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絲山秋子

著者情報
著者名:絲山秋子
いとやまあきこ
イトヤマアキコ
生年~没年:1966~

この著者の本を読んでいる会員ランキング

このランキングは1日1回更新されます。
      逃亡くそたわけ
      カテゴリー:小説、物語
      3.4
      いいね! KEMURINO
      • 博多発、花ちゃん(21)と、なごやん(24)の逃避行。リュックに睡眠剤ぶちこんで、オンボロルーチェに乗って、高速使わず、国道走って、ひたすら九州を南下。BGMは「Theピーズ」のカセット。あてもなく逃げて逃げまくる男と女の珍道中!

        眼前にそびえる雄大な薩摩富士(開門岳)に向かって「くそたわけ!」と毒づくアナーキーな逃亡の旅路。標準語のなごやん&ネイティブ博多弁の花ちゃんのいまいちかみ合わない会話のテンポがめちゃくちゃおもしろく、ロードムービー観ている感覚で一気読み!

        で、二人はなにから逃げているのか? 犯罪者ボニー&クラウドでも、ロックなシド&ナンシーではありません。花ちゃん&なごやんは精神病院の脱走者なのだぁ⁉︎

        躁と幻聴を繰り返す花ちゃん。鬱で入院中のなごやん。強烈な薬の投与が嫌で、脱走を思い立った花ちゃんにそそのかされる形でなごやんも巻き込まれた無計画の逃避行。

        ファンキーでちょつぴり切ない二人の旅路を通して、病気に限らず、人生や恋愛も躁と鬱のバランス性で成り立つているのかも…と思った。

        それにしてもネイティブな九州弁をこんなにポップに使いこなし、各地域の気質を描き出せる著者の経験値とアウトプット力はすごいぜ!
        >> 続きを読む

        2020/05/04 by まきたろう

    • 他3人がレビュー登録、 7人が本棚登録しています
      袋小路の男
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね!
      • 無駄をなくして研ぎ澄まされた文章。
        風景描写も人物相互関係もしかり。
        書き込んで書き込んで表現するのも嫌いじゃないが、無駄をそぎ落とした文章の中で、行間を読んでいくのも悪くない。
        でも、数十年前の作品だからか、この作家にしては、ちょっとパンチが足りない気もした。
        >> 続きを読む

        2015/12/16 by shizuka8

    • 他2人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      ばかもの
      カテゴリー:小説、物語
      3.6
      いいね!
      • 主人公のヒデは、絵にかいたようなクズ男だ。
        学生時代は、年上の美しい女、額子に溺れ、捨てられる。
        そこそこの企業に就職後、可もなく不可もない安定した生活の中で、今度は酒に溺れる。
        酒を断つか命を絶つか。
        その選択を強いられるほどの、アルコール依存症に苦しめられる。
        依存症描写の、押しつけがましくない程度のリアル感に、読む方も熱が入った。
        入院治療後、以前捨てられた額子との再会で、少し救いが見えた。
        しかし、額子も以前の額子ではない。
        片手を失い、頭が白髪になるほどの精神的苦痛を経ていた。
        甘さもあり爽やかな感じで物語は終わっていたが、ふたりのその後はどうなんだろう。
        クズ男はいつまでたってもクズ男だろうし…なんて想像するのも、また楽し。
        >> 続きを読む

        2016/03/19 by shizuka8

      • コメント 1件
    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      沖で待つ
      カテゴリー:小説、物語
      2.8
      いいね!
      • この本におさめられている短篇2作とも、歯切れがよくて小気味よくて、勢いを感じる好きな作品だった。

        特に「勤労感謝の日」の主人公が、私はとても好きだ。
        総合職のキャリアをリタイアして、現在36歳無職。
        なにが勤労感謝だ、私に世間様に感謝しろとでもいうのか、冗談じゃない。と悪態をつき、見合いの席で子供は好きですかと聞かれ、「嫌いです。」ときっぱり答える。
        そうそう。
        子供は天使なんかじゃない。ってみんな気づいているのに、子供が好きな女性はやさしく見えて、嫌いな女性は意地悪く見える。
        これに限らず、潜在的に感じていることを活字で表してくれて、スッキリする。
        >> 続きを読む

        2016/06/04 by shizuka8

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      イッツ・オンリー・トーク
      カテゴリー:小説、物語
      2.3
      いいね!
      • 直感で選んだ住まいは蒲田。うす茶色のランチア・イプシロンを所有。薬も服用している躁うつ病主人公・優子にまつわる人間関係の希薄さが凄い。

        一度上り詰め壊れてしまった女性が繋がる異性はダメ男ばかり。「誰とでも寝る」罪悪感ではなく、「誰とでもする」セックス感の空回り度に、コミュニケーションのリアルな多様化が浮かぶ。

        病んだ人にしか見えない世界が異質なのか? 健全な顔を装う教科書みたいな社会が異質なのか?

