめにタイトルありき」と述べている題名は、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」のもじりであり、川島家の複雑な家庭事情や、中盤のある関係者への事情聴取の場面は、ロス・マクドナルドの影響がうかがわれますね。

        そして、その佇まいは意外と軽やかで、エラリー・クイーン的な思索は一旦、後景に退き、綸太郎によるいくつかの失策も、苦悩よりはむしろパズルのピースとして我々読者を驚かせる構図に繋げられる。

        そういった在り方は、二転三転する石膏像の首を巡る議論や、精緻な伏線が真相に収束する筆致と相まって、克己的ともいえる印象を与えていると思う。

        芸術家と、彼が遺した作品を巡るミステリというと、著者の名作「カット・アウト」が思い出されますが、この作品も人体を直取りした石膏像の"模倣"についての掛け合いなど、謎解き推理のアナロジーとして、芸術を見つめる視線が散見される。

        これは最終的には否定されるのだが、早い段階で美術評論家・宇佐見によって提示された仮説は実に魅力的だ。

        そういった衒学趣味が知的興味を喚起する一方、最終的に明るみになるのは、芸術家の周縁で運命に蹂躙された女性たちの姿であり、ラストで一人残された家族が漏らす嗚咽は、何とも物悲しい。

        >> 続きを読む

        2019/02/22 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      法月綸太郎の新冒険
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      •  毎回、予想しない結末なのに、筋道の通った結末に、そういうことだったんだと納得し、推理小説の醍醐味を感じます。
         どれも印象深い作品ばかりでしたが、『身投げのブルース』の意表を突く結末だったので、強く印象に残っています。この作品に登場する葛城刑事は、解説をよると『パズル崩壊』という作品にも登場するようなので、近々読んでみたいと思います。
        >> 続きを読む

        2020/07/05 by youda

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      法月綸太郎の功績
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!

      • 法月綸太郎の第55回日本推理作家協会賞短編部門の受賞作「都市伝説パズル」を含む計5編の作品が収録された、法月綸太郎シリーズの第三短編集「法月綸太郎の功績」を再読。

        サークルコンパの夜、二次会の会場となった大学生の部屋で、殺人事件が発生する。
        現場には「電気をつけなくて命拾いしたな」という血文字が残されていた。

        前後の状況から、犯人は有名な都市伝説を模したと思しいのだが-------。

        "脱格系"といった潮流が話題を呼んだ時期に、カジュアルな本格ミステリを志向して書かれた短編集ですが、あらためて今読み直してみても、その軽やかなたたずまいは魅力を失ってはいないと思う。

        例えば「都市伝説パズル」の女子大生のような、巧みに造型された市井の人物と、膨大な固有名詞の地名を登場させながら、綸太郎と法月警視の会話によって進むストーリーは、風俗小説的な方向には向かわず、どこか抽象的な物語に結実していると思う。

        限られた人間関係の中で、そのパターンを組み替えパズルのように炙り出して、その営みは、エラリー・クイーン風の証拠を基にした論理捜査とはまた違った魅力と可能性に満ちていると思う。

        つまり、著者は作中の人間関係をいかに組み替えるかに熱中し続けていて、事件が幕を開けると、三角関係をめぐる殺人、偽装自殺、無差別殺人などといったパターンが登場し、それに見合った登場人物たちの関係図が浮かび上がるという構図なのだ。

        そこで、しかし、「ちょっと待てよ」と綸太郎探偵はつぶやくのだ。
        そうした人間関係を入れ替え、置き換えて、彼は意外な別のパターンを見い出してゆくのだ。
        冒頭の謎を解決するというよりは、事件の構図をどんどん変形させてゆく過程の面白さと言ったらいいだろうか。

        そこでは、都築道夫の「退職刑事」を思わせる淡々とした語り口が支配的なので、ある意味、非常に地味な印象を与える作品集なのですが、パターンを知り尽くした者が繰り出す技の数々には、我々、法月綸太郎ファンを堪能させる濃厚な味わいがあるんですね。

        >> 続きを読む

        2018/11/06 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      誰彼
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • この作品は、パズラーの中のパズラーという感じ。
        複雑すぎて法月作者本人すら同じようなものは書けない、と巻末に記している。
        若干24歳でこの作品を書き上げた法月は、この時点で新本格の第一人者としての地位を確かなものにしている。
        作中で使用されている小道具から、コリン・デクスタ「ニコラス・クインの静かな世界」の影響を受けているのは明らかである(僕はこの作品がデクスタの最高傑作と思っている)。
        >> 続きを読む

