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エミール・ゾラ

著者情報
著者名:エミール・ゾラ
えみーる・ぞら
エミール・ゾラ
生年~没年:1840~1902

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このランキングは1日1回更新されます。
      ナナ
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね!
      • 【腐乱する肉体】
         ゾラのルーゴン・マッカール叢書の一冊。前回「ナナ」と間違えて「居酒屋」を読んでしまいましたが(それはそれで良かった)、「ナナ」はその後のお話に当たります(居酒屋が第7巻、ナナは第9巻)。

         「居酒屋」では、ナナは造花工場で働き、時には酒場で踊りを披露していたちょっとはすっぱな大柄の女の子でしたが、その後の本作では舞台女優となって登場します。
         とは言え、演技力もなければ歌も駄目(噴霧器の様な声と描写されています)。だけど、女性的な魅力は抜群で、ただただその肉体的魅力のみでのし上がっていきます。
        官僚の偉いさんや伯爵などのパトロンもつき、彼女の家には男性がひっきりなしに訪れるという有様。

         でも、やはりルーゴン・マッカールの血を引いているのでしょうか。
         生活力がゼロに近く、パトロンから大金をもらっているはずなのに、湯水の様に使い果たしてしまい、何故か借金取りも押しかけるのです。
         そんな生活に自分でも嫌気がさしたナナは、何故か同じ劇場の冴えない俳優と逐電してしまいます。
         有り金全部持って、家を放り出して逃げ出すのです。
         
         二人の生活は、最初は幸せそうではありましたが、徐々に様子がおかしくなってきます。
         ナナは相変わらず生活力はなく、また、男優の方もDV常習者。
         ナナを殴る、蹴るするのですが、何故かナナはそんなダメ男から離れられません。
         だって愛しているのよと。
         殴られればしばらくは泣きはらすのですが、すぐにケロリと治ってまたいちゃいちゃし始めるわけです。
         こういうダメ男から逃げられない女性っていつの世にもいるわけでしょうかね。

         ついに、その男優は残っていた有り金全部を独り占めしてしまい、家に入れると約束した生活費すら入れなくなります。
         いえ、たまに生活費を渡そうともするのですが、何故かナナの方が「昨日もらったお金がまだあるから(昨日、お金なんてもらってはいません!)いいのよ」などと言って受け取ろうとしません。

         じゃあ、どうやって生活費を得ているかと言えば売春です。
         ナナは昔の仲間と共に街娼となって金を稼ぐようになるのです。警察の取り締まりの目を恐れながらね。
         どうして一線の女優からここまでたやすく墜ちるかなぁ……。

         ですが、それでもナナには魅力がありました。男に暴力を振るわれれば振るわれるほど、怪しい魅力が出てくるようです。
         以前、ヒドイ目に遭わせて袖にした伯爵などもナナに未練があり、ナナと再会するや豪奢な生活を与えることと引き替えに囲い者にします。
         とは言え、ナナだっておとなしく囲われているわけもなく、他にも男を作って伯爵の目を盗んでは家に引き入れます。
         そんな男達もナナに搾り取られていくのですよ。資産を食い潰しながらもナナから離れられない馬鹿な男達。
         また、以前の売春婦仲間ともつき合いだし、同性愛的な様相も呈してきます。
         もう、本当にとんでもない程の巨額を貢がせ、それを蕩尽し尽くすナナです。
         ナナの前に零落していく男達は数知れず。
         パリの女性達の間で、君臨すらするナナなのです。モードを作るし(女性達はみんな真似をします)、どんな贅沢でも思いのままです。
         どうしてこんな生活が成り立つのだろうという位の狂気が描かれます。

         終盤に、競馬場のくだりがあります。
         破産寸前の名士が最後の勝負を賭けていたりもするのです。
         その出馬する馬の中にナナという名前をつけられた馬がいます(ここにちょっとしたからくりがあるんですけれどね)。
         放蕩の限りを尽くす競馬場での騒ぎがまるで絵画のように描き出されます。

         ……そして、ナナの最後を迎えます。
         もう、古典なのでネタばれしても良いですよね。
         ナナは、突然そんな社会から姿を消し、外国に行ってしまいます。
         どこぞの王侯をたぶらかしているとか、そんな噂も絶えなかったのですが、ある日、パリに戻ってくるのです。

         とあるホテルの一室。
         もう、ナナは瀕死です。
         ええ、どこかで天然痘にかかってしまったらしいのです。
         巨大なダイヤを持ち帰ったとか、いくつもの輿にお宝を満載して帰ってきたとかいう噂もあるのですけれど、当のナナはもう、膿にまみれ、肉が崩れた、見るも無惨な腐乱した身体になっていたのです。

         天然痘ってそんなだっけ?と思って、以前あかつき先生から勧められて読んだ「Disease」をめくってしまいましたよ。
         ああ……。
         そうなんだ。
         そう。ナナは、それまでの全ての醜悪を一身に抱いて、今は、腐る身体のまま死んでいくのですね。

         やや、冗漫な部分もありますが、非常にインパクトのある作品です。
         ゾラの、ルーゴン・マッカール叢書は、今一度読み直してみるべき作品かもしれないと強く感じています。
         ですが、日本では、先の「居酒屋」、この「ナナ」は比較的良く読まれますが、それ以外の所はほとんどメジャーになっていないのですね(そもそもちゃんとした邦訳が揃っているんだろうか?)。
         これはもうちょっと読むべき作品ではないかと思っている次第です。
        >> 続きを読む

        2020/05/12 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 7人が本棚登録しています
      居酒屋
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【何たる悲惨な】
         以前、とある書評で読んで以来、ゾラ、読まなきゃなぁとずっと思っていたのですが、この度ようやく手にとってみました。
         その書評で書かれていた作品を選んだつもりだったのに、読了してようやく気づきました。あらら、あの書評で取り上げていたのは「ナナ」の方だったかと。

         とはいえ、「居酒屋」もゾラの「ルーゴン・マッカール叢書」の第7冊目ですし、ナナは、「居酒屋」の主人公であるジェルヴェーズの娘ですし(「居酒屋」にも登場します)、何よりも、「居酒屋」も評価の高い作品ですから良しとしましょう(「ナナ」はいずれまた読むことにして)。

         ところで、「ルーゴン・マッカール叢書」ってご存知でしょうか?
         ゾラが25年に渡り書き続けた一大連作で、ルーゴン=マッカール一族を描いた全20冊、登場人物は合計1200名にも及ぶという、まさしくライフ・ワークとも言うべき作品です。
         第1巻の設定は、父親が狂死し、その狂気の遺伝子を受け継いだアデライードが全ての発端となります。アデライードは、ルーゴンと結婚しますが、ルーゴンの死後、アル中であるマッカールと関係を持ち、その後代々この血筋が続いていきます。つまり、狂気の遺伝子か、アルコール中毒の遺伝子(ゾラは、アル中は遺伝すると信じていたそうです)を持った子孫達が延々と続いていくというおぞましいお話。

