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佐藤賢一

著者情報
著者名:佐藤賢一
さとうけんいち
サトウケンイチ
生年~没年:1968~

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このランキングは1日1回更新されます。
      傭兵ピエ-ル
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね!
      • 【君の瞳は10.000ボルト】
         フランス100年戦争後期、イングランド軍と戦い、オルレアンを解放し、シャルル7世の戴冠に功績を残したジャンヌ・ダルクが登場する歴史小説です。
         タイトルにもなっているピエールは、大貴族、ドゥ・ラ・フルトの私生児と呼ばれる傭兵隊長です。
         当時のフランスは戦乱の世の中で、戦火に焼け出された人びとは生きていくために傭兵隊に加わり、戦争のある時にはこれに従軍して給金をもらい、戦争が停止中は略奪をしながら生き長らえていました。
         それぞれの傭兵隊には、「シェフ」と呼ばれる隊長がおり、シェフがその才覚により自分の傭兵隊を統率していたのですね。
         ピエールもそんなシェフの一人でした。
         そして、ピエールがシェフとなったのは、前任の冷徹なシェフを殺害して成り代わったためであり、ですから、ピエールは「シェフ殺し」との異名も持っていました。

         そんなピエール率いる傭兵隊が、とある略奪の際に偶然通りかかったジャンヌ・ダルクと出くわすのですね。
         行きがけの駄賃とばかり、ジャンヌとその従者を身ぐるみはいでしまうのですが、この時初めてジャンヌが女性だと気づきます。
         こんな世の中ですから、女性はすぐに陵辱されてしまいます。ピエールも当然のようにそうしようとしたのですが、ジャンヌは、「自分にはフランスを救うという神による使命がある。その使命を果たすまでは処女でなければならない。使命を果たしたら私の処女を捧げるのでそれまで待って欲しい。」と懇願します。
         通常ならそんな頼みなど聞く耳持たない傭兵ですが、何故かこの時ばかりはその頼みを入れてしまうピエールなのでした。

         その後、ピエール達の傭兵隊は王軍が傭兵を求めているオルレアンに赴き、傭兵の常として王軍に加わるのですが、そこで妙な噂を耳にします。
         救世主が現れたと言うのです。その救世主は「ラ・ピュセル」と呼ばれていたのですが、何と、それがジャンヌ・ダルクだったのです。
         ジャンヌは、王軍の兵士達を前にして演説をしますが、それは圧倒的なカリスマ性を備えたものであり、荒くれ兵士達も救世主の存在を信じ、心を熱くするのでした。
         こうして再会を果たしたピエールとジャンヌが、オルレアンの解放戦に臨んでいくというのが上巻の主な粗筋になります。

         しっかし、ジャンヌというのは潔癖性なのですねぇ。この時代の傭兵達の常として、売春宿で遊んだり、略奪の末、女達を陵辱するのは当たり前だったわけですが、ジャンヌは神経質とも言える位にこれらの行動を唾棄します。決して認めようとはしません。
         それでいて、何か神に守られているかのような圧倒的なカリスマがあると描かれています(但し、ある時を境に、その神の加護を失ったと自覚するのですけれど)。
         やや精神症的なところがありはしないか?(その様な説もあるそうですね)とすら思えてしまう面もありますが、そんなジャンヌは本作の主役では決してありません。主役はあくまでもピエールです。

         史実に基づいている小説ですが、佐藤賢一さんの語りは大変面白く、また、当時の傭兵達の生活や戦時の文化・風習も描き込まれており、ぐいぐいと読ませます。
         シェフにもそれぞれ異なる性格があるのですが、ピエールは人望も厚く、部下思いの良い隊長なのですね。ですから、ピエール率いる「アンジューの一角獣」と呼ばれる傭兵部隊はいつも明るく、笑いが絶えず、シェフであるピエールを父の様に慕っているわけです。
         傭兵隊に所属する主な傭兵達の性格も描き込まれており、キャラが立っています。
         ピエールのそんな部隊思いの性格が原因で、ジャンヌと別れて行動しなければならなくなる場面もあるのですけれど。
        おそらく、この後は史実に基づきそのように展開していくのだろうとは思いますが、それが分かっていても下巻が楽しみな小説であります。
         下巻を読了したらまたレビューしますね。
        >> 続きを読む

        2019/12/28 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      傭兵ピエ-ル
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね! Tukiwami
      • 【大団円】
         史実通り展開するのかと思っていたら、いやぁ、捻ってくれますね。
         ご存知の通り、ジャンヌ・ダルクはシャルル7世戴冠後、ブルゴーニュ公国の捕虜になり、イングランドに身柄を引き渡されて異端審問にかけられ、火あぶりにされて亡くなったのですし、その後、ジャンヌと共に戦ったジル・ド・レエ(作中では、ジル・ド・レ)侯爵は、怪しげな技にふけり、近隣から子供をさらってきてはいたぶった挙げ句に虐殺するようになったわけですが(いわゆる「青ひげ」です)、一応、そのモチーフは活かしながら、でも改変して語ってくれます。

         まぁ、そもそも、ピエールという傭兵隊長自体が架空の存在なわけですが、史実を下敷きにしつつ、フィクションも交えて大変面白い読み物にしてくれたわけです。

         ところどころ、少々都合が良すぎるかなぁと思うところもありますが、まぁ、そんな細かいところは良いことにしましょう。
         物語は面白いのですし、やはり、ピエール隊長の人となりが大変魅力的なのですから。
         少年のようなところがある人ですね。
         明るくて、素直で、人間くさくて。
         決して美男子ではないけれど、女性受けは滅法良いと描かれていますが、そうなんだろうなぁ。
         そんなところは、隊員達から「シェフは女に弱いからなぁ」とからかわれもしますし、副隊長からは、「この世の中で俺の顔をひっぱたくことができる女は5人位のものだろうが、シェフの顔をはり倒せる女は……無数にいるな」と言われる由縁です。

         そんな登場人物達がめでたく大団円を迎えるラストになっています。
         途中で、傭兵隊の中での裏切りもあるのですが、それすらちゃんと落ち着くところに落ち着かせてくれていますので、嫌な味がまったく残らないラストに仕上げています。

         さて、「王妃の離婚」に続き、佐藤賢一さんの作品は2作を読み終えましたが、まだまだ仕入れてありますので、この後も色々と読ませて頂いてレビューさせて頂きたいと思います。
         未読の方は、面白いので読んでみてはいかがでしょうか?
        >> 続きを読む

