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飛浩隆

著者情報
著者名:飛浩隆
とびひろたか
トビヒロタカ
生年~没年:1960~

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このランキングは1日1回更新されます。
      グラン・ヴァカンス 廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね!
      • 【長い……約束】
         著者の『象られた力』がいたく気に入ってしまったので、その著作を探していて見つかった一冊です。
         いや、素晴らしい!
         何と豊かで鋭い感受性の持ち主なのでしょう。
         その描き出す世界は、みずみずしく、時に異様なほど込み入り、儚いものでした。

         ここは、『夏の区界』。
         多くの人びとが、平穏に暮らしている美しいリゾート地。
         1000と50年もの間、何も変わらない。
         人びとは年を取らず、永遠とも言える長さを同じように繰り返し生きています。

         ここには夏しかありません。
         空はどこまでも透き通るように青く、沸き立つ白い雲には薔薇色の光が。
         白く続く砂浜と、その先にある紺碧の海。

         『夏の区界』は、『客』のために創られた仮想空間のリゾート地です。
         そこに住む人びとは、精妙にプログラミングされたAIでした。
         一人一人に過去と役割が与えられ、『客』が心地よいバカンスを満喫できるように、組み立てられた者たち。

         ある時、大途絶(グランド・ダウン)が起きました。
         それまでひっきりなしに『夏の区界』を訪れていた『客』たちがぱったり途絶えてしまったのです。
         それと引き替えのように、硝視体(グラス・アイ)が『数値海岸』で発見されるようになったのです。

         硝視体は、様々な能力を持った輝く石でした。
         最初は、興味本位で扱われていたものでしたが、そのうちに硝視体の力を使うことができるAIが出てきたのです。
         ジュリーもその一人。

         何故、大途絶が起きたのか誰にも分かりません。
         もしかしたら、このリゾートを創っていた者がここを放棄したからかも。
         それでも、『夏の区界』は、それまでと何も変わらないように存在し続けていったのですが。
         それは、永遠の夏休みが続くように。
         ……あの日が来るまでは。

         ジュールは12歳の少年。
         天才少年で、『夏の区界』にある鉱泉ホテルで毎年開かれるチェス大会の常連チャンピオン。
         今朝も従姉のジュリーと、二人だけの秘密の場所である鳴き砂海岸に出かけるところ。
         そこは硝視体がふんだんに見つかる場所です。

         ところが、突然空が暗くなり始めます。
         そして、無数の『蜘蛛』(そうとしか言いようがないのです。確かに蜘蛛のような形のモノもありますが、全く異なる形のモノもいます。でも、蜘蛛としか言いようがないのです)が空から降ってきました。

         蜘蛛たちは、飢えをまき散らしました。
         AI達や、『夏の区界』の地形をむさぼり喰い始めたのです。
         生き残ったAI達は、区界の西にある鉱泉ホテルに逃げ込みました。
         蜘蛛たちの侵攻は続きます。

         一体、これは何者で、何のために区界を破壊するのか誰にも分かりません。
         生き残ったAI達は、鉱泉ホテルを要塞と化し、生き残るための戦いを始めたのです。
         そう、12時間に渡る壮絶な戦いを。

         本作は、『廃園の天使』シリーズの第一作にあたるようです。
         著者の描写は大変素晴らしい。
         幻想的なイメージも脳内に炸裂します。
         そもそもが、仮想空間である『夏の区界』を舞台にし、仮装人格のAI達が主人公というメタな構造になっているわけですが、これがまた余計に入り組んだ世界を描き出します。
         鉱泉ホテルの描写も美しいです。
         時に、『シャイニング』に出てきた、雪に閉ざされるオーバールック・ホテルを彷彿とさせるような。

         硝視体使い達や蜘蛛に立ち向かうAI達のキャラも立っています。
         盲目ですが美しいレースを編む達人のイヴ、年老いた三姉妹はまるでマクベスに出てくる三人の魔女のよう。
         その他にも魅力的なキャラ満載です。

         いや、大変素晴らしい作品でした。
         速攻で『廃園の天使』シリーズを読み続けたいと思います。
         絶賛オススメ!
        >> 続きを読む

