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垣根涼介の時代小説「光秀の定理」は、なかなか痛快な小説だ。今までのイメージを大きく覆して登場する、若き明智光秀。そして、その光秀と不思議な出会いをする僧侶・愚息と兵法者・新九郎。この3人を軸に物語が展開する。とにかく、愚息のキャラクターが、実にいい。ほとんど主人公といってもいいような存在感だ。著者、垣根涼介の出世作「ワイルド・ソウル」は、汗と熱気がダイレクトに伝わる快作だった。その垣根涼介が、時代小説というのは、かなり驚きではあった。垣根涼介も枯れたのか? と思ったものだが、読み進めていくうちに、それは杞憂だったとすぐわかる。この3人の躍動感、存在感は、熱気を持って、我々読者にすぐ伝わってくる。僧侶・愚息の独特のポリシーは、我々に十分な痛快感を与えてくれる。残念ながら、後半少し疾走感が落ちる。それは、明智光秀が本能寺の変を引き起こした、歴史的事実によるものだ。著者は、その光秀像を何とか覆そうと苦心している。もしかすると、著者がこの本で訴えたかったのは、この部分なのかもしれない。それは、十分説得力をもって我々読者に伝わるのだが、その分、物語の流れが少し滞ってしまうのだ。その点が少し残念ではあった。けれども、それを十分に補って余りある、新しい光秀像と魅力的な登場人物が躍動する物語だ。そして、この小説が特異なのは、意外にも数学が物語の中心になっている点だ。数学を題材にした小説といえば、「博士の愛した数式」や時代小説では、「天地明察」などが思い浮かぶ。しかし、読者にこんな形で、確率論の問題を問いかける小説も珍しいのではないか。しかも時代小説で。決して難解な数式が出てくるわけではない。極めて単純な賭け事の話なのだが、これが、飛び切り奥が深い。確率論でもあり、ゲーム論的でもある。我々読者は、この問題を頭に抱えながら、読み進めることになる。そして、この問題が後半に効いてきて、最後に大きな意味を持つのだ。それにしても、ここまでロジカルな話を、エンターテインメント性の高い時代小説の中に溶け込ませ、全く自然に読ませてしまうのはさすがだ。この確率論の問題だけでなく、この本全体にわたって、とても含蓄のある戦術論が展開されている。それは一言で言えば、ゲーム理論の真髄でもある「次の次」を読む視点だ。今の世界経済は変化が速く、5年先いや1年先ですら予想するのが難しい。だからこそ起こりうる次と、それに対して、ライバルが行動する次の次を、幅広く考えておく。この視点こそが、今後、大きく変化するであろう世界経済を生き抜くのに、不可欠なものではないだろうか。そんなことも気付かせてくれる1冊だ。 >> 続きを読む
2021/03/13 by dreamer
テンポがよい スリリングな展開 車好きにはたまらない
2019/05/01 by kanamincho
要が深夜ドライブで撥ねてしまった黒い大きな犬。仕方なしに動物病院で治療してもらうが、次第に家で飼い始めることになる。だがそのころ犬のせいではないかという事件が起きていたことを知る。どこか斜に構えている要の人生模様。1級建築士なのにこれといった贅沢はせず貯金する生活。そんな中で犬が人生に飛び込んでくる。次第に愛情が芽生えてくるが、それと共に疑問もある。そして犬の独白という視点もありで、謎は深まっていく。犬となるとどうしても泣きという状況になるが、敢えて外したかのようにサラッと別れを見せる。これぐらいの感覚の方が余韻はいいのかも。 >> 続きを読む
2021/01/10 by オーウェン
移民として大量の日本人がブラジルに送られた。だがそれは国が犯した無策な移民政策。衛藤は地獄のような地を生き抜き、日本政府へと復讐を誓うため生きる。開拓されてない土地に対し、無茶を承知で実施した政府。これは歴史的事実であり、ブラジルに今も日系人が多くいるのはこの名残。そんな中で出会う日系ブラジル人のケイ。このキャラが豪快であり、日本人の貴子とのやり取りも魅力。報復計画も進んでいく中での障害。ラストの爽快感もこの手の作品では見られないタイプだった。 >> 続きを読む