        2019/12/29 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      王妃の離婚
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!
      • 【痛快無比!王妃に惚れてまうやろ~!】
         いやぁ、掛け値なしに面白い作品でした。
         物語は1498年のフランスを舞台にします。当時の王であったルイ12世が王妃ジャンヌに対して離婚裁判を申し立てます。
         当時はキリスト教社会ですから、そもそも離婚など認められないのですが、何らかの理由(例えば近親婚であることが後で分かったとか、妻が性交渉が不能な肉体の持ち主だとか)があれば、そもそも結婚は無効であるという理屈で離婚が認められていました。
         ルイ12世というのは、美貌の王様でしたが、ジャンヌの父親であるルイ11世(暴君と名高い王でした)に無理強いされて、醜女であるジャンヌと無理矢理結婚させられたと、世間には思われていました。
         最初は、王様も可愛そうだよねという世論だったわけです。

         で、王vs王妃の離婚裁判という、世紀のイベントですから、傍聴人が押しかける裁判となりました。
         王様の申し立てに逆らうわけにもいかず、なり手がいない中ようやく王妃の弁護人となった3人もやる気全くなし。
         王妃も素直に離婚を受け入れて、実質審理に入らずに終わるのではないかと思われていたところ、王妃は王が主張するところの、近親婚である、強制されての結婚である、王妃は性交渉ができない身体である等々の申し立てを全て否認して徹底抗戦に出ます。

         弁護人もあわてふためくのですが、何ら有効な弁論をすることもできず(その気もなく)、良い様に検察官にやられっぱなしです。
         挙げ句の果てに、検察官から王妃の身体検査まで請求される始末。
         つまり、王妃はそのような性交渉が不能な身体なのだと立証しようとするわけです。
         立証ったって、裏から手を回した医者を使ってそう言わせるだけのインチキで、結局の所素直に離婚を受け入れれば良し、さもなくば生き恥をかかせるぞという申し立てであるわけです。

         さて、ここにこの裁判を傍聴している一人の田舎弁護士フランソワがいました。
         フランソワは、将来を嘱望された逸材だったのですが、先王ルイ11世の暴虐のために学問の都であるカルチェラタンを追われ、今は田舎弁護士に成り下がっていたのです。
         自分を没落させたルイ11世の実娘であるジャンヌ王妃が生き恥をかくのをせめてもの復讐にとの気持ちから裁判を傍聴していたのですが、まったくやる気のない弁護人に対しては法曹としてとんでもないと立腹してもいたのです。

         で、色々あって、王妃は突然新たな弁護人を選任する旨を裁判所に申し立てます。
         その新弁護人とは何とフランソワでした。
         フランソワはそんな申し出はすでに何度も断っていたのですが、目の前で王妃に指名された途端、持ち前の正義感、弁護士魂に火がつき、何と、あれほど敗訴を望んでいた王妃の弁護人を受けてしまうのです。

         ふっきれたフランソワは見事な弁護を始めます。
         この様子に町中の庶民は大喝采!
         最初は王様に同情的ではあったものの、何ともそのやり口が汚いということで、徐々に王妃は同情を集めていたのでした。
         そこへ颯爽と登場した新弁護人フランソワが、一発かましてくれたものだからもう大騒ぎ!
         とは言え、先行きはそんなに楽観できません。
         フランソワはいかにして王妃を勝訴に導くのか?

         という法廷ドラマなのですが、フランソワの活躍が非常に痛快です。
         筋の展開も大変面白い。
         フランソワには過去があり、その過去が王妃と徐々に結びつけていくことになるのですが、その辺の展開も上手いです。
         また、当初は醜女と描かれていた王妃が徐々に魅力的に思えてくるではないですか。
         佐藤賢一さんの作品を読むのは初めてですが、大変面白かったので、是非他の作品も読んでみたくなりました(追記:その後、さんざんっぱら読ませていただきました)。
         法律のことなんて分からなくても全く大丈夫。
         とにかく面白い作品ですので、強くオススメです。
        >> 続きを読む

        2019/03/06 by ef177

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      双頭の鷲
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 【しっぽ、とり、ひげ】
         何とまた、破天荒な主人公を生み出したものです。
         いえ、モデルになったベルトラン・デュ・ゲクランは実在の人物です。
         百年戦争初期に活躍したフランスの軍人。最初はブロワ伯に仕え、その後、シャルル5世に仕えて、劣勢だったフランスを救って大元帥にまで上り詰めた人物です。

         この、デュ・ゲクランを主人公にしたのが本作なんですが、佐藤賢一さんの筆にかかると、まぁ、これが破格の英雄に描かれるのですね。
         異形の男です。丸い顔をして、飛び出た丸い目、丸刈りの頭で、腕が膝まで届く位に長い、醜男として描かれます。
         特筆すべきはその性格描写。
         まるで子供です。礼儀作法も何もなく、天衣無縫、好き勝手に振る舞い、しかもそれを恥じることはなく、豪放磊落で真っ正直。だから、慕われるのですね。
         今回のリードで使った、「しっぽ、とり、ひげ」というのは、作中でデュ・ゲクランがおどけて真似をしたものです。
         剣を尻に突き刺して「しっぽ」とふざけ、会食中、鶏のくちばしを唇に当てて「とり」とおどけ、シャルル5世とその一族を逃亡させる緊迫の場面で、地面に落ちていたうんちを拾って鼻の下に当てて「ひげ」とやってみせます。
         何で30男がそんな子供みたいなことをするの?こいつは本物のあんぽんたんなんじゃないか?と思ってしまいますが、でも、こと戦争となると軍神と言っても良い程の能力を発揮するのでした。

         この能力をいち早く認めたのがシャルル5世です。
         デュ・ゲクランの出自は下級貴族であり、その醜い容貌のために母親から遺棄されて成長し、子供の頃から悪ガキで通っていたような男。粗暴で野卑で、およそ貴族からは鼻つまみにされそうな男なのですが、抜群の軍事的センスの持ち主です。

         家族の相克も描かれるのですよね。デュ・ゲクランがこの様な男に育ったのは、母親のためなのです。美貌の母親は、醜いデュ・ゲクランをとことん嫌い、体罰も与えて疎んじます。それがトラウマになっているのですよね。だから悪ガキにもなりますし、家を飛び出て傭兵隊長になんかなっていったわけです。
         他方で、三男は母親の美貌を受け継いだため溺愛されるんです。でも、傲慢な性格に育ってしまうのですけれど。
         でも、所詮は下級貴族のため、その後、一族は零落してしまうのですが、デュ・ゲクランだけはシャルル5世を救ったことがきっかけで栄進していくわけです。
         だから、彼の兄弟達は最初は面白くないのですが、喰っていかなければならず、やむなく節を曲げて長兄の世話になるわけです。
         最初はぎくしゃくもするのですが、次第に長兄の魅力に惹かれていき、いつしかその下で活躍するようになっていくのです。
         しかし、美貌の三男だけはどうしても長兄を認めることができずにいます。
         母の溺愛の下に生育したこともあり、自分が一族の中心じゃなければ納得できないというさもしい根性なんですよね。

