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大崎善生

著者情報
著者名:大崎善生
おおさきよしお
オオサキヨシオ
生年~没年:1957~

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このランキングは1日1回更新されます。
      聖の青春
      カテゴリー:将棋
      4.3
      いいね!
      • 「将棋をやめたい。」と漏らした男の最後の言葉が「2七銀…」。
        やはり…と言うべきか、悲しいと言うべきか。

        中学に上がる前に彼が望んだ事は「谷川(名人)に勝ちたい!」 
        ヒヨコが軍鶏に挑戦状を叩きつけるような事を本気で言う。
        そして「そのためには今、奨励会に入らなければいけない!」
        ただの子どもらしい夢想でもない。
        今スグ、プロを目指すのだと言う。

        このエピソードだけで心を沸き立たせるじゃないか。村山聖。

        そして彼をその夢にまで押し上げてくれたのは両親、師匠、友人達、諸々の人々。
        持病を持つ彼が気力、体力を総動員して長時間戦い続ける将棋に組み合うという事は
        彼らがいなくては成し得なかった。
        その事を彼自身よく知ってたハズ。
        だが、その気遣いさえも将棋に捧げた。

        恐らくは向こうで「ゴメンよ。余裕がなかったんだ」と笑ってるだろう。
        彼をサポートしてくれた人達は「彼が自分たちを動かしたんだ。」と言う。
        なんて美しいのだろう。

        読み終わって、彼に会いたくて「村山聖」をネットで検索する。
        Youtubeに彼と羽生善治との対戦がUPされていた。
        UPされたのは3ヶ月前。
        師匠、森信雄のブログには村山関連の写真が2週間前にUP。

        1998年8月8日 享年 29歳

        漫画ワンピースのヒルルクは「忘れられた時が本当の死」だと言った。
        村山聖は生きている。

        _______________________________

        2011年11月に書いたレビューです。
        2016年に映画「聖の青春」が公開されました。

        村山聖は、生きています。
        >> 続きを読む

        2017/11/04 by たたみ

      • コメント 2件
    • 他4人がレビュー登録、 10人が本棚登録しています
      エンプティスター = empty star
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      •  エンプティスター、空っぽの星。
         最終的には人は一人かもしれない。
         この世の出来事は単なる暇つぶしにすぎないのかもしれない。
         それならどうして、こんなにも苦しいのだろうか?


         自分と世界との距離を感じる。
         けれど、うまく関わっているように見える人だって、同じように感じているものかもしれない。
         そういう人がふいに、なにかに絶望して、自らの命を絶ってしまうことだってありうるのだから。


         どれだけの人を、ものを、失ったとしても、生きている、人間のふしぎ。
         これほどまでに、失うことのできる大切なものが、自分にあったことに、なくしてから気づく。


         本書は、 
         喪失と再生の物語、
         なんてものでもない。

         失われたものは、いつまでも、心の奥で疼き続けるものだから。


         いろんな人が世の中にはいて
         他人を利用することを
         何とも思わない人もいる、それも事実。


         確かなことは何一つないけれど

         あ、助けなくちゃ、と思った相手を今
         助けられることの幸せを噛みしめないといけない、

         と思った。


         孤独を感じること 
         それでも誰かと寄りそうこと
         周りにあわせること
         自分の心が安らぐものの傍でじっとしていること(大崎作品では大概熱帯魚だ)

         この本全体が醸し出す雰囲気は
         孤独に苦しむ現代人に少しだけ、柔らかい風を送ってくれる

         救いがもたらされるわけではないけれど、たぶん、少し光を感じられる。



         具体的な内容としては、 
         コンビニで売っているエロ本(雑誌)の編集者だった主人公が
        かつて取材で出会った、どうやら家族の借金を背負って消息を絶った身体を売る女の子のことを久々に噂にきいて
        やばい組織に関わっているかもしれないらしい
        助けなくては
        とゆってかつての編集仲間やラブホ界隈を探索しつつ推理しながら組織に迫る
        という、ミステリー要素のあるものとなっています。


        お酒と音楽と愛、どうしようもない孤独感。
        大崎作品ならではの良さが生かされています。  
         
         
        >> 続きを読む

        2017/06/07 by 理子*

    • 1人が本棚登録しています
      パイロットフィッシュ
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • ずっと気になっていたのですが、ようやく読むことができました。
        非常に落ち着いた、しっとりとしたいい小説でした。