         さて、「居酒屋」ですが、主人公のジェルヴェーズ(ルーゴン=マッカールの血を引いています)は、父親の虐待のもとに育てられますが、14歳の頃、色男のランチエと関係を持ち、半ば騙される様にして家を出てしまいます。ランチエとの間には2児をもうけるのですが、放蕩者でほとんど詐欺師のようなランチエは別に女を作り家を出てしまいます。
         独り身になったジェルヴェーズは、この頃はまだ可愛らしく、健気で働き者でした。自分一人で何とか2人の子供を育てるんだと頑張り、洗濯女として甲斐甲斐しく働きます。
         そんなジェルヴェーズに惚れてしまったのがクーポーというブリキ職人でした。
         ジェルヴェーズに拒絶されるにもかかわらず、しつこく言い寄り、ついにはジェルヴェーズと結婚することになりました。
         クーポーは酒を飲まなかったので、この人となら真面目にやっていけるって思っちゃったんですね。

         ジェルヴェーズの夢は、贅沢なんてしなくていいから、真っ当に働き、ささやかな幸せの内に一生を終え、自分の家のベッドで死にたいというものでした。
         その夢は、叶うかのように思われたのです。
         クーポーも真面目に仕事に行きますし、少しずつお金も貯まってきて、知人の援助もあって、自分の洗濯店を持つこともできたのですから。
         ですが、ここから転落が始まります。
         ことの起こりは、クーポーが仕事中に転落して大怪我をしてしまうことでした。
         何とか命は取り留めるのですが、その後、すっかり怠け者になってしまい、なかなか仕事に行こうとしません。
         そして、あろうことか酒を飲み始める様になってしまうのです。
         ジェルヴェーズは、そんなクーポーに愛想を尽かすこともなく、洗濯店を切り盛りして何とかうまくやってはいたのですが……

         とにかく、ここに出てくる男達は本当にろくでなしばかりです。
         女を食い物にする、乱暴する(自分の奥さんを蹴り殺した上、その後、家のことを甲斐甲斐しくやっていた娘までなぶり殺してしまうアル中の男なんかも出てきます)、働かない、その他、これでもかというほどに醜悪な男達です。
         とは言え、じゃあ女性はしっかり者ばかりかというと、これもそうでもありません。
         本書の主人公のジェルヴェーズだってそうです。
         やはり、ルーゴン=マッカールの血がたたるのでしょうか?
         最初は本当に頑張っていたのですが、徐々にだらしなくなり、意地汚くなり、性格も歪み、ついには自分も酒を飲み始め……

         あぁ、そんな家に生まれたナナがどう育つかは想像に難くないですよね。
         「居酒屋」の中では、不良少女で、働きに出る様になると家出をくりかえし、どこかで身体を売っているような雰囲気。酒場で踊りを見せびらかす様な若い女性として絵がカッれています(「ナナ」では高級娼婦になるのですけれどね)。

         とにかく読んでいて落ち込んでいきます。
         悲惨極まりなく、とことん転落していくのですから。
         ですが、ずっしりとこたえる作品でもあります。
         さて、今度は「ナナ」を読まなければね。
        >> 続きを読む

        2020/05/10 by ef177

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      制作
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • セザンヌについて学んだ身として
        この本を読まないわけにはいかなかった!

        セザンヌが親友と関係を絶った理由と言われているが、
        読んでみてその通りだと思った。
        今まで一緒に同じ道を歩んできたと思っていた友人が
        自分のことをこう考えていた。
        馬鹿にさえしていたと大人になってから気づいてしまった。
        そりゃ怒るよ。
        気難しい、怒りっぽい一面を持っているセザンヌなら尚更だろう。

        セザンヌを中心にして私は読んだが
        いろんな読み方ができるんじゃないかなと解説を読んでから感じた。
        >> 続きを読む

        2015/05/11 by kotori

      • コメント 2件
    • 2人が本棚登録しています
      ボヌール・デ・ダム百貨店
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【女性を狂奔させる百貨店】
         ゾラの、『ルーゴン-マッカール叢書』第11巻は、パリの大百貨店を舞台にした作品です。
         その大百貨店の名前が『ボヌール・デ・ダム百貨店』というわけです。
         この百貨店は、拡張に次ぐ拡張、潤沢な資本に物を言わせた安売り攻勢により、周囲の小売店を圧倒し続け、パリの街に君臨していたのでした。

         『ボヌール・デ・ダム』とは、『夫人達の幸福』という意味であり、経営者のムーレは、まさに女性を虜にすることこそ百貨店成功の秘訣であると信じている人物でした。
         自身も、金に物を言わせて多くの愛人を作り、女性なら誰でも選り取り見取りの独身生活を謳歌していたのでした。

         本作の主人公は、田舎から二人の弟を連れてパリにやって来たドゥニーズという、あか抜けない若い女性です。
         両親が亡くなり、生活が立ちゆかなくなったために、一年近く前のことではありましたが「パリに来れば仕事がある」と手紙に書いて寄越したラシャとフランネルを商うボーデュ叔父を頼ってパリにやって来たのでした。

         ところが、仕事があるというのは一年前の話。
         今やボーデュ叔父の老舗店も目の前にそびえ立つボヌール・デ・ダム百貨店に押しまくられており、客を失い続けていたのでした。
         ボーデュは、ドゥニーズに同情はするものの、とても自分の店で雇うことはできませんでした。
         
         その後、ふとした偶然からドゥニーズはムーレの目にとまり、ボヌール・デ・ダム百貨店の売り子として働くことになります。
         百貨店を恨んでいる叔父の手前、百貨店で働くのはためらわれたのですが、そうは言っても2人の弟を養っていくためにはそんなことを言っていられる余裕などありません。
         叔父には申し訳ないと思いながらも、百貨店で働くことを決めたのです。

         百貨店に勤め始めたドゥニーズは、田舎から出てきたばかりのやぼったい女性だったこともあり、他の店員から徹底的にいじめ抜かれます。
         しかし、何としてでも耐え抜いて金を稼がなければなりません。
         そんな姉の気持ちを知ってか知らずか、美貌の上の弟はあちこちで女性と良い仲になり、トラブルを起こし、その解決のために姉に金をせびり続けるのです。

         『ルーゴン-マッカール叢書』は、狂気とアル中の遺伝の物語なのですが、ドゥニーズに限ってはそう言った負の因子は全く現れてはおらず、むしろ、貞淑で優しく、芯の強い頑張り屋の女性として描かれています。
         最初は、単に興味本位で雇い入れたムーレでしたが、次第にドゥニーズの美質に気がつき、彼女に惹かれていきます。