         それが悲劇をも生みます。
         デュ・ゲクランは、自分が醜男だということを自覚しています。
         だから母親からも愛されなかったのだと。
         なので、徹底して女性を避ける様になってしまったのです。
         でも、決して女性にモテないなんていうことはないのですよ。むしろとても面白い人物だということで、例えば救出したシャルル5世の一族の女性陣達からは大好評なんですが、当の本人が女性を苦手としているのでどうにもうまくいきません。
         そんな、デュ・ゲクランを一途に愛していた女性がいました。
         占星術をよくするティファーヌです・デュ・ゲクランの幼なじみで貴族の娘なのですが、その想いは叶えられます。あれほど女嫌いだったデュ・ゲクランは、遅くにですが、彼女を最初の妻として娶ります(これは史実通り)。
         でも、その裏には根性のひんまがった三男の影があったのですね。

         というわけで、本書は、佐藤賢一さんお得意の史実に題材を取った大河ロマン的作品です。破天荒なデュ・ゲクランの生涯を描くのかな?(まだ上巻を読んだところなのでどこまで行くのか見えないのですが)。
         デュ・ゲクランの卓越した戦闘も描かれます。ですが、時には馬鹿貴族の掣肘が原因で、敢えて負け戦をしなければならなかったり、本来の力を発揮できなかったり(この辺は、銀英伝みたいなテイストも感じます)。
         そう、銀英伝と言えば、本作にも、デュ・ゲクランが唯一認めるイングランド側の戦争の天才がもう一人登場します。
         ですが、彼も様々な事情から決してその能力を自由に使えるわけでもないのです。ですが、二人はお互いの能力を認め合い、敵味方なのですが、友人として生きていくのですね。

         非常にダイナミックな作品ではないかと思います。
         下巻を読了したら、続きを書きますね。
        >> 続きを読む

        2019/08/06 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      カペー朝 フランス王朝史
      カテゴリー:フランス
      5.0
      いいね!
      • 佐藤賢一の「フランス王朝史」全3巻(「カペー朝」「ヴァロワ朝」「ブルボン朝」)読了。
        いやー、フランス王朝、ほぼ「ルイ」と「アンリ」と「シャルル」と「フィリップ」の繰り返しで、読みながら相当頭がこんがらがります。そういえば、昔世界史勉強した時も同じ症状に見舞われた気が…(苦笑)。なので、随所に挟まれている家系図、というか系統図はとても役に立ちました。これを都度都度見返しながら読んだ(それでもこんがらがったけど)。

        という与太話はおいといて、フランス王朝の歴史とは、一言で言うと「戦争」と「子作り」の歴史なのだ、ということがよくわかった。ほんと、みんな王位に就くと絶対戦争する。戦争とは領土拡張であり、それはつまり「王の支配」をどこまで伸ばせるか、どこまで人々に支配力を及ぼすことができるか、という戦いなので、それは戦争するわけです。さらに「子作り」とは、そうやって獲得した支配力を自分の「家」、すなわち「血筋」に繋げていく営為のことで、権力というのはどこまでいっても「支配」と「継承」を志向するのだな。

        とはいえ、フランス王朝も最初から「絶対王政」だったわけではなく、カペー朝の始まりはフランスの一地方の領主にすぎない。そこから領土を広げ、システムを構築し、貴族や教会とある時は戦いある時は手を結び、しながら権力を拡大させていく。そして、王朝も最後の方に近づいたルイ14世になって初めて「絶対王政」と呼ばれる体制ができた。そこから100年ぐらいで大革命が起こって、絶対王政は崩れ去ってしまうのが、歴史ってすごいなあと思わされる。
        ちなみに著者が、カペー朝を「個人商店」、ヴァロワ朝を「中小企業」、ブルボン朝を「大企業」に例えてまとめていたのが大変にわかりやすかった。

        『三銃士』とか、『ベルばら』とか、『王妃マルゴ』とか、個別に文学や漫画や映画などで親しんでいるフランス王朝を、こうして通史で読めるのはとてもありがたい。そして佐藤賢一さんの文体がすごく読みやすいのでオススメです。
        >> 続きを読む

        2020/05/25 by 室田尚子

    • 2人が本棚登録しています
      英仏百年戦争
      4.5
      いいね!
      • 引き続き佐藤賢一。『フランス王朝史』にも当然出てくる百年戦争を取り出して、新たな視点から分析した新書。

        著者の態度は徹底している。それは「現代の目から歴史を評価しない」ということで、百年戦争で言えば、当時「フランス」「イギリス」という「国家」はなかった、という視点だ。そのために、イギリス、じゃなくてイングランドにノルマン朝が成立した経緯から紐解く。そう、ノルマン朝の開祖「征服王ウィリアム1世」は、フランス人のノルマンディ公ギョーム1世なのだ。だから、「初めてフランス語を話さない(話せない)王」=「正真正銘イングランド人の王」だったヘンリー5世がシェイクスピアによって「史上最高の名君」として描かれるのも、こうした「国民国家の成立・興隆」の文脈から考えると納得できる。

        『フランス王朝史』でも思ったのだけれど、この辺りの歴史は戦争の歴史と言ってもよく、それは単純に領土拡大(もしくは奪還)のための戦争なのだが、それが次第にフランス、もしくはイギリスという「国のための戦争」へと変貌していく。その道筋が「英仏百年戦争」というものの正体だった、という読み解きは非常に面白かった。

        それにしても私、世界史学んだはずなのに、全然、まったく、わかってないどころか覚えてないことが多すぎて驚く…(恥)。このコロナ休みを利用して、西洋史を学び直しているところです。
        >> 続きを読む

        2020/05/27 by 室田尚子

    • 2人が本棚登録しています
      革命のライオン 小説フランス革命 1
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【佐藤賢一作『小説フランス革命』全巻レビューいきま~す!】

         佐藤賢一さん著の「小説フランス革命」シリーズの第1巻です。
         このシリーズ、手を出そうかどうしようか迷ったんですよね。
         1冊ずつはさして厚くはないものの、全9冊という長丁場にりますので、一端手を出してしまうとかかりっきりになりそうだなぁということで迷っていたのですが、ええい!ということで着手してしまいました。