        新人賞!?と思ったら、もともとノンフィクション作家で、小説としてはこの作品が処女作なのですね。道理で文章がうまいわけだ。しかし小説としての構成も非常に完成されていて、書かれるべくして書かれた作品という感じ。いいですね、とてもいいです。好きです。

        ちなみに。
        作中に出てくる、航空機の撃墜事件って、史実なんですね。はじめて知りました。
        >> 続きを読む

        2015/10/18 by ワルツ

    • 9人が本棚登録しています
      アジアンタムブルー
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! ice sayaka
      • 愛する人との間に残された残りわずかな時間の過ごし方。

        映画との相乗効果で胸を突かれ、通勤電車で涙を流してしまった。

        阿部寛と松下奈緒による映画を観た後に原作を読んでいる形。

        松下奈緒は、顔のパーツパーツが大きく、ややもすると下品になりそうなものなのだが、見事なバランスで配置されているのか、どこから見ても美しい。

        また、ピアノというイメージアップの才能も持っている上、なんと言っても立ち振る舞いや表情、話し方。全てに気品が漂っており、もはやトップクラスのお気に入り女優で有る。

        そんな彼女が起用されている時点で、映画版を気に入るのは当たり前なのかもしれないが、原作となる本作品においても、彼女の印象が強く残っていたことで、感情移入が深まったのは確実。

        小説が原作で映画化される作品は数多く有るが、行間は映像化できないため、そのほとんどが原作本を読んだ後、映画版を観るパターンがお勧めと考えている。

        ただし本作品については、清楚で可愛いヒロインを松下奈緒をイメージしながら読めたことを幸福に感じている。

        愛する女性との間に残された時間が、後わずかで有ると知らされた場合、子供や家族が他にいなければ、生きていることに意味を見出すのは確かに厳しいと思う。

        とくに、ここまで素敵な女性だと、それを超える出会いが無いことを悲観して、心中するという選択肢も有り得ると思った。

        見るだけで良いので生きている間に松下奈緒クラスの美人に出会いたいもので有る。
        >> 続きを読む

        2012/07/09 by ice

      • コメント 6件
    • 4人が本棚登録しています
      孤独か、それに等しいもの
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 「八月の傾斜」
        「だらだらとこの坂道を下っていこう」
        「孤独か、それに等しいもの」
        「シンパシー」
        「ソウルケージ」
        の5つが収録された短編集。

        順番が先にあるほど面白かった。
        つまり、「八月の傾斜」が一番良かった。
        「4」という評価は、ほぼこの作品のものだ。

        ただ、その前に「だらだらとこの坂道を下っていこう」の感想を。
        タイトルがほぼすべてを語っている作品だったが、他の4つの作品と比べてとても柔らかい雰囲気を持っていてよかった。
        「僕が感じている違和感は(中略)周りの風景自体が変わりはじめていることに原因がある」という言葉は、人間関係に深く悩んでいないと出ない言葉だと思った。
        こういうときは、周りに振り回されずに自分たちのペースを保つことが重要なのだろう。

        続いて、「八月の傾斜」。
        ピアスの穴をあけると「大切な何かをなくしてしまう」というのは、私には感覚的にではあるがよくわかることだった。
        私の友人たちがピアスをあけると、なんとなく違和感を感じたものだ。
        「親にもらった体を…」とかそういうこともあるが、それだけでなくピアスをあけることでその人の何かが変わってしまうような気がしていた。
        こういう話を20代そこそこの同じ世代の人に話すと、煙たがられる。
        私が堅いだけなんだろうかと思っていたところに、良き理解者と共感できる人を得られた気分だ。
        実際に、登場人物が私と全く同じことを感じているのかははっきりとわからないが、読み進めると私と同じものを大切にしていることはわかった。

        もう一つ、気になった言葉があるが、多少ネタバレになるかもしれないので以下ご注意を。

        「二度と取り戻すことのできない記憶の堆積物に、私は勝手に大久保君という名前をつけて呼んでいるだけなのかもしれない」というものだ。
        いい思い出、悪い思い出が、一緒にいた人の印象や記憶に結びつくということはよくある。
        大切な人を失うとその人だけでなく、思い出までもごっそりなくなるような気さえするし、嫌な人がいるとその人と関わっていた時間すべてが嫌な思い出になったりする。

