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フランツ・カフカ

著者情報
著者名:フランツ・カフカ
ふらんつ・かふか
フランツ・カフカ
生年~没年:1883~1924

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      城
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • --彼の歩いている道は、村の本道なのだが、城山には通じていなかった。ただ近づいていくだけで、近づいたかと思うと、まるでわざとのように、曲がってしまうのだった。城から遠ざかるわけではなかったが、それ以上近づきもしないのだ。Kは、ついには城の方に折れる箇所に出くわすに違いないと、たえず期待していた。その期待のためにだけ、歩き続けていった--


        城とは何か。

        Kは夜半に村の宿場につく。
        閉鎖的な城下村ゆえ、外界の人間の宿泊を厭う。Kに出て行けと迫る。
        Kは、「仕事で呼ばれてきた。後から助手も来る」と嘯く。
        宿が城に問い合わせると、否定の後一転して、「Kを仕事で呼んだ」と追認される。
        「来る予定の助手」も城からあてがわれる。
        Kは驚くと共に、この追認は、城がKを低くみたからこその扱いとむしろ憤る。
        そして城に自分を見せつけてやると意気込んで城に向かう。
        城への道は続いているように見えて続かない。
        城はそこに見えるのに近づかない。しかし遠ざかりもしない。
        村人は一同に冷たい。助手は脚を引っ張る。
        前に進まない苛立ちと真冬の寒さに心身が磨り減る。
        そのうち、城からの官吏が村で使う定宿につく。
        城の官吏は人との接触を徹底的に厭う。
        Kは目当ての長官の部屋に辿り着くも、鍵穴を通じて長官の寝顔を除く以上には近づけない。
        一層の接触を画策し、長官の恋人である定宿の女を誘惑し婚約に至る。
        しかしその女性が長官との接触手段を持たないことを知って幻滅する。
        幻滅しながらも、恋愛の甘さにほだされ、寒さをしのぐ二人の住居を得るために、待てども来ない「測量士」の仕事を諦め、提案された「学校の小間使い」の職に就く。
        それでも、安寧に堕することを恐れ、城への接触手段を模索して動き回る。
        自分を手段として観ていただけだと悟り、女がKのもとを助手と共に去る。
        Kが女を取り戻そうと奮闘すると、長官の助手に呼ばれ、女との婚約を破談するように通告を受ける。
        Kは疲労困憊で何もできずにただ通告を受け取る。
        しばし眠った後、再度城への道を模索して動く・・・未完・・・


        カフカは描く。
        城の鐘の音について
        --ひたすら憧れながら、叶えられるかどうかおぼつかないものに脅かされているような気持ちだった。事実この鐘の音には、なにやら悲傷の響きが籠もっていた--

        城からの妨害について
        --Kは、現実的な強制力・・・そんなものは、恐ろしいとも思わなかった。・・・しかし、意気を阻失させるような、ふやけきった環境の圧力、幻滅になれてしまうことや、微細かも知れぬが、たえず襲ってくる色んな影響などが及ぼす力、Kが恐れたのは、そのような圧力に負けてしまうことだった--

        その道程について
        --その頃の僕は、夕方ちょっと散歩に出るくらいの骨折りでどんなことでも達成できると思い込んでいた。ところが、もともと実現不可能だったことがはっきり不可能だったと分かったとき、それを彼のせいにして、恨みに思ったんです--
        --実のところ、Kの心を乱し・・・妨げたのは、彼女の言葉ではなく、彼女の容姿であり、こんな場所にいるということがいけなかったのだ--

        常に彼方に見えるのに道がない。
        近づけども近づかない。遠ざかって視界から消すこともできない。
        現実的な困難ではなく、日常への安寧や惰性、周囲からの評価や恋愛、そうしたものこそが城への障害。

        この格闘が人生を指していることは無論疑いない。
        それでは城とは何か。

        訳者後書きではこれを、「存在・実存」と捉える。
        自分を自分たらしめるもの。
        そういう場所への道のり、苦闘。

        勿論これに私も異論はない。
        それでも、存在・実存は分かるようで遠い。
        殆ど同じ意味かもしれないが、私は、憧れや夢・理想、というものを城に置いてみたい。