        「キングクリムゾン」という固有名詞に秘めた著者のプログレッシブな感性が冴える。
        >> 続きを読む

        2018/07/16 by まきたろう

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      沖で待つ
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね! KEMURINO Mango
      • なんて、カッコいいタイトルなんだろう。装丁も超Cool またひとつ読み逃していた刺激的な本と出会えてラッキー!

        総合職とがジェンダーとか行政用語にふりまわされながら奮闘している女性たちの熱量が男より男前。

        組織に蔓延する不倫やセクハラ、パワハラの男社会構図すら、凌駕してしまうサバサバした女子力の進化。

        色恋なしで男と女が認めあい、渡り合える新たな社会図に拍手! 自身も死ぬ前にハードディスクをどう処分しようか?マジ考えた。他2収録作もスカッと痛快!パンクな読後感!
        >> 続きを読む

        2018/03/18 by まきたろう

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      ニート
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • もちろん人に対してどうでもいいなんて言うのはとんでもなく失礼なことだけれど、どうでもいいって言ったら、この世の中本当に何もかもどうでもいいわけで、それがキミの思想そのものでもあった(「ニート」より)。現代人の孤独と寂寥、人間関係の揺らぎを描き出す傑作短篇集。

        2005年に角川書店から出版された短編集です。
        表題作含め、短編5本。
        「ニート」
        「ベル・エポック」
        「2+1」
        「へたれ」
        「愛なんていらねー」
        すべて、著者ならではのサッパリした語り口で、クズ男たちを描いたものです。
        巻末解説で山内則史さんが仰られていますが、
        「絲山さんはクズ男の描写が巧い、それでいて作中の女性たちに慈愛で包ませているかというと、そうでもない。
        そういう男たちであるということを潔く受け止めている。
        人間とはそのようなものであると諦めているところさえ見える。
        悲観も楽観もしていない、この距離感が絶妙だ。」
        まさしくその通りで、アッサリサッパリとクズをクズらしく、そこに在ることを不思議なくただ書いておられる。

        表題作『ニート』。
        作家である私(女性)はキミが気になります。
        友達というわけじゃない、もちろん恋人でもない。
        そういえばしばらく音信不通だったが、虫歯の痛みとともに、なぜかしら思い出してしまったのでした。
        思い出して、キミのホームページを開くと、まさしくオタクくさいウェブサイトになっていて、ちょこちょこと書き込んでみます。
        過去にセックスしたのだって、好きだからとかいう理由があったからじゃない。
        今、きっとここに来る交通費さえ無いであろうキミが、どうしても気になるのでした。
        私は、かかってきた電話に、自分の見立てに狂いが無かったことに満足します。
        当面、転がり込んでくることを許す私。
        罪悪感や申し訳ないけれど助かった気持ち、プライドがせめぎ合って無口に現われる痩せ細ったキミ。
        少々、金銭的に余裕がある私は、その日からふたりして、昼酒をあおるようになります。
        そんな毎日をやり過ごすうちに、なぜキミが気になるのか、少しずつわかってきたような気がするのでした。

        表題作だけじゃなく、どの作品にも登場するいろんな意味でのクズ。
        生活力が決定的に欠如していたり、圧倒的に優柔不断だったり、スカトロ趣味の刑務所帰りだったり。
        絲山さんは、そんなクズ男たちをありのまま描いて、作品を成立させています。
        それが心地よくて、好きな作家さんになりました。
        >> 続きを読む

        2015/07/10 by 課長代理

      • コメント 12件
    • 2人が本棚登録しています
      ラジ&ピース
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 容姿にコンプレクスを持つラジオパーソナルティー野枝は、キー局でなく地方エフエム局に自分の居場所を見つける。

        東京に憧れた地方出身者が大都会で葛藤しながら自分探しをしたり、成長していく物語はあふれているが、東京出身者があえて地方で自己を見つめるという設定が新鮮。

        首都東京がイケてた時代はいつごろまでだったか? イケていない地方があるからこそ東京は輝いて見えたのかも?