        「私」にとって大久保君はそれだけ大切だったということだが、「私」はそれを忘れようとする。
        大切だから、忘れようとし、でもその方法は大切だった人が言っていたもの。
        その複雑さというか、どこかまだ大切だった人に囚われている感じがとても人間らしい。
        >> 続きを読む

        2014/12/20 by ともひろ

      • コメント 2件
    • 2人が本棚登録しています
      聖なる夜に君は
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • クリスマスをテーマにしたアンソロジー。勝手に、幸せな話が多いのかと思ってたら、そうでもなかった。

        好きだったのは
        「セブンティーン」奥田英朗
        クリスマスに女友達の家に泊まりに行くという17歳の娘と、それは嘘で本当は彼氏との初体験をするつもりだと見破っている母。
        どうしようもないことだ、という気持ちと心配な気持ち。
        娘との信頼関係にヒビを入れたくないというのもあり、どうしたらいいかと戸惑う母の様子。
        自分も同じようなことがあったな、あの時の母も同じ気持ちだったろうな、とちょっと切なくなったり。
        奥田英朗さんはどうして女性心理をこんなに理解しているのだろう。
        終わり方がすごく良かった。
        『「気をつけてね」色んな気持ちを込めたつもりだった。自分を大事にね理解ある親で感謝しなさいよ、いい女になるんだよ、悔いのない青春を送ってね』いいお母さんだった(T_T)

        「雪の夜に帰る」島本理生
        遠距離恋愛している恋人との関係が、お互いにだんだんと冷めていっていると感じている主人公。やがて自分の本当の気持ちに気づき…。
        最後は暖かな読後感。彼の言動は本当に主人公のことを心配したうえでのセリフだったんだな。相手のセリフからその裏の本音みたいなのを感じる時、それは自分の心境が大いに影響して勘違いすることもあるんだろうな。

        他の話は、夫に浮気されて離婚する話、不倫関係の話、失恋の話、など、幸せなものではなかった。

        最後の「ハッピー・クリスマス、ヨーコ」蓮見圭一
        は、ちょっとしたカラクリがあって、お??と読み終わってからもう一度読み返してしまった。
        前半、子供に難しい言葉の意味を説明するところが面白かった。「激情に走る、とういうのは、女の人がよく走る競技場みたいなものだと思えばいい」とか笑



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        2015/12/01 by もんちゃん

      • コメント 4件
    • 1人が本棚登録しています
      将棋の子
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • ノンフィクション。


        「一生をかけた夢が叶わなかった人間は、その先どうやって生きていくのか?」について書かれています。

        現実の厳しさと、彼らが最後に出した答えは美しい。
        >> 続きを読む

        2014/12/19 by バコス

    • 7人が本棚登録しています
      ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      •  短編集。自己愛が強く、それゆえ孤独な男性(または女性)が不器用ながら男女関係をはぐくんだり、はぐくまなかったりする話。……それは大崎さん作品いつもながらのトーンです。

         付き合って別れて、忘れられない異性がいるひと。
         付き合うまでの深い関係になっていないけれど、ふと思い出してしまう、なぜか心に残る異性がいるひと。

         そういうひとには是非読んでほしいです。

         なぜ、出会ってしまったんだろう、あのときに。
         なぜ、もう少しましな別れ方ができなかったんだろう。
         なぜ、もっと違う形で出会えなかったんだろう。そうすれば、もしかしたら、一緒にいられる未来もあったかもしれないのに。

         だけど、人との出会いってそういうもので。

         なぜ、と思うほどに忘れられない人との出会いも、今のわたしをつくっている一部なはず。

         綺麗なハッピーエンドではないけれど、大崎さんの作品はやはりどこか、光が差しているように思います。

         
        >> 続きを読む

        2017/05/22 by 理子*

    • 1人が本棚登録しています
      別れの後の静かな午後
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      •  静かな孤独を抱えた人たちが、そのどうしようもないかなしみとか不甲斐なさに対して見ないふりをするのではなくて、そのままそこに浸り続け、なんとか生き続ける、そういう物語。短編集。男女関係、親子関係が主に描かれています。