2019/01/14 by オーウェン
リストラ請負会社に勤める主人公。こんな会社ってあるんだ~?って思いながら読んでたけど、解説読んだらやっぱり無いのか(笑)読み始めの主人公の真面目なイメージが、早い段階でガラガラくずれてビックリ。手が早い…。高校の同級生との面接が印象的でした。私が面接される側なら耐えられない色々な職種、立場の人が出てきて興味深く読めた。「親切、とか、優しい、ということではない。相手の立場になって付き合えるかどうか。そうすれば自然と涙は出る。飯だって奢る。その共感性の高さがつながりを密にする。相手を、信用させる。」 >> 続きを読む
2016/12/07 by もんちゃん
リストラ請け負い会社の社員の物語‼リストラする側である主人公よりもリストラされる側であるゲストに焦点を当てた作品である。リストラされるかもしれないという状況をきっかけにゲスト逹が自分の人生を見つめ直していく❗社会人として働いた経験は一度もないが働くということについて考えさせられた。 >> 続きを読む
2015/10/26 by future
今回読了した「ワイルド・ソウル」(上・下巻)は、「午前三時のルースター」でデビューした垣根涼介の3作目の作品です。戦後の日本政府が、国民を南米のジャングルに棄てたという史実をもとに、実に躍動感あふれる小説に仕上がっていると思う。棄てられた者たちの復讐譚という枠組みの中で、垣根涼介ならではの軽妙さと物語の転がし方の巧みさが存分に発揮されていて、終盤のたたみ込み方も実に見事だ。1961年、貧しい農民だった衛藤は、妻と弟の三人でブラジルに移住することを決意する。日本政府は戦後、南米移住政策を推し進めていた。広大な農地、豊かな収穫物-----、バラ色の夢を謳った計画には応募者が殺到した。だが衛藤の夢が潰えるのも早かった。衛藤たちが入植したアマゾン川最奥の土地は、人の手で切り開けるものではなかったのだ。衛藤は仲間や家族を次々と失っていく。そして、ブラジル移住者が政府の棄民政策であったことを知るのだった。入植地を離れた衛藤は、数奇な人生を送り、成功者の一人となった。そして、四十年後、衛藤は日本政府に対する復讐を計画する。同じ入植地で生を受けたケイと松尾、そして衛藤と同じくブラジルをさまよった山本の三人が来日し、恨みがつのる外務省への攻撃を実行するが-------。外務省の無策というのは今に始まったことではなく、国内の日本人が忘れたままの歴史的事実を、作者は我々読者に突きつける。前半で描かれる、衛藤たちが経験した絶望的な日常の描写は、重苦しくつらいが、それがあるからこそ、犯罪に等しい政府の無策が浮き彫りにされ、彼らの復讐に感情移入できるのだ。だが重苦しい雰囲気もそこ迄で、緻密で大胆な計画が実行される後半は、一転してスピーディーに物語が走り始める。また、陽気で女好きという実行犯ケイのキャラクターが抜群に良くて、報道記者の貴子と関係して、事態をより複雑にさせるのと同時に、貴子の視点も加わり、より複眼的な視座が得られたことで、プロットに奥行きが出た点も見逃せない。とにかく、この作品は例えようもないほどの無類の面白さだ。 >> 続きを読む
2018/05/24 by dreamer
君たちに明日はないシリーズの三巻。今作も主人公はリストラ請け負い人として多くの人の人生の伏し目に関わる‼ゲスト逹はリストラされるという状況で仕事とは何かを考える。そして、自分なりの答えを導きだし、新しい明日へと旅立つ。「たぶん、後悔のない人生なんて、ありません。」最終章のラストに出てくるセリフ。自分が読んでいて一番好きな言葉です。 >> 続きを読む
