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【クトゥルフ、ミスカトニック大学、ダゴン秘密教団、ネクロノミコン、アーカムの街、『旧支配者』……ラヴクラフトの恐怖の世界が拡がる】 ラヴクラフトの本は、かつて持っていたのですが、何かの機会に処分してしまったようなのです。 何度も読んだから良いかなぁとも思ったのですが、他方、ラヴクラフト位揃えておいても良いよねという気持ちもあり、この際だからということで、創元文庫で全集を揃えてみました。 久しぶりに読み直すラヴクラフトです。〇 インスマウスの影 マサチューセッツ州にあるインスマウスという漁村を舞台にした恐怖譚です。 1927年~1928年にかけて、この町の多くの人々が官憲により強制的に拘束され、その身柄はどこへともなく消えていたという事件が起きました。 物語の語り手は、この事件のきっかけを作った男性なのです。 彼は、母親の里方であるアーカムを訪ねるために旅をしていたのですが、安上がりの旅程を探していたところ、インスマウスという漁村を経由してバスで行く路線が良さそうに思われました。 インスマウスなんて聞いたこともない名前です。 色々話を聞いてみると、かつては栄えた所だったようなのですが、ある時、疫病が流行し、それ以後、衰退の一途をたどったのだとか。 インスマウスの住人はほとんど地域の外に出ないらしいのですが、たまにやって来る者は非常に魚臭く、どうにも不快な姿をしており、みんな忌み嫌っているというのです。 インスマウスの周辺では魚がやたらに取れるということもあり、地元の人々は魚を取って生計を立て、また、一つだけ残った製錬所が細々と営業しているだけだとか。 興味を抱いた彼は、インスマウスに立ち寄ってみることにしたのですが、確かにそこは異様な雰囲気に満ちていたのです。 住民の多くは、『インスマウス面』とでも言うべき、独特の顔つきをしています。 なんと言うか、魚じみているというか……。 彼は、夕方にインスマウスを出るアーカム行きのバスに乗ることにし、それまでの間、インスマウスを探索し、昔話を知っているというアル中の老人から奇妙な話を聞き出したのです。 ただ、その老人から話を聞くことは、地元の人に知られると厄介なことになると注意はされていたのですが。 その老人は、彼が振舞った酒に誘われて、何とも信じ難い話をし始めたのですが、途中で突然恐怖に顔を引きつらせて悲鳴を上げたのです。 そして、彼に「早く逃げろ!」と言うではありませんか。 ちょうど、バスの発車時刻が近くなっていたこともあり、彼は大急ぎでバス乗り場に向かいました。 何故かそこにはインスマウスの人々が集まっていたのです。 彼がバスに乗ろうとしたところ、運転手から「バスは故障してしまったので、明日まで出せない。今夜は旅館に泊まるしかない。」と言われてしまいます。 仕方なく、一軒だけある旅館に宿を取ったのですが、その夜のことです。 何者かが旅館に集まって来たのです。 本作は、この恐怖の一夜を描いた作品なのですが、ラストは一ひねりされています。 ラブクラフトの『深い海の者』に関する作品ですね。〇 闇に囁くもの 1927年、ヴァーモント州で洪水が発生した際、見たこともないような生物の死骸が流れてきたのが発見されました。 それは、身の丈が5フィートほどの薄桃色をした生き物で、甲殻類のような胴体に数対の広い背鰭か翼のようなものがあり、何組かの関節肢がついている上、本来なら頭があるところに一種の渦巻き型をした楕円体が乗っており、それには多数の短いアンテナのようなものがついていたというのです。 その嫌悪感をもよおすような死骸はいつの間にか消えてしまったのですが、その正体を巡り様々な議論がなされました。 中には、これは地球外の生命体であるという主張もみられたのですが、マサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学のウィルマート教授はこの説に反対する意見を新聞などに公表しました。 そうしたところ、洪水が発生した場所の近くに世を捨てて一人で暮らしているというエイクリーという男からウィルマート教授に宛てて手紙が届いたのです。 その手紙の内容は、自分も公式にはウェイクリー教授のような否定的意見を公にすることが正しいと考えているが、実は住まいに近い山で洪水で流されてきた死骸のような生物を見たというのです。 その生物が人間の言葉とは思われない言葉で話す音声を録音してあるし、生物が残した足跡の写真もある。 また、その山で発見した何か象形文字のようなものが刻まれた黒い石も保管しているというのです。 