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前川裕

著者情報
著者名:前川裕
まえかわゆたか
マエカワユタカ
生年~没年:1951~

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このランキングは1日1回更新されます。
      酷
      ハーシュ
      カテゴリー:小説、物語
      2.0
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      • 壊れている、狂っている、何もかも。
        凶器は手斧、意味不明の遺留品。血まみれの若妻は、結婚式場のパンフレットを犬のように咥えていた。難航する捜査に現場の不協和音が高まる中、密告がもたらされ捜査官が一人姿を消した。
        連続する手斧殺人、禁断の執着愛、性的倒錯、もつれる謎。
        疑心暗鬼の迷宮の果て、ついに真犯人が姿を現す。
        苛酷な結末が圧巻の警察小説。

        GW突入で今年のスローガンは、"お金をつかわず"、"人ごみに行かず"。
        TSUTAYAでDVDを、図書館で本を借りて、家に籠るという贅沢な休日を味わおうと勢い込んで読んだ連休第1作目。
        デビュー作から読んでいる前川さんの長編は、読み進めるのが遅々として進まない退屈な読書になりました。

        18年前の凄惨な殺人事件の回想から物語は始まります。
        本州を台風が直撃した豪雨の夜。
        隣室の異常音に気付いた塾講師が警察に通報、ベランダから突入した警察官が目にしたのはセックスの最中に頭を斧のような鈍器で叩き割られていた新婚夫婦の死体でした。
        それから18年が経過し、同様の手口で、やはり若い夫婦が惨殺されます。
        犯人の目星もつかないまま、長期化する捜査に途中から参加することになった刑事・手塚は、もういちど犯行現場に立ち返り事件そのものの再検証を開始します。
        犯行現場に落ちていたアイピロー、殺された妻の口の中に詰め込まれていたブライダルサロンのチラシ。
        遺された手がかりに意味はあるのか。
        怨恨なのか、それともサイコパスによる猟奇殺人か。
        歳若なキャリア管理官が陣頭指揮をとる捜査本部は、管理官と熟練な刑事たちとの間での確執が表面化し、空中分解寸前。
        手塚はブライダルサロンのチラシに興味を抱き、聞き込みに訪問するのですが、そこには手塚の妻・聡美の大学時代の同級生・皐が勤務していました。
        知己がいたことで新しい情報がと期待したのですが、やはりはかばかしい手がかりは得られぬまま。
        手詰まり感を抱いた手塚は、今は退官していましたが、尊敬するかつての上司・相場に相談を持ち掛けます。
        相場からの助言で、20年前の殺人事件との奇妙な共通点を発見する手塚。
        過去の殺人事件の犯人こそが、2年前の殺人事件をも引き起こした当事者ではないのか。
        しかし、急ぎ、照会する手塚のもとへ、20年前の犯人がすでに死んでいるという報告が届きます。
        そして、刑事たちとの確執が表面化していた管理官の失踪。
        事件の様相は不気味さを加速させ、ついには皐の身にも狂気の刃が。

        デビュー作『クリーピー』の出来がよく、経歴を拝見すると、著者は大学で教鞭をとられるかたわら執筆されている60歳をこえた方とのこと。
        その大器晩成ぶりに驚きも手伝って、続けざまに読んだ第2作『アトロシティー』を読んだところ、これもよかった。
        創作の感性には天賦の才と、若さの持つ幅の広い感受性が絶対に必要と思っていただけに、還暦をこえられたとは思えない蠱惑的な物語と文章力に手放しの賛辞を送っていたのですが、残念ながら、それに続く『アパリション』、それから本作『酷』では、著者の持ち味である不気味な雰囲気の醸成は維持できているものの、物語の構成の破綻、もしくは物語自体の面白味のなさが目立ち、及第点さえもつけることはできませんでした。
        レズビアン、離人症、百日紅、手斧、近親相愛、残忍性を過分に含んだ現場など、キーワードとしてあれもこれも物語に取り込みたい意欲があり、実際にそれらが、前作までのような独特の嫌な雰囲気を醸し出すことには成功しているのですが、雰囲気やショッキングなできごとの連続だけで読者を引っ張っていけるほどの物語ではないです。

        思うに、『クリーピー』と『アトロシティー』の出来が良かった原因は登場人物の少なさにあると思われます。
        筆者の描く世界は、日常に潜む異常さが時に顕在化し、凶行が起きるというもの。
        前2作では非常に狭い人間関係の中で、そういった世界を描いていたので成功したものかと。
        後2作では、それを広げ過ぎているため、結論に収束するまでのあれこれが、どうしても著者の都合のいいように書かれてしまうため、読み手としては違和感しか残らないのです。
        プロットをしっかりと作らずに書かれるスタイルなのかもしれません。
        だから、すべて書下ろし作品なのかもしれません。