        本書は、巨大な百貨店に押し潰されていく周囲の昔ながらの小売店の悲哀を描くと共に、ドゥニーズの人生を描いた作品です。
         旧弊な商売のやり方が陶太されていくのはやむを得ない時代の流れという側面もあり、ゾラは、必ずしも百貨店を悪として描いているわけではありません。
         ドゥニーズの口を借りて、これもパリが繁栄していくためには避けて通れない時代の流れなのだと言わせています。

         本作は、ドゥニーズの人生の物語として読むのでも面白いですし、女性を支配することが百貨店を成功させることだと信じ切っているムーレが、「いつか女性から仕返しをされるぞ」と周囲の者から言われ続け、そして、その『仕返し』がどういう形でやって来たのかという物語として読んでも面白いでしょう。

         しかし、私は、作中に描かれている百貨店の商売の様子が最も興味をそそりました。
         巨大な利益を上げるために、次から次へと新手を繰り出すムーレ、それに狂奔させられる女性達。
         百貨店が演出する一大スペクタクルに酔わせられ、財布の紐を緩めまくる女性達。
         買い物の魔力、商品に対する貪欲なまでの欲望に駆られ、遂には万引きにまで及んでしまう上流階級の婦人や、夫の資産を食いつぶしてしまう上流階級の婦人などの人間の生き様が、そこには凝縮して描き出されています。
         それは、時に残酷なまでに。

         大変興味深い内容の作品でしたが、『ルーゴン-マッカール叢書』なのにラストは後味悪くないんですよ。
         こんなゾラも良いのではないでしょうか?


        読了時間メーター
        □□□□    むむっ(数日必要、概ね3~4日位)
        >> 続きを読む

        2020/05/21 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      ルーゴン家の誕生
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【連綿と続く負の血の系譜】
         『ルーゴン-マッカール叢書』(全20巻)の第一巻です
         バルザックの『人間喜劇』に対抗するようにして企てられたのが、ゾラの『ルーゴン-マッカール叢書』でした。
         『人間喜劇』が、いくつもの作品に同じキャラクターが繰り返し登場するという趣向だったのに対して、『ルーゴン-マッカール叢書』は、神経症を病む女性、アデライード・フークを祖として、そこにアルコール中毒者の血も混じり、様々な負の因子を持った子孫が生まれていくという『遺伝』をモチーフにした大作です。
         我が国でもよく読まれている、ゾラの『居酒屋』や『ナナ』も、『ルーゴン-マッカール叢書』の一部を成す作品なんですね。

         物語の舞台となるのは、ナポレオン三世治下の第二帝政時代で、第一巻はナポレオンが起こしたクーデターに反対する蜂起軍と、架空の町ブラッサンに住む保守派の人々との対立が軸となって描かれます。

         さて、問題のアデライードですが、その血に精神性の病の因子を持っていたのですが、最初は素朴な農民(でもあまり賢くはない?)であるルーゴンと結婚し、男児ピエールをもうけます。
         しかし、ルーゴンの死後、アデライードは、アル中で密輸を生業とするならず者のマッカールと半同棲生活を始め、マッカールとの間にアントワーヌ(男児)とユルシュル(女児)をもうけます。

         この様に、アデライードから始まって、ルーゴンの血を引く者、マッカールの血を引く者が連綿として描き続けられ、精神病とアルコール中毒の負の因子が、子孫のところどころに顔を出すという何ともおぞましい系譜になっていくのです。

         第一巻では、蜂起軍に加わるシルヴェール(ユルシュルが帽子職人ムーレに嫁ぎ、その間に生まれた男児)とミエットとの純愛も描かれますが、中心となるのは、迫り来る蜂起軍に対して、ブルジョアとして何とか切り抜けようと小心翼々とするピエール、ピエール一家に虐げられたと恨み骨髄のアントワーヌの人間模様ということになります。

         この作品、ある意味で遺伝的な異常性を持った人間が描かれるということもあり、読んでいて気が滅入るようなところも感じてしまい、本の厚さの割には読み進めるのに時間がかかってしまいました。
         また、登場人物が多いため、「あれ?これは誰だっけ?」となることも読書スピードを削いだ原因の一つかもしれません(本書には、登場人物一覧の他に家系図もついているんですけれどね)。
         第一巻だけでもそういう状態なのですが、『ルーゴン-マッカール叢書』全体では、登場人物が何と1,200人に上るということですので、これは大変だ。

         この『ルーゴン-マッカール叢書』、これまでは、有名所の『居酒屋』とか『ナナ』とかは翻訳されていましたが、全部の訳書はなかなか揃わなかったのですね。
         でも、現在は(出版社、シリーズはバラバラになってしまいますが)とりあえず全20巻の翻訳が出揃いましたので、叢書全部を通読できる環境が整いました。
         そういうこともあって、遂に第一巻から手を出してみたというわけです。

         今後も読み進めていこうと思うのですが、次に読むのは第2巻の『獲物の分け前』ではなく、第11巻の『ボヌール・デ・ダム百貨店』の予定。
         順番に読もうかとも思ったのですが、『百貨店』にちょっと興味がわいてしまったので、そちらを先に図書館から借りてきてしまいました(とは言え、実は近々引っ越さなければならなくなったので、それまでに借りた本を読み終えることができるかどうか微妙なんですけれどね)。
         まぁ、既に第7巻の『居酒屋』、第9巻の『ナナ』は読んでしまっているので、多少順序が前後しても良いかと割り切ってしまいました。

         いずれそのうち、同じ出版社から同じシリーズで全巻が刊行されたら買い揃えても良いかなぁとも思っているのですが、版権等の問題でそれは難しいのでしょうかね?(いや、どうせなら揃っているシリーズの方が、本棚に並べた時に美しいかなと思ったりして)。


        読了時間メーター
        □□□□□   しばらくお待ち下さい(5日以上、上限無し)
        >> 続きを読む

        2020/04/30 by ef177

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      ごった煮
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【何という醜悪な作品! 主要な登場人物の誰一人として感情移入できる者がいないなんて】
         ルーゴン=マッカール叢書の第10巻です。
         第11巻の『ボヌール・デ・ダム百貨店』の前編とも言うべき作品であり、主人公は、後のボヌール・デ・ダム百貨店の支配人となるオクターヴ・ムーレです。
         彼は第5巻『ムーレ神父のあやまち』で主人公を演ずるセルジュ・ムーレの兄に当たります。

         オクターヴは、一族の故郷ブラッサンから大望を抱いてパリに出てきました。
         そしてショワルズ商店街の表通りにある新築の5階建てアパートメントの住人になるのです。
         本作はこのアパートの住人たちの醜悪な行状が描かれる作品です。