         シリーズタイトルの通り、フランス革命を描き出そうという大作です。
         その第1巻で取り上げるストーリーは以下のとおり。

         ルイ16世の治世です。度重なる濫費がかさみ、フランス王朝は破産の危機に瀕していました。
         この上は、税制上優遇特権を享受している、貴族や聖職者にも課税せざるを得ない状況になってきているのですが、既得特権にあぐらをかくこれらの層が簡単に課税を許すはずもありません。
         王権を制限すべく、長いこと開かれていなかった国民三部会議の開催を迫り、ここで承認されない以上は課税はまかりならんという態度に出てきたのです。

         この国民三部会議とは、第1身分である聖職者、第2身分である貴族、そして第3身分である平民から構成される、いわば国会のようなものなのですが、各身分ごとに評決をし、その結果3身分のうち多数を占めた方の意見が可決されるという仕組みになっていました。
         ですから、聖職者と貴族が課税に反対すれば、いかに王権と言えどもこれらの層に課税することはできなくなるのです。
         これは課税は不可能かと思われたところですが、平民出身のネッケル財務長官は、この貴族、聖職者らによる国民三部会議の開催要求を逆手に取って課税を実現しようと画策します。

         その策とは、地方の三部会で実際に取られた採決方法を採用させようというのです。この採決方法とは、まず、各身分の代表者の数を変えます。平民は聖職者や貴族の2倍の議員数にするのです。その上で、分科会方式の採決を止め、全体会議で投票するというものでした。こうなれば数の上では5分ですし、平民に味方する聖職者なり貴族なりを少しでも引き抜ければ聖職者や貴族らに対する課税も実現しようという策です。

         さて、この様な状況にある中、平民は熱狂的に王を支持していました。
         ついに王は平民の意見を聞くべく、長らく開催されていなかった国民三部会を開催するのだと。
         そして、この様な平民達の動きを敏感に察知したのがミラボーです。
         ミラボーは貴族なのですが、まぁ、放蕩貴族で、借金は作るは女には手を出すは、金目当ての売文に走るはで、決して評判は良くはないのですが、持ち前の押し出しの強さと、平民側に立つというスタンスが功を奏し、何と、貴族であるのに平民代表である第3身分の議員として当選してくるのでした。
         第1巻のタイトルにもなっている「革命のライオン」とは、ミラボーを指しています。

         そしてもう一人注目すべきは、やはり平民で第3身分の議員として当選してきた若きロベスピエールです。
         何とかフランスを改革しようという熱意にあふれて議会にやってくるのですが、初っぱなから失望させられます。
         それは、あからさまに第3身分が差別されていたからです。

         そして、ネッケルの策謀もうまくいかないように思われます。
         実際、第1身分と第2身分はさっさと自分たちだけで会議を進めようとし始めるのです。
         そして、平民代表の第3身分も決して改革の熱意溢れる者達ばかりではなく、単に物見遊山に来たとしか思えない様な田舎ブルジョアも多数含まれていました。
         実際、国民三部会は、第3身分の意見がなかなかまとまらないこともあり、空転し始めるのです。

         さて、この窮地にミラボーはどのような手を打つのか?
         そして、ロベスピエールは持ち前の改革への熱意をどう実現していくのか?

         佐藤さんの筆は非常に読みやすいものです。
         フランス革命はコミックスなどでも取り上げられるテーマですが、読みやすい小説で通読するというのもなかなか良い物かもしれませんよ。
        >> 続きを読む

        2019/06/29 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      パリの蜂起 小説フランス革命 2
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【武器を取れ!/小説フランス革命2】

         さて、「小説フランス革命」シリーズの第2巻に突入です。
         第2巻の粗筋はというと……

         一時は頓挫しかかった全国三部会ですが、ようやっと軌道に乗り、国民議会へと変貌し、フランスの憲法を制定しようという動きにまで漕ぎ着けることができました。
         王もこれを支持するかのような言動です。
         感極まるロベスピエールですが、ミラボーは非常にまずい状況だと考えています。
         そう、王が国民議会を支持するような言動を見せたのは単なる時間稼ぎに過ぎなかったのです。
         あれよあれよと言う間に王は軍隊を招集し始めたのでした。
         表向きは、加熱する暴徒から国民議会を守るためということになっていますが、そんなわけはありません。
         国民議会がいつ解散させられるか知れたものではないのです。
         もはや議会には打つ手なしか、と思われた時、ミラボーは議会を出ていきます。
         これに気づいたロベスピエールもその後を追います。

         二人が向かったのはパリ。
         このころ、パリは平民の都市になっていました。
         王侯貴族達はベルサイユへと移ってしまっていましたから。
         そして、そのパリは争乱状態にありました。
        平民の味方(と、平民達が思い込んでいる)ネッケル財務長官が罷免された、王が軍隊を招集したという噂が早くもパリに届いていたからでした。
         暴動だって起きかねません。

         しかし、ミラボーはそんな花火のような一過性の暴動ではダメだと考えていたのです。
         今の平民達の熱気を長引かせ、引っ張っていく存在が必用なのだと。
         そこでミラボーが目をつけたのがデムーランでした。
         デムーランは、ロベスピエールの後輩の若き弁護士で、先の全国三部会の議員選挙にもパリから立候補していたのですが落選していました。
         デムーランが何故議員に立候補したかというと、相思相愛の女性のために大物になる必用があると考えたからでした。
         意中の女性は、大変な名家のお嬢様。その父親からは駆け出しの弁護士風情に娘はやれんと拒絶されていたからなのでした。

         ミラボーは、そんなデムーランに火をつけ、半ば脅す様にして「お前が起つのだ!」とけしかけます。
         引っ込みがつかなくなったデムーランは、ついに演説を始めます。
         「武器を取れ!」と。
         こうしてパリの蜂起が始まって行くのですが……

         史実に基づく作品ですので、ネタばれの心配はあまりしなくても良いかなと思い、かなり書き込んだ粗筋になっていますが、ご了承下さいませ。
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        2019/06/30 by ef177

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      バスティーユの陥落 小説フランス革命 3
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【パリは燃えているか?/小説フランス革命3】
         「小説フランス革命」シリーズも第3巻に入りました。
         私は附属高校から大学に進学したので受験を経験していないんですね。ですから、受験生なら当然知っているような知識を持ち合わせておらず、時に冷や汗をかくことがあります。
         フランス革命のことだって、実はろくすっぽちゃんと通覧したこともなく。
         ですから、このシリーズのように、面白い上にちゃんと通してフランス革命を追えるというのは大変有り難いのでした。

         さて、第3巻は遂にバスティーユです(この位は私も知ってます!)。
         第2巻のレビューでも書きましたが、パリが蜂起しました。
         「武器を取れ!」と言われたって武器が無いわけです。
         パリっ子達は武器を探して右往左往。いつ王軍が攻めてくるかもしれません。
         そんな時、バスティーユにしこたま武器弾薬が貯蔵されているという噂が流れます。
         ここを押さえるしかない!
         とは言え、徒手空拳で要塞が陥落するわけもなく……でも、墜ちちゃうんですよねぇ。