エイクリーは、その生物は宇宙のある領域からやって来たと信じるに足りる証拠があり、地球のある種の鉱物を採取するために来ていると考えていると言います。 それらの生物は、人間が干渉しなければ害をなすことは無いが、過度に接近すると大変なことになると言い、このことが公になって人々が山に入って来ることを恐れているとも言うのです。 ウィルマート教授は、とても信じ難い話だと思う一方で、この手紙の真摯なところに引きつけられ、以後、エイクリーと文通を始めたのです。 その後、エイクリーからは不思議な言語を録音したというレコード、足跡を映した写真、象形文字のようなものが刻まれた黒い石などが送られて来、また、これらのものに対するエイクリーの長文の説明が付されていました。 実際にこれらの証拠物を目の当たりにし、ウィルマート教授は増々エイクリーの話にのめり込んでいくのですが、他方でエイクリーの周囲には異変が発生し始めていることを手紙で知ります。 出したはずの手紙が何通か紛失しているということですし、月の無い夜になると何かが家の周りに集まってきているというのです。 エイクリーの危機はどんどん募っていくようで、遂に何者かによる襲撃を受けたとも知らせてきたのです。 本作は、クトゥルフ神話の一端をなす、異次元宇宙からの来訪者を綴った一編になっており、ラヴクラフト作品の中でも重要なものであろうと思います。 怪奇小説のジャンルで独特の地位を占めるラヴクラフトであり、熱烈な信奉者も多いのですが、私はそこまでは入れ込んではいないものの、幻想文学好きとしては無視することができない作家であることは間違いないと思います。 全巻入手しましたので、おいおいご紹介していきたいと思います。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2020/12/29 by ef177
【フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン……】 ラヴクラフトは、生涯で50数編の作品を残したそうですが、全集第二巻からは後期に属する作品が収録されているとのことです。 全集の二巻目で早くも後期作品になっているわけですが、全体の構成はどうなっていたんでしたっけ?(全9冊です)。 それでは収録作品をご紹介しましょう。〇 クトゥルフの呼び声 これは、ラヴクラフトが創設し、その後、後継者であるダーレスらにより補完されていった『クトゥルフ神話』の出発点をなす作品で、ラヴクラフト作品の中でも重要な作品になります。 『クトゥルフ神話』の骨格とも言えるべきエッセンスが書かれており、『クトゥルフ神話』の理解には欠かせない作品と言えるでしょう。 本作でも、クトゥルフが復活する様が描かれており、直接的にクトゥルフが描写されるのは珍しいのではないでしょうか。 なお、冒頭のリードは、クトゥルフに関する呪文なのですよ。〇 エーリッヒ・ツァンの音楽 古びたアパートの屋根裏で、夜な夜なヴィオルを演奏するエーリッヒ・ツァンという老人の物語です。 その下の階に住んでいた主人公が、ツァンのヴィオルに魅了されてしまい、嫌がるツァンを説き伏せて屋根裏部屋での演奏に立ち会うようになるのですが、度々耳にした禍々しい曲だけは目の前では演奏しようとしません。 しかし、ある時、窓の外から何かの音が聞こえてきたかと思うと……。 怪奇ものの掌編なのですが、なかなかの雰囲気を湛えた佳作です。〇 チャールズ・ウォードの奇怪な事件 ラヴクラフトにしては珍しい中編作品です。 主人公のチャールズ・ウォードは、元来の好古趣味が高じて、祖先の中で歴史から抹消された人物がいることを発見し、その研究に打ち込んでいった結果……。 何代にもわたる恐怖の物語が展開されます。 そのエッセンスとなるのは、招魂であり、『クトゥルフ神話』にも通じる、古き者を蘇らせるという概念です。 いつもの短編とは違い、構成にも工夫が凝らされた作品です。 ラヴクラフトの作品は、基本的に同じようなテーマを手を変え品を変えて提示するところがあり、これが好きかどうかで評価は決定的に分かれるように思います。 私は、さほど好きというわけでもないのですが、怪奇小説というジャンルにおいて無視できない作家であり、後世に与えた影響も大きいことは間違いないことから、(再読になるものもありますが)もう一度一通り読んでおこうと考えての読書になっています。 創元文庫の『ラヴクラフト全集』も、過去に飛び飛びで購入して何冊か持っていた本なのですが、散逸してしまったこともあり、この度全巻を買い揃え直しました。 ラヴクラフト作品のレビューが思い出したように登場すると思いますが、お付き合いいただけるとありがたいです。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2021/01/06 by ef177
