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カズオ・イシグロ

著者情報
著者名:カズオ・イシグロ
かずおいしぐろ
カズオイシグロ
生年~没年:1954~

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このランキングは1日1回更新されます。
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      •  ノーベル文学賞を受賞された、カズオ・イシグロ氏の代表作です。
        図書館に予約していたのが届いたので読んでみました。

         結論から言うと、読者を選ぶ本ですね。
        絶賛する人もいれば、まったく伝わらない人もいそうな本です。

         テーマはとても重たいものです。
        そして、大切な情報を伏せられながら物語が進むので、否応なく、なんとなく、モヤモヤした違和感のようなものを感じずにはいられません。

         これは「教えられているようで、ちゃんと教えられていない」という感覚を、読者に実体験してほしかった著者の試みだったのかなぁ…なんて深読みしすぎでしょうか。

         断片的に与えられる情報から予想される主人公たちの境遇が、やはりそうだったのか!とオープンになっても、劇的にスピードアップしたり大事件が発生することもなく、淡々と物語は進みます。
        ある意味ここがすごい。

         どんな教育を受けたのか分かりませんが、主人公たちは彼らの境遇をほぼ100%受け入れているのです。
        一般的な感覚をもっている人間なら耐えられないような驚愕の事実ともいえそうな内容で、実際 彼らの教師の中には思い悩み当惑してしまう人も出てきてしまうのですが、彼ら自身は当たり前のことだと受け入れているのです。

         マインドコントロールと言ってしまえばそれまでですが、この点は読者にある種の衝撃をあたえます。
        伏せられていた設定に対するモヤモヤ感からつながって、作品全体を覆う違和感のようなものが増大するとでも言いましょうか。

         けれど、物語はこのまま終わらず、主人公たちはささやかな抵抗を試みます。
        それは彼らに定められてしまっている人生のむごさからしてみたら、本当にささやかなものです。
        それでも、彼らにしてみたら一大事なのです。

         しかし、それさえも意を満たさぬ結果に終わった時、彼らには何が残ったのか。
        読者にはほとんどすべてのカードがオープンにされた状態でのエンディング。
        ですが、その心象風景から何を読者に投げかけたかったのか、わたしには本当に分かりませんでした。

         風に吹き飛ばされて集まってきたゴミ…私たちの人生もそんなようなもの…
        でもまったくの無意味ではない、たしかにそこに存在はしていた…
        そんな受け取り方でいいのか、読み手に考えさせる文学は本当に苦手です。

         全体的に暗くて、盛り上がりも特になく、読みにくい小説かもしれませんが、興味を持たれた方は是非 手にとってみて下さい。
        読みなれた御手軽な小説などとは一味も二味も違う何かを投げかけてくれる作品です。
        >> 続きを読む

        2018/04/30 by kengo

    • 他18人がレビュー登録、 53人が本棚登録しています
      日の名残り
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 「私にはダーリントン卿がすべてでございました。もてる力をふりしぼって卿にお仕えして、そして、いまは……」
        時は1956年7月
        語り手のスティーブンスは、執事の中の執事。

        執事が旅行するという設定は新鮮ですね。
        お屋敷を離れ初めてのドライブ旅行に出かけたスティーブンスの胸中に去来する様々な記憶や思い。
        初老の男の回想録、もしくはロードムービーのような旅小説、と思えますが、実はそれだけではありません。
        読者は言葉の裏にある意味、事件の背景、敢えて語られないことに注目して読み進めなくてはなりません。
        まるで、謎ときゲームのように。
        すると全く別のストーリーが浮かび上がってくるのです。

        小説のテクニックという点でいえば、「日の名残り」がカズオ・イシグロの最高傑作であるという意見も当然ですね。
        テーマも複層的で深いです。
        何通りものアプローチが可能な、文学としてとても楽しい作品だと思います。
        翻訳も申し分なく、まるで初めから日本語で書かれていたかのようです。

        スティーブンスの分析によれば「品格」とは「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないこと」。
        つまり克個心を持ち高潔で裏表のない態度を常に保てる意識の高さとでも言えましょうか。
        偉大な執事を目指して奮闘努力のあまりに、身も心も執事になり切ろうと、個人的感情や意見や欲望をすべて抑圧してきた彼。
        それが、お屋敷を離れ初めて「自分」と向き合います。