        幼少期に、将来は○○になりたい!
        と深く考えずに言う夢。
        大きい仕事してやるぜ!でもいい。

        なれるわけないだろ、という大勢の声に交じって、
        なれるもんならなってみたまえ、と、
        そういう声が届いたのが、冒頭の宿屋でのシーンと見られないだろうか。


        自分の理想や夢、憧れ。成りたい姿。
        自分自身にも現実感がなく、普段は口にも出せない。
        それがふとした拍子で、若気の至りで口を出る。
        冷笑と共に世界がそれを迎える。
        完全否定ではない。
        なりたいならどうぞ。道はあるので後は君次第ですよ、と。
        丁重な姿勢を見せながら徹頭徹尾の嘲笑を投げつけてくる。
        若さ故に刃向かう。
        すぐそこにあって、すぐに手が届くと思い飛び出す。
        道は曲がる。
        辿り着かない。
        それでも、景色からは消えない。
        現実的な要請や、世俗的な安寧が自分を取り巻く。
        心がいつしか、折れる。
        それは、能力への失望ではなく、違う「幸福」による「挫折」。


        良いではないか、家庭のために生きる。
        人から評価される仕事に生きがいを見いだす。
        これのどこが「挫折」か。


        カフカは厳しい。
        「変身」で彼が描く青年は、家庭のために精一杯働いていた。
        彼の家庭はそれで幸せだった。しかしある時、青年は、「家族のためでなかったらこんなことは一切終わらせたい」と思ってしまう。翌朝、彼は虫に変身する。

        誰かのために生きる生は、真の生ではない。

        これがカフカの終生のテーマであったことは間違いない。
        普通、誰かのためにしか人は生きられない。
        ならばこそ「審判」でカフカは生を、「覚えがないのにいつの間にか逮捕されている」と表現する。


        後書きで、「城」は世界文学史上、「カラマーゾフの兄弟」に匹敵する唯一の作品と称えるが、私はこれに深く同感する。
        >> 続きを読む

        2017/12/12 by フッフール

    • 他2人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      失踪者
      カテゴリー:小説、物語
      2.5
      いいね! Tukiwami
      • 正直言ってヘンな小説。カフカであるということを前提に読むべきで、最初の一冊としてこの小説を手に取るのはおやめになった方がいいかもしれません。

        『審判』や『城』と同様『失踪者』も未完の作品
        友人のマックス・ブロートによって『アメリカ』というタイトルで出版されたのはカフカの死後
        カフカ本人はこの遺稿が出版されることを希望してはいなかったという。

        確かに、冒頭部分は強烈なインパクトがあって心に残りやすい。
        事実カフカ本人も書き出しは気に入っていて、第一章「火夫」だけを独立した短篇として出版もしています。

        『女中に誘惑され、その女中に子供ができてしまった。そこで十七歳のカール・ロスマンは貧しい両親の手でアメリカへやられた。速度を落としてニューヨーク港に入っていく船の甲板に立ち、おりから急に輝きはじめた陽光をあびながら、彼はじっと自由の女神像を見つめていた。剣をもった女神が、やおら腕を胸もとにかざしたような気がした。像のまわりに爽やかな風が吹いていた。
         「ずいぶん大きいんだな」
         誰にいうともなくつぶやいた。』

        カフカお得意の迷宮やお役人や無意味で不合理な言動に翻弄される主人公などといったテイストはこの小説でも確認できます。
        でも、カフカ独特な酩酊感がない。
        舞台を見知らぬ大陸の「アメリカ」に選んだのは、狭いヨーロッパ社会に比べて簡単に失踪しやすいからだと思うけれど、
        カフカに関して、アメリカとは肌があっていない気がします。
        広大な土地を持つアメリカのロードムービーをいくつか観ていればわかると思いますが、リアリズムと幻想とがともに効果的なのは、アメリカの空気を醸せるかどうかによるのですよね。
        どう転んでもカフカはヨーロッパテイストなんですね。
        しかも「失踪者」はほぼ私小説ときた。
        女中を孕ませてアメリカに追放されたというエピソードもカフカのいとこに実話に基づくそうですし、カフカ自身も「失踪者」はまさに「自分自身である」と述べているようです。
        なので、他の作品よりも「読みやすい」という意見もちらほら見られます。
        そりゃあ日本人は私小説が大好きだからだろうさ。

