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【魔法と剣の戦い】 遂に最終巻を迎えたレビューです。 結局、この作品の劇中劇(アラビアンナイト的な物語)の主人公は3人ということになるわけですね。 異形にして生まれ、人として最大奥義の魔術を極め、ザハルの街に君臨したアーダム。 森に生まれ、森に拒まれて魔術の奥義を究めようと旅立った「白子」のファラー。 そして、正当王位継承者であるにも関わらず簒奪者により遺棄されたサフィアーン(無双の剣の使い手となります)。 この3人が、そもそもザハルの街に巣喰っていた「魔」と交合し、あるいは打ち捨てられ、または憎み、討ち滅ぼす宿命を背負い、最後には一同に会する(ある意味でね)ということに相成るわけです。 そして、ザハルに巣喰っていた魔も交えての「魔法と剣の闘い」が繰り広げられます。 本書をお読みになった方、あるいは私のレビューを読んで下さった方(ありがとうございます)は、ちょっと不思議に思わなかったでしょうか。 ナポレオン軍に壊滅される寸前のエジプトにあって、最終的な秘策としてアイユーブによって授けられたのが、たかだか1冊の『災厄の書』をナポレオンに献呈するというものだったという点に。 ええ、それは歴史的には確かに一人の狂王を葬り去った魔書だったかもしれません。 しかし、それを仏語に訳したものが、どれほどの効果を生むのだろうか、と。 良いでしょう。 その『災厄の書』には魔力が封じ込められているとしましょう。 しかし、アイユーブはその『災厄の書』を入手していないのですよ。 それをでっち上げるために、『夜の種族』達に新たな物語を紡がせ、それを書き記させているわけです。 それがいかに素晴らしい書だったとしても、それでナポレオン軍を撃退できるものなのでしょうか? それについても、作者なりの説明が加えられていますし、物語もそう展開するのですが……ごめんなさい、ここはやはり弱いと感じました。 本作のコアとなる仕掛けの部分だっただけに惜しい感は残りました。 >> 続きを読む
2021/05/21 by ef177
【でっち上げられる『災厄の書』】 舞台はエジプト。ナポレオンによる侵攻を受け始めています。 当時のエジプトは23人のベイ(知事)らにより構成される内閣により運営されていたのですが、ベイ達は近代戦に関する知識は皆無。 ナポレオンの侵攻など昔ながらの豪壮な戦装束をまとい、宝石できらびやかに飾られた剣を振り回すエジプトの強者達による軍により容易に撃退できると信じて疑いませんでした。 ただ一人のベイを除いては。 そのただ一人のベイがイスマーイールだったのです。 彼は、最大の図書館を有し、知を重んじていましたので、近代戦に関しても僅かながらの知識があり、到底エジプトの軍隊では太刀打ちできないことを悟ります。 そこで、腹心と頼むアイユーブに相談したところ、アイユーブの献策はナポレオンに秘密の書を献上することでした。 この書こそが『災厄の書』と呼ばれているもので、かつてこの書を入手した狂王は、その書の内容に魅せられる余り殺害されてしまったというシロモノ。 その後、外敵の驚異から逃れるために、この書を外敵の言葉に翻訳して献上しようという策が用いられたこともありましたが、翻訳を担当した学者がこの書に魅せられてしまい書と共に行方不明になってしまったといういわくつきの書物です。 ナポレオンは愛書家でしたから、ナポレオンにこの書を献上すれば、ナポレオンもやはりこの書の魔力に取り憑かれて自滅するだろうというのがアイユーブの策でした。 そして、何と、アイユーブはその書を入手しているというのです。 イスマイールはアイユーブの策を入れ、『災厄の書』をフランス語に翻訳することを命じます(翻訳者が書に魅せられないように、細かく分割して別々に翻訳させようというわけです)。 以上がこの物語の背景をなす状況です。 ところが、アイユーブは『災厄の書』など入手していないのでした。 無いのなら作り出せばよいということで、稀代の語り部を見つけ出し、彼女が語る物語を抜群の技術を持つ書家とその助手に書き取らせて『災厄の書』を作ってしまおうという計略に出たのです。 そこで、書家達の前で語り部によって語られる物語が、劇中劇をなします。 毎夜語り部によって物語が語られるというのは、まさにアラビアン・ナイトの世界です。 