        経済力、政治力、文化力、情報力に満ち溢れた首都東京が昔のようにイケてない原因は分からないが、居心地の悪さを察知している人は意外とたくさんいるのかもしれないな。

        時代の最先端を発信、表現、消費しつづけなければならない東京スタンダードが平均か?東京を追い求めても全く近づけない残念な地方スタンダードが平均か?

        人と人が繋がる周波数が見つけにくい現代。地方局のスタジオに居場所をつくり、小さなPeace♪ を見つける主人公、野枝の境地に同調する何かを感じた。

        大衆よりも個人に寄り添えるメディアであるラジオに携わる方々の必読書かも♪と思った。
        >> 続きを読む

        2019/07/16 by まきたろう

    • 2人が本棚登録しています
      海の仙人
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。
        何もしないひっそりした生活。
        そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。
        孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。
        かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。
        芥川賞作家が絶妙な語り口で描く、哀しく美しい孤独の三重奏。

        2005年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作。

        文庫で160ページほどの中編です。
        短いながら奥行き深く、かといって難解でなく、とてもいい作品でした。

        河野勝男は、東京暮らしにウンザリしていました。
        デパートの店員という仕事にも飽きあきしていたところ、何という僥倖か、宝くじ3億円が当たります。
        突然の大金に右往左往する勝男を見かね、同期で親友の片桐妙子はひとこと助言します。
        「自分のためだけに使え、そして誰にも話しちゃいけない」
        歯に衣着せぬ彼女のアドバイスに従って、勝男は未練もないデパートを辞め、福井の敦賀で隠遁生活に入ります。
        海の傍の平屋建ての家を買うと、リビングには海浜の砂を敷き詰め、昼間はご近所さんと釣り、夜は少しだけお酒を呑んで静かに眠る…そんな生活を4年ほど続けます。
        何の不幸も、不便も感じない、素晴らしい毎日。
        勝男にとっては都会の喧騒や、人間関係から受ける刺激は何の魅力もないものでした。
        今日も、リビングの砂を入れ替えるため、ピックアップトラックに浜辺の砂を黙々と積んでいると、“ファンタジー”という神様のようなものが現われます。
        ファンタジーは中年男性の姿をしていました。
        勝男はなぜか以前からファンタジーのことを知っていたのでした。
        静謐な自分の生活への闖入者を躊躇いなく受け入れることができたのは、ファンタジーを知っていた、という理由があったから。
        妙な居候が現われて数日後、勝男はやってきた港にひとりの女性を見つけます。
        海が好き、というひとり旅の彼女は中村かりん。
        名古屋で大手住宅メーカーに勤める課長さんでした。
        ファンタジーが言うところの運命の人、かりんと交際を始める勝男。
        またひとつ心を満たしてくれる人に出会えた喜びに浸る勝男を、東京の恩人・片桐妙子が訪ねてきます。
        愛車の、赤いアルファロメオに乗って。
        妙子の、痛いほどの自分への想いや、甘えっぱなしで申しわけない気持ち、友情に変わりはないという葛藤に勝男は苦しみますが、ファンタジーがいるおかげで、雰囲気は悪くなく。
        彼女ができた、と告げる勝男に、妙子は寝しな呟きます。
        「運命なんて言ってっと結構痛い目に遭うんだからね。気をつけなね」
        かりんとセックスできずにいて、そのことをずっと悩んでいる勝男は、その夜、いつまでも眠れませんでした。

        絲山作品らしさも随所に見られます。
        まずは、クルマ。
        かりんがひとり旅で乗り回しているのはカーキ色の三菱ジープ、妙子が自慢気に見せびらかすのはアルファロメオGTV。
        「アルファったら、赤に決まってんだよっ」と、妙子に言わしめます。
        このあたりは完全に作者の好みですね。
        それから音楽。
        勝男のピックアップトラックのカーステレオから流れるのはシド・バレットの「ジゴロおばさん」。
        これを聞いたファンタジーは「なんというセンスだ」と呆れます。
        妙子のアルファのカーステレオからはカーティス・メイフィールド。
        これを聞いたファンタジーは「この人は俺様より偉い」と拝みます。
        僕は、全然、想像もつかないのですが、ファンタジーの反応で勝手に想像してみます。
        こんなラインナップを小説中に配置するのも、作者の好み。
        らしさですね。
        このほかにも、シェリル・クロウの「恋はあせらず」や、パット・メセニーの「レター・フロム・ホーム」など。
        知っていたら、もっと楽しめるのかもしれません。