【どうもラヴクラフトらしいおどろおどろしさが今一つという感が……】 この全集は、多くの全集が採用している執筆順、刊行順という収録順序に依らず、各巻ごとにテーマを決め、そのテーマに沿った作品を集めて一巻を編み、一つの巻の中でも執筆順等を採っていない編集方針でまとめられています。 それも一つの編集方針だと思うのですが、この巻に関して言えばどうもラヴクラフトらしい怪奇、陰鬱、おどろおどろしさという色合いが薄れている作品が多い印象を受けました。 ま、そういうことに端的に気付けるというのもこの編集方針ならではなのかもしれません。 で、本巻のテーマは何かというと、一つは作者の分身とも言われているランドルフ・カーターを主人公にした作品を集めているということ、もう一つは、ラヴクラフトが心酔したというロード・ダンセイニ風の作品を集めたということだそうです。 取り合えず収録作品から何作か見ていきましょう。〇 白い帆船 ダンセイニ風の掌編と分類される作品。 巻末解説によれば、ダンセイニの『ヤン川の舟歌』の影響を受けた作品で、『ヤン川』が川をゆく舟の物語であるところを、海をゆく帆船に置き換えて語った物語ということです。 そうですねぇ……ダンセイニの『ヤン川』が持つ独特の夢幻の雰囲気が再現されているかというと……ちょっとどうだろう? なお、最終目的地である『西の玄武岩の柱』が屹立する海域(海の果てになります)というモチーフは他の作品でも登場しますね。〇 ランドルフ・カーターの陳述 ランドルフ・カーターが初めて登場する作品で、墓暴きの物語なんですが、まだランドルフ・カーターものらしさは発現していないように思われます。〇 銀の鍵〇 銀の鍵の門を越えて ランドルフ・カーターものですが、代々伝わる異次元に行くことができる銀の鍵を巡る物語。 『銀の鍵』はその前哨戦のような作品で、銀の鍵を見つけて失踪してしまったことだけが描かれます。 で、一体カーターに何が起きたのかが語られるのが『銀の鍵の門を越えて』になるんですね。〇 未知なるカダスに夢を求めて 最もランドルフ・カーターものらしさが出ている中・長編です。 ラヴクラフトの生前には発表されることがなかった作品だそうですよ。 で、これが荒唐無稽というか、他のラヴクラフト作品とは一線を画す内容になっているのです。 冒険家ランドルフ・カーターは、次から次へと冒険の旅に出ていき、行く先々で何とも奇妙な非人類種族と邂逅するという冒険物語なんですね。 カーターが赴く場所は非常に広範囲にわたっており、海洋、海中、険山、何と宇宙まで。 言葉や食糧などに何の苦労もすることなく、疲れを知らずに冒険を続けるのです。 作品のテイストは、他のラヴクラフト作品とは違って、ある意味あっけらかんとした明るさのようなものも感じ、これは本当にラヴクラフトの作品なのだろうか?と思ってしまう位です。 ラヴクラフトが創設したクトゥール神話でもおなじみのナイアルラトホテップが登場するのですが、クトゥール神話における禍々しさを感じないんですよね。 この雰囲気、どこかで読んだことがあるような……と思っていたら、あれだ! 『ヒュペルボレオス極北神怪譚』/クラーク・アシュトン・スミスですよ! これも相当に荒唐無稽な冒険物語なんですが、あまりにアレなんでレビューを断念した作品(苦笑)。 もちろん、ラヴクラフトの方が早いので、『ヒュペルボレオス』がカーターものの影響を受けているということなのでしょうけれど。 ああいう作品が好きな読者にはカーターものは良いのかもしれませんが、私、こういうのあんまり好きじゃないんですよねぇ(笑)。 とはいえ、これもラヴクラフトの一面ということではあるのです。 ご紹介したように、本巻はこれまで読んできたラヴクラフトらしさがあまり感じられない作品が集められている一冊ということもできるかもしれません。 ラヴクラフトの新たな一面を知るという点では参考になると思いますが、クトゥール神話のような作品を読みたいという向きにはあまり適さない一冊ということになるでしょうか。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2021/03/23 by ef177