         人間は老いるし病気になるし、死んでしまうし、愛しいという気持ちも変わってしまうし 確かなものなんて何もないし……ということを読んでいて感じました。といっても大崎さんの小説はいつも、そこまですごく暗いわけではなく、どこか投げやりなわりには、最後の最後で、そんな、どうしようもない人間の、生きる強さとか、他人への優しさとか、そういうものを信じている作家さんなんだなぁ、ということが分かる作品になっている気がします。だから、ちょっと人間関係とか、生きることとかに参っているときに、ぜひ読むべき小説を書いてくれている現代作家だと思います。



        >> 続きを読む

        2017/05/08 by 理子*

    • 2人が本棚登録しています
      ランプコントロール
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      •  とても純粋で真っ直ぐな男性の、純粋至極の愛を綴った物語です。
         主人公は仕事の転勤でドイツに行き、日本人の男三人でルームシェアをすることになります。ところで彼には、ドイツに来る前に、のっぴきならない事情で関係がうやむやになってしまった恋人がいました。お互い、嫌いになってきっぱり別れたわけではないので、彼はドイツから手紙を出し続けます。でも返事は一度も来ず、ついには宛先不明で戻ってきてしまう始末です。
         長年付き合った相手だけに、別れによって主人公が心に負った傷は大きいものでした。ただ、異国の地という環境ゆえの刺激と、ルームシェアの仲間とのやりとりや新たな出会いによって、彼は少しずつ、前を向き始めます。
         そうして数年が経ち、日本に帰ってきた彼に、思いがけない事実が明かされます――。


         そこに描かれる愛がどこまでも純粋で、心地よい音楽が溢れているのは、大崎さんの小説らしい所です。
         
         人は、本当に大切なことは、とっくに、本能的にわかっているのかもしれません。
         わかっていて、日常の雑事に追われているふりをしながら、目をそらし続けているのかも。
         それも人間の性です。

         そして、間違えるのも人間の性。
         人との関係はとくに、誰が悪いわけでもないのに、結果として、深く深く傷つけあうことがありえます。

         だけど、他に何ができただろう、って考えると
         そんな仮定の話をしたって仕方ない、ってことになる。
         だって、「出会わなければよかった」なんて言うけれど、そう言っているあなたはすでに、その人と出会ったあとのあなたで、出会わなかった場合のあなたと同様ではないんだから、仮定の段階を想像することは不可能でしょう?

         だから
         人との出会いや、すれ違い、別れ、再会、それらはすべてすべて、
         必然的なもので、考えたって仕方ないんだ。

         と私は思います。


         それならば、せめて。
         今傍にいる大事な人たちを、離れないように大事にしよう、と。

         そんな当たり前のことを、すとん、と納得させてくれる小説です。

         
        (以下引用)

         
         世界には確かなものと不確かなものがある。
         たとえば確かなものは歌だ。どんなに人が入れ替わり街が移り変わっていっても、歌は変わることなくいつもそのままにある。
         不確かなものは人の気持ち。それはありとあらゆる場面で極北の空を覆うオーロラのように、色や姿を変え続ける。
         しかし、と僕は思う。
         そうではないのかもしれない。
         今の僕にとってシンディ・ローパーの歌声がとても不確かで、そして揺れ動いていたはずの理沙への思いのほうが確かなものに感じられてならないのだ。

                        (本文 pp.216-217)


        「だから、人と人が別れてしまうというのは、そういうことなんではないでしょうか。どうなろうが何をしようが、意味不明になる」
        「意味不明?」
        「そう。僕はこちらに住んでいて本当に多くの人と出会い、言葉のできない旅行者や留学生のお手伝いをしてきました。
         
         もちろんそれは僕が好きでやっていることで楽しいからいいのですが、ただひとつ言えることは、何らかの摩擦がお互いの間に発生していれば色々な形で結びついていますが、それが終わるとほとんどの人は消えてしまいます。
         
         消えてしまった瞬間に僕にとってその人の存在は意味不明になる。
        (中略)もちろんそうならない人も中にはいます。しかし九割九部の人は意味がなくなる。」

        (中略)

        「だから、こう考えたらどうでしょう」
        柳田は声を静めて行った。
        「理沙さんも消えた九千九百九十人の中の一人だと。そして……」
        「そして?」
        「消えることは決して悪いことじゃない。なぜなら九千人以上もの人とつながって生きていくなんて僕はまっぴらごめんです。」

