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映画のキャストをイメージして読んだ。歴史ロマンを感じられ、概ね満足。ただ校閲に疑問の残るところあり。 >> 続きを読む
2020/01/11 by hiro2
【大変清々しい『知』の興奮に溢れた一冊】 冒頭の序章で、改暦の話だということが分かります。 江戸時代、幕府はこれまで使われてきた暦の基となっていた中国の800年前の暦法である宣明暦がズレてきていることから、新たな暦を制定することを決断します。 どの暦を採用すべきなのか? 候補となる暦は、大統暦、授時暦、大和暦の三つです。 そのうちの一つを編んだ渋川春海が本作の主人公です。 渋川春海は、御城碁を打つ碁打ち衆の一人でした。 将軍の前で御城碁を打ち、重鎮達に碁の指南をするのは安井、本因坊、林、井上の四家のみに許されていたのですが、春海は安井家の長子だったのです。 ですから、二代目安井算哲を継いで良いのですが、春海は初代算哲の晩年の子供だったため、春海が生まれる前に初代は養子を取り、その養子がまた碁に優れていたため安井算知を名乗り、実質的に二代目としての立場を築いていたのでした。 春海も優れた碁を打つので、堂々と二代目を名乗っても良いのですが、決まった定石ばかりを打つ御城碁に今ひとつのめりこむことができず、非公式の場などでは自ら選んだ渋川春海の名を名乗っていたのでした。 碁のことは算知に任せれば良いと。 春海は、むしろ算術に心を惹かれていました。 今朝も宮益坂の金王八幡に行き、算術の問題を書いた算額というお絵馬に熱心に見入り、またその問題を解こうとしていましたが、難問です。 ところが、春海がその場を離れていた少しの間に、その算額に答が書き込まれているではないですか。 問題を一目見て即答したと思われ、春海は驚愕してしまいます。 誰がこの答を書いたのだ? それは関孝和でした。 はい、和算の祖とも言うべき数学者ですね。 関がまだ二十代前半の頃の話です。 春海は何とか関の教えを請いたいと考え、色々伝を辿って麻布にある算術の私塾にたどり着きました。 その私塾の壁には沢山の問題が貼り出され、その余白に答が書き込まれているものもありました。 関孝和は、その私塾に度々顔を出し、問題を一目見るなり正解を書き込んで行くことから、塾生達からは『解答さん』(または悉く答を当ててしまうことから『解盗さん』)と呼ばれているというのです。 春海は、関の教えを請うためには自らも問題を出した方が良いというアドバイスを受け、考えてきた問題を私塾の壁に貼り出させてもらいました。 その後、貼り出した問題の帰趨を見に出かけたところ、確かに関はその問題を見ていたそうなのですが、何かを書きかけてやめたのだとか。 まさか……。 春海は、自分の問題に誤りがあったことに気付きます。 これでは答は導き出せない。 恥じ入った春海は、その場で腹を切ろうとまでするのですが、間違っていたのなら今度は正しい問題を出せば良いと諫められ、恥を抱えたままその場を立ち去りました。 その後、春海には、日本各地で北極星を観測し、各地の緯度を割り出す調査隊に加わるようにとの老中からの下命があり、実に一年以上の月日をかけて観測調査の旅に出ることになります。 上巻ではこの辺りまでが語られるのですが、大変清々しい物語です。 純粋に数学や天文学に打ち込み、またその驚異に触れて素直に感動する春海の姿が好ましいと感じました。 おそらく、この後、春海は改暦の大事業に乗り出すことになるのだろうと予想されるのですが、下巻が期待されます。 私は、これまでに数学などに関する色々な本を読んでみましたが、とても面白い作品が多く、その度に堪能していました。 例えば、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』などの一連の作品はどれもとても面白かったですし、マーカス・デュ・ソートイの『素数の音楽』も素晴らしい本でした。 あるいは、『算法少女』という和算にまつわる話も興味深く、また面白く読ませて頂きました。 本書も、そんな一連の作品に通じるような面白さがあると感じます。 そして、何よりも一途でひたむきな主人公春海が心地よいではないですか。 下巻がとても楽しみです。読了時間メーター□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/03/29 by ef177