この語り部や書家達こそが、タイトルにもなっている「アラビアの夜の種族」なのでした。 さて、では語り部によってどのような物語が語られたかと言えば、それもアラビアン・ナイトに出てくるような物語。 最初の主人公は、王家の子息として生まれたものの、非常に醜い容貌を持って生まれてしまったアーダムです。 この王家の近隣には、オアシスを基に非常に栄えた商業都市であるゾハルが存在しており、王家としてはこのゾハルを手に入れたくて仕方ないのですが、度重なる侵略にもかかわらず、ゾハルは全く陥落しないという状況にありました。 ある時、アーダムは、自分に100騎の部下を与えてくれれば、一年でゾハルを陥落させますと王に申し出ます。 アーダムは知力に優れ多少の魔法は使えましたが、武術に関してはからきしダメという男だったのですが。 さて、アーダムはゾハルを陥落することができるのか? これが、語り部によって語られる最初の物語です(第一巻はこの物語が収録されています)。 なかなか興味深い設定ですし、現代のアラビアン・ナイトと言っても良い内容です。 二巻目以降もレビューしますね。 >> 続きを読む
2021/05/19 by ef177
【復活するゾハル】 第2巻目のレビューになりますが、まだ第1巻目を読んでいない方は、ネタバレにもなりますのでお気を付けてお読み下さい。 さて、第1巻目のレビューでも書きましたが、第1巻はアーダムがゾハルという商業都市を陥落させようとする物語。 詳細は書きませんが、ゾハルというのはとんでもない街でして、そこに付け入ったアーダムは見事ゾハルの街を陥落させます。 いや、そればかりではなく、とんでもない力を手に入れ、そもそもの出自の王家をも征服し、ゾハルの街を驚異的に拡大していきます。 街の地下には迷宮とも言うべき大建築を施し、そこに君臨するのですが、とある理由から深い眠りにつくのでした。 ここまでが第1巻目のお話。 さて、第2巻目で語られるのは、それから1000年後の世界です。 ここでの主人公は2人。 アルビノとして生まれ、魔術を極めようとする美貌の青年ファラーと、実は王家のただ一人の直系末裔であったのに、不幸な運命から盗賊に身を落としているサフィアーンです。 サフィアーンもファラーとは違うタイプながらやはり美貌の青年でした。 この二人がそれぞれの運命の定める所に従い、様々な冒険を経るのですが、そうこうしているうちに、深い眠りについたはずのアーダム、そしてアーダムが住まう魔都市ゾハルがよみがえってしまうのです。 さて、その後の運命はというお話。 1巻目ではややもたもたしている感もありましたが、2巻目に入り、俄然調子が出てきます。 なお、著者は、この物語はとある作品を翻訳したものであるというスタイルを維持していますが、まぁ、それはそう言っているだけで、著者オリジナルの物語でしょう。 3巻目に期待が持てます。 >> 続きを読む
2021/05/20 by ef177
異能の者を輩出しつづける青森の名家・狗塚家。平成X年現在、孫たちは三人。半ば人ならざる存在の長男・牛一郎。死刑囚となった次男・羊二郎。胎児と交信する妹・カナリア。「異能の者」とは何か?「天狗」とは?「家族」とは?「故郷」とは?「日本」とは?排除され流亡せざるをえなかった者たちが、本州の果て・東北の地で七百年にわたり繋いで来た「血」と「記憶」。生の呪縛と未来という祝福を描く、異形の超大作。先ずこの兄弟たちのひとつひとつのエピソードがべらぼうに長い。読んでいて本の好きな人でなければ途中で「訳わかんねえ」と投げ出しているかもしれない。ここでは家族の存在を歴史の観点からとらえて血族である異能の彼らが結びついていく絆の物語である。読んでいくとだんだんそれぞれのキャラクタの凄みを感じて、「よくこんな小説書けるよな」と思ってしまう。古川日出男という作家は一度はまれば絶対に全作を読みたいと思わせる筆力を持った作家。その代わり、読みきるまでにたくさんのメモを書きながらストーリーを追っていくのが大変である。村上春樹の影響を受けたというがすでに古川日出男というブランドが確立されたかのようだ。二段組で750枚以上。海外の文豪の如く、ひたすら物語に没頭できた。読み終わった瞬間、フルマラソンを走り抜いた実感を味わった。 >> 続きを読む
2013/11/08 by frock05