                         (本文 pp.292-293)

         ごめんなさい。
         恋愛というこの感情は確かに二人で育てたものだけど、壊すことは一人でできます。それがこの感情の持つ、独特のそして際立った切なさなのではないでしょうか。

                          (本文 p.329)
        >> 続きを読む

        2016/11/22 by 理子*

    • 1人が本棚登録しています
      ドナウよ、静かに流れよ
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • ブックオフで、オススメしてたので手に取ってみたのですが、先が気になって寝ずに読んでしまいました。
        ノンフィクションらしいのですが、とにかく終始重い感じの内容で、読んだ後は何とも言えない寂しい気持ちになった事を覚えてます。
        何でこんなに寂しい実話を小説にしたんだろうか、という疑問は残ります。
        こんな気持ちにさせた、この本の著者に興味が湧いてきたので、別の本を読んでみたいと思う。
        >> 続きを読む

        2012/06/14 by higamasa

      • コメント 1件
    • 1人が本棚登録しています
      ディスカスの飼い方
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      •  ディスカスという、熱帯魚を育てる人の中でもその飼育が困難であるとされる魚の世話に身も心も捧げた男性の物語。
         水のペーハーがどうだとか、水槽の管の仕組みやその他、熱帯魚を育てたことがない人にとっては、理科の専門書かと思われる記述が羅列される箇所が幾度もあり、本当に著者は熱帯魚が好きなのだろうなぁと感じられる。
         飼育困難な魚を一生懸命世話して、水質や餌によって自分が望む色合いの魚にすること。ペアを育ててうまいこと産卵させ、次の世代を作ること。それらはすべて、不可能と思われる問題に、自分なりの筋道をたてて対処する、ということを意味する。この、熱帯魚に、ディスカスにハマった主人公にとって、その飼育の全てはそう、この理解不可能で不条理な世界と、繋がり、向き合うための手段。
         
         いつだってこの世は理解不可能で、それは、たとえば恋人がいたとしても同じ。とくに、感じやすい人、考え込む哲学者気質の人にとっては、誰かと付き合えばそれだけいっそう、何か、これは、違う、こんなふうにごまかしていてはいけない、という気持ちになる。あるいは距離感。世界と自分との距離の取り方がわからなくなる。

         大学生になって、恋人ができて、でも、恋人ができた後にこの主人公は、ディスカスというものに出会ってしまい、自分なりのやり方で、不可能なものを解明してゆくことの面白さを知ってしまう。

         それから、恋人よりもディスカスを優先する彼のことを、理解できず去っていってしまう彼女たち。付き合っては、別れ。それでも理由がディスカスだから、と、心のどこかでほっとしている部分があった。自分や相手が悪かったのではない。ディスカスがいたから、仕方ないのだ、と。

         そうして就職してしばらく経ち、思いがけず早期退職の募集があってそれにとびつき、数年は働かずに暮らせるくらいのまとまったお金が入ると、本格的なディスカス飼育に乗り出す。
         そう、ディスカス用の小屋をたて、そこに何本もの水槽をおく。


         熱帯魚雑誌で読んだ、海に潜りまくる男の話や、
         日本で素晴らしいディスカス飼育を成功させている男との実際の出会いと、打てば響く相手との喜ばしい会話。けれども、それだけ気が合うからこそ、わずかな観念のズレが、パタン、と心の扉を閉じさせる結果をもたらす。


         そうやってディスカスを育て続け
         いよいよ夢にまで見た理想的な産卵を実践させるときがきたとき彼の身に起こったのは――


         大崎善生作品といえば、かなりの高確率で熱帯魚好きな男性が出て来るわけであるが
         本書はそれをとことん突き詰めた1冊と言える。

         細かい記述は門外漢には理解不能だが、
         なにか、自分の手で解明してゆく喜びと、
         他人を愛することへのためらい、どこか遠く感じられてしまうこの世界と関わることの困難さは
         非常に共感できた。

         自分もいつかは熱帯魚を育ててみたいものだ、
         と思います。


         

        >> 続きを読む

        2017/06/07 by 理子*

    • 3人が本棚登録しています

【大崎善生】(オオサキヨシオ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)

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