【これは暦法における『プロジェクトX』だ!】 下巻に入り、渋川春海の改暦事業がいよいよ本格的に始まります。 当時の実質的な副将軍とも言うべき保科正之、黄門様こと水戸光圀、大老酒井忠清ら実力者の後援を得て、本格的な改暦の準備を始めるのです。 春海が現在の宣明暦に取って換えようとしたのは、中国の授時暦でした。 仲間と共にその原理を研究し、明らかに授時暦の方が正しいとの確信を深めていきます。 しかし、正しいからと言って簡単に改暦ができるわけではありません。 そこには政治や経済が絡んできます。 これまで暦を決める権限を持っていたのは帝であり、いかに幕府と言えども勝手に暦を変えることなどできませんでした。 また、帝を取り巻く公家や宗教家達の同意も取り付けなければなりません。 経済の面で言えば、当時、寺社などでは宣明暦を基にした独自の暦を制作、販売しており、それが相当な利益を生んでいたのです。 授時暦に変えた場合、その原理を幕府が独占し、民間の暦の制作、販売を禁ずるようなことをすれば、それに対する猛烈な反発がわき起こることも予想されました。 諸々の問題を調整、解決しつつ、春海は改暦の上奏を行いました。 しかし、帝は動きません。 明らかに宣明暦は誤っているというのに、理由にもならない理由を捏ねて改暦の上奏は却下されてしまったのです。 こうなれば授時暦が正しいことを決定的に知らしめなければなりません。 春海は、宣明暦、授時暦に加えて、やはり中国の暦法である大統暦の三つを並べ、それぞれの暦が食(日食、月食)をどう予報しているかを一覧にした紙を作り、それを市中に貼り出して授時暦の正しさを広く知らしめようとしたのです。 三暦勝負です。 春海の狙いは当たりました。 宣明暦、大統暦は、食の予報をことごとく外してしまうのに対して、授時暦は的中させていくのです。 これにより改暦の気運は高まり、その寸前までたどり着きました。 いよいよだ。 しかし、そこには悪夢が待っていたのです。 最後の最後で、授時暦が食の予報を外したのです。 一方の宣明暦は、時間こそ間違っているものの、とにかくその日に食が起きるということだけは予報していました。 これによりこれまでの改暦の気運は一気に萎み、春海に対して罵詈雑言が浴びせかけられたのです。 多くの人々にとって、そろばんで天の動きが分かるという事自体全く理解できないことだったわけですが、案の定、碁打ち衆が算術を振り回した結果の授時暦などあてにならないではないかというわけです。 春海は完全に腑抜け状態になってしまいました。 何故だ。 どこで間違えたのだ。 そんな春海に対して、関孝和が名指しで算術の問題を突きつけてきました。 それは、かつて春海が誤った出題をしたまさにあの問題だったのです。 悄然とした春海は関孝和に会いに出かけました。 関は、会うなり春海を罵倒したのです。 何故分からなかったのだと。 春海は、算術の威力をもって正しい暦に改めようとしてきたわけですが、その成果である授時暦が食の予報を外したということは、所詮算術など当てにならないということを天下に曝したも同然というわけです。 それは国中の算術家の顔に泥を塗ったのだと。 春海は頭を上げることができませんでした。 しかし、関は、ただ春海を罵倒するだけのつもりではなかったのです。 関は、密かに自ら授時暦を研究していました。 そして、その問題点に気付いていたのです。 関は算術家でしたから、どこをどう改めれば正しい暦になるのかまでは及ぶところではありませんでしたが、少なくとも授時暦自体が間違っているということだけは気付いていたのでした。 それなのに、何故春海はそれに気付かなかったのかと叱ったわけです。 そして、春海に対して、授時暦に関する自分の研究成果を与え、お前しか正しい暦を作ることはできないのだと叱咤激励したのでした。 春海は再び立ち上がりました。 もはや幕府の表立った支援を得ることはできず、仲間達との孤軍奮闘になるのですが、それでも陰ながら助力してくれる酒井忠清、水戸光圀、そして関孝和らの助力も得ながら、完全に新しい、日本独自の暦を作り始めるのです。 いやぁ、面白かった! 感動的ですらありました。 まさに『プロジェクトX』とでも言うべき興奮すら感じました。 文章も大変読みやすく、上下二巻、すらすらと読了してしまいました。 春海の不屈の挑戦と、それを支えようとする仲間や実力者達。 志半ばで死んでいく者達。 多くの人の思いを担って改暦に突き進む春海が成し遂げた成果はまさに偉業と言うほかありません。 そして、遂に最後に作り上げた『大和暦』こそ、まさに「明察!」(正解の意)ではありませんか。 大変面白い作品でした。読了時間メーター□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/03/30 by ef177