        2019/05/13 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      ラギッド・ガール 廃園の天使 2
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!
      • 【稠密な世界が描き出される】
         『廃園の天使』シリーズの第2巻です。
         第1巻の『グラン・ヴァカンス』はお読み頂けましたでしょうか?(読んで絶対に損はありませんので読んでみて下さい!)
         『グラン・ヴァカンス』では、仮想空間にあるリゾート地、『数値海岸』の一つ、『夏の区界』がランゴーニというAIの猛烈な攻撃を受け、それを防御しようとする『夏の区界』の住人AIとの12時間にわたる熾烈な戦いが描かれました。

         まずは、『グラン・ヴァカンス』をお読み頂きたいのですが、読んで頂くと……
        「そもそもこの『数値海岸』というのはどういう仕組みになっているんだろう?」
        「誰がどうやって作ったのだろう?」
        「ゲストを迎えるリゾートとして作られたというのに、『大途絶』により誰もゲストが訪れなくなったというけれど、それは何故?」
         「ゲストが誰も訪れなくなった仮想空間ならばとっくに放棄されていてしかるべきなのに、何故未だに維持パワーがシャットダウンされないのだろう?」
         「そもそも、『夏の区界』を攻撃したランゴーニって誰?」
        などなどの多くの疑問が残ったと思います。
         本書は、それらの疑問や謎を解き明かす中編集になっているのです。

        ○ 夏の硝視体
         『硝視体』というのは、『大途絶』後に、『夏の区界』に現れた不思議な力を持つ石のようなものです。
         それは、個々に違う能力を秘めており、本来区界内で生活しているAIは、区界自体に干渉することはできないのですが、それを可能にする能力を秘めています。
         『夏の区界』のAI達の中には、この『硝視体』の力を駆使できる技を持った者が現れるようになりました。
         17歳の少女、ジュリーもその一人。
         本作では、ジュリーがその能力を発揮するようになったいきさつと、ジュリーと『永遠の約束』をすることになったジョゼとのことが描かれます。

        ○ ラギッド・ガール
         そもそも、『数値海岸』というリゾートが誰によってどのようにして作られたのかが明かされる一作。
         もう、すっごいんですよ、その発想が。
         確かに、言いたいことは分からなくはない。
         なるほど、と、思ってしまった一作。
         『数値海岸』が生まれるに当たり大きな役割を果たした阿形渓(アガタ・ケイ)という『とても醜い』女性が登場します。

        ○ クローゼット
         『大途絶』が起こった後の、人間界(実存する我々の世界)を描いた一作。
         そう、『数値海岸』は、我々人間が、仮装のリゾートとして作り上げたわけです。
         それが『大途絶』によって休止されてしまうのですが(だから、『数値海岸』側からすると、誰もゲストが訪れなくなったのですね)、その後の私たち人間はどうなっていったのかというお話。

        ○ 魔述師
         『数値海岸』側の区界の一つである『ズムーナカ』と、人間界の両方から交互に語られる物語。
         『数値海岸』には数多くの区界が設定されており、基本的にはそれぞれの区界は独立しています。
         ですが、区界間を往還できる存在がありました。
         それが『鯨』です。
         ですが、『鯨』を維持するためにはもの凄い演算資源を必要とします。
         『鯨』を保有できる区界は、それだけで一つのステータスなんですね。
         ですが、そんな『鯨』を製造したり、保守管理するためにはさらに莫大な演算資源が必要であり、そんな資源を有している区界は、『ズムーナカ』ただ一つだけでした。
         ここでは、『鯨』を保守管理しているAI達と、それを見学に来ている少年ゲスト達が描かれます。
         他方の人間界の方では、何故『大途絶』が起きたのか、その根本が語られます。
         『数値海岸』に住むAI達が虐げられているとして、その解放を叫ぶ女性。
         AIの人権って何だ?
         気が遠くなるような話だ~。

        ○ 蜘蛛(ちちゆう)の王
         『グラン・ヴァカンス』で『夏の区界』を攻撃したランゴーニの正体が明かされる一編。
         ランゴーニも一つの区界に住む一人のAIだったのです。
         その区界とは、『汎用樹』と呼ばれる大木が世界中をくまなく覆っているような、樹木の世界でした。
         しかし、その区界も『非の鳥』の攻撃を受け、また、変容されたAI(それは子供を孕むのです!)により荒廃の危機に瀕していたのです。