        この小説は主人公カール青年が流され流され、どこへも行かない小説。
        本当にカールって、お人よしなのか自主性がないのか素直なのか要領が悪すぎなのか、読んでいてじれったくなることこの上なしです。
        そもそもの妊娠事件も、彼曰く、女中による逆レイプだったというから、何なのよ?という感じ。

        「城」も「審判」もどこにも「行けない」小説ですが、行かないのと行けないのは全然違う。

        天涯孤独なアメリカの土地でカールは全く「自由」ではない
        船を降りる前にトランクも傘も失い、と思ったら船を降りる前に議員である叔父の保護を受けられる身の上になり、
        そこで安寧で贅沢な暮らしができるのかと思いきや、叔父のご機嫌次第で絶縁され、安宿で一夜を共にした放浪者2人組にはカモにされ、ホテルのエレベーターボーイになれたと思ったら、その二人組の妨害行為で首になり、歌手だという女のアパートに監禁状態で半奴隷生活に陥る。
        最後はサーカスを思わせる「オクラホマ劇場」で「技術者」になるべく雇い入れられ…
        のような展開が、奇妙にねじくれた人々によって彩られ延々と続いていくのでした。
        「おかしい」と思っても抜け出せない人を描くのが上手いカフカですが、
        カール君は「おかしい」とも思っていない。出て行こうとする時も、特に何かを求めて飛び出したい訳ではない。
        ただ腹が立つから、ここにいるのは嫌だから、この人と一緒にいない方がよいと思ったから。

        人生において流されていると感じている人は、こんな小説を読んで、共感するのだろうか?それともつまらないと思うのだろうか?
        私は間違いなく「流されている系」だけれど、カールに共感はできませんでした。
        親身になってくれる人を大切にできないという事も問題。
        自分を護れない人は他人も護れないのではないでしょうか?

        人はいつか、何かのきっかけで腹をくくる場面があるものではないでしょうか?
        たとえそれが「失踪」する決意であっても。です。


        あまりに広いアメリカ大陸
        そこで名もなき失踪者になるのは簡単すぎるから。
        >> 続きを読む

        2019/08/17 by 月うさぎ

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      絶望名人カフカの人生論
      4.0
      いいね!
      • "将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。しょうらいにむかってつまづくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
        "本書より(恋人へのラブレターだそうです)

        巷ではいかにうまくやるか、ボジティブになれるかみたいな本ばかりが溢れかえっていますね。
        そのとおり出来る人がどれだけいます?
        私には出来たためしがない・・・。
        ちなみにうつの人には「頑張れ」は禁句なんですよ。

        作品から感じられるとはまた違ったカフカの魅力を知ることが出来ます。世の中のポジティブの押し付けに嫌気が指した人は是非!
        >> 続きを読む

        2017/05/09 by Reo-1971

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      変身
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • カフカの変身を読んでみたくて
        いくつかある翻訳の中
        冒頭のページをパラパラめくって
        岩波文庫が自分には1番しっくりきたので
        こちらを購入。

        ある朝、目が覚めると自分の体が
        巨大な毒虫に変わっていた。
        という衝撃の展開なのに、次の瞬間には
        主人公のザムザは「あんな仕事を選ぶんじゃなかった」
        と仕事の心配をしている。
        なんだこれ。
        なんだかわからんが、おもしろいぞ。
        と思い一気に読んでしまいました。
        どうして毒虫に変わってしまったのかについては一切書かれておらず、それはたいして重要な話ではなく
        変貌してしまったザムザが家族に厄介者扱いされる様が
        えらく現実的に思えました。
        断食芸人という、短編もついていて
        最近の一発屋芸人ってこんな感じかなと思いながら楽しく読めました。解釈違うかも知れませんが 笑。
        >> 続きを読む