        2018/12/31 by tygkun

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      密閉教室
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 法月さんのデビュー作は法月綸太郎ではなく、学生の物語であり密室の本格もの。

        朝一入ってきた教室のドアが開かない状態に。
        教師と生徒が無理やり開けるが、そこには生徒が首を吊った状態で死体に。
        しかも椅子や机がすべてなくなった密室の教室となっていた。

        非常に奇怪な状況ながら、推理マニアの工藤という学生が鮮やかに疑問を解消していく。
        解決編で使われる論理的という言葉が何よりもこの謎を表している。

        密室の謎は解かれるのだが、そのあとに続く犯人という過程での何とも言えないほろ苦さも特徴。
        >> 続きを読む

        2019/06/20 by オーウェン

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      一の悲劇
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね! ooitee Tukiwami

      • 夜の雨が道路を濡らし、人々は車内に息をひそめる。
        母の祈り。警察無線が告げるのは、最悪の結果だ。

        子供の笑顔は永遠に還ってこない。だが、犯人はさらうべき子供を取り違えていたのではないのか?

        暗い緊張に覆われた誘拐事件で幕を上げ、衝撃のトリックで終わる法月綸太郎の第5作目の長篇小説が「一の悲劇」だ。

        エラリー・クイーンの信奉者として有名な著者・法月綸太郎だが、サスペンス小説的な設定を多用するのも、彼の特徴のひとつだ。

        この本でも、秘密を抱えた男の視点から事件を物語ることによって、終始、張りつめたトーンが保たれている。
        だが、その語りの裏には、「頼子のために」で探偵という存在に絶望した法月綸太郎の彷徨が暗示されているように思われる。

        彼を待っていたのは、ここでも家族の悲劇、どこにもない「完全な人生」を犯罪という形で象徴的に埋め合わせようとする、"観念の暴走"としての事件だった。

        私とあいつの人生はなぜ違うのか? どうして私は満ち足りていないのか?
        ふときざした空虚感が次第に肥大化し、グロテスクな犯罪計画へと変貌してゆく。

        こんな人々の織り成す"地獄絵図"を前にして、綸太郎は立ちすくむ。
        探偵は、ここでいったい何ができるのか、と-------。

        >> 続きを読む

        2019/01/13 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 9人が本棚登録しています
      法月綸太郎の冒険
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      •  著者本人が探偵として登場する7話の短編で、本格的な推理小説でした。
         どれも秀作でしたが、特に印象に残ったのは、死刑執行を目前にした死刑囚が毒殺される『死刑囚パズル』と、同棲する彼女を殺し、料理して食し、現行犯逮捕される『カニバリズム小論』です。
         『死刑囚パズル』は、黙っていても亡くなる死刑囚を、なぜ、わざわざ毒殺したのか?、『カニバリズム小論』は、自分の彼女を殺害するだけでなく、なぜ食さなければならなかったのか?犯人の動機に、興味を掻き立てられました。
         推理は空振りばかりでしたが、楽しむことができました。
        >> 続きを読む

        2020/06/27 by youda

    • 1人が本棚登録しています
      パズル崩壊 Whodunit survival 1992-95
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!

      • 法月綸太郎の「パズル崩壊」は、法月探偵の登場しない作品を中心にした第二短篇集。

        整った謎解き小説や刑事コロンボばりの倒叙ものに始まりながら、次第に異様な世界へと我々ミステリファンを誘ってくれる。

        著者自身が語っているように、ここでは本格推理小説という形式に、様々な角度から亀裂が走ってゆくのだ。

        例えば、中盤の「トランスミッション」と「シャドウ・プレイ」は、誘拐やドッペルゲンガーといった推理小説的事件を発端にしながら、やがて、奇妙な犯罪のメカニズムに取り込まれてしまった人間の孤独と絶望にたどり着く。