         アパートの管理人は、このアパートは品の良いブルジョアの人々だけが住む場所で労働者などが住める場所ではないということを誇りにしており、オクターヴにも女性を連れ込むことは禁止ですと言い渡すのですが、実際にはそこに住むブルジョアたちは金にも情欲にもまみれたとんでもない連中だったという物語。

         オクターヴ自身、非常に女性にだらしなく、女性を足掛かりにしてパリの町でのし上がってやるなどと考えている不届き者です。
         彼は、既婚女性でも構わずにこれという女性を見つけるとすぐに手を出そうとするのです。
         彼としては冷徹な計画の下に口説いているつもりのようですが、かなり欲望が強い男で、自分の欲望に負けて、悶々としながら女性に焦がれているという面も持ちます。

         オクターヴは、ボヌール・デ・ダム商店(まだ百貨店になる前です)の店員となるのですが、さっそくその経営者の妻に目を付け、6か月でものにするなどという計画を立てます。

         他方、アパートに住むジョスラン一家がこれまた強烈なのです。
         2人の年頃の娘がいるのですが、夫人は浪費家で、夫はそれなりの稼ぎがあるのですがそれでは満足せず、さらに夫に内職までさせそれでも金が無いと罵詈雑言の限りを尽くします。
         彼女は持参金もままならぬ二人の娘を何とか嫁に出すことに血眼になっており、あちこちのパーティを回っては娘たちの売り込みにやっきになっています。

         夫人の兄は金持ちで、この二人の娘が結婚する時にはそれぞれ5万フランの持参金を出してやると口約束はするものの、とんでもない吝嗇家であるため、どうもその約束は果たされそうもありません。
         それでも、ジョスラン夫人は娘には5万フランの持参金が付いていると吹聴しながら売り込みに躍起になっているのです(「私は2スーしか持っていなくても、4スー持っていると言うのさ」が口癖のような夫人なのです)。

         そして、遂にほとんど押し付けるようにして、このアパートの1階で生地店を営んでいる片頭痛持ちの中年男オーギュストに次女のベルトを押し付けることに成功するのです。
         もちろん5万フランの持参金など出せないので、そこは嘘八百を並べていずれ払うと強弁し続けるのです。
         この結婚、当初はまあそれなりに上手くいったようにも見えたのですが、ベルトは母の教育がよろしかったのでしょうね、たちまち浪費家の顔が剥き出しになり、オーギュストを罵倒しながら金を出せと言い募るようになっていきます。

         さて、一方のオクターヴですが、彼は美貌の青年であることを良いことに、あちこちの女性に手を出し、失敗を重ね、ようやくアパートの住人の妻であるマリーをたらし込むことに成功します。
         どうも、さほどマリーに魅かれているというわけでもなさそうなのですが、自分の欲望のはけ口としてどうしても女性が欲しいということでマリーで妥協したようなところもうかがえます。
         そして、その後は、『都合の良い女』としてマリーとの関係を続けつつ、他の女性へのアプローチも継続するといういやらしい男。

         仕舞にはボヌール・デ・ダム商店の経営者の妻に強引に言い寄って拒絶され、居づらくなって商店を辞めてしまいます。
         それを拾ったのがオーギュスト。
         オクターヴは今度はオーギュストの店の売り子として働き始め(商才はなかなかあったのです)、その傍らでベルトに目をつけ口説き始めるというありさまです。
         オクターヴとベルトの関係はその後たいそうな修羅場を迎えることになるのですが。

         アパートの住人の女中たちは、こんな住人の裏の顔を知り尽くしており、主人の知らないところであからさまに主人たちの醜い様をからかい合っているのでした(この女中たちもいい加減程度のよろしくない連中で、生ゴミを窓からアパートの中庭に投げ捨てながら、こんな噂話に明け暮れているのです)。

         というわけで、全編こんな話の連続で、正直読んでいて不愉快になってしまいます。
         脇役的なキャラには誠実な者もいるのですが(例えば妻の尻に敷かれ続けているジョスラン氏など)主要なキャラは醜悪な者ばかり。
         やってられないよ~という気分にさせられます。
         また、本作は登場人物が多いので登場人物一覧は必須です(私は図書館から借りてきたのですが、本来ついているはずの登場人物一覧のカードがついていなかったので、非常に難儀しました)。

         最終的には何となく落ち着くところに落ち着いたという結末になりはするのですが、シリーズ中一、二を争うぐちゃぐちゃの人間関係で、まさに『ごった煮』という感じでしょうか。
         人間の醜悪さをこれでもかと描いた一作でした。


        読了時間メーター
        □□□□□   しばらくお待ち下さい(5日以上、上限無し)
        >> 続きを読む

        2020/05/15 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      獲物の分け前
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 【絢爛豪華で稠密な描写の中に渦巻く社交界の腐乱】
         ゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』第二巻です。
         第一巻の『ルーゴン家の誕生』で、己の親族を踏み台にしてまでのし上がったウージェーヌ・ルーゴンは、革命後パリに出てきて官吏となり、後には大臣にまで成り上がります。
         本作ではその弟であるアリステッドの一家が中心に描かれます。

         アリステッドは兄ほどの才覚はなく、兄の権勢に頼って自分も引き揚げてもらおうと画策します。
         野心だけはたっぷりあるのですよね。
         アリステッドは何とか小吏の職を与えられ、役所内で金儲けのネタは無いか?と奔走しています。
         当時、パリは再開発の最中であり、あちこちの土地建物が収用され、パリは生まれ変わろうとしていました。
         アリステッドはこの気運に乗じて金儲けをしたくてたまらないのですが、何と言っても投資すべき金が手元にありません。

         そんなアリステッドにも運が向いてきたようです。
         ブルジョア法官の娘であるルネは好奇心に溢れた美貌の少女だったのですが、何者かに強姦されてしまうという事件が起きました。
         一族はこの事件をひた隠しにするのですが、もはや傷物となったルネをまともに嫁がせるわけにはいきません。
         とは言え、年頃になっているのですから何とか結婚もさせなければ対面が保てないと悩んでいたところ、白羽の矢を立てたのが小役人のアリステッドというわけです。

         アリステッドは既に中年の域に達しており、先妻を亡くして現在は独身とは言え、息子がいる男でした。
         そんな男でもなければ事情を承知の上でルネをもらってくれまいということで、ルネとの結婚話がアリステッドに持ち込まれるのです。
         もちろん、相応の持参金付きです。

         野心に燃えたアリステッドはこの結婚に飛びつき、ルネの持参金を元手にインサイダー情報を使って不動産取引に乗り出していくのです。
         これが大当たりで、法外な収容保証金をパリ市からふんだくることに成功し、その金を元手にまたまた不動産に手を出していきます。
         また、アリステッドは怪しげな証券金融取引にも投資を始め、今や莫大な金が懐に入ってくるようになりました。