        私は学生時代、日記を書いていたことがあります。
        思いのたけを誰に向けてでもなく、でも読者を想定して書くのが日記。
        この場合、読者とは後日の自分自身。
        真相を知る当事者であり、かつ第三者の目を獲得した読者。
        この作業において、自分のありのままの本音を書くのがどれだけ難しいかに直面せざるを得ませんでした。
        自分に正直になり善きも悪しきも受け止め赤裸々に告白することはフィクションを書くよりも難しい…。
        誰しも自分に嘘をつき、ごまかしながら生きています。
        都合の悪いことには目をつぶり、良心の声に耳をふさぐこともあります。

        スティーブンスの場合は執事の職に邁進することで自己から逃避していたといえるでしょう。
        日々忙しく、これぞ充実人生と考えている人は、多かれ少なかれ同じ過ちをしているはずです。
        人間性というものを追及したり自分を見つめるなんて、ヒマ人にしかできないのですから。


        彼の回想は第1次大戦以後、第2次大戦をまたいで語られていきます。
        ヨーロッパの動乱期という背景の中、彼のお屋敷、ダーリントン・ホールでは多くの秘密会議が開かれ、重要人物たちが出入りします。
        それを身近に眺め、その一員になったかのような自己満足を得る彼。
        それでいながら彼は何の批判も感想も意見も持ちません。
        「それは私のお役に立てる事柄ではないようでございます」
        そうやって日常にのみかかずらわって毎日を送り、他者を思いやることを怠っていました。
        それでいい訳がない!と読者は思いますが、果たしてそれを責める資格が自分にあるでしょうか?
        大きな問題は自分に責任はないと?

        ダーリントン卿という敬愛するご主人を持てた幸せを想いつつ
        彼の心には別の感情が常に重低音のように鳴り響いています。
        それはダーリントン卿が社会からはナチの協力者として非難されている現実によるものでした。

        スティーブンスが口を閉ざしている事実はいつも他者の口から語られます。
        カーライル医師やレジナルド・カージナルズ、ミス・ケントンらによって語られる物事の別の側面、一つの真実を知らされるとき、突如、スティーブンスの語る物語の「嘘」が暴かれ、世界が崩壊するのです。

        カズオ・イシグロは、失われてしまった人生に対し、決して厳しく弾劾するようなことはしません。
        物語はどこへも行きません。
        スティーブンスも哀れに残照に涙を流すのみです。
        彼は新しいアメリカ人のご主人のため、執事道を再び歩みゆくでしょう。
        生き方を変えることも、自己再生もなし、です。

        部分的には誇張された「執事キャラ」に、あり得ない!と笑わされながら、ラストに味わうこの苦い思いは何?
        旅行記スタイルなのに「肝心」の「五日目」の章が「書かれていない」衝撃!
        多くの想いが沸き起こることでしょう。
        そしてきっと個々人の胸の中にスティーブンスに対する共感が。

        う~~ん。うまいな~~!!
        小説として、カズオ・イシグロのすごいなと思うのは特にこういう部分ですね。

        スティーブンスの独りよがりがここで一気に人間の普遍のテーマへと昇華します。

        盛り上がりには欠ける小説ですが、味わいは天下一品
        そんなおすすめの小説だと思います。


        ところで、翻訳者の土屋さんに指摘されるまで無知でしたが、1956年7月といえば「スエズ動乱」
        英仏にとって戦後最大の大事件であり直接かかわった大きな戦争で、かつ失敗した戦争です。
        英国人にとっては何も示されなくともその年だとピントくるはずで、言及されないことの作為に気づかない人はいないでしょう。
        自然「日の名残り」とは、大英帝国の栄光が、没落していく最後の残照であると読み取れることでしょう。
        これは英国の古き良き時代の終焉の物語でもあるのです。
        2つの大戦の戦勝国である英仏が新興勢力の米ソに歴史の表舞台を乗っ取られる皮肉な運命
        そういう時代の流れを考えれば、ダーリントン・ホールの新しいご主人様がアメリカ人なのも、当然なのです。


        まるで多面体やだまし絵のように、注目ポイントを変えるだけでいろいろなフォルムが浮かび上がってくるこの小説。
        もちろん恋愛小説として読むのもよし、です。

        あなたにはどんな絵が見えてくるでしょうか?
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        2018/08/08 by 月うさぎ

    • 他13人がレビュー登録、 31人が本棚登録しています
      遠い山なみの光
      カテゴリー:小説、物語
      4.8
      いいね! KEMURINO
      • イシグロ作品にふれる2冊目。英国に住む日本人妻が戦後間もない頃まで過ごした長崎生活を回顧する記憶の物語。

        まるで演劇の幕のように文面に登場人物が現れて語り合い、次の幕へとテンポよく進んでゆく。

        なんか噛み合っていないが、情緒のある登場人物たちの台詞回しは小津安二郎の映画を観ているよう。稲佐山、平和公園、浜屋デパートなど長崎市内の描写も親近感がわく。

        だが、幕が進んでも物語の謎は深まるばかり。主人公の記憶の連なりは幻覚、妄想、狂気を帯び、心理的恐怖劇のように幕を閉じる。不気味な余韻は何を暗示しているのか?