        生々しい犯罪小説ではなく、「パズル」ならではの乾いた抽象性を通すからこそ、世界の不条理なねじれが際立って見えるのだ。

        だが、少々晦渋ではあるものの、「カット・アウト」がこの短篇集の白眉だと思う。
        妻の死に臨んで天才画家がとった奇怪な行動。

        ある逆転の発想によって、その謎が解ける時、愛するものの姿を永遠にとどめようとした男の思考の軌跡が、静かに浮かび上がる。

        それは多分、論理やトリックといった迂遠な技法を通して「人間」を描きとどめるしかない、本格推理小説の寓意でもあるのだろう。

        >> 続きを読む

        2018/11/16 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      複雑な殺人芸術
      カテゴリー:文学史、文学思想史
      4.0
      いいね!
      • 【問題の『初期クイーン論』を収録した海外ミステリ評論】
         著者の『名探偵は何故時代から逃れられないのか』に続くミステリ評論の海外版です。
         冒頭、著者が選ぶ海外ミステリ作品ベスト100が掲載されています。
         当初の意気込みとしては、スタンダードになり得る100冊を選ぶつもりだったのだそうですが、文庫版が出ていること、絶版本は含めないこと等の縛りがあったこともあり、どうも思うようなセレクトができなかったということで、十分満足のいく100冊にはならなかったと自戒しています。
         それでもジャンル別に分けて挙げられた100冊はなかなか凝ったセレクトで、また、原則として一作家一作品という縛りもあるため、オール・タイム・ベストがずらずら並ぶということにもなっておらず、参考になるのではないでしょうか。
         一作家一作品という縛りのため、例えばヴァン・ダインなら、クリスティならどれを選んでいるのかという興味も持てました。

         続くパートは、作品ごとの書評、解説であり(過去に書かれたものをまとめて収録したものと思われます)、なかなか幅広く選んでいます。
         オーソン・スコットカードの『消えた少年たち』やクリストファー・プリーストの『魔法』が出てくるなど、必ずしもミステリ作品とも言い切れない作品も選ばれています。
         知らない作品も結構あり、ちょっと読んでみたいという気持ちにもさせられる、読書ガイドとしても有益なパートと感じました。

         さて、本書の目玉は、あの有名な『初期クイーン論』と、その補遺的な『1932年の傑作群をめぐって』、『密室-クイーンの場合』などのクイーン評論がまとめて収録されていることではないでしょうか。
         笠井潔氏の『探偵小説論Ⅱ』でもご紹介した、笠井氏が同書中で『後期クイーン的問題』と称した問題を提起した評論が『初期クイーン論』なので、そのオリジナルを読めるというのはなかなかに貴重ではないでしょうか。

         この問題の詳細については『探偵小説論Ⅱ』のレビューでご紹介しましたのでそちらを参照していただきたいと思いますが、簡単に言えば、ミステリというのは、作者が作中にちりばめた数々の手掛かりを、作中の探偵が拾い集めてきて、分析、推理して事件の真相を突き止めるというスタイルの物語なわけですよね。
         ところが、ここにはメタ構造が必然的に伴う結果、作中の犯人が仕組んだ誤った証拠(作者が作中の犯人を通じてばらまいた誤った証拠とも言えます)と、作者がちりばめた正しい証拠を、作中の探偵は見分ける方法が無いという問題点です。

        つまり、ミステリというのは、作中の犯人-探偵というレベルと、物語の外側にいる作者-読者というメタ・レベルが存在するため、メタ・レベルの作者が作中に介入してくると途端に作中の探偵には真偽の判別ができなくなるということですね。
         ヴァン・ダインはこれを否定しましたが、ミステリのトリックとしてはあり得るトリックであるため、例えばクリスティの『アクロイド殺し』などの作品についての評価が真っ二つに分かれるということにもなるわけです。

         『新本格派』が多用する『叙述トリック』も、メタ・レベルの作者が作中に介入していると考えられるトリックとも言えるかもしれません(いや、それはメタ・レベル圏内で、作者が読者に仕掛けているトリックであり、作中には介入していないという解釈もできそうですが)。

        なかなか頭の痛い問題ですが、クイーンは、初期の『国名シリーズ』において、『読者への挑戦』を挿入することによりこの問題を回避していたと考えられるところ、その後、クイーンは『読者への挑戦』をやめてしまい、また、より踏み込んでこの問題を突き詰めるような作品を書くようになっていったというのが、笠井氏が『後期クイーン的問題』とネーミングした由縁というわけでしょう。

         なかなか骨のある評論であり、また、これらの評論によりこの問題は明確に意識されるようになっていますので、現在の例えば『新本格派』と呼ばれるミステリ作家達にとっては、十分検討された上で作品が書かれていると理解できるポイントです。
         非常に参考になりました。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
        >> 続きを読む