         もはや小役人などやっていられるかということで、役人を退職し、名字もルーゴンを捨てて響きの良いサッカールを名乗るようになるのです。

         一方のルネですが、世間知らずの少女のままであり、夫が莫大な金を稼ぎ出すのを良いことに、ドレスや宝石などを買いまくる贅沢三昧をしています。
         アリステッドもそんなルネを豪奢に着飾らせることを容認し、その美貌に磨きをかけ、豪壮な大邸宅を買い入れて夜毎のパーティーを開き、社交界の名士達を招くようにまでなります。

         アリステッドにとって、ルネも投資の対象であり、金蔓でしかないのです。
         美貌の妻をドレスアップして人前に出せば社交界の噂となり、アリステッドの株も上がろうというものです。
         アリステッドの懐には莫大な金が入ってきますが、出て行く金も相当なもので、とにかく金を回し続けることによって自分の地位を高めて行っているのです。
         儲かっているんだかいないんだかもはや分からない状態ですよ。

         さて、そんなアリステッドの一人息子、マクシムは、それまで寄宿舎に入れられていましたが、女性のような顔をした美貌の青年でした。
         アリステッドはマクシムを呼び寄せ、ルネと3人の生活を始めるのです。
         ルネも年が近いマクシムを気に入り(マクシムの方が年下)、貴婦人達の間を連れ回し、二人で密かに猥談にふけるなど、とても親子とは思えないような生活を始めます。

         それが陥穽だったのですよね。
         ルネとマクシムは、遂に越えてはならない一線を越え、愛人関係を結んでしまうのです。
         二人は段々大胆になっていき、アリステッド不在の家で獣のようにまぐわい、奉公人達の目などもう気にもせずに振る舞い始めるのです。

         アリステッドとて、同じようなものかもしれません。
         美しいルネには既に飽いており、その寝室を訪ねようともせず、高級娼婦達と放蕩の限りを尽くし、時には何と、マクシムと一緒に同じ娼婦を共有するなどの狂ったような生活をしています。
         また、ルネの持参金を一滴残らず搾り取るため、共同事業者と示し合わせてルネに高額の手形を書かせ、借金を負わせていきます。

         『ルーゴン=マッカール叢書』は狂気とアル中の遺伝が連綿と続くという何ともおぞましい話なわけですが、ルーゴンの血を引くアリステッドのこの狂乱も狂気のなせる技なのかもしれません。
         本作では、そんな社交界の様子、パリの狂奔する金融取引などが、これでもかというほどの稠密な描写で描かれ続けます。
         もう、形容描写の方が主ではないかというほど、あちこちで微に入り際を穿った描写が続くのです。
         それはもう息苦しいほどの書き方で、そんな中でルネが段々腐り落ちていくのです。

         アリステッドは、美貌の息子すら政略結婚の具に使い始めます。
         さして美人でもなく、せむしで病弱な娘の父が政界に乗り出している事に目をつけ、その娘とマクシムの結婚を画策するのです。
         娘の父親も、富豪のアリステッドと縁を結べれば有り難いということで、父親同士で結婚を決めてしまうのですね。
         娘の方は美貌のマクシムの妻になれることを歓迎しています。
         マクシムはさすがに断るだろうと思いきや、この男、自分という物が無いのです。
         非常に受身で、唯々諾々とこの結婚を承諾してしまうのです。

         それに怒り狂うのがルネ。
         自分の愛人が他の女に取られることなど容認できません。
         もはや義母という立場などすっかり無くしているのです。

         なんともおぞましい話になっていく本作ですが、これが『ルーゴン=マッカール叢書』なのですよね。


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        2020/05/01 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      ウージェーヌ・ルーゴン閣下
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【貪欲極まりない陳情の山は彼を没落させるのだが……】
         ルーゴン=マッカール叢書の第6巻に当たるのが本書です。
         本書の主人公となるのは、タイトル通り、ウージェーヌ・ルーゴンです。
         彼は、始祖のアデライード・フークから見れば孫ということになります。

         ウージェーヌは、ナポレオン三世による第二帝政下で弁護士としてスタートし、遂に参事院長官の地位に上り詰めるのです。
         辣腕政治家としての評価が高い彼の下には縁故、知人が押し寄せ、様々な陳情が絶えることがありません。
         しかし、その後、政争に巻き込まれ、皇帝の寵を失ったと感じたウージェーヌは自ら長官の地位を辞するところから物語は始まります。

         政界から身を引いたウージェーヌは、その心中に権力欲、支配欲をたぎらせてはいるのですが、表面上可能な限り政界との関りを絶った生活を送ります。
         決して得意ではない学術的な著作に入れ込んでみたり、地方に都落ちしてそこで農業共同体を組織することを計画するなど、皇帝が求めることがない限り、二度と政界には戻らないと公言していました。
         俺が必要ならばそう言えという自尊心なのでしょうか。

         しかし、そんな彼を周囲の人々は放っては置かなかったのです。
         それは、自分たちの利益を実現するためにはウージェーヌに復権してもらう必要があるという打算からでした。
         特に、クロランドという美貌の若い女性が謎の存在として描かれます。
         ウージェーヌは、クロランドに対して欲望を抱きもするのですが、クロランドはこれを頑としてはねつけます。
         私と結婚するのなら許しても良いとは言うのですけれどね。

         しかし、ウージェーヌは、クロランドと結婚しても上手くいかないだろうと冷静に考え、むしろ自分の手駒とも言える大したことのない男をクロランドの夫として勧めるのです。
         クロランドも、何故か言われたウージェーヌに言われたとおりに結婚してしまいます。

         ただ、これも、クロランドの策略なのでしょう。
         実は、クロランドはウージェーヌに負けるとも劣らない権力欲の持ち主だったのです。
         そして、己の権力を拡大せんがために、ウージェーヌの取り巻きに働きかけ、ウージェーヌの復権を密かに画策するのです。
         ウージェーヌを利用しようということなんですね。
         クロランドは、まさに、ファム・ファタル的な女性として描かれます。

         その甲斐あって、ウージェーヌは再び皇帝に請われる形で内務大臣に就任するのです。
         ウージェーヌは、これも自身の実力の賜物だと自負するのですが、実は……。
         もちろん、自分の取り巻き連中がそれなりに運動してくれていたことは承知しており、だからこそ、大臣就任後は、彼らを重用し、彼らの陳情を叶えてやり続けるのです。

         しかし、取り巻き連中の欲望には限りがありませんでした。
         どれだけ便宜を図ってもらっても、自分は大したことはしてもらっていないとしか考えない連中ばかりなのです。
         ウージェーヌは、それでも彼らの理不尽とも言える望みを叶え続けてやるわけですが、さすがに無理がありました。
         徐々に自己の立場を悪くしていくのです。