        2015/01/12 by ともや

      • コメント 2件
    • 4人が本棚登録しています
      変身
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 埃のように積もる嘆き、諦め、不なるもの
        根底にあるのは貧しさであろうか、運命・宿命であろうか
        じっとりと心を濡れ荒ぶよう
        >> 続きを読む

        2018/02/19 by kotori

    • 4人が本棚登録しています
      カフカ・セレクション
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • カフカは変身しか読んでいないのですが、『城』は読みたいなとずっと思っています。図書館に行ったら、『城』はなかったのですが、短篇集があったので、ためしに借りてみました。

        正直、わけわかんないですね…!!!
        ただでさえカフカでわけわからないのに、断筆されたままの未完の短いテクストまで収められているので、さらにわけがわかりません。唐突に終わってしまっているのです。オチなしヤマなし、みたいな。

        カフカ研究者ならそういうった断片テクストから思想を読み取ることもするのでしょうが、単純に観賞するだけの場合、未完のテクストというのは未完であるというだけでかなり価値が下がる、少なくとも私の場合は。紅葉の『金色夜叉』も面白く読みはしましたが、長い話の末尾で「ここで断筆」みたいなことが書いてあって「おおい!」と突っ込んだのも懐かしい…

        というわけで、そういうの抜きにした、後半の短編部分でしか何とも言えないのですが、わけのわからなさは抜けません。。。とりあえず全3冊あるので、読み通してみるつもりではいますが。うーん。
        >> 続きを読む

        2017/04/17 by ワルツ

      • コメント 6件
    • 1人が本棚登録しています
      カフカ・セレクション
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 同シリーズの1巻はいまいち面白さがわからなかったのですが、これはとても面白かったです。きっと好みの作品があるんですね。相変わらずものすごく短い断片まで収められていますが、好きだなと思ったのは『天井桟敷にて』のなんだか悲しい雰囲気、『肉屋の兄妹』のホラーっぷり、『最初の悩み』もユーモラスだ。『狩人グラフス』はぜひ完成版を読んでみたかった。

        『ある断食芸人の話』『判決―ある物語』『流刑地にて』『巣造り』は夢中で読みました。特に『巣造り』が好みで。
        『判決』と『流刑地にて』はちょっと似た悲哀を感じますね。しかし『流刑地にて』はすごかった。植民地で非人道的な処刑マシンに固執する「士官」と、そのマシンの説明を人道的嫌悪をもって聞く「調査研究者」。固有名詞ではなく役柄でしかよばれないあたり、アンナ・カヴァンを思い出しました。彼女がカフカ的と言われるのがちょっとわかった気がします。

        しかしやはり『巣造り』でしょう。未完なのが残念。完璧に設計された土中の巣でぬくぬくとすごす「私」が、土の向こうから振動として伝わる正体不明の敵の存在を察知し、見えない脅威におびえる話。若いときにもっと考えて巣を設計していれば、とか、相手はもしかしてものすごく巨大なのでは、とか、ああでもないこうでもないとひたすら独白するのがすごくおもしろい。まだ読んでいないけれど、『城』もこんな感じなのだろうか。

        3も読みます。
        >> 続きを読む

        2017/05/05 by ワルツ

    • 1人が本棚登録しています
      カフカ・セレクション
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 読み終えました、カフカ・セレクション。三巻目は「異形/寓意」というテーマで、最後についに『変身』が。

        今回も未完のノートがたくさん収められているのですが、『変身』以外で気に入ったのは『ジャッカルとアラビア人』『あるアカデミーへの報告』『歌姫ヨゼフィーネ、あるいは鼠の族』です。
        未完の『いかに私の生活は変化したことか』はよくわからなかった。