冲方丁の歴史小説は、前作の『天地明察』もこの本もそうだけれども、良くも悪くも現代的ということです。 扱っている題材は江戸時代だけれども、言葉の選び方、使い方などが非常に21世紀なので若い人向けか、というとこの『光圀伝』はパワーアップで水戸光國の一生を追う、ということでこの時、別のところでは・・・がありません。 幼少期から死ぬまでですから、年を経る事に光國が変わって行く様をつぶさに迫力でもって描いていて読み応えあり。若い人向けだけでなない力量を感じます。 戦国の世ではなく、文治の世だったからこそ武士とは何か?が足元からゆらぐ。 武士がただの「政治家」になってしまった徳川の世ではありますが、その中で、剛胆なエピソードをたくさん持つのが水戸光國公です。 武士であったと同時に大変な文才をもった英知の人でもあり、情熱的な人でもあったという風になっています。 もともとが長子ではないのに、水戸藩2代目になってしまったところからして、事情は複雑で光國自身も非常に悩むし、憤る。 若さゆえの暴走も数知れず。そんな中で、正室となる泰姫や林羅山の次男、読耕斉などの数少ない、精神的な支えとなる人びとの描きわけも非常に綿密に描いています。 光國くらいの身分になると、もうへつらうばかりは多くても、実はこういう人は重責に悩みながらも孤独です。特にその孤独と重責に堪えることになるのは、初代が亡くなって実質「徳川御三家の殿様」になったあたりから。 若い頃は、詩歌で京を負かし、天下をとる、と息巻きますが、だんだん老年になってきて、その詩歌の奥の深さを知り、天下をとることなど意味を持たなくなってくるというのは成長ととるか、守りに入ったととるか。 若い人だと、やはり鼻息荒くしている光國が爽快なんだろうけれど、わたし個人的には年をとるごとに周りの親しい者が亡くなっていき、孤独感にさいなまれる光國の方が人間くさいと思うのです。 最初に現代的と書きましたが「頑張れ」とか「うざい」という言葉使いはさすがに江戸時代ものにはそぐわないです。やはり著者は若い人を頭に入れて書いているのか、と想像します。 細かい所はあるにせよ、力作であることには間違いなく、読み応えがあり、読了後には充実感みなぎります。 >> 続きを読む
2018/06/25 by 夕暮れ
「枕草子」でおなじみ、清少納言の半生を描いた物語です。知名度の割に今まで意外とスポットを当てられて来なかった彼女ですが、この「はなとゆめ」では作者独自の解釈で非常に現代的に描き出されています。物語は彼女の一人称で進行していきますが、その機知に富みながら、どことなく男性的(かつ、オタクっぽい)感じは、一般的なイメージとは異なりますがもしかしたら本当にこのような人物であったのかも?とも思わせる部分があります。作者の過去の作品と比較すると、全体的に心理描写は抑えられており、結末までが思いの外軽く淡々と語られます。分量の短さも含めやや正直物足りなさを感じる面もありますが、「もののあはれ」ではない、日常のなかの「をかし」を淡々と枕草子の中で表現した清少納言の物語であるのですから、こうした描き方が正しいのかな、とも思います。 >> 続きを読む
2014/03/11 by くまきな
泣くというよりジーンと沁みる感じのが多かった。心が少し浄化されたかな。
2017/06/20 by hiro2
【中途半端に読んでしまったので、最初から読み直してみる】 シリーズものの中には、どこから読み始めれば良いのか、タイトルだけからははっきり分からないものがあります。 せめて通し番号でも振っておいてくれればよいものを、あるにはあっても表紙をよく見ないと分からなかったり。 このマルドゥック・シリーズも大変分かりにくいように思います(しかも、何度か書き直されているため、ヴァージョンが沢山あって余計に分かりにくいのだ)。 私は、最初に『マルドゥック・スクランブル』の改訂新版から読み始めてしまい、『スクランブル』はそのままにして『ヴェロシティ』(完全版:文庫版)全3巻を順番通りに読むという極めておかしな読み方をしてしまったのです。 