面白い思いつきで描かれたショートショートあるいは短編の数々。それぞれ、ちょっと違ったニュアンスを持っています。物語の語り手の設定によって文体も変え、独自なスタイルというよりも器用な人だと思いました。全体としてはシュールな効果を目指しているように思えます。アイディアとしてオリジナリティを感じるものも多いけれど、読後、どこかで見たような。という印象の残る作品も多いのです。非礼を恐れずにいうと、村上春樹のできを悪くしたような作品が多々あります。初期の萩尾望都あたりを思わせるシュールなスケッチ的な小品、村上春樹に影響を受けたように思われる素材や展開の作品。70年代の「マンガ少年」(例えば高橋葉介さんとか)のファンであれば、多分、こういうテイストは見慣れてしまっていると思うのですよ。ですから新しい感動というものは、残念ながらありませんでした。映像化するための「原作」として考えれば、結構面白い映像作品ができそうな気がします。独立した文学作品としては…まあ、そこそこ面白いかというレベルです。もともと雑誌連載のための文章だから、これが適当でふさわしい文章なのだと思います。さらっと読めて、飽きず、読後感がちょっと不思議。単行本として読むべき作品かどうかというと、正直私は物足りないです。☆「ラブ1からラブ3」 妖精の存在証明。イギリス人は真面目にこれやってます。 ラストのシュールさが春樹さんっぽい。「あたしはあたしの映像の中にいる」 餓死しようとした太った女の子の話 え~?デブと決別し、別の自分が本当の自分なの?「静かな歌」 犬とヤギのことを書いたラブレター ☆「オトヤ君」 ある天才児の悲劇 さもありなん。 「夏が、空に、泳いで」 貯水槽の中の宇宙 金が絡むと興ざめです。「台場国、建つ」 臨海副都心水没「低い世界」 13歳の誕生日。低い世界の人々から逃れられるか? こういうの、漫画とかラノベのノリではよくありそうな。「ショッパーズあるいはホッパーズあるいはきみのレプリカ」 君はモデルガンを手に入れる。 いかにもタイトルからして村上春樹みたいでしょう。「ちいさな光の場所」 「カナリア」の二人とピクニック&野外で音楽「鳥男の恐怖」 街をゲーム盤に。中学生の対決の夜、鳥男が現れる。 シュールです。絵とか映像で観たいです。☆「光の速度で祈っている」 ぼくの叔父夫婦が猫を生んだ。 面白い。けれど、結論は意外にも理論的で平凡だったりする。「アルパカ計画」 「かわいいか? けっこうかわいい」 アルパカ・ブームの前だから、価値があると思う。「雨」 「夜中に目を覚ましたら雨が」 雨にインスパイアされたスケッチとして。「アンケート」 無人島に3つ持って行くなら? よくある質問に意外性の答えを考えましたという話。「ベイビー・バスト、ベイビー・ブーム 悪いシミュレーション」 急激に多産化したらどーなる? そうですね。私も少子化そんなに悪い事だらけじゃないと思っています。☆「天使編」 砂漠の中を走る。トランクに天使を載せて。 映画チックです。☆「さよなら神さま」 ホンダのアコード・セダンのトランクに何があるのか? 私も覗きたくなるだろうな~。「ぼくは音楽を聞きながら死ぬ」 無人島でCDのライナーノーツを読みながら。 死の前に聴く音楽ってどういうものだろう?「生春巻き占い」 ベトナム料理の生春巻きは「神聖ツール」なのだ。 漫画チック。イラストで観たい。気に入ったものに☆マークつけてみました。 >> 続きを読む
2013/03/19 by 月うさぎ
相変わらずの疾走感。息継ぎする間もなく文字が網膜に飛び込んでくる。音と数、色、匂い、肉体、様々なものが活字となって読者に真っ向から挑んできます。エンターテイメント小説の体裁をとっていながらもあくまでも古川作品。読んでいても心地良い緊張感が伴います。スタバという名のネコ。まさに鬼神の如くの天才。縦軸も横軸も縦横無尽に飛んでその鉤爪を立てるスタバ。カッコいいっす。鳥類との対決、息を飲む攻防は感動的ですらある。この攻防戦をこういった文体で表現出来るのは他にいないでしょうね。韻なんか踏む必要なんてナシ!そんな事は駄洒落が得意なラッパーがやってればいいのだ。活字、文字で鳴らす「音楽」。個人的な勝手な印象ですが、伊坂幸太郎がボブ・ディランだとするならば古川日出男はルー・リード。 >> 続きを読む
2013/04/20 by za_zo_ya