         そんな攻防が描かれた後、舞台は再び国民議会へ。
         有名な人権宣言が採択される場面です。
         ミラボーは、王を敗者にしてはいけないと考えていますが、議会は暴走気味です。
         う~ん、ここまでの印象ですが、ミラボーがかなりの策士、しかも政治的に極めて有能な人物に描かれています。
         私の、この作品を読む前のミラボーの印象は、もっと悪いものだったのですけれど。

         人権宣言採択後、とにかく何でもありになりがちな議会を何とかしなければと苦虫をかみつぶしているミラボーなのです。
         そう事は単純にはいかないのだぞと。そりゃそうだ。
         
         他方、市民生活はいまだに窮乏しています。
         封建制度を廃止する法律を作られたこともそうですし、何よりも市民がバスティーユを墜としたという衝撃は貴族達には大きかったのでしょう。
         ありったけの現金を持って国外逃亡する貴族が後を絶ちません。
         で、そうなるとどうなるか?
         フランス国内に貨幣が絶対的に不足するのです。経済が回りません。
         この年は豊作だったようですが、お金をもらえないとなると農民が小麦を売りに出しません。
         パリっ子のところには、金もなければパンもないという状態。
         7/14って一体何だったのよ! と、女性達の不満が爆発します。

         そうなんですよね。崇高な理想を追求することも大切ですが、日々の生活が成り立たなければ民衆は離心します。
         これは現在の政治にも当てはまること。経済は大事だよ。
         というわけで、軌道に乗ったように思える改革なのですが、先は思いやられそうです。

         さて、佐藤賢一さんの文体で一つ。
         以前から気づいていることなのですが、カッコ(「……」)で囲まれた台詞部分と、囲まれてはいないけれど、通常なら囲むであろう台詞らしき部分とを書き分けるのですよね。
         囲まれていない部分は決して内心描写というわけではありません。
         確かに、そう言っているという描写のはずですが、これを書き分けています。
         その理由は、作者ご本人にうかがわなければefには分からないのですが、推測するに、そこは歴史を学んだ佐藤氏のこだわりかもしれないと勝手に思っています。
         つまり、カッコに囲んだ部分は、本当にこういう言葉で言ったんだぞと主張したい部分。それ以外は、言葉は違うかもしれないけれど、そういう意味のことを言ったんだよと書きたい部分。
         これはあくまでもefの推測なのですが、実際のところはどうなんでしょう?
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        2019/07/01 by ef177

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      議会の迷走 小説フランス革命 5
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【革命の行方/小説フランス革命5】
         バスティーユ陥落から1年が過ぎようとしていました。
         あの狂乱も落ち着きを取り戻し、憲法制定国民議会でも議論が進められているのですが、この辺りに来て議員の間にも温度差が出てきます。
         あくまでも徹底した改革を主張する、ロベスピエールらの左派、特権を剥奪されそうな雲行きの聖職者達を中心とする右派、そして、ブルジョア階級からなる中間派です。
         ブルジョア階級からなる中間派には、「もう革命は良いじゃないか」と言った空気が漂っているのも事実。
         こうなると多数派形成も困難になってきます。

         さて、第1巻から中心的な活躍をしていたミラボーはどうかというと、反革命ではもちろんないのですが、かといって過激な左派とも距離を置きます。
         様々な場面で王の権力を保持させようとする動きがあることも事実。
         そのため、当初は師とも仰ぎ、尊敬の念を抱いていたロベスピエールもミラボーと距離を置き始めます。

         他方で、ミラボーの下には沢山の支持者が集まるのですが、その中にはバスティーユ陥落の際、ミラボーに焚きつけられて第1声を上げたデムーランもいました(「武器よ取れ!」の叫びですね)。
         デムーランは、今では有力な新聞を発行しているのですが、マスコミの動きというのも様々です。
         ある時は誹謗中傷ではないかというような言説を呈して民衆を味方につけ、世論を動かそうとします。
         デムーランの先輩に当たるロベスピエール自身、デムーランの筆により不快な思いをさせられもします。
         自由な言論は守られねばならないにしても、限度というものがあるだろうと、ロベスピエールでさえ思わずにはいられません。

         さて、もう一人の主要人物、タレーランですが、彼はフランスの権力を握るという自己の野望のため教会改革を強力に推進しようとするのですが、思う様に進みません。かなり都合良すぎませんか?と思うほどにミラボーの力を利用しようとするのですが、それにしても……。このまま聖職者達の抵抗に屈してしまえば自己の汚点にもなりかねません。
         タレーランは、目的のためなら手段は選ばないのですが……。

         というわけで、小説フランス革命シリーズも本巻で第5巻、折り返し点を迎えました。
         相変わらず魅力ある登場人物達のそれぞれの思惑とかけひきが繰り広げられ、どんどん次を読みたくなってしまいます。
        そうそう、本巻では、マリー・アントワネットやフェルセンと言った「ベルばら」でお馴染みの登場人物も動き出しますよ。
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        2019/07/03 by ef177

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      ジャガーになった男
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【面白うて、やがて悲しき……】

         男って馬鹿ですよね~。本作を読んでつくづくそう思いました。
         本作は、佐藤賢一さんのデビュー作。「王妃の離婚」があまりにも面白かったのでちょっと佐藤さんの作品を読んでみようかと思い、まずはデビュー作から。

         物語は、戦いの世に憧れて支倉常長使節団に加わった奥州一の剣の使い手、斎藤小兵太寅吉を主人公とした波瀾万丈のお話です。
         寅吉は、スペイン無敵艦隊を味方につけて徳川幕府に殴り込みをかけ、伊達藩による天下を達成しようと、恋人のお米を捨ててまで使節団に加わりました。
         苦難の末スペインにたどり着いたものの、スペインも斜陽の国。わざわざ日本にまで艦隊を派遣する義理もなく、夢は消えようとしていました。
         とにかくやることもなく、酒に明け暮れる毎日だったのですが、ひょんなことからお調子者のベニトと意気投合し、ついにはスペインの軍隊に入って戦いに赴きます。