        『変身』はかの有名な虫になるザムザくんの話ですが、彼は姿こそ虫になるけれども、ずっと家族の言うことが理解できるし(ただし話せない)、人間的思考もします。それに対して『あるアカデミーへの報告』は、姿は猿のまま、中身だけが人間になる話です。正確にはヒトの言葉を話し、ヒト
        のようにふるまうようになった猿の話です。
        『歌姫ヨゼフィーネ…』は、チュウチュウ鳴くことを芸術の域に高めたと自負するヨゼフィーネというネズミの話。ネズミたちは彼女が歌いだすとうっとりと聞きほれる。それでも語り手のネズミはヨゼフィーネの芸術家ぶりに懐疑的だ。

        カフカの作品って、弱い立場に寄り添うところがありますね。彼がユダヤ人として生きたこととも関係があるのかもしれません。
        さぁ、いよいよ『城』も読まなくては。
        >> 続きを読む

        2017/05/14 by ワルツ

    • 1人が本棚登録しています
      カフカ小説全集
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 【もどかしさに悶絶してしまいそう】
         カフカの残した原稿に忠実に構成された『カフカ小説全集』第二巻は未完の長編『審判』です。

         ヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日の朝、いきなりアパートにやって来た2人の男達に逮捕されます。
         一体何の容疑で?と尋ねても、2人とも知らないと言うのです。
         ところが、逮捕されたというのに身柄を拘束されるわけでもなく、いつも通り勤務先の銀行に出勤しても良いと言われます。
         その上、出勤の便宜のためと言うことで、銀行の部下職員まで連れてきているではないですか。

         何の事やらさっぱり分からないまま銀行に出勤するKなのです。
         Kは大手銀行の支配人の地位にありましたが、どうやら頭取代理が失脚を画策している様子もあります。
         逮捕されたとは言ってもいつも通り仕事にも行けるのだし、何ほどのことか、と最初は軽く考えているのですね。

         その上、朝、いきなりやってきた男達との間で醜態を演じさせられてしまったことなどを気に掛け、帰宅後はアパートの大家さんの部屋に行き弁解がましい話をしたり、同じアパートに住む女性の部屋に行ってくだくだしい話をしたりしています。

         そんなKのところに裁判所から電話がかかってきて、次の日曜日に出頭するようにと言われます。
         いよいよ裁判が始まるのかと思い、日曜日に出かけるのですが、そう言えば出頭すべき時間を告げられていないことに気付きます。
         こういったものは9時頃に始まるものだと考え、指定された住所に赴きます。
         しかし、そこには裁判所らしい建物はなく、あるのはアパートのような建物だけ。

         仕方なくそのアパートに入り、うろうろしていると、何と、アパートの中に裁判所があることが分かります。
         この辺り、どう考えても裁判所内部の方がアパートよりも大きいように描かれているように感じられ、不条理感が一層高まります。

         どこで何が行われているのか分からないまま、おそらくこれが自分の事件を審理する法廷だろうと当たりをつけ、そこで一席ぶってしまうKなのです。
         いや、そもそも一体何の件で裁判にかけられているのか分からないままなのに、何でそんなことをするのか。

         Kの裁判はその後進んでいるんだか進まないのだかさっぱり分からない状態に陥っていきます。
         最初のうちはあまり深刻に考えていなかったKも段々不安になり、叔父の勧めで依頼した弁護士を督促するのですが、最初に提出する請願書すら書き上げてもらえない状態です。
         Kは自分の裁判のことを聞いたという商人から裁判の話を聞いたり、その商人の勧める裁判に詳しい画家などを訪ねて助言を請うなどし、いっそのこと弁護士など解任してしまおうかとも考え出します。

         そんな過程で裁判の仕組みが解説されるのですが、これがもうナニガナニヤラさっぱり分からない制度なのです。
         そもそも弁護士をつけることは法律上認められていないとか、認められていないけれど事実上弁護士が暗躍しているとか、裁判官も複雑な案件になって困ってしまうと弁護士に相談を持ちかけるとか、まったくわけが分かりません。

         そんな状態が1年も続いた、Kの31歳の誕生日前夜のこと、Kのアパートにいきなり2人の官吏らしき男が現れ、Kは連行されていきます。
         一体何が起きたのか、判決が下されたのか、そもそも何の件の裁判だったのか全く分からないまま、Kは処刑されてしまうのです。