私の最近、気になる作家のひとり古川日出男の長篇小説は、孤島とか密林とか公園とかに置き去りにされてしまった者たちが、戦闘的に生き抜いていく中からドラマが生まれるパターンが多いんですが、今回読了した「ベルカ、吠えないのか?」は、その"犬版"とでもいうべき作品。第二次世界大戦末期、キスカ島に日本軍が置き去りにした日本の軍用犬三頭とアメリカの軍用犬一頭を出発点にして、彼ら"戦争の犬たち"の視点から戦後50年の歴史が語られる"戦後史"とでも言える作品なんですね。そこから人間の都合で、世界中に彼らの血が広まっていき、やがてひとりの老人のもとに、再びひとつに交わるという一大叙事詩になっていると思う。現在の方では、かつてソ連で切れ者と言われた指揮官が、軍を離れて暗殺請負人みたいになっていて、大主教と呼ばれているんですが、犬と一緒に暮らしている。その話が、この小説全体の横糸になっていて、歴史が縦糸になっている。そして、二人称で犬に呼びかけるとか、文章も独特のパワーがみなぎっていて、神話的なエピソードも交えながら、猛スピードで50年という歳月を駆け抜けるんですね。また、個々のエピソードもベトナムの地下の塹壕で人間の肉を食って生き延びる犬の話とか、メキシコの人気悪役プロレスラーでマフィアの大物でもあるという男と、それに付き従う犬の話とか、実に面白いんですね。とにかく、この小説は、疾走感と文体の魅力で読ませる傑作だと思いますね。 >> 続きを読む
2018/07/19 by dreamer
異色の小説だと思う。今までにも動物を主人公にした小説は読んだことがあったが、犬の一族の年代記などは読んだことが無い。この小説の主人公は犬達である。第二次大戦中日本軍がキスカ島に残していった三頭の軍用犬(四頭いたが一頭は米軍上陸の際、戦死)の血筋に連なる犬たちが本小説の主人公たちである。戦争の世紀と呼ばれた20世紀の世界を舞台にしてアメリカ、ソビエトをはじめとして様々な国で生きてゆく犬達、主に軍用犬として、またその他多くの役割を担いながらその血筋は広がり、いかなる環境でも生き抜き続け、血を次世代に繋いでゆく。様々なエピソードが混然一体となり、20世紀という人類史上特筆すべき時代を一つの壮大な叙事詩の様に紡いでゆく。壮大なストーリーの物語である。所々で作者が文中に入れる犬達の鳴き声”うぉん”がいい味を出していて気に入ってしまった。 >> 続きを読む
2017/12/28 by くにやん
一九九X年。猛毒ガスを手にした一人の男が地下鉄に乗り込む。男の胸には抹殺せよとの教義がある。座席に座り周囲を窺う。と、隣の乗客のヘッドフォンから音楽が、ロックンロールが漏れてくる──。念仏としてのロックンロールが鳴り響く、要塞化した東京。跋扈する牛頭馬頭の獄卒、都市奪還を狙う少女、「塾生」を率いる老人―輪廻とは業なのか?そして彼岸と此岸を自在に往来する、ブックマンを名乗る男が現れる──。「誤解の愛」が播種したロックンロールが、六つの大陸と一つの亜大陸、そして日本に蔓延する。ロックンロールは二十世紀史に邂逅し、その歴史を書き換えていく―。「コーマW」「浄土前夜」「二十世紀」時空を超えた三つの語りが衆生の一切を巻き込みうねる。豊饒にして過剰、過激。破格のスケールで描かれる怒涛の一〇〇〇枚。 読み終えるまでは絶対に眠らないと誓った巨大な聖典。古川日出男の音楽への愛情がおそるべき深度で書かれていく。これはぜひナンバーガールの向井秀徳を爆音で鳴らしながら読んでほしい。ここまで偏執的に音楽と文学をクロスさせた作品はなかなか読めない。古川日出男の中にある「音楽」「歴史」「宗教」のクロスオーヴァー。読みながら「なんて人だ」と思って読み終わったあともライブで生の音源を聞かされたように興奮していた。はっきり言って、ファンでなければまず読まれることはないだろう。その代わり、読んだ人はここまで書いた古川日出男に万来の拍手を送ることだろう。正直、読む前から「これ、読めるかな?」と思いつつ、ページをめくった。ここまで書かれるともう純文学は並の作品では満足できないかもしれない。読んだことのない人はぜひ古川日出男に挑戦してもらいたい。 >> 続きを読む
【古川日出男】(フルカワヒデオ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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