         寅吉はベニトの家に居候していたのですが、成り行きもあってベニトの妹エレナと関係を持ち、結婚までしてしまいました。
         このプロポーズのくだりが結構笑わせます。
         スペインの風習など知らない寅吉は、隣の世話焼き女将にせっつかれてどうしてもエレナにプロポーズしなければならない立場に追い込まれます(もとより、寅吉も責任は取るつもりではいたのですが)。
         プロポーズをするためには、まず窓の下に行ってセレナータを歌わなければならないと言います。セレナータなんて知らない寅吉でしたが、とにかく歌わなければと歌ったのが、何と田植え歌(爆)。
         歌う意味なども分からずにとりあえず歌ったのですが、変わった節回しにせよ、集まった見物人には結構好評の様子。
         そのままエレナにプロポーズして見事に結ばれました。
         その後、エレナとの披露宴を上げるための費用を稼ぐという名目で、エレナの反対を押し切ってベニトと一緒にスペイン軍にはせ参じたというわけなんですね。

         その後の寅吉の波瀾万丈の人生が描かれるのですが、まぁ、一本気というか、不器用というか、男って本当に馬鹿です。
         ユーモアも交えた筆致で描かれますが、佐藤さんの作品はラストまで一気に読ませる力がありますねぇ。
         そして、結構ほろっとさせるところもあります。
         この作品も、男って馬鹿だよねって思いながらも、寅吉の行動に「本当にお前さんは馬鹿だよ」と思いながらも、それだけ言うのならやってきなさいなと言ってしまうようなところもあります。
         そう。面白うて、やがて悲しき……です。

         大変楽しめた一冊でした。
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        2019/03/23 by ef177

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      双頭の鷲
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【永遠の子供】
         本作は、百年戦争の時代を生き、イングランド軍にことごとく勝利したフランスの大元帥、ベルトラン・デュ・ゲクランの生涯を描いた大作です。
         タイトルにもなっている「双頭の鷲」というのは、デュ・ゲクランと、彼が仕えたシャルル5世の二人を指しており、実際に紋章として用いられたのだとか。

         シャルル5世も傑出した人物だったようです。
         若い頃は、柔弱で病気がちの冴えない王太子であり、力をつけてきた商人達に追い込まれ、実権を放棄するか殺されるかという瀬戸際でした。
         そんな時にシャルル5世のもとを訪れたのがデュ・ゲクランだったのですね。
         訪問の理由は、当時傭兵隊長だったデュ・ゲクランの隊に給金が全く支給されてこなかったことから、これをふんだくってやろうということで乗り込んだというわけなんです(まったく、やることが破天荒です)。
         乗り込まれた側のシャルル5世(当時は王太子)にしてみれば、遂に商人連中が命を取りに来たかと誤解するのも当たり前。
         ところが話を聞いてみると「給金払ってくれよ」というではありませんか。緊張の極みにあったシャルル5世が噴き出してしまうのもさもありなん。

         デュ・ゲクランには、「予言」が与えられていたのですね。それは、いずれ立身出世して百合の花に囲まれるという予言でした。何の意味かは全く分からずにいたのですが、シャルル5世に会って気が付きます。百合の花とは、まさにフランス王家の紋章ではありませんか。「このことだったのか!」と気づいたデュ・ゲクランは、たちどころに心を決します。「俺、あんたに仕えるぜ」と、シャルル5世に言い放ちます。
         他方のシャルル5世も感激してしまいます。誰の助けも得られず、命だって風前の灯火だったのに、仕えてくれる者がいるのか!ということです。
         この二人、何だかおかしなところで波長が合ったようですね。

         その後、シャルル5世は豹変していきます。したたかな外交手腕を身につけ、当時は傭兵隊頼りだった軍政についても、初めて常備軍を組織するなどし、イングランドを撃退していく素地を作りました。
         そんなシャルル5世とデュ・ゲクランの生き様を描いたのが、本書「双頭の鷲」なのですね。

         上巻のレビューでも触れましたが、デュ・ゲクランの一族も彼の元で活躍し、功績を挙げていくのですが、唯一デュ・ゲクランを認めなかった弟のオリヴィエも、最後にはデュ・ゲクランの旗下に加わります。それは、己のプライドを完膚無きまでに破壊された結果でした。
         それ以後というもの、誰よりもデュ・ゲクランの戦略を理解し、忠実に実行することができる者になっていったのです。
         ちょっとネタばれになりますが、佐藤賢一さんは、このオリビエについて捻った設定にしています。変貌したオリビエは、実は精神を病んでいたのだということにしました。
         それは、デュ・ゲクランの戦いを忠実に実行していく過程において、徐々に自分こそがデュ・ゲクランなのだという妄想に取り憑かれていったと。これは素晴らしい設定ですね。
         その結果、ほのめかされているだけなのですが、実は、デュ・ゲクランは暗殺されたのだと言うのです。ええ、オリビエの手によって。
         自分が真のデュ・ゲクランであるという妄想に取り憑かれたオリビエから見ると、本物のデュ・ゲクランこそが偽物であり、排除しなければならない対象としか思えなくなっていったと。

         デュ・ゲクランは死してなおその影響力を及ぼしていました。それは戦争の方法を一変させてしまったということに止まらず、民衆の心の中に英雄として、守護者として生き続け、さらに、デュ・ゲクランと共に生きた仲間達の心にも残り続けたのですね。
         仲間達が思い出す、デュ・ゲクランの姿は、にこにこ笑っている、まるで子供の様な姿だったようです。まさに、永遠の子供だったのかもしれません。
         好著です。
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        2019/08/07 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      褐色の文豪
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 【破格の文豪】
         佐藤賢一さんの本作、主人公は、アレクサンドル・デュマですよ。
         『三銃士』、『モンテクリスト伯』などの傑作を書き上げた世界的文豪ですが、こういうキャラだったとは全く知りませんでした。

         まず、黒人とのクォーターだったんですね(なのでこういうタイトルです)。
         ギョロッとした大きな目に縮れた髪、もちろん浅黒い肌。
         恵まれた身体をしており、中年以降は金に糸目をつけずに美食を続けたため、相当に太ってしまったようですが(『美食大全』という本も書いていますよね)、若い頃は引き締まった身体の偉丈夫だったようです。

         前編を通じて流れるのは、父アレクサンドル・デュマ(同名です)への思慕とコンプレックスでしょうか。
         父親は『黒い悪魔』との異名を取ったフランス軍の名将軍で軍名を轟かせたのだそうです。
         デュマも、そんな父親に憧れ、終生、軍や革命での活躍を望んでいたと描かれています。

         しかし、作家になったのは、シェークスピアのハムレットの翻案劇(翻案したのは大した作家ではなかったようですが)を見て感動し、また、親友であった同郷のルーヴァンが作家志望で、「お前もパリに来い」と誘われたこともあってのことでした。

         もちろん、最初のうちはなかなか芽が出なかったのですが、生まれつきの人なつこい性格から人脈を得たこともあり、いきなりフランセ座での『アンリ三世とその宮廷』のロングラン公演に成功し、一気に名声を手に入れます。

