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GreenblattStephen

著者情報
著者名:GreenblattStephen
生年~没年:1943~

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      一四一七年、その一冊がすべてを変えた
      5.0
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      •    ルネサンスの逸話よ、甦れ

         積み上げれば月まで届くほどの、たくさんの古書を見守る神々たちがとどまる街の一画に踏み入ると、たちまち徹夜明けのような高ぶりを催し、あたらしい出会いに胸がときめく。とりわけ覚醒するのは嗅覚で、稀覯本の香気を知らない私ではない。子供のころから浴室に漂う黴臭さで耐性のついた鼻は、たとえ変色しきって焦げたパンのような色をした本ですら見逃さない。そうして、鼻を頼りに店に入って、幾ばくかして出てきた私の得たものは口もとを染める黄色とスパイスの薫香。じつは本よりもカレーの誘惑に弱かった。現代のブックハンター失格である。
         ところで、目利きのブックハンターがもっとも息巻いていた時代はルネサンス期といわれ、その先陣を切る活躍をみせた人文主義者の一人がペトラルカだと考えられている。ペトラルカの業績に触発されたイタリア人たちは、百年近くにわたって本探しに明け暮れた。すでにイタリア本土はあらかた踏査されており、ペトラルカがキケロの『アルキアース弁護論』の写本を見出した場所はベルギーのリエージュ、またプロペルティウスの写本にいたってはパリで発見していた。ブックハンターたちの主な狩場は古い修道院の図書館で、聖職者だったペトラルカはともかく、一介の信仰者に過ぎないほかの人文主義者らは、底意地のわるい修道院長や用心深い図書館司書を懐柔するのに手を焼き、たとえそれに成功しても貴重な写本には呪いの言葉で封がされてあって、無闇に易々と盗み出せるものではなく、無神論者でも修道院という監視社会の網の目をかいくぐる必要があった。当時の本探しは多難につぐ多難の冒険だったといえる。この本は、その困難な冒険における資質に恵まれ、ルクレティウスの『物の本質について』の写本をドイツで見つけた、ポッジョ・ブラッチョリーニの伝記であり、かつ一冊の本の発見によって、いかに世界があたらしい方向に逸脱し、美と愉悦の享受の道を拓いていったかを教えてくれる。
         もうすこし内容の紹介をするまえに著者について言及する。著者のスティーヴン・グリーンブラットは新歴史主義の領袖として知られ、表象研究ブームの呼び水となった学術誌の創刊メンバーの一人。伝記的記述を文化研究にうまく持ち込み、個人についての考究と、その人が生きた時代を中心に据えた全体からの考察とを重層的に語る手法を確立した。その成果は、白水社刊行の『シェイクスピアの驚異の成功物語』をはじめ数多くの論文や書籍にあらわれている。もちろんこの本でもそのスタイルが貫かれているばかりか、遡る時代が古ければ古いほど(著者の該博な知識や汗牛充棟の大学図書館のおかげだが)この手法は魅力的な語り口を生むらしい。しかし、このやや取っつきにくい本の、もっともチャーミングな逸話は序文にある彼の母親の心配だ。それはグリーンブラットの悩みの種で、彼がほんとうに小さいころから、母親が自分は早死にする運命にあると思い込んでいたようだ。なぜなら、彼女の妹が難病によって十六歳の若さでこの世を去ってしまったからで、そのことで彼の母親は心に深い傷を負った。グリーンブラットの生活は大げさで長々しい別れの場面のくりかえしになったが、けっきょく、母親は卒寿をむかえる一か月まえに亡くなったらしい。この逸話が古代ローマの古典へと読者を連れていく。ルクレティウスいわく、死の不安にとらわれて一生を送るのはまったく愚かなことである。それは人生を楽しむことなく、未完のまま終える確実な方法である、と。そしてこの思想が、たんなるエピクロスの受け売りではないとわかるのは、一四一七年の、ポッジョ・ブラッチョリーニの発見のおかげに他ならない。
         かなりむちゃくちゃで散漫な紹介になったけれど、読むと得るものは多いし、細かく章分けはされている。それでも、仕事で多忙な人には大変なのも間違いない。というのも、僕もいま電車のある時間に帰るのがむずかしい状況で、なんと車通勤なんですね。そのせいで心を病んでいて、ほとんど本を読んでないのです。なんとか頑張って電車通勤に復帰して(そこかい ヾ(・ω・o) ォィォィ)、読書ログ活動もぼちぼちできたらと夢想しながらハンドルを握っております。


        追記
         ルクレティウスの本の邦題は『事物の本性について』のほうがいいと個人的には思いますが、ここでは岩波文庫の『物の本質について』を採用しました。
         シェイクスピアに関心がある人は同著者の『シェイクスピアの自由』(みすず書房)がオススメ! 法政大学出版局から出ている本は読みにくいので、本腰入れて勉強したい人は原書をお求めください。
        >> 続きを読む

        2016/10/20 by 素頓狂

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