まぁ、自分が悪いと言えばそうなんですけれど。 『ヴェロシティ』を読み終えたところで、完全版の文庫シリーズ全巻を購入し、再度『スクランブル』を最初から読み直すことにしました。 さて、『スクランブル』の第一巻は『圧縮』ですよ。 主人公は、少女娼婦として売られていたバロットです。 彼女は、どん底の境遇からシェルという男に救い出され、偽りの身分を与えられます。 シェルの愛人にされ、何不自由ない生活を保障されたのですが、自分がどういう身分になっているかを調べることは厳禁されていました。 しかし、それはやはり気になるところで、バロットは、自分に与えられた身元を調べてしまったばっかりにシェルに殺されることになってしまいます。 シェルは、オクトーバー社という巨大な製薬会社の下でマネー・ロンダリングをして巨額の富を操作しているプロのギャンブラーであり、過去に脳を改造されたことを逆手に取り、違法なマネー・ロンダリングをした記憶、何人もの少女を殺害してきた記憶をその都度消去していたのです。 何故、愛人にした少女を殺さなければならなかったかと言うと、少女に与えた偽りの身分を利用してマネー・ロンダリングをしていたからなのです。 ですから、バロットにも与えられた偽りの身分を調べることを厳禁しており、それに反したバロットは殺さなければならなかったというわけです。 これだけあくどいことをしても、シェルには何の記憶も残されていないため、、法執行機関としては、いくらシェルを絞り上げたところで何も得られない状況にありました。 その法執行機関側ですが、非常事態において法的に禁止された科学技術の使用を許されたマルドゥック・スクランブルO-9という緊急法令に基づき、バロットを保護しようとするドクター・イースターと万能武器であるウフコック(どんな物にも変身できる、知能を持ったネズミ)が登場します。 彼らは、もとは軍の命令の下、兵器として使える生体改造技術の開発に携わっていたのですが、軍のその手の活動が終了したことに伴い行き場を失い、O-9の下で自己の有用性を示すという条件の下で生存を許されていたのです。 ドクター・イースターとウフコックは、シェルによって車の中で焼き尽くされそうになっていたバロットを間一髪のところで救出し、彼女の意識に直接働きかけて、彼女の「生きたい」という生存に関する同意を取り付け、それを根拠として彼女に新しい身体と能力を付与したのです。 生まれ変わったバロットは、電子攪拌能力を身につけ、ウフコックとパートナーを組んで、シェル訴追に向けた活動に乗り出しました。 しかし、シェルの側もおめおめと処罰されることを甘受したりはしません。 正式な訴追手続きが完了する前に、当面の被害者として名乗り出ているバロットを殺してしまえば手続きの開始を阻止できることから、バロットの暗殺に動き出します。 第一巻は、バロットを暗殺するために5人の襲撃者が放たれ、バロットとの間で繰り広げられる死闘が描かれます。 そしてもう一つ。 シェル側にもO-9捜査官がついているのですが、それは『ヴェロシティ』にも登場したボイルドなのです。 どうやら、ボイルドはもともとはウフコックとパートナーを組んでいたものの、ウフコックを濫用したためにパートナーを解消され、今は敵方についているようなのですね。 ボイルドは、対抗訴追(という何だかよく分からない法的手続き)に則って、O-9を発動して対抗してきます。 う~む、『ヴェロシティ』では、ボイルドとウフコックは再びパートナーを組みことになる事を既に知ってしまっている私としては、何だか複雑な心境です。 やっぱりシリーズものは順番に読むべきですよね~。 本作は、大変スピード感に溢れる作品で、一気に読ませてしまう面白さは抜群です。 言葉にもかなり気を使っており、日本語に敢えて英単語のルビを振り、それで韻を踏ませるなどなかなか凝っています。 さて、次は既に読んでいる第二巻目の『燃焼』を再読することにしますが、これはギャンブルシーンがすこぶる面白かった記憶です。 レビューは続くのだ! みなさん、面白いからついて来て~!読了時間メーター■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/09/23 by ef177