        おりしも73回目の8月15日。原爆投下、敗戦、復興の片隅に置き去りにされたままの無数の記憶の一つに思えた。
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        2018/08/15 by まきたろう

    • 他2人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      わたしたちが孤児だったころ
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • ノーベル文学賞ということで読みましたが、どうもつまらない。内容が頭に入らない。私にはいまいち合わないと思った。なにが面白いのかわからない。 >> 続きを読む

        2018/01/05 by rock-man

      • コメント 2件
    • 他2人がレビュー登録、 7人が本棚登録しています
      充たされざる者
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!
      • いや~長い長編。
        しかし3日しかストーリー的には進んでなくて。
        で、
        次から次へと、予定が入り・・・で。
        でも
        不思議とストレスは溜まらない。
        むしろ「えっ?!」ってユーモアもある。
        読みやすい。
        個人的には好きではないけども、登場人物が多いからメモおススメ。主要人物はある程度限られているから、文庫本に付録的につけていただけたらありがたいとも個人的には思う。

        しかし久々の投稿。汗

        でも決して読みにくくないです。

        そして読み終えた時の達成感はさすが長編!って感じですよね!



        やっぱ物質、紙で重さを感じながらの読書が好き。
        コーヒーお供にね!
        >> 続きを読む

        2018/03/03 by ジュディス

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 2018/02/27読了

        ノーベル文学賞を受賞する前にドラマ版を観た。
        わりと好きなドラマだったから、読みながら思い出しつつ、
        共に映像が浮かんできた。
        その後、映画版も観た。

        どれも、ちょっとづつ描き方が違っていたが、
        原作の雰囲気は壊していなかったように思う。


        倫理とか、そういう観点からいえば有り得ない話だと思うけれど、
        登場人物が、その運命に抗わずに受け入れていく、その強さが切なくて。
        良い作品だと思う。





        >> 続きを読む

        2018/02/27 by ゆ♪うこ

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      浮世の画家
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!
      • 寂しい・・・切ない・・・

        変わり方が”極端”なんだな~。右から左へ。

        中道を堂々と歩けばいいんだけど、どこが中道なのかがわからない。その時代の空気によって、迷いながら生きている人間。それが人間。

        みんな最善を尽くしているつもり。よかれと思って・・・。

        「”若者の性格”が変わってしまった」のではなく、「社会の変化」に順応しているのでしょう。

        ”急激な”変化のもたらす混乱。たしかに、戦前より礼儀正しさや人柄のよさ(従順さ?)はなくなったかも知れない。それは戦争による混乱や変化が大きい分、強く感じられるかも知れない。がそれは一面(憂うべきものかも知れないけど)。戦前がよかったというのも、戦前はよくなかったというのも、どちらもちがう。大ざっぱすぎ、善悪極端すぎる。色々な面がある。いつでも、良い面良くない面両方ある。

        大人は、過去の過ちを直視すること。勇気と正直さでもって。
        反省しつつよりよい方向へと、小さくてもできることを精一杯、今をしっかり生きいていく。それしかない。それでいい。

        戦争(革命)はよくない。大きな変化や混乱をもたらすものは、危険。それが、一部の人間の考えによるものなら特に。

        よりよい変化は一人一人の人間の内側から起こる。社会の変化はその”総意”であるべき。(社会の影響とその責任は非常に大きい)


        戦争の罪の深さを感じる。



        小野さんの思いが胸に迫る。
        色々と考えさせられるすばらしい作品だと思います。

        (方向性が違っていれば、”じわじわと”気がつかないうちに大変なことになってしまう。だから、方向性が重要なんです。”戦争や革命”がない時期には、方向性をよくよく見極めておかないと危険だと思うのですが、、、。でも修正の可能性はあります。)
        >> 続きを読む

        2017/10/29 by バカボン

    • 5人が本棚登録しています

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