         欲望に限りない取り巻き連中は、自分たちでウージェーヌを食い潰しているわけなのですが、そんなことは気付きもしません。
         唯一、クロランドだけは冷徹にウージェーヌの行く末を見通していたのかもしれませんが。

         本作は、ルーゴン=マッカール叢書の中では『政治内幕小説』という位置づけで語られるようであり、実際そういう作品なのですが、私は、むしろ、ウージェーヌの取り巻き連中に代表される、人の欲望の際限なさ、利己心の怖さを読みました。
         そして、対照的なのはウージェーヌの妻です。

         ウージェーヌは、長く独身を貫いていたのですが、参事院長官を辞した後、取り巻き連中から男は結婚してこそ安定するのだという強い勧めに応じ、クロランドからの求婚を退け、容姿は優れないものの、堅実な家政を司る地味な女性を妻に迎えるのです。
         彼女のことはさほど多くは描写されないのですが、最後の方で、没落したウージェーヌの住む家を一人でいち早く探している描写にはぐっとくるものがありました。

          
        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2020/05/09 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      生きる歓び
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【とことん気が滅入る話だなぁ】
         本書は、ゾラのルーゴン=マッカール叢書の第12巻に当たります。
         主人公のポリーヌは、両親に早く先立たれてしまったため、10歳の時にシャントー夫妻が引き取ることになり、パリから海辺の漁村であるボンヌヴィルにやって来ました。
         その後のシャントー夫妻一家とポリーヌの人生が語られるのですが、いや、本当に気が滅入ることが連続する物語なんです。

         まず、ルーゴン=マッカール叢書の中の本作の位置づけからお話しておくと、本作の主人公のポリーヌは、マッカール家の血をひく者で、『ナナ』の主人公であるナナとは従姉妹という関係になります。
         ちなみに、ポリーヌは叢書第3巻の『パリの胃袋』でも既にちらっと顔出しをしているそうなのですが、まったく気がつきませんでした。

         また、シャントー夫妻がポリーヌを引き取るに当たり、家族会議を構成しなければならないということから、シャントー夫人によって3人の親戚が指名されるのですが、その3人とは、オクターヴ・ムーレ(『ごった煮』と『ボヌール・デ・ダム百貨店』に登場しますね)、クロード・ランチエ(『制作』に登場します)、ランボー(『愛の一ページ』に登場するエレーヌ・ムーレの再婚相手です)なんです。
         とは言え、この3人の親戚はここで名前が挙げられるだけで、本作では何の役割も負いませんが。

         さて、ポリーヌには両親が遺したまとまった財産があり、シャントー夫人がポリーヌが成人するまで管理することになっていました。
         しかし、シャントー夫妻の一人息子のラザールがとんでもないダメ男なんです。
         いい加減仕事に就くようにと言われているのになかなか腰を上げず、最初は作曲をして立つのだなんて言うのですが、満足に作品を仕上げる根気もありません。

         見るに見かねたポリーヌが医者になることを勧めると、今度は医学に入れ込み始め、パリの学校に通い始めるのですが、ほどなくして医学に飽きてしまい、今度は化学の道に進むと言い出すのです。
         もちろん、その間の仕送りはシャントー夫妻の負担になっています。

         ボンヌヴィルに帰って来たラザールは、海藻を加工して様々な製品を作るという計画をぶち上げ、大々的に工場を作るなどと言い出すのです。
         そんな金は……。
         ここでシャントー夫人のいやらしさが発揮されるのですね。
         ポリーヌにラザールとの結婚話を持ち掛け、いずれ夫婦になるのだからと言って、ポリーヌの財産を工場に投資させるのです。
         ポリーヌもラザールを愛していましたので、自分から進んで金を出すと言ったのではありますが。

         ところが、予想通り、この工場も失敗してしまい、投資した金は消えてしまいます。
         ラザールは、すぐに工場を投げ出してしまい、今度は堤防事業をやるのだと言い始め、またまたポリーヌに金を出させます。
         堤防ももちろん失敗です。

         こうやってどんどんポリーヌの財産は食い潰されていくのです。
         にもかかわらず、シャントー夫人は息子の失敗はすべてポリーヌがそそのかしたせいだなどと言い出し、ポリーヌの損失にはまったく責任がないと言わんばかりです。
         それだけではなく、シャントー夫人は家計が苦しくなると勝手にポリーヌの財産を使い込んでもいたのです。

         じゃあ、夫のシャントー氏は何をやっているかと言えば、この人、美味しいものを食べることしか頭になく、痛風が慢性化しているのにフォアグラを食べたりワインを飲んだりばかりして苦しんでいます。
         妻や息子がやることにも無関心な様子で、何の役にも立たない男なんですね。

         さらに、ラザールは家に遊びに来る知人のルイズに魅惑されてしまい、ポリーヌと結婚の約束をしているというのにルイズに手を出そうとしてポリーヌに見つかったりもします。
         シャントー夫人は、ポリーヌにあれだけ恩があるはずなのに、ポリーヌを逆恨みするようになり、ルイズに持参金があることに目をつけ、ラザールとルイズを結婚させた方が金が手に入ると考え始めたりもするのです。

         とことんポリーヌは喰われていき、結局破産してしまうんですね。
         この後も、気が重くなるようなエピソードが連続し、読んでいてとにかくラザールらの不甲斐なさにイライラするわ、気が滅入るわ。
         決して心地よい読書にはなりません。
         そしてまた、この唐突なラストは何なんでしょう?(それはご自身でお読みいただきたいのですが)。
         なんでこんな終わり方になってるの?

         というわけで、ルーゴン=マッカール叢書の中では、本当に救いの無い話になっています。
         読んでいてすっかり気が滅入った一冊でした。


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        2020/05/26 by ef177

    • 1人が本棚登録しています
      パリの胃袋
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【ゾラは、パリ中央市場のむせかえるような食料品の群れを書きたくてこの作品を書いたのではないかと思えてくる】
         本書は、ゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』の第3巻に当たります。
         主人公のフロランは、共和制を支持しているものの、特に何をしたわけでもないのに、官憲の制圧に巻き込まれて群集に踏み倒され、気が付いた時には身体の上に女性の死体が乗っており、その血で手が血まみれになってしまいます。
         慌てて逃げ出したフロランですが、官憲に捕まり、血まみれの手をしていることから共和主義者の煽動者だと誤解され、有無を言わさず流刑に処せられてしまいます。

         フロランは、流刑先の南米ギニアで7年間を耐え、その後脱出してぼろぼろになってパリに舞い戻ってきました。
         餓死寸前だったのですが、パリの雑踏の中で弟のクニュに偶然出会い助けられます。
         クニュは、リザという美人の妻を娶り、シャルキュトリ(食肉加工店)を営んでいました。
         クニュは、フロランを家に連れ帰り、家に住まわせてやり食事を与えたのです。