         それからは破竹の勢いで、書く作品、書く作品が大ヒット。
         本作では、デュマと同年代の文豪ヴィクトル・ユゴーも登場するのですが、ユゴーも高い名声を得てはいるものの、人気の点では圧倒的にデュマの方が上で、ユゴーすら歯がみをしたとされています。
         特に、識字率が上がり、庶民が新聞を読むようになった頃に、新聞小説として連載された『三銃士』、『モンテクリスト伯』の人気は絶大で、デュマは押しも押されぬ世界的大作家になったわけですね。

        しかし、その私生活の方は、お世辞にも褒められたものではなかったようです。
         第一、女癖が悪すぎます。
         次から次へと女性と関係を持ち(もちろん、一時期に何人もと)、子供を作り、認知することには抵抗はなかったようですが(子供は好きだったようです……息子の一人には自分と同じ名前をつけましたよね。『椿姫』を書いたデュマ・フィスです)、しかしちゃんとした結婚などなかなかしなかったようです。

         舞台作家として第一人者でしたから、役が欲しい美しい女優は選り取り見取り。
         次から次へと手をつけますし、それこそ一夜のお相手まで入れたら関係した女性の人数は一体何人に上ったことかと書かれています。

         作家としてこれほど大成し、莫大な収入も手にしたのですが、デュマはいつまでたっても父親への憧れとコンプレックスを克服できなかったようです。
         やはり、軍人として、実際の社会で身体を張って活躍したいとの熱望があり、作家など所詮作り話をしているだけで、柔弱であると思われているに違いないとの思いを捨てきれなかったようです。

         ですから、パリ7月革命では先頭に立って革命に加わり、功成り名を遂げたいとの一心から全く無謀な行動に出たりもします(結果的には成功させてしまうのですが、あまり評価はされなかったようです)。
         2月革命の頃には、さすがに肥満した身体で闘うことまでは躊躇されたものの、2度に渡って議員となるべく立候補していずれも落選。
         その後、イタリア統一戦線にまで手を広げるといった具合の戦争、政治好きだったようです。

         また、デュマは、一人であれだけの作品を全部書いたというわけでもなかったようですね。
         共同執筆者又は助手を使い、例えば歴史考証や下書きなどはそういったアシスタントにやらせ、できあがってきた原稿にデュマが手を入れて完成させ、それをデュマの名前で発表していたようです。
         ですから、その点について批判されることもあり、実際作品の8割方の部分はアシスタントの手によるものであったとも書かれています。
        但し、やはりそこは文豪なのでしょう。

         アシスタントが書いた下書き原稿はまったく面白くないのだそうです。
         2割とは言え、デュマが手を入れたことにより断然面白くなったというのですから、やはりそこは天才なのでしょう。
         また、アシスタントも冷遇されていたわけでもなく、デュマはかなりの待遇を提供し、アシスタントらも、相当勝手にデュマの儲けを蕩尽したとも書かれています。
         発表する名前も、デュマは必ずしも自分の単独名での発表にこだわったわけではなく、共作として発表することも持ちかけたらしいのですが、出版社側がやはりネームヴァリューのあるデュマ単独名での発表を望み、アシスタントらもさほどこだわらずこれを了承したのだとも書かれています。

         いずれにしても、やりたいようにやった波瀾万丈の一生だったようで、全く破格の文豪だと言っても良さそうです。
         デュマの作品は読んではいましたが、こういうキャラクターとは全く知らず、大変興味深く楽しむことができた一冊でした。
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        2019/10/14 by ef177

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      黒い悪魔
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【デュマの波瀾万丈の一代記なのだ……あ、お父さんの方ね。】
         アレクサンドル・デュマの一代記です。
         いやいや、あの『三銃士』や『厳窟王』を書いた文豪デュマではなく、そのお父さんの方です。
         はい。実は、文豪デュマは軍人の父親と同じ名前を受け継いでいたのです。

         本作は、佐藤さんの『デュマ三部作』の第一部に当たります。
         弟二部は以前レビューした、文豪デュマを描いた『褐色の文豪』、第三部は『椿姫』で有名なデュマ・フィスを描いた『象牙色の賢者』というわけです。
         つまり、デュマ一族三代を描いているのですね。

         タイトルにも注目です。
         黒→褐色→象牙色と、段々色が薄まっていきますよね。
         これもその通りで、軍人のデュマは黒人と白人のハーフ(ムラート)、その後どんどん白人の血が混じって行って肌の色も薄まっていくのです。

         さて、軍人であるデュマは、カリブ海にあるサント・ドミンゴ島(現在のハイチ共和国)で生まれました。
         侯爵であり農園領主であったラ・パイユトリが現地の黒人女性であるマリー・デュマに生ませた私生児だったのです。
         一応、貴族の子息ということにはなるのですが、そこはムラートであり、また私生児でもあったことから他の黒人奴隷と共にコーヒー農園で働かされていました。
        でも、デュマは心の中では「自分は黒人とは違うんだ」という強い自負心が常にあったのです。

         その後、フランスに帰国していたパイユトリ侯爵のほとんど気紛れ(?)とも思える指示により農園から引き揚げられ、フランスで侯爵の息子としての生活を送るようになります。
         デュマはかなりの美丈夫だったようで、ムラートだったこともあり大変目立った存在だったようです。
         農園奴隷から一転して貴族の子息としての放蕩生活になったわけですが、それも長くは続きませんでした。

         耄碌したパイユトリ侯爵は、身分不相応にも屋敷で下働きをしていた中年女性と結婚すると言いだし、……というわけなので以後お前の生活費は出さないとデュマに通告したのでした。
         デュマは怒りました。
         いえ、別に生活費をもらえなくなったことに腹が立ったわけではありません。
         下働きの女中と結婚するのなら、何故自分の母親と結婚してくれなかったのかという怒りでした。
         デュマは、それなら上等ということで軍隊に入ると宣言し、通常貴族の子息なら伝によって士官から始めるところを二等兵から始める、しかもパイユトリの名前を捨てて母の姓であるデュマを名乗ると宣言して入隊したのです。

         デュマは身体が大きく、農園で鍛えられて体力もあり、また運動神経も抜群だったので軍では相当に実力を発揮しました。
         また、どうせ黒人と蔑むんだろうという気持ちから、上官に対してもへつらうようなことはせず、腕っぷしだけで認められるようになって行くのです。
         これまでは、「自分は黒人とは違う」という思いでいたのに、軍に入ってからは自分は「白人連中とは違う」という自負心を持つようになったようです。