【この巻はコンプリートを目指すマニア向けかな】 ラヴクラフト全集の本編最終巻です(全集は、この他に別巻の上下があります)。 巻末解説によると、ラヴクラフト本人が単独で書いた作品は、本巻までで全部訳出されているということです。 別巻は、ラヴクラフトが添削した小説や補筆、共作した作品を掲載しているようですよ。 ということなので、本巻はいわば落穂拾い、補遺といった趣の巻になっています。 作品までには完成させられなかった断片も残らず訳出されています。 そういう巻なので、作品的にはこれはという程のものは収録されておらず、一般の読者はここまで読まなくても良いかなという感じもします。 ラヴクラフトの作品をコンプリートしたいという読者向けの巻かもしれません。〇 サルナスの滅亡〇 イラノンの探求〇 木〇 北極星 ラヴクラフトはロード・ダンセイニを高く評価し、その作風を真似たというかインスパイアした作品を書いていますが、この4作はいかにもダンセイニ風の作品です。 巻末解題によると、ラヴクラフトがダンセイニの作品を読む前に書いた作品もあるそうなのですが、その味わいはまさにダンセイニです。〇 忌み嫌われる家 幽霊屋敷ものと言って良いでしょうか。 あまりラヴクラフトっぽくないんだなぁ。〇 霊廟 これはラヴクラフト作品にいくつか見られる探索ものの一つ。〇 ファラオとともに幽閉されて これも探索ものと言ってよいでしょう。 マジシャンである主人公がエジプトを旅行していた時、現地の人々に西洋風マジックに疑念を持たれ、脱出ができるのならやってみるが良いということでがんじがらめにされて深い穴に放り込まれるという物語。 その後の探索ものということです。 本巻にはこれらの作品のほかに『夢書簡』と題し、ラヴクラフトが見た夢を知人に宛てた手紙の中で書いたものをまとめて収録しています。 その夢なるものを見ると、ラヴクラフトの作品の題材になっている、あるいはヒントになったと思われる夢があるようです。 ただ、妙に夢が詳細なんですよね。 こんなに細かく夢を見るか?あるいは覚えているか?という疑問はつきまといます。 あるいはこれは、夢を膨らませて大部分は創作しているのでは?とも思ってしまいます。 以上で、ラヴクラフト全集本編全7巻のレビューは終了です。 お付き合いありがとうございました。 なお、別巻上下も入手していますので、また折を見て別巻の方もレビューしたいと思いますのでよろしくお願いします。読了時間メーター■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2021/04/22 by ef177
【さて、赤ペン先生の添削の結果は?】 ラヴクラフトは、後進の指導に多くの時間と労力をかけたことで知られています。 ラヴクラフトの作品を愛した後進の者たちが寄せた原稿などに細かく手を入れたんですね。 中にはほとんど全面的に書き直した作品もあると言います。 こうなると、アイディアだけが他人で、文章自体はラヴクラフトの作品ということになります。 または、共作の形を取った作品もあったとか。 ラヴクラフト全集の別巻は、このようにラヴクラフトが多かれ少なかれ手を入れた他の作家の作品を年代順に収録しています。 それでは収録作品から何作かご紹介しましょう。〇 這い寄る混沌/E・バークリイ 阿片を摂取した際の幻想を描いた作品。 本作冒頭でも触れられていますが、トマス・ド・クインシーの『阿片常用者の告白』のようなタイプの作品。〇 マーティン浜辺の恐怖/S・H・グリーン ある不思議な海洋生物にまつわる恐怖譚。 誰かが溺れていると思い、ロープ付きの浮き輪を投げ入れ、手ごたえがあったので引き揚げようとしても一人ではとても無理。 何人もの男がロープに取り付いて引き揚げようとするのですが、逆に海中に引きずり込まれていきます。 これは人が溺れているんじゃない! ロープを放そうとしても、何故か手から離れないのです。 ロープをつかんだ男たちはどんどん引きずり込まれていき……。〇 幽霊を喰らうもの/C・M・エディジュニア 古い伝承をもとにした狼男譚。 狼男の扱い方がユニークな作品で、その振舞からタイトルがつけられています。〇 最後の検査/A・デ・カストロ 古代の邪悪な知恵に魅せられた生物学者の物語。 熱病の治療のために始めた研究なのに、逆に熱病にかからせることに魅入られてしまうというお話。 ラヴクラフトのクトゥルフ神話にも通じる設定が用いられています。〇 イグの呪い/Z・ビショップ ヘビの恐怖を描いた作品。 ある種のヘビは自分の子どもを害されると必ず復讐すると言われています。 それがイグ。 ヘビ嫌いの夫のためについヘビの巣を退治してしまった妻がイグの呪いを受けるという恐怖譚です。〇 罠/H・S・ホワイトヘッド 鏡の中に閉じ込められてしまった学生と、それを救出しようとする教師の物語。 SFチックなテイストもあります。 ホワイトヘッド以外は、さほど著名な作家はみられませんが、『最後の検査』のように、ラヴクラフトのクトゥルフ神話に影響され、その味を盛り込んだ短編もいくつかみられます。 ラヴクラフトの筆が入っているので当然なのかもしれませんが、アイディアは別として、いずれの作品もどこかラヴクラフトっぽい感じが漂います。 ただ、ラヴクラフトオリジナルの方が、より美文調、凝った文体の作品が多い印象です。読了時間メーター□□□ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2021/06/18 by ef177