        2020/05/25 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      0番目の事件簿
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 中盤までが殆ど犯人当てで少し飽きてきました(笑) 
        後半になるとそういう話でもなく初野晴さんの話がお気に入りです。
        綾辻さんは作風から犯人は予想できました(^^;)
        有栖川さんはこの当時から学生アリスだったんだーと感激。
        一番大好きな高田さんの作品がとっても微妙な感じでした(^^;)
        >> 続きを読む

        2013/05/14 by igaiga

      • コメント 5件
    • 2人が本棚登録しています
      怪盗グリフィン、絶体絶命
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 法月さんとは思えないエンタメ重視の冒険活劇。

        怪盗グリフィンに与えられた任務。
        それは警察の騙しであり、カリブ海の島国へと任務を成し遂げる後半。
        そして事件の真相へ迫るラスト。

        警察側もグリフィンも騙そうとするため、最終的にどちらが勝つのか。
        終盤忘れていた人物が正体を出すのは意表を突かれたが。

        形態が子供向けなのだが、大人が見ても充分楽しめる。
        >> 続きを読む

        2018/09/10 by オーウェン

    • 3人が本棚登録しています
      パズル崩壊 Whodunit survival 1992-95
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 名探偵法月綸太郎ではなく、オリジナルの短編8作。
        バラエティに富んでいる作風になっている。

        前半はオーソドックスな推理もの。
        後半は法月さん特有の、過去の探偵ものにオマージュを捧げたもの。

        個人的には前半の4作品の方が楽しめた印象。
        ホラー風味だったり、間違い電話からの誘拐劇だったり。

        「懐中電灯」
        指紋の行方の手掛かりを最後に突きつける交換殺人もの。
        そんなところにまで残るのかという指紋に驚く。
        >> 続きを読む

        2018/11/16 by オーウェン

    • 3人が本棚登録しています
      犯罪ホロスコープ 六人の女王の問題
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね! ooitee
      • 星座シリーズとして12個の内、牡羊座から乙女座までの6篇が収められたミステリー集
        星座を絡めた犯罪に対して、法月綸太郎が論理的に解き明かしていく。

        双子座と蟹座の話は読んでいたのだが、この1の場合その2作が一番楽しめた。

        他の作品にはダイイングメッセージや暗号などのトリックが。
        バラエティに富んではいるが、専門的な知識がないと解けないトリックが多い。
        その意味で法月綸太郎の推理を感心しながら見るのが正しいかも。

        残りの6つの星座も含めて2も見たい。
        >> 続きを読む

        2018/06/04 by オーウェン

    • 4人が本棚登録しています
      犯罪ホロスコープ 本格推理小説
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね! ooitee
      • 法月綸太郎が推理する星座シリーズ後編。
        今作は天秤座から魚座までの6篇。

        1よりもトリッキーな星座の絡め方が多くなった印象。
        もちろんこれは違いを生むためだろうが。

        交換殺人やダイイングメッセージという定番のものも、捻りを加えてトリックに活用されている。

        意外とオーソドックスな謎解きもありで、これに繋がるのが蠍座。
        犯人は分かっているけど、それに加担したのは3人のうちだれかという謎解き。

        ラスト2篇は奇しくも母子に関する事件だが、その性質はまるで違う。
        前後通じてバラエティに富んだシリーズであり、楽しく読めた。
        >> 続きを読む

        2018/06/06 by オーウェン

    • 4人が本棚登録しています
      しらみつぶしの時計
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 法月さんのこれまでの短編を集めた、いわばボーナストラック的な短編集。

        見た作品がちらほらあったが、完成度は高めな中身。

        思惑をひっくり返す「使用中」だとか、交換殺人を逆手に取る「ダブル・プレイ」。
        「素人芸」の畳みかける詰め寄られ方も好み。

        表題作はパズラーを意識した「SAW」のようなゲーム。
        答えが出るとそんなことかと、なりそうだけど(笑)

        ラストには法月綸太郎ならぬ法月林太郎が登場。
        「二の悲劇」の元となる短編が楽しめる。
        >> 続きを読む

        2019/07/16 by オーウェン

    • 2人が本棚登録しています

【法月綸太郎】(ノリズキリンタロウ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

会員登録(無料)

今月の課題図書
読書ログってこんなサービス
映画ログはこちら
読書ログさんの本棚

レビューのある本