2015/10/31 by future
最近、気になる作家のひとり、垣根涼介の「ゆりかごで眠れ」(上・下巻)を読了。国家と個人の関わりを背景に骨太な物語を描いて、冒険小説の面白さを堪能させられましたね。この小説の主人公リキ・コバヤシ・ガルシアは、コロンビアで生まれた日系移民の二世。彼が生まれたのは、正規軍と反政府ゲリラによる血で血を洗う抗争の真っ最中だった。ゲリラ狩りの部隊に両親を殺されたリキは、現地の女性に引き取られるが、やがて義兄のギャング団で才覚を現わし、麻薬組織の中核メンバーへと上り詰める。受けた屈辱は絶対に返す激烈さの一方で、いかなる犠牲を払っても決して仲間を見捨てることのないリキは、部下たちから畏敬の念を受ける存在であった。物語は、元浮浪児の少女カーサを連れて、リキが日本にやって来るところから幕を開ける。彼の所属するコロンビア・マフィアは日本にも支部を置き、積極的に活動しているのだ。だが、パパリト(小鳥)とあだ名される組織の殺し屋カルロスが、日本の警察に勾留された。敵対する組織の密告によるものであった。パパリトの取調べに当たる新宿北署の武田警部。かつての部下で、武田と男女の関係にあった元刑事・若槻妙子。日本におけるリキの数少ない友人である竹崎老人-------。多彩な人物たちの思惑が互いに交錯しながら、リキのパパリト奪還作戦は、静かに進行していくのだった。だが、血と硝煙の宴の果てには、凄惨な結末が待ち受けていたのだった-------。この長篇小説を冒険小説、犯罪小説としての本筋だけを追うならば、ここまで長篇の必要もなく、おそらく半分の長さで済んだだろう。だが、著者の垣根涼介は、リアルタイムで進行するドラマの至るところに、登場人物たちが抱えてきた「過去の物語」を、それに倍するボリュームで挿入していくのだ。縦方向に伸びるストレートなストーリーが、「歴史」という横方向のベクトルを与えられることによって、恐ろしいほどに厚みを増していくんですね。この作劇法は、濃密なドラマを生み出すための著者の工夫に他ならないのだろう。そして、車や銃のスペックといった細部の描写にこだわることで、登場人物の個性を印象付ける手法は、ハードボイルド小説の旗手と言われた大藪春彦を彷彿とさせますね。大藪春彦や、冒険小説の旗手と言われた船戸与一の系譜に連なる、ハードボイルド冒険小説の書き手として、垣根涼介への期待が私の心の中で高まるばかりだ。 >> 続きを読む
2018/04/26 by dreamer
旅行代理店勤務の長瀬は失踪した父がいる慎一郎と共にベトナムへと向かう。現地住民をガイドにするが、そこには意外な真相が。ミステリの部分もあるが、ベトナムに舞台が変わってからの高揚感は垣根さんらしい描写で新鮮味が。徐々に父親に近づいていく中で、語られる真相。ここに対しては新味がない回答だったが、ベトナムでの旅を得て、慎一郎がどう変わっていくかの未来を予見させる終わりだった。 >> 続きを読む
2020/12/26 by オーウェン
タイトルは催淫剤のことで、要はハイになれる麻薬の一種。これを糧に恭一と、ヤクザのヒモになっていた圭子が出会う。どう考えても破滅的な方へと一直線の感じだが、自身の欲望が次第に重なり合っていく点がハードボイルドのような雰囲気。とにかく勢いで進んでいくタイプであり、猥雑な描写も大いに忍ばせている。これが最後どうなるかだが、追われる感じが希薄なラスト。もっとギリギリの線を描けたとも思うが、この手のものにしては生温い終わり方だった。 >> 続きを読む
2021/03/18 by オーウェン
【垣根涼介】(カキネリョウスケ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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