         本作は、2部構成になっています。
         第一部は『フランス革命』。
         フランス革命の最中、軍人として頭角を現し、混乱に乗ずるところもあって遂に将軍にまで成り上がる様が描かれます。
         佐藤さんの名作に『小説フランス革命』シリーズがありますが、ちょうどあれをデュマの視点から眺めたような感じになっています。
         弟二部は『ナポレオン』です。
         フランス革命後、頭角を現してきたナポレオンとの関係を軸に描かれていきます。
         
         デュマというのは傑出した人物であったことは間違いなく、非常にプライドが高く、筋を通そうとした人物として描かれていますが、他方で実は小心なところがあったようにも描かれています。
         小心と言ってもびくびくしているとか勇気がないとかいう意味ではなく、もっと自信をもって堂々としていていいのに、妙に神経質だったり、体面を気にかけてしまうようなところがあるという意味です。
         そんなデュマを最初から最後まで支えた賢妻がマリー・ルイーズという白人女性だったのですね。
         そして、マリーとの間に生まれた子供の一人が後の文豪デュマというわけです。

         佐藤さんの筆は相変わらず堅調で、将軍デュマの波瀾万丈の一生を生き生きと描き出しています。
         私は弟二部の『褐色の文豪』から読み始めてしまいましたが、これは第一部の本作から読んだ方が良かったと感じました。
         だって、弟二部で文豪デュマは非常に父親のことを高く評価し、父親に憧れ、軍人になりたがるというエピソードが出てくるのですけれど、それは先に第一部の本作を読んでいた方が生き生きと伝わり易いと感じたからです。
         これから通して読んでみようかなとお思いの方は、是非、本作からお読みになることをお勧めします。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2020/05/11 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      褐色の文豪
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【破格の文豪】
         佐藤賢一さんの本作、主人公は、アレクサンドル・デュマですよ。
         『三銃士』、『モンテクリスト伯』などの傑作を書き上げた世界的文豪ですが、こういうキャラだったとは全く知りませんでした。

         まず、黒人とのクォーターだったんですね(なのでこういうタイトルです)。
         ギョロッとした大きな目に縮れた髪、もちろん浅黒い肌。
         恵まれた身体をしており、中年以降は金に糸目をつけずに美食を続けたため、相当に太ってしまったようですが(『美食大全』という本も書いていますよね)、若い頃は引き締まった身体の偉丈夫だったようです。

         前編を通じて流れるのは、父アレクサンドル・デュマ(同名です)への思慕とコンプレックスでしょうか。
         父親は『黒い悪魔』との異名を取ったフランス軍の名将軍で軍名を轟かせたのだそうです。
         デュマも、そんな父親に憧れ、終生、軍や革命での活躍を望んでいたと描かれています。

         しかし、作家になったのは、シェークスピアのハムレットの翻案劇(翻案したのは大した作家ではなかったようですが)を見て感動し、また、親友であった同郷のルーヴァンが作家志望で、「お前もパリに来い」と誘われたこともあってのことでした。

         もちろん、最初のうちはなかなか芽が出なかったのですが、生まれつきの人なつこい性格から人脈を得たこともあり、いきなりフランセ座での『アンリ三世とその宮廷』のロングラン公演に成功し、一気に名声を手に入れます。

         それからは破竹の勢いで、書く作品、書く作品が大ヒット。
         本作では、デュマと同年代の文豪ヴィクトル・ユゴーも登場するのですが、ユゴーも高い名声を得てはいるものの、人気の点では圧倒的にデュマの方が上で、ユゴーすら歯がみをしたとされています。
         特に、識字率が上がり、庶民が新聞を読むようになった頃に、新聞小説として連載された『三銃士』、『モンテクリスト伯』の人気は絶大で、デュマは押しも押されぬ世界的大作家になったわけですね。

        しかし、その私生活の方は、お世辞にも褒められたものではなかったようです。
         第一、女癖が悪すぎます。
         次から次へと女性と関係を持ち(もちろん、一時期に何人もと)、子供を作り、認知することには抵抗はなかったようですが(子供は好きだったようです……息子の一人には自分と同じ名前をつけましたよね。『椿姫』を書いたデュマ・フィスです)、しかしちゃんとした結婚などなかなかしなかったようです。

         舞台作家として第一人者でしたから、役が欲しい美しい女優は選り取り見取り。
         次から次へと手をつけますし、それこそ一夜のお相手まで入れたら関係した女性の人数は一体何人に上ったことかと書かれています。

         作家としてこれほど大成し、莫大な収入も手にしたのですが、デュマはいつまでたっても父親への憧れとコンプレックスを克服できなかったようです。
         やはり、軍人として、実際の社会で身体を張って活躍したいとの熱望があり、作家など所詮作り話をしているだけで、柔弱であると思われているに違いないとの思いを捨てきれなかったようです。

         ですから、パリ7月革命では先頭に立って革命に加わり、功成り名を遂げたいとの一心から全く無謀な行動に出たりもします(結果的には成功させてしまうのですが、あまり評価はされなかったようです)。
         2月革命の頃には、さすがに肥満した身体で闘うことまでは躊躇されたものの、2度に渡って議員となるべく立候補していずれも落選。
         その後、イタリア統一戦線にまで手を広げるといった具合の戦争、政治好きだったようです。

         また、デュマは、一人であれだけの作品を全部書いたというわけでもなかったようですね。
         共同執筆者又は助手を使い、例えば歴史考証や下書きなどはそういったアシスタントにやらせ、できあがってきた原稿にデュマが手を入れて完成させ、それをデュマの名前で発表していたようです。
         ですから、その点について批判されることもあり、実際作品の8割方の部分はアシスタントの手によるものであったとも書かれています。
        但し、やはりそこは文豪なのでしょう。

         アシスタントが書いた下書き原稿はまったく面白くないのだそうです。
         2割とは言え、デュマが手を入れたことにより断然面白くなったというのですから、やはりそこは天才なのでしょう。
         また、アシスタントも冷遇されていたわけでもなく、デュマはかなりの待遇を提供し、アシスタントらも、相当勝手にデュマの儲けを蕩尽したとも書かれています。
         発表する名前も、デュマは必ずしも自分の単独名での発表にこだわったわけではなく、共作として発表することも持ちかけたらしいのですが、出版社側がやはりネームヴァリューのあるデュマ単独名での発表を望み、アシスタントらもさほどこだわらずこれを了承したのだとも書かれています。

         いずれにしても、やりたいようにやった波瀾万丈の一生だったようで、全く破格の文豪だと言っても良さそうです。
         デュマの作品は読んではいましたが、こういうキャラクターとは全く知らず、大変興味深く楽しむことができた一冊でした。
        >> 続きを読む

        2020/05/13 by ef177

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【佐藤賢一】(サトウケンイチ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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