【カジノ・シーンは第二巻の、いや『スクランブル』中の白眉だ!】 さて、第二巻の『燃焼』に入り、バロットらの反撃が始まります。 ボイルドもかなり強引に攻め込んでくるのですが、そこは何とか退け、逆に攻勢に出ようというのが第二巻になります。 バロットは、ウフコックやボイルドが改造された研究施設で、膨大な電子情報の海に漬かりながらシェルのこれまでの記憶(マネー・ロンダリングの記憶や、少女たちを惨殺してきた記憶です)がどうなったのかを探りにかかります。 その結果、シェルの記憶は外部メモリーに移され、そのメモリーは、シェルが経営するカジノの一つで使われている100万ドルという超高額チップ4枚の中に隠されていることが分かったのです。 このチップさえ手に入れることができれば、シェルがやってきた悪事を立証することが可能になります。 でも、どうやってそんなチップを手に入れれば良いのでしょうか? 「強盗?」と尋ねるバロットに対して、ドクター・イスターは、それは最後の手段だと言います。 ドクターの提案は、カジノで賭けに勝って100万ドルのチップを吐き出させるというものでした。 そんなことが可能なのでしょうか? ドクターは、カジノでの勝負に自信がありそうではあります。 しかし、それだけで海千山千のカジノのハウスを負かすことなど、しかもただの負けではなく100万ドルのチップを何枚も吐き出させるほどの負けを被らせることなどとても不可能に思えます。 しかし、ウフコックもこの作戦に乗ると言うのです。 バロットは、ドクターからにわか仕込みでカジノでの様々な勝負のイロハを教わりますが、いかにも付け焼刃に過ぎません。 しかし、バロットの手袋はウフコックが変身(ターン)したものでした。 ウフコックは、勝負ごとにバロットに的確なアドバイスを与え、詳細な確率計算や、バロットの手持資金(バンンクロール)をもとにした適切な賭金の計算、各種セオリーに基づいた戦術などを瞬時に示す他、ディーラーやスピナー(ルーレットでボールを投げ入れる者です)の技術、心理的な誘導などについても教えていきます。 バロットも大したもので、驚くべき速さでこれらのことを飲み込んでいくのです。 第二巻では、このカジノのシーンが猛烈に面白いのです。 スロット・マシーンに始まり、ポーカー、ルーレット、ブラックジャックへと進み、それぞれのゲームの勘所、ディーラーや他の客との駆け引き、ち密な計算、ひりひりするような心理的な誘導とその防御などが非常に巧みに描写され、最初にこの部分を読んだ時からものすごく面白いと感じました。 ここは作者の卓越した描写力、構成の巧さに舌を巻きました。 第二巻では、カジノでの勝負の途中までが描かれますが、この後、大勝負が待っているはずです(私が初めて読んだ『スクランブル』の燃焼編は、『完全版』ではなく、また、文庫版でもありませんでしたので、一冊に収録されている部分がこの本とは違っていました)。 私は、このカジノ・シーンのあまりの面白さからマルドゥック・シリーズにすっかりハマってしまったのです。 もちろん、物語の全体を楽しんでいただくためには、私のように、この燃焼編から(しかもそこだけ)読むなどということは決してお勧めしませんが、少なくともここは読む価値は大だと断言してしまいます。 さて、『スクランブル』もいよいよ最終巻へと向かいます。 カジノ・シーンの決着を再度楽しみ、それに続く物語のラストまで一気に読んでいきますよ~。読了時間メーター■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/09/24 by ef177
【全編を貫く『卵』のイメージ】 さて、『スクランブル』の第三巻に当たる『排気』は、カジノ・シーンの大詰めが描かれます。 カジノ・ハウス側との勝負となったブラック・ジャックで、バロットは手練れのディーラーを次々と退けていきます。 その勝負の過程がかなり詳細に描かれるのですが、非常に緊張感溢れる描写であり、ともするとだれがちになりそうな場面なのに、しかもかなり大部のページを割いているにもかかわらず、一切中だるみ等することなく描き切った筆力は大したものです。 そうして、物語はバロットとボイルドの最後の決戦へとなだれ込んでいくのですが、こういった戦闘シーンは、まるで高速のアニメでも見ているかのようなスピード感と十分な迫力で描かれており、かつ、大変ビジュアルなのです。 文章でここまで書き切るというのも相当な技量だろうと思います。 この『スクランブル』には、全編を通じて『卵』のイメージが潜ませてあるように感じます。 