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カズオ・イシグロ

著者情報
著者名:カズオ・イシグロ
かずおいしぐろ
カズオイシグロ
生年~没年:1954~

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このランキングは1日1回更新されます。
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      4.4
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      • 面白い!上手い!
        …なんて陳腐な言葉しか言えないのは、この小説が小説そのものだから
        ジャンルはSFになるのですが、叙述型ミステリーのように、曖昧な語りからだんだん明らかになる真実の重さが読者を圧倒するというタイプの構成なので、ネタバレ一切禁止としたいです。
        なので、あらすじも語れない…。

        回想録の形で描かれているのは思い出の中の自分と親友たちの生きたすべて。
        友人との楽しい思い出、喧嘩やいざこざ、恋や性や勉強や、そんな日常のことが中心ですが、そこにまぎれもなく異質な運命が入り込んでいてなんとも言えない冷気を発しています。

        正直SFとしてはあまりにも異端です。
        通常、技術的に可能でも現在具現化していない科学技術や実存しない社会システムを描く際には舞台を近未来に設定するものですね。
        ところがこの「わたしを離さないで」は2005年に発表されたのに、1990年代末のイギリスが舞台(つまり当初から過去の物語の設定)と明言されています。
        なのに内容がこれですよ!!
        私たちが知っている世界と別の世界がパラレルワールドのように存在しているわけです。
        ファンタジーや空想には到底思えないリアリティをもって。
        科学技術的な部分については全く現実を無視しているのに。

        観たことのある方は映画の「アイランド」を想起してしまうことでしょう。(私はそうでした)
        合理性からいうと「アイランド」式であるべはずなんですよね。
        まずセレブや金持ちのために、というのが現実的な話としてあり得ます。
        時間と莫大な金がかかるのですから。
        大体なぜ彼らを社会に出す必要があるのでしょう?
        何のために彼らが生まれてきたのかを考えればそのまま施設で管理すべきでしょう。
        安全で無害なホームにいることが必須条件なはずです。
        運転とかして事故にでもあったらどうするんでしょう?
        拒絶反応が全く無視されているのもおかしな話ではないですか。


        ここで私がこの小説が「小説そのもの」だといったことを思い出してください。

        要するに合理的説明はこの際、意味がないのです。
        やはり小説とは人間をいかに存在感をもって描けるかに尽きるのではないでしょうか。
        少なくともこの小説は、テーマやプロットがすべてではないことを教えてくれます。


        千路に心が動きました。さまざまな思いが渦巻きました。
        でも決してお涙頂戴ではありません。
        小説世界にどっぷり浸りました。
        文章も語彙も平易で読みやすく(翻訳もとてもよくフィットしています。まるでもともと日本語で書かれた小説のようです)伝わるべきことが完璧に伝わります。
        登場人物に一層深い感情移入ができます。

        余韻のあるラストも素晴らしい。
        読後、私のロストコーナーを探したくて海に行ってしまいました。
        でも晴海公園は立ち入り禁止でした(T_T)
        直後はほかの本を読みたくなくなり、主人公を想い、意識がさまよいました。

        完璧です。

        思えば私たちの生もキャシーとそう大差ないのかもしれません。
        生まれた社会に規制された人生から逃げることはできない。
        いや、逃げられるのに逃げられないと思って日常を過ごしているではないですか?
        「あなたがたは教わっているようで、実は教わっていません」
        これも我々の現実と同じです。

        キャシーは知ろうとしました。
        その先に希望を見出すために。
        出口がない事を予感しつつ、現実を受け入れる為にも知ろうとしました。
        私達もそうあるべきです。
        だから読書があるのです。小説が必要なのです。
        限りある閉ざされた生の中で、人はそれなりに生き、愛し、日々の楽しみや慰めを見つけ、思い出を集め、破れた夢と現実との折り合いをつけて生き、そして死んでいく。

        「おれはな、よく川の中の二人を考える…(中略)…互いに相手にしがみついてる。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。…(中略)…けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん」

        う~~ん。なんだか悲しくなってきたぞ。

        「わたしを離さないで」とは、こんな思いを生む小説です。

        でも決して暗い小説ではないのが、不思議。
        ドラマや映画では多分徹底して「恋愛もの」という演出をしていることでしょう。
        まあそれも間違いではないですが。

        その程度の緩い小説とは思わないでもらいたいです。

        この小説を読んで生まれてしまったこの感情をどうしましょう。この思いは「私」を構成するパーツの一つになってしまいました。
        私はもうキャシーたちとともに育ったヘールシャムの子どもなのです。
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        2017/10/13 by 月うさぎ

      • コメント 15件
    • 他9人がレビュー登録、 38人が本棚登録しています
      日の名残り
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 是非読んでみてください。
        満たされました。読み終わって心がいっぱいになりました。
        私は多くを語りますまい」。主人公のスティーブンスっぽく言ってみました。
        私がここで読んだことについて、何かを語ったとしても、それはただの陳腐な言葉の羅列になってしまうのは確実なので、ただ「心が満たされ晴れやかになるようなすばらしい作品」とだけ言っておきます。
        フィナーレもとても美しく郷愁的で、何か印象派の絵画を思い浮かべるような感じがしました。そして一番最後のオチもまた、素晴らしい前フリからの美しい落とし方でした。