         これが、私達に残されたカフカの『審判』の概要です。
         結局最初から最後まで一体何の事件の裁判だったのか、Kは何を訴えられていたのか、訴訟はどうなったのか等、重要なことが全く分からないままKが処刑されてしまうというウルトラ不条理な物語なのですね。
         最後の処刑の場面でも、Kは抵抗らしい抵抗すらしないのです。
         自分は潔白なのだ、裁判にかけられる理由など全くないと言っていたKだというのに。

         カフカは、この作品に着手するに当たり、まず冒頭の逮捕される場面と、最後の処刑の場面を先に書いたのだそうです。
         そして、それが1年間の間の出来事であることも。
         こうやって頭とお尻を決めて書くことにより、長編第一作の『失踪者』が未完に終わった轍を踏まないようにしたということなのですが、結局未完で終わってしまいました。

         最後の場面は書かれていることから、これまで一般的だったブロート版ではあたかも完成した作品のように編集されて公刊されてきたわけですが、カフカの手稿には、どこに位置づけられるのか不明な断片がいくつか残されていました。
         ブロートは、それら断片を無視し、あるいは一部を別の章に入れ込むなどして編集してしまったのですね。
         本書では、カフカの手稿研究の結果から判明した順に章が並べられており、断片は断片として末尾に添えられています。
         
         カフカ自身、法学を勉強していたということで、『審判』は、カフカの実体験に根ざした作品であると言われています。
         巻末解説によれば、カフカは法律の国家試験に合格し、法律実務の勉強をしたものの、法律家の任用試験を受験せず、法曹にはならなかったとのことです。
        >> 続きを読む

        2019/07/01 by ef177

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      カフカ小説全集
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【こいつは一体何をしに来たんだ?】
         主人公のKは測量士です。
         城からの招聘に応じ、長い旅をしてきて、ある夜、ようやく雪が積もる城下の村にたどり着きました。
         村の入り口に居酒屋兼宿屋があったので、そこで宿を取ろうとしますが部屋がないと渋い顔をされてしまいます。
         強引に頼み込んで酒場の隅に藁袋を敷いて眠りに就きました。

         しかし、程なくして一人の男がやってきて、よそ者が村に泊まるには城の許可が必要だ、許可が無いなら出て行けと言います。
         城からの招きに応じてやって来たというのに何ということを言うのだ!とカチンと来たKは、自分は城からの招聘に応じてやって来た測量士だと名乗るのです。
         色々問い合わせた結果、確かに城が招いた測量士に違いないと分かり、主も部屋を開けるので移ってくれと言い出す始末。

         翌日、城から派遣された助手だという2人の男がKのところにやってくるのですが、この2人組がまったく使えない男達なのです。
         いつもふざけ合い、笑い合っていて、いたずらばかりし、何の役にも立たず、むしろ物事を混乱させるばかり。
         まるで子供のみたいな連中なのです。
         
        そんなKのところに村の少年が城からの使いだと言ってやって来ます。
         少年は局長名の一通の手紙を持ってきており、その手紙によると測量の仕事の兼は村長と打ち合わせて欲しいということでした。
         すぐに村長の所へ行けばいいのに、Kはぐずぐずしており、もう一軒の居酒屋兼宿屋に出かけたりします。

         そこでフリーダという女給と出会うのですが、フリーダは手紙の主である局長のクラムの愛人だというのです。
         そしてクラムその人が今宿にいるということも教えられます。
         覗き穴があるのでそこから覗いて良いと言われ、覗いてみるK。

         で、Kは何とフリーダを押し倒し、そこで関係を持ってしまうのですね。
         村に着いて間もないというのに、Kは一体何をしているんだ?
         フリーダもKについていくことにしてしまい、女給を辞め、Kが最初に泊まった居酒屋兼宿屋に行き、そこで用意してくれた女中部屋を片づけてそこでKと一緒に暮らし始めるのです。
         