【ラヴクラフトの子供たち】 別巻下も、上に引き続き、何らかの形で(量の多寡はあれど)ラヴクラフトが加筆修正した他の作家による作品が集められています。 それでは、収録作品の中から何作かご紹介します。〇 石の男/H・ヒールド ある魔的な本に載っていた秘法により、憎き敵を石化するというお話。 一応、体裁は古代の秘術ということにはなっているのですが、実際のところは化学的に合成した薬品を使ってるんですけれどね。 復讐物語的なテイストの作品です。〇 羽のある死神/H・ヒールド 解題によると、ラヴクラフトが90~95パーセントを書いた作品だということです。 ですから、作者になっているH・ヒールドは、梗概程度を提供したに過ぎないのではないかとされています。 お話は、密林に巣食う有毒の蠅を使った復讐譚。 この蠅に刺されると命を落とすのですが、死ぬときに蠅に死者の意識が乗り移ると言い伝えられているのですよ。〇 博物館の恐怖/H・ヒールド この作品についても、ラヴクラフトは、「投げ捨てたくなるほどお粗末な梗概に基づき、わたしが代作したものなので、実質的にはわたしの小説なのです」と述べているそうです。 蝋人形の恐怖を描いた作品で、ラヴクラフトお得意の古き者を彷彿とさせる禍々しい存在が登場します。〇 永劫より/H・ヒールド ミイラものですな。 恐怖に歪んだ表情のままミイラになった男が発見されます。 これほどの恐怖とは一体どういうことなのかという物語。 ちょっと、『石の男』にも通じるところがあるかしら?〇 墓を暴く/D・W・ライムル レプラ(ハンセン氏病)に罹患した男が、発病まで長い期間あることから(そうなのかね?)それまで幽閉された生活を送るよりも、という知人の医師の勧めで仮死状態になり、一度埋葬されて死んだことにして、墓から掘り返してもらうという話。 ちょっと乱暴なストーリー展開と感じました。〇 エリュクスの壁のなかで/K・スターリング SF仕立ての一編。 人類は、金星でクリスタルという鉱物を採取していました。 しかし、原住民(?)の蜥蜴型生物と衝突してしまうのです。 主人公は、クリスタルを探している途中で、目に見えない壁に囲まれた迷路のような地区に足を踏み入れてしまうという物語。 SF作品としてみると相当に陳腐であり、SFとしては噴飯もののまったくいただけない作品。 ただし、ホラーとして読めばそれはそれなりに。 ラヴクラフトは、有料で原稿の添削を請け負っていたそうです。 読むだけ、批評するだけ、添削するの3コースがあって、語数ごとに料金を設定していたのだとか。 最高の料金が設定された『完全添削』(ラヴクラフト曰く、『代作』)だと、タイプ用紙1枚当たり2ドル50セントだったそうです。 当時、ラヴクラフトがウィアード・テイルズから得ていた料金の1/7だったということですが、高いとみるか、安いとみるか。 『完全添削』された作品は、パルプ・マガジンなどにも発表されたようですので、自分の名前で作品が雑誌に載ることを考えれば高いとも言えないのでしょうね。 別巻は、このようにしてラヴクラフトが手を入れた作品が集められていますが、別巻上下に収録された作品解題は、下巻にまとめて載せられていますので、解題を読みたい方は下巻を参照してください。 さて、永らく続けてきました創元推理文庫版のラヴクラフト全集のレビューですが、これにて完結となります。 おつきあいありがとうございました。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2021/07/20 by ef177
【LovecraftHoward Phillips】(LovecraftHoward Phillips) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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