        ースティーブンスが海辺の町であったジイサンの台詞ー
        「なあ、あんた、わしはあんたのいうことが全部理解できているかどうかわからん。だが、わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。いいかい、いつも後ろを振り向いていたらいかんのだ。後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。何だって?昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなきゃいかん。」

        こういった作品を世に送り続けるカズオ・イシグロが、ノーベル文学賞をとったのは本当に意義深いと思います。私も含め彼の作品に出会える人が沢山増えたという点で。

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        2017/10/16 by Reo-1971

      • コメント 3件
    • 他6人がレビュー登録、 19人が本棚登録しています
      わたしたちが孤児だったころ
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
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      • 租界というものが存在した時代の中国(上海)で幼少時代を過ごしたイギリス人の主人公は、やがて探偵になり、活躍します。

        そして、上海で行方不明になった両親を探すために、大人になって再び上海を目指しますす。
        砲弾の飛び交う中で、幼少の頃に一緒に遊んだ日本人との再会、そして両親の真実を知ることになるのでした。

        ストーリーだけをこうして書き出すと、勇敢な青年の冒険物語ですね。
        しかし、この小説の本質はそこにありません。
        混乱の時代に、命を守ることがどれだけ大変だったのか。
        そして、いつの時代も市民は戦争の犠牲になるしかないという悲しい現実でした。

        「孤児だったころ」というタイトルです。
        人はいつも、結局のところ、孤児としてこの世に放り出される運命にあります。
        孤児だった過去を乗り越え、人はどうなっていくのでしょうか。

        だから「わたしたち」とは、この小説の登場人物に限定されないのではないでしょうか。

        人はみな、この世の孤児である。
        悲しく辛い過去を受け入れ、それでも生きていかねばならない、というイシグロさんからのメッセージを受け取った気がします。

        >> 続きを読む

        2016/07/19 by 中華ドレス

      • コメント 1件
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      遠い山なみの光
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • カズオ・イシグロの処女作。
        舞台は長崎とイギリス。
        長崎は主人公悦子が妊婦の時代のシークエンス。イギリスは悦子の2人目の夫との子、ニキとのシークエンス。それらのシークエンスを交互に織り混ぜて作品は成り立っている。

        長崎では仕事人間の夫次郎と暮らす。次郎の父緒方は戦前の常識を引きずったままの言わば堅物。緒方は悦子の恩人。そして近所に住む佐保子。その7.8才の娘万里子。
        イギリスでは英国人の夫と暮らす。長崎の時お腹の中にいた景子は、自殺してしまってこの世にいない。
        ニキはロンドンに一人で住んでいる年頃の娘。

        何か無理をしているような強がっているような長崎での友人佐保子。空回りして無理をしているような母に半分放置され、暗い影が見える、子供らしい無邪気さを見せない万里子。
        そんな佐保子とそれに無理にあわせるしかない悦子。
        戦前の価値観が正しいと信じて疑わない緒方と、それを疎ましく思う息子次郎。
        いろんなことがズレている。噛み合わないまま物語中でそれらが修復した気配はない。

        佐保子はアメリカ人と暮らすと言い、長崎を出てどうなったか分からない。景子は何故死んだのか分からない。最初の夫次郎と何故別れたのかも分からない。
        何か足りないような余韻を残したまま、物語は進む。
        でも最終的に悦子はイギリスで平和に暮らしている。

        長崎とイギリスの景色だけぽかんと頭の中に残る。
        >> 続きを読む

        2017/10/13 by Reo-1971

    • 5人が本棚登録しています
      充たされざる者
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 終始よく分からない話なんです。
        でも最後のページまで辿り着くと、少しだけ心が軽くなったような気になる。そして朝ごはんっていいなって思える。そんな話。 >> 続きを読む

        2016/03/17 by one

    • 4人が本棚登録しています
      わたしを離さないで
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 前置きとして、まず読んで思いに浸りましょう、それぞれに。
        だからちょこっとだけ感想書きます。

        読み終えた時、とても静かな悲しみが自分の周りに広がっていた。冬、誰もいない海岸、目の前の広大な海に、ブイだけがぽつんと浮かんでいる、そんな静かな悲しみ。

        その静かな感じはどこから来るのか?

        カズオ・イシグロが自然に、とても自然にストーリーを運んでいっているからだ。だから主人公のキャシーは次々に起こる死を静かにに受け入れていく。キャシーと同じように私たちも死を(死の場面を)静かに受け入れる。それは私たちが提供者の宿命を分かっているからかもしれないが、カズオ・イシグロのストーリー運びの絶妙さに依る所もかなり大きいと思うのである。

        一番私の心に居座っているのは、我々が他人や自分の死を受け入れる時の心の持ち方を(提供者というフィルターを作品から少し獲得した心で)、改めて考えることである。

        火をつけるとパチパチ火花が勢いよくはぜて、そのうち小さなチリチリになって、そして小さな火の球ほのかに光り、最後にポロッと落ちる、そんな線香花火のような風情の作品だと感じました。
        >> 続きを読む

        2017/10/18 by Reo-1971

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