        実は、クニュは遺産を相続していたのですが、本来ならフロランにも相続権があったことから、リザは公正に分配すべきだと主張し、遺産の半分をフロランに譲ると申し出たのです。
         しかし、フロランは、住む場所と食事を与えてもらえれば他に金はいらないと言い、遺産の受け取りを拒否します。

         その後、フロランは周囲の者の勧めもあって中央市場の魚の検査官代理の職を得ます。
         この検査官というのは警察組織に所属しており、本来共和主義者だったフロランとしては、自分が認めない政府の禄をはむことは嫌だったのですが、リザの強い勧めもあり、また、自分も意固地になりすぎているのかもしれないと考え直し、この職を受けたのです。

         さて、この作品、ストーリーとしてはかなりシンプルで、パリでの生活の基盤を得たフロランは、凝りもせずにまたもや革命思想にのめり込み、何ら現実性のない政府転覆計画を立案し、一度は受け取りを拒否した遺産をこの計画に注ぎ込み(実際には騙されているんですけれどね)、周囲の者からこぞって告発されてしまい、結局再び流刑に処せられてしまうというだけの物語です。
         ですから、このストーリーを描くだけならさほどの長編にはならないような作品とも言えます。

         ところが、単行本400ページ以上の長編に何故なっているかと言えば、これはもう、パリ中央市場に集まってくる様々な食品の描写がこれでもかと、濃密に繰り返されることがその理由の一つです。
         最初は野菜を運ぶ農民達、そして市場に並べられる野菜の山が描かれ、肉、魚介類、花、乳製品と、中央市場で扱われる食材それぞれについて、むせかえるような描写が重ねられていくのです。
         ゾラは、まさにこの描写をしたいがためにこの作品を書いたのではないかと思えてくるほどです。

         その描写は、肉やバターの手触り、魚や臓物の臭い、中には腐った物の臭いなどの描写にも及びます。
         あるいは、光にきらめく野菜や肉の色と言った、まるで印象派の絵画のような表現もなされます。

         ゾラは、『ボヌール・デ・ダム百貨店』(ルーゴン=マッカール叢書第11巻)においては、デパートや商店に氾濫する様々な商品、布地などをこれでもかと描写しますが、本作はその市場ヴァージョンとも言えるかもしれません。

         そしてもう一つ書き込まれているのは、市場に集う一般庶民達の何とも噂高く、醜悪な様です。
         特にヒドイのはサジェ婆さんという老婆です。
         この老婆、町中の噂を悉く集め、あちこちに目を凝らして人々が何をしているのかをこと細かく調べ上げ、それを言いふらし、時には尾ひれをつけて噂を広めることが何よりも大好きという嫌な老婆なんですね。
         この老婆が至る所に顔を出し、あることないことを言いふらすために人々は憎みあい、不審にかられ、見栄を張り合うことになります。
         この老婆、人の秘密を暴き立てることが楽しくて仕方ないという人で、人の不幸は蜜の味としか考えていないようなとんでもない婆さんなんです。

         フロランのことも、クニュ夫婦が流刑地から脱走したことをひた隠しにしていたのに、結局はこのサジェ婆さんが暴き立てて、何ら具体性もない夢のようなフロランの革命ごっこを告発し、再び流刑にさせてしまうのですから、そしてそれを楽しんでいるのですから本当に鬼婆ですよ。
         こういう人間関係の描写も本作のヴォリュームを作っている理由の一つです。

         さて、本作は『ルーゴン=マッカール叢書』の一部ですので、全体の中でどういう位置づけになっているかについても書いておきます。
         クニュの妻であるリザがマッカールの血を引いており、本作では出番がありませんが、リザの妹のジェルヴェーズが第7巻『居酒屋』の主人公になります。
         また、第2巻『獲物の分け前』に登場したアリステッドの名前も本作中にちらほら出てくるのですが、アリステッドはルーゴン家の血を引いており、本作と同時期に再開発盛んなパリで地上げに精を出していたのだということが分かります。

         ルーゴン、マッカール両家は、アル中と精神障害の呪われた血を引いているというのがシリーズ全体の根底をなす設定なのですが、本作に限ってはそのような要素はほとんど描かれておらず、その血が問題になるような展開にはなっていません。
         負の遺伝子は、思い出したように時々顔を覗かせるということなのでしょうか。
         あるいは、やはり、本作はパリ中央市場の溢れんばかりの贖罪を描くことの方に主眼があった作品ということなのでしょうか。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2020/05/02 by ef177

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      ムーレ神父のあやまち
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【これはゾラの宗教に対する批判なのだろうか?】
         『ルーゴン=マッカール叢書』の第5巻です(藤原書店の『ゾラ・セレクション』では第3巻目に当たるので、てっきり同叢書の第3巻だろうと思って図書館から借りてきたのですが、よくよく調べてみたら同叢書の第5巻でした。お気を付けください)。
        本作の主人公である神父のセルジュ・ムーレは、同叢書第11巻の『ボヌール・デ・タム百貨店』に登場するデパート経営者のオクターヴ・ムーレ氏の弟に当たります。
         また、本作にはセルジュの叔父であるパスカル・ルーゴン医師も登場します。
         ルーゴン=マッカールの血を引く者としては、セルジュの妹のデジレも登場するのですが、デジレは一族の負の血を引いているのか、精神薄弱者として描かれています。

         パスカル医師の言葉を借りれば、セルジュは汚れた血の一族であるルーゴン=マッカールの中で唯一神への道を歩んだ者であり、他の者たちが俗悪にまみれあこぎなことばかりしている中での救いだとされています。
         とは言え、タイトルから想像がつくように、セルジュは神への道を踏み外してしまうのですし、パスカル医師も後にセルジュを強く非難することになるのですが……。

         第一部では、司祭に叙されたセルジュが、自らの意思でレザルートという貧しい村に赴任し、ほとんど荒れ果てたような教会で日々の勤めを果たす様子が細かく描かれます。
         レザルートの村人たちは信仰心に薄く、教会へなど誰も通って来はしません。
         それでもセルジュは誰もいない教会で黙々と日課を果たしているのです。
         そして、そのような生活こそは信仰の証であると考え満足し切っていたのです。
         セルジュには欲など何もなく、また自然は醜悪であるとして嫌悪すらしていたのです。

         そんなある日、叔父のパスカル医師が重篤な老人を診るために馬車を飛ばしてきました。
         パスカル医師は、「もしかしたらもう死んでいるかもしれない。そうなったらお前が必要になる」と言い、セルジュを馬車に乗せて一緒に老人のもとへ向かったのです。
         このジャンベルナという老人は、パラドゥーと呼ばれる廃園にある焼け残った家に住んでいる変わり者で、神を全く信じていないと公言している老人でした。