         本作により、第一作では明かされなかった数多くの秘密や謎が明らかになります。
         しかし! まだ謎は残されています。
         飛さん、この後も書いてくれるのでしょうか?(いや、既に書いているのか?)
         私が探した限りでは、まとまった形として刊行されている飛さんの著作は、『象られた力』と、この『廃園の天使』シリーズの2冊だけのようです(あまりにもすごかったので、全て購入ボタンを押してしまいましたよ)。
         どうか、是非、さらに書き続けていただきたいものです。
         飛さんが描き出す、圧倒的イメージと目眩がするような稠密な世界をさらに堪能したいと心から願いますし、『廃園の天使』シリーズもまだまだ書かなければならないことがあるはずです。
         お願いします!
        >> 続きを読む

        2019/05/23 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      象られた力
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【センシティブなSF】
         SFはそれなりに読んでいるつもりでしたが、寡聞にして著者のことは全く知りませんでした。
         巻末解説を読んだところ、「知る人ぞ知る作家」さんなのだそうです。
         しかし、相当に力のある作家さんと感じました。
         以下、収録作品をご紹介します。

        ○ デュオ
         収録作品中、私が最も印象に残った作品です。
         結合双生児(いわゆるシャム双生児)の天才的ピアニストが登場します。
         手は一人に1本ずつしかないので、一人が右手、もう一人が左手を担当して素晴らしい音楽を奏でます。
         しかも、彼らは段々と聴力を失っていき、現在では音は全く聞こえないというのです。
         他人との会話は手話で行うのですが、手話って両手を使うじゃないですか。
         それなのに、話そうと思っている内容を二人が同時に手話で語るというのは不可能だと思いませんか?
         もちろん、演奏でも相当に難しいとは思いますが、演奏の場合は楽譜がありますし、練習もできます。しかし、手話は……。
         ええ、二人はテレパスだというのです。
         お互いに思っていることが、通じ合うのだとか。
         そんな天才ピアニストの調律師となったイクオが語る物語という構成になっていますが、ここにも一つの仕掛けがあります。
         音楽には力があるのだという作品。
         ちょっと皆川博子さんの作品を連想させるところがありました。

        ○ 呪界のほとり
         何者かに命を狙われ、肩に乗せた小さな龍と共に世界を彷徨う万丈という男が主人公。
         自分が何故狙われ続けているのかも万丈には分からないのですが、しつこく刺客につけ狙われていることは事実です。
         この度は追っ手から逃げているうちに、龍のファフナーの不手際により呪界の外に放り出されてしまい大ピンチを迎えるというエピソードになっています。
         ユーモアも感じさせるタッチの作品で、これはシリーズ化すると良いのになぁと感じました。

        ○ 夜と泥の
         テラフォーミング(惑星改造)の過程で、とんでもないプログラムが仕込まれていたため、何とも恐ろしい惑星に変えられてしまった星を舞台にする作品です。
         生命とは一体なんだろうかと考えてしまうような作品です。

        ○ 象られた力
         『デュオ』は、音楽に力が秘められているというモチーフの作品でしたが、本作は図像に力が込められているという作品です。
         ある時、『百合洋(ゆりひろ)』という惑星が突然消滅し、それに続いて『ムザヒーブ』、『シジック』という衛星、惑星も立て続けに消滅してしまうということが起きます。
         それは疫病の結果だと言うのですが、疫病の発生によって何故惑星や衛星ごと消滅してしまうと言うのか?

         いずれの作品も、非常に感性の豊かさを感じます。
         特に、『デュオ』と『象られた力』は、音楽と図像をモチーフにしているだけに、その印象は強く、また、描き出す情景の描写にも力があります。
         これだけの作家さんだというのに、10年以上のブランクを開けてしまったために、さほど知られていないとの解説ではありましたが、魅力的な作品群だと感じました。
         他の作品も刊行されているようですので、機会を見つけて読んでみたいと思いました。
        >> 続きを読む

        2019/06/27 by ef177

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