        一気読みはちょっと無理ですね。
        >> 続きを読む

        2015/05/04 by 課長代理

      • コメント 8件
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      アトロシティー = ATROCITY
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 続発する詐欺的な訪問販売に、それと関連が疑われる押込み強盗殺人と、生活保護も受けずに餓死したまだ若い母娘の謎。
        凶悪な拉致監禁殺人を犯しながら、反省の色のない少年犯罪加害者の追跡取材を続けていたジャーナリストは、いつしか、動機も手口も不明の奇怪な事件の渦中に巻き込まれていく。
        都会の闇はいまだ濃く、人間どもは生臭い。
        不気味な通奏低音が鳴り響く、傑作犯罪叙事詩。
        凄惨なるクライム・サスペンス。

        デビュー作『クリーピー』がとてもいい雰囲気を持ったミステリーでしたので、続けて第2作目の書き下ろし作品に手が伸びました。
        物語の奇抜さや残酷さなどは前作に比べ、抑えられていますが、その分、整合性に富み一層の重みを増した内容に、筆力の確かな前進を感じました。
        著者は1951年生まれ、還暦を過ぎて未だ成長し続ける作家さんとは、恐れ入りました。

        主人公は某有名私大で臨時講師をしながら雑誌に雑文を寄稿し糊口を凌いでいる中年ジャーナリスト・田島です。
        勤めている私大学長・勝呂と同窓生というよしみがあり、職にありついていました。
        本業の執筆活動では、硬派雑誌「視野」の編集長・木村と、三鷹で発生した母娘餓死事件を取材することに。
        もともと身内の死から、田島は以前から「孤独死」をテーマとした記事を書きたい旨を、木村に申し出ていました。
        ちょうど三鷹事件を誌上で取り扱いたいと考えていた木村は、渡りに船と、田島に依頼した久々の仕事でした。
        三鷹市のアパートの一室、家賃を6カ月以上滞納し、電気・ガス・水道などライフラインをすべて止められ、気づかれることもなくひっそりと亡くなっていた母娘。
        母親は生活保護の申請さえもしていなかったのです。
        このケースも孤独死の範疇のひとつ。
        事件と呼ぶにはあまりにも希薄で無機質な人間関係。
        そこから透けて見えてくるのは、人間の物語が欠如した、悲劇とさえ呼べない荒涼とした砂漠の風景のはずでした。

        田島の暮らすマンションの隣室には美貌の姉妹が住んでいました。
        時代にそぐわず、若い割に礼儀正しい彼女らと田島は、行き会えば世間話くらいはする仲でした。
        ある日の昼下がり午後三時ころ、田島宅のインターホンを隣室の姉が血相を変えて鳴らします。
        「助けてください」
        蛇口に取り付ける浄水器の訪問販売員の男性が部屋に居座って帰ってくれないのだといいます。
        仕方なく隣室に赴くのですが、明らかに詐欺まがいの手口の相手も場数を踏んでいると見えてなかなか強情で、結句、警察を呼ぶ騒動に。
        そのことをきっかけに田島は、知り合いになった警視庁捜査一課刑事・緑川から、都内で連続して起きている複数の訪問販売員を装った男たちによる陰惨な殺人事件のことを聞くことになります。
        そのうちひとつの現場から、過去に逮捕歴のある指紋がひとつだけ見つかっていました。
        その指紋は、未成年だったころ大阪で世間を震撼させた凶悪な監禁強姦殺人を行った男のものだったのです。
        田島はいつしか事件に魅了されたかのように調べ始めるのでした。


        前作同様に物語を貫く一人称は相変わらず読者に緊張感と、嫌な圧迫感で迫ってきます。
        別々の欠片がやがてひとつの禍々しい事件、およそ人とは思えない犯行を繰り返す犯人にたどり着き、ぴたっと嵌る構成は見事です。
        著者は、間違いなく意識的に不穏な雰囲気を醸し出す工夫をしています。
        それはきっと文章のそこかしこに散りばめられているのでしょう。
        実在の事件の紹介や登場人物たちの話し言葉といった内容に関わるところでも、あるいはまた文脈、改行、言葉遣いに至るこちらの視覚・感覚に訴えてくるところでも。
        字体も単純な明朝体ではなく、見慣れていないそれはそこはかとなく不気味です。
        章段を分ける数字に無意味に()がついていて、それも何か嫌な感じ。
        このあたりは著者の思惑と、その意図を汲んで最大限に発揮した版元の丁寧な仕事の成果だと思い、感服しました。
        装丁や目次の作りも凝っていて好感がもてますね。

        平日の午後3時代は訪問販売員を装った詐欺集団が、いちばん蠢き易い魔の時間帯。
        複数のスーツ姿の男たちが、家にひとりいる老女、若い女性、気弱そうな男性を数の力で圧倒し高額な商品を売り込んで歩き、うまくいきそうにないと殺してしまう。
        そして彼らが容易に捕まらないのは、都会が生んだあまりに希薄な人間関係ゆえの閉塞した社会だからこそ。
        この異様さは読んでいて、やはり不気味。
        背筋をゾワゾワ登ってくる悪寒と裏腹に、読む進むスピードは落ちません。

        沼田まほかる級のイヤミスを、横溝正史好きで、東京西部に住まいを構える都会的な中年男が書いた、雰囲気を存分に味わえるサスペンスミステリ。
        伝わりますか?
        >> 続きを読む

        2015/03/03 by 課長代理

      • コメント 4件
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