         パスカル医師たちが到着してみると、ジャンベルナは自分で瀉血したとかいうことで、瀕死どころかピンピンしていました。
         用が無くなったパスカル医師たちは帰途に着くのですが、その際、セルジュはジャンベルナの一人娘である16歳のアルビーヌと知り合います。
         アルビーヌは広大なパラドゥーの廃園で自然を友として生活している溌剌とした少女でした。
         その夜、セルジュは急に体調を崩し、高熱を出して倒れてしまうのです。

         パスカル医師に治療してもらったセルジュは相変わらず前後不覚の状態なのですが、転地が必要との理由でパラドゥーに連れていかれます。
         それは、パスカル医師のある考えに基づいての企てだったのですが……(パスカル医師はジャンベルナに言い含めて邪魔をさせないようにしたのです)。
         意識を取り戻さないセルジュを看病したのはアルビーヌでした。
         パスカル医師の診断では熱が下がっても精神に異常をきたす恐れがあるということでしたが、アルビーヌの献身的な看護によりセルジュは意識を取り戻したのです。
         ただし、記憶を失っていましたが。

         第二部では、健康を回復していくセルジュが、アルビーヌと共にパラドゥーの廃園で自然と戯れ、二人が結ばれるまでの様子が描かれます。
         セルジュは病のために自分が何者で、アルビーヌが誰なのか全くわからないのですが、自然な気持ちのままにアルビーヌに愛を告白し関係をもってしまうのでした。
         その後、セルジュはパラドゥーの廃園のたった一つの壁の破れ目から外界を目にしてしまうのです。
         それはアルビーヌが恐れていたことでもありました。
         外の様子を見たセルジュは一気に記憶を取り戻し、自分が神父であったことを思い出してしまったのです。
         そして、壁の外には酷薄なアルシャンジア修道士が待っていました。
         アルシャンジアは、セルジュがあやまちを犯したことを見て取ったのです。

         第三部に入り、セルジュは自分があやまちを犯したことに悩まされ、より強く信仰を求めようとします。
         アルシャンジアは、セルジュがあやまちを犯したことを一言も漏らそうとはしませんが、セルジュの行動を逐一見張るようになったのです。
         一方のアルビーヌは、永遠の愛を誓ったセルジュに恋い焦がれ、何とかしてセルジュを取り戻そうと考えます。
         セルジュは信仰の道を貫くのか、あるいは神を捨ててアルビーヌのもとへ走るのか。

         ご紹介を読んでいただいてお分かりのとおり、非常にシンプルなストーリーです。
         それなのにゾラはこれを400ページ超の長編に仕立て上げたのです。
         ですから、セルジュの信仰生活の様子や、特に第二部の廃園の自然描写などは微に入り細を穿つ描写であり、きわめて濃密に書かれています。
         それはいささか退屈になるほどに。
         ここまで筆を連ねる必要が本当にあったのか?と思ってしまうほどです。

        この作品の主題をどう読むのかはいろいろあるのかもしれませんが、私にはゾラの宗教批判のように読めてしまいました。
         みなさんは本作をどう読まれるでしょうか?


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2020/05/05 by ef177

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      愛の一ページ
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【『居酒屋』と『ナナ』の間に置かれた物語】
         本作はゾラのルーゴン=マッカール叢書の第8番目の作品です。
         ストーリーはシンプル過ぎるほどにシンプル。
         主人公のエレーヌは、夫を亡くしたばかりで、一人娘のジャンヌと共にパリで生活を始めたところです。
         ジャンヌはもともと身体が弱く、今夜も発作を起こしてしまいます。
         エレーヌは、かかりつけの医者を呼びに行くのですが、生憎他の患者の往診に出かけていて不在でした。
         何とか医者を探さなければならないとうろたえるエレーヌは、他に医者がいないか尋ねようと、近所の見知らぬ家の扉を叩いたのです。
         その家は、偶然にもアンリ医師の家でした。

         エレーヌは強引にアンリ医師を家に連れ帰りジャンヌを診てもらいます。
         アンリ医師の措置によりジャンヌは回復するのですが、以後、エレーヌはアンリ医師の妻とも知り合いになり、家族ぐるみで交際するようになりました。

         そして……エレーヌもアンリ医師もお互いに魅かれ合うようになってしまうんですね。
         アンリ医師には妻もいますので、お互い気持ちのままに振舞うことができずにいるのですが、ある時、遂にアンリ医師は自分の思いの丈をエレーヌに告白してしまうのです。

         本作は、エレーヌとアンリ医師の愛の行方、この一点だけに絞って書かれた作品です。
         その後、アンリ医師の妻が浮気をしそうになり、それを知ったエレーヌが迷い抜くというエピソードが出てきます。
         エレーヌとしては、アンリ医師の妻に浮気をさせてしまえば、彼女に対する自分の罪悪感が和らげられるとも考えるのですが、他方でこんなことは止めなければならないとも思い、その気持ちに翻弄されるのです。

         また、ジャンヌは病気がちのせいもあり、母親の愛情を強く求めるのですが、母が自分以外の誰かに愛情を注いでいることを敏感にも感じ取り、ひどく嫉妬するというエピソードも挟まれます。

         それにしてもこれだけシンプルな筋立ての作品なのに540ページ超も書いてしまうというのもすごいもんだ。
         加えて、本作が第8作目になっているというのも曰く因縁を感じさせます。
         というのは、本作の前後の作品である『居酒屋』も『ナナ』もかなり強烈な内容の作品なのに対して、本作は非常にシンプルな恋愛ものという対比が際立つのですよね。

         しかも、ゾラは、本作について、当初から第8作目として執筆することを構想していたと主張したようなのですが、どうやらこれは嘘であり、当初は本作を8作目に書くことなどまったく考えていなかったと思われるというのです。
         これは、『居酒屋』が当時としてはあまりにショッキングな内容で、発表するや悪評が立ち、連載も中断させられてしまったということにも関係があるのかもしれません。
         何せ、『居酒屋』の次に書こうとしていた『ナナ』はさらに強烈な内容なのですから。

         『居酒屋』が批判されている今、立て続けに『ナナ』を発表するわけにはいかなくなり、急遽ストレートな恋愛ものである本作を書き上げたのではないかと勘繰りたくなります。
         そして、これは当初からの構想通りなのだと強弁したという。
         まあ、その辺りはよくわかりませんが、何となくそんなことも思ってしまいました。


        読了時間メーター
        □□□□    むむっ(数日必要、概ね3~4日位)
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        2020/05/13 by ef177

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【エミール・ゾラ】(エミール・ゾラ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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