        ようやく村長の所に行ったKですが、村長は通風を病んで寝たきりの状態です。
         しかも、村には測量士は必要ないと言うのです。
         おかしいじゃないかと言うKに対して、村長は、測量士などいらないということは城に伝えてあるのだけれど、お役所仕事故、連絡が行き違っているようだと言うのです。
         とにかく仕事は無いと言われ途方に暮れるK。

         この上は局長のクラムに直談判しようと考えます。
         クラムの愛人だったフリーダを寝取ってしまったことでもありますしね。
         フリーダとも結婚するのが良いだろうと考え、その旨、泊まっている宿屋の女将に相談するのですが、フリーダとの結婚は承知されるものの、クラムと直接話すなどとんでもないと猛反対されてしまいます。
         そういうことはできないのだと。
         このことで女将との関係がこじれてしまい、Kとフリーダは宿屋を追い出されてしまいます。

         一方、村長はKのことを一応気にかけているようで、測量の仕事はないけれど、学校の小使いとしてなら住み込みで雇ってやると申し出てきます。
         学校の教師はいけ好かない奴でしたし、測量の仕事をしに来たのに何故小使いなどしなければならないのかとKは断るのですが、当面の住居の確保も必要だとフリーダに懇願され、渋々この仕事を引き受けました。

         そんなKのところに再び使者の少年がやってきてクラムの2通目の手紙を渡されます。
         それによると、城はKの仕事に満足しており、助手達の働きも素晴らしいと聞いていると書かれていました。
         一体どういうことだ?
         測量の仕事など全くしていないし、あのふざけた助手達が素晴らしいだと?
         これはどうあってもクラムと話さなければならないと考え、使者の少年に言伝を依頼し、あるいは自らクラムを待ち伏せしたりするのですが、どうにも連絡が取れません。

         ところで、フリーダや村の人々は、使者の少年の一家を毛嫌いしているようなのですね。
         それはどういうことなのでしょう?
         Kが話を聞いたところによれば、かつて城の役人が一家の娘を愛人にしようと呼び出した際、それを拒否したために以来村八分状態に合っているらしいということが判明します。

         城って一体どういう存在なのでしょうか?
         村人達も、自分たちは城に従属していると言い、城の関係者を尊重しているのですが、どうにも不可解な状況です。
         そして、Kは一体どうするつもりなのでしょうか?
         普通に考えれば、測量の仕事が無いならとっとと帰れば良さそうなものなのに、仕事などほったらかしで、何だか村に居着くようなつもりにも思えてきます。
         こいつは一体何のために村にやってきたんだ?

         というのがこの物語のストーリーです。
         カフカらしく、とにかくイライラさせられる、何が何だかよく分からない、主人公を始め、登場人物が何を考えているのか理解に苦しむ、そんな作品です。

         以前読んだ時には、「どうしても城に行き着くことができない物語」という印象を抱き、カフカの長編(『失踪者』、『審判』、『城』の3編)の中では一番好きだった作品なのですが、この度再読してみて大分印象が変わりました。
         以前読んだ時には、Kと城との関わりということが印象に強く残ったのですが、この度はそれよりも、村の中でのKの振る舞いの方に目が行きました。
         以前は、測量の仕事がなかなかできない、それを訴えようとしても城にたどり着かないもどかしさが強く感じられたのですが、そしてそれはその通りなのですが、再読してみると、私もKと同じように測量の仕事のことなんか脇に置いてしまったようで、それとは別にKが村でうだうだやっていることの方に目が向いてしまいました。

         またこれが本当にうだうだで。
         Kが少年一家が村八分になったいきさつを聞く章がいくつか続くのですが、ここでは一家の娘のオルガとKの二人が延々と理屈っぽい(しかもよく分からない)ことを話し合うシーンなのですね。
         似たようなシーンは、Kと宿屋の女将の話し合いのところでも出てきます。
         本当にうざったい位延々と台詞が続くのですね。