バロットを殺そうとした、カジノの経営者であり、自身ディーラーでもあり、マネー・ロンダリングを重ね、少女たちを惨殺し続けてきたシェルは、もちろん『殻』です。 脳から記憶を抜き取られた、中身の無い殻というわけですね。 ヒロインのバロットは、作中でも解説されている通り、アヒルの完全に孵化していない卵を使った料理の名前です。 それは未熟さの表象か、あるいは、卵を破って出てくることができないまま殺されてしまった雛の姿を象徴しているのか。 知性を持ったネズミ、万能武器のウフコックは、フランス語で『半熟卵』の意味です。 ウフコックの良心を、煮え切らない心と表現したものでしょう。 ボイルドもそういうネーミングなのかもしれません(作中ではそうとは書いていませんが)。 つまり、半熟のウフコックと対極にあるゆで卵。 もっと言えば『固ゆで卵』をイメージしたネーミングなのかもしれません。 もちろん、ドクター・イースターだってそうです。 イースター(復活祭)には卵がつきものでしょ? ドクターの役どころは、ボロボロにされてしまうバロットやウフコックを復活させること。 壊れてしまいそうだったバロットの心を修復することなのですから。 第二巻の再読を含めて、この度『スクランブル』を通読してみましたが、大変に力のこもった、非常によくできた作品だと感じました。 こういう派手な戦闘シーンがあるようなSFを好まない方も多いのかもしれませんが、そこだけに目を奪われて本作を回避してしまうのは大変もったいないことです。 本作には、ウフコックに代表されるような、良心、信託、成長といったナイーヴな要素もふんだんに含まれているのですから。 そして、何度も書きましたが、カジノ・シーンの緻密な、しかもスリリングな描写は是非一読していただきたいと思うのです。 これだけの場面を描き切っている作品はそうざらにはお目にかかれないと思います。 さて、マルドゥック・シリーズですが、シリーズ第三作の『マルドゥック・アノニマス』も全巻買い揃えてありますし、シリーズからのスピン・オフ作品(?)も買ってあります。 今回は、図書館から借りてきた本を思いの外早く読み終えてしまい、他に読む本が枯渇してしまったことから、温存していた『スクランブル』を読んでしまったわけですが、また、そんな事態が起きた時のために、未読のマルドゥック・シリーズは大事に取っておくことにしましょうか。読了時間メーター■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/09/25 by ef177
2018/7 8冊目(2018年通算111冊目)。「マルドウック・スクランブル」の前日譚。「~スクランブル」で憎らしい程の悪役を演じたボイルドが相棒だったウフコックとどのようにして袂を分けたのかというのが話の主題。文章に特徴があり少し読みにくかったというのが感想。それでもまだ1巻目は、ボイルドの方にウフコックを「道具」として扱ってはいけないという気遣いが随所に見られる。ボイルドの心境がどう変わっていくのか?。スターウォーズの新3部作みたいで読んでいてドキドキする。続きも読んでいきたいと思う。 >> 続きを読む
2018/07/20 by おにけん
2018/7 10冊目(2018年通算113冊目)。うーん、自分の文章読解力の無さなのか、文章が読みにくいせいなのか分からないが、話の筋が全然理解できない。もっとも「~スクランブル」も2回読んでやっと「そうだったのか」と理解ができたので、あまり気にしない方がいいのかも。人物(特に09の陣営のメンバー)に色々な事情があり、キャラに愛着が出てきたのでその辺はグッド。3巻目でどんなどんでん返しが待ち構えているのか?。文章が読みにくく理解が追い付かないが頑張って読んでいきたいと思う。 >> 続きを読む
2018/07/26 by おにけん
【スクランブル、ヴェロシティの後、アノニマスの前】 マルドゥック・シリーズの外伝、スピン・オフ的な短編集です。 順番的には、スクランブルとヴェロシティが書かれた後、アノニマスが書かれる前に位置します(まったく、マルドゥック・シリーズってヴァージョンも沢山あって、順番が分かりにくいですよね)。 本書には著者のインタビューも含めて8編が収録されています。 それでは、全収録作品をご紹介しましょう。〇 マルドゥック・スクランブル“104”〇 マルドゥック・スクランブル“-200” いずれも、ボイルドとウフコックのコンビが事件解決に当たる、ヴェロシティ時代の短編になります。 刊行順ではスクランブル→ヴェロシティなんですが、時代的にはこの逆になります。 この両作を読んでいる読者にとっては、再びボイルドとウフコックのコンビを読むことができて感慨一入というところではないでしょうか。 ウフコックのやさしさが光る短編です。〇 Preface of マルドゥック・スクランブル スクランブルで、バロットが事件に巻き込まれる前のワン・シーンを描いた作品。 こういう背景事情もあったのかというエピソードです。 スクランブルではカジノ・シーンが白眉ですが、その前触れ、導入、伏線的な描写があります。〇 マルドゥック・ヴェロシティ Prologue & Epilogue ヴェロシティのラストでは、バロットとボイルドの死闘が描かれました。 あの時の、特にボイルドの内心にフォーカスを当てつつ、マルドゥック・シリーズのここまでを回顧的に総括する作品。 懐かしいキャラの紹介で綴ります。〇 マルドゥック・アノニマス“ウォーバード” この作品を書いた時点では、著者はアノニマスを書き始めていたのでしょうね。 最終的にはアノニマス本体には盛り込まれなかったエピソードです。 この時点では、アノニマスで活躍させたかったキャラが実際に書かれた作品とは違っていたのかもしれないと思わせる描写です(本作の方が、本編アノニマスよりも“イースター・オフィス”のメンバーが有力に描かれている印象です)。〇 Preface of マルドゥック・アノニマス アノニマスの予告編的な作品。 この状況についてはアノニマス本編でも語られています。 ウフコックが自らの命を絶とうとする場面です。〇 古典化を阻止するための試み 著者のインタビューです。 マルドゥック・シリーズが何故これだけ書き直されてきたのか、この時点ではまだ完成していないアノニマスに何を書こうと考えていたのか、アニメ、コミック化についての考えなどが語られています。〇 事件屋稼業 スクランブルの初期原稿の冒頭部分です。 実は、私、アニメ化されたスクランブルを見ているのですが、この部分はアニメの冒頭部分で忠実に再現されていると思います。 というような内容ですので、マルドゥック・シリーズが好きだという方向けの一冊と言えます。 少なくとも、スクランブル、ヴェロシティを読んでいないとなかなか辛いと思います。 私のこのレビューも、このシリーズを読んだことが無いという方には何を書いているのか分からないと思うのですが、その辺りを詳しく書くと膨大なレビューになってしまいますのでそこはご勘弁ください(末尾に各作品のレビューのリンクを張っておきますので、興味をお持ちの方は是非そちらをたどってみてください)。 私は、文庫化されたシリーズを全作読んできましたが、大変面白い作品ですし、よくできている魅力的なシリーズだと思います。 この先も新しいシリーズ作品が書かれていくと良いなあと期待している一人なのです。 マルドゥック・シリーズをまだ読んでいないという方にも、ストロング・リコメンドできる作品ですので、是非お読みいただければと思います。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2020/11/18 by ef177
新井さん上田さん目当てで購入。12人の作家のうち初読みは4人。いやぁ〜どの作品もいいですね!近未来物、皮肉きいた物いろんなのがあり楽しめます。ちょっと苦手なの2作品ありましたがそれもいいです。こんな豪華な本をだしてくれて感謝! >> 続きを読む
2015/09/27 by 降りる人
2018/7 11冊目(2018年通算113冊目)。色々な事が明らかになり、その悲惨な現実に色々な意味で頭がパニックになりそう。ボイルドがダークサイドに堕ちていく過程は急だなとも思うが、ウフコックのことは袂を分けた後でも、一番のパートナーとして大切に思っているのだなということもい理解できた。この後の「~フラグメンツ」「~アノニマス」も引き続き読んでいきたいと思う。 >> 続きを読む
2018/07/27 by おにけん
【冲方丁】(ウブカタトウ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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