         カフカらしいと言えば大変カフカらしいのですが、こういうやり取りの部分が面白いか?と言われるとなかなか難しいところではないでしょうか。
         結局、この『城』も未完で終わってしまいます。
         結局、カフカは3編の長編を書くのですが、すべて未完で終わってしまったのですね。

        本書もカフカの手稿に忠実に編集された版で、かつてのブロート版との違いも巻末解説で整理してまとめられています。
         やはりブロート版では本作も完結したように編集されて出版されていたということです。
         そのため、かなり重要な部分を無視してしまっている編集になっているようです。

         カフカの作品に共通する点ではないかと思うのですが、どうもカフカは登場人物に一本線の通ったぴしっとした性格付けをしていないのではないかと思われる節があります。
         いやそれはしているのかもしれませんが、場面場面によってその描写、扱いがぐらぐらするように感じるのですね。
         不安定というか。
         そこがまた不条理感にも通じるところで、カフカの味なのでしょうけれど。

         巻末解説を読むと、どうやらカフカは全体のプロットを決めてから書き始めるということはせず、とにかく思いつくままどんどん書いていったようなのですね。
         だから、場面によってぐらつきのようなものが出るのではないでしょうか?
         残されたカフカの手稿を調べると、そういう書き方をしているのに驚くほど書き直しが少ないのだそうです。

         『城』は6冊のノートに書かれているのだそうですが、ノートのほとんどの部分には手直しがなく、一気呵成に書き上げている様子がうかがえるのだそうです。
         ところが、ノートの終わりになると突然斜線で消して書き直すような部分が増えるんだとか。
         そして、新しいノートのはじめの部分にもそういう直しが繰り返され、ようやく視点が定まったと見えるや、また何も書き直しのない部分がずーっと続いているんだそうです。

         さて、これでカフカの長編3作の再読を終えました。
         この『城』が一番顕著でしたが、やはり再読してみると当初の印象から変わる作品というのも結構あるものだなぁと改めて感じました。
         以前は、カフカの長編の中では『城』が一番好きだったのですが、再読した結果、自分の中での『城』の評価がちょっと落ちてしまいましたよ。
        >> 続きを読む

        2019/11/25 by ef177

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      変身
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • カフカの『変身』です。池内紀さん訳のカフカはいくつかあるようですが、前に読んだのは新潮文庫版だったので、こっちは初です。読みやすい。

        というか、巻末の解説が非常に充実していて素晴らしかったです。さすが!

        最近カフカをいろいろ読んでいますが、やはりカフカといったら『変身』ですね。虫になってしまうところを完全にスルーしている不可思議さもありますが、家族の反応が非常に気になるところです。気味悪がりながらも世話をする妹とか、まるでびびらない家政婦とか。
        何度読んでも「わかった!」とは思えない小説ですが、ユーモラスでもあるし、悲しさもあるし、カフカが文学史上で重要視されているのがよくわかります。

        ちなみに池内さんは「90年以上も前にこのような小説が書かれていた」と驚いていますが、私はそうは思いません。『変身』が執筆されたのは1912年なのですが、たかだか100年前なら、まぁ最近の部類ではないですか。日本でいえば大正時代。個人的な感覚では、20世紀の小説なら十分現代的だと思います。19世紀になるとさすがにちょっと感覚が違うな、とは思いますが、心理的なところではあまり変わらないですよね。小説の書き方という点でいえば、書簡形式でもなく語らい形式でもないものが生まれたあたりから十分現代的だと思うし、「21世紀的」という意味でリアルタイムの文学は、インターネットが当たり前にある世代なので、もっとぶっ飛んでいる、けど、明らかにカフカの影響を受けているので、あまり遠いとは思わない。

        そもそも古い小説ってなんだろうか?クラシック音楽に形式があるように、古典小説にも形式があるのだろうか?戯曲の時代を抜けて、フィクションというものがそれだけで成立するようになったのって、いったいいつごろなのだろうか。

        …などとあまり関係ないところに思考が飛んでしまいましたが、この池内さんの解説は非常にわかりやすくて助かりました。良いですよ。
        >> 続きを読む

        2017/05/08 by ワルツ

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