        “ファンタジー”って、いったいなにもの?
        この小説をよみ解こうとするとき、避けて通れぬ問いです。
        タイトルにあるように「海の仙人」が彼なのかと思ったら、早い段階で勝男をさしている渾名だということがわかります。
        どちらにもかけているタイトルともとれますが、ファンタジーは仙人っていうのはまだしも、海って感じじゃあないです。
        そこにいるだけで、何かをしてくれるわけでもなく、決定的な何かを語ってくれるわけでもない。
        勝男と同じようにビールを呑んで酔い、お好み焼きを美味しく食べる。
        見える人には見えるし、見えない人には見えない。
        見える人には、初対面であったとしても、不思議と彼がファンタジーとわかる…何かの暗示を感じさせる登場人物なのですが、最終的には読者にお任せ。
        個人的には、必要だったかと考えたときに、別にいなくてもいいんじゃ…?と、感じてしまったのですが、そんな風に感じてしまうこと自体、きちんと本作を読みこめていないのかもしれません。

        世間には思ったよりも善良な人々がいて、弱い誰かを支えてくれています。
        理由は分からなくても、黙ったまま受け入れてくれる人がいます。
        大人になればなるほど、人を想う気持ちに臆病になって、幸せを遠ざけてしまうものです。
        幸せとは何か、とファンタジーが(!)問いかけます。

        「過去を共有することが幸せなのか?」
        「ありのまま、を満足すること」妙子は言い切ります。

        孤独も、悲しみもありのまま満足すれば、幸せに変わる。

        「孤独ってえのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか?外との関係じゃなくて自分のあり方だよ。背負っていかなきゃいけない最低限の荷物だよ。例えばあたしだ。あたしは一人だ、それに気付いているだけマシだ」
        「マシって、何よりマシなんだ?」

        勝男が雷に二度も打たれるエピソード、セックスができない理由、とつぜんのわかれと醜いひとたち、届かない方がいいと思い込んでいるそれぞれの想い。
        詰め込めるだけ詰め込んだ感はありますが、よしもとばななさんの「デッドエンドのおもいで」と同じような余韻を残す名作です。
        >> 続きを読む

        2015/08/10 by 課長代理

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      エスケイプ
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 闘争と潜伏に明け暮れ、気がついたら20年。
        活動家の俺も今や40歳。
        長い悪夢からようやく目覚めるが、まだ人生はたっぷり残っている。
        導かれるように向った京都で、俺は怪しげな神父・バンジャマンと出会い、長屋の教会に居候をはじめた。
        信じられるものは何もない。
        あるのは小さな自由だけ。
        あいつの不在を探しながら、おれは必死に生きてみる。
        共に響きあう2編を収めた一冊。

        文章が肌に合うというか、僕的にリズムも、テンポもよく、最近、数作読んでいる作家さんです。
        惜しむらくは、作中に頻出する洋楽(アメリカの60年代や70年代のロックやパンク)まったく僕が興味がないこと。
        その好みも作者と共有できていれば、もっと楽しい読書になるはずです。
        それ以外の価値観は一緒の部分が多いです。
        価値観や、世代観が共通の作家さんの小説って貴重だと思います。
        流し読みしていても、「わかるわ~」とかいう共感とか、くすっと笑わせてくれるシーンだとかがあると、ほんとうに楽しい。
        絲山さんが僕にとってそうだった作家さんだということです。
        今のところ、大きくハズレなしです。

        中編1本、短編1本。
        表題作『エスケイプ』は、主人公が探し続けているレコードのアルバムのタイトルから。
        また、訳して「バッくれ」という意味も掛けて。
        ジョディ・ハリスとロバート・クインというミュージシャンの作品。
        主人公が恋焦がれていたこのアルバムを聴くシーンは、あまりにひどい音楽に脱力するというもので、おかしかったです。
        主人公・江崎正臣は職業革命家、略して「職革」のゲイ、40歳。
        9・11に衝撃を受け過ぎて、自分の“闘争”の矮小さに気付き、成田空港から地上に這い出てきた時代遅れです。
        久々に浮世に戻ったものの、とりあえず無職、とりあえずヒマ。
        思い立ったように夜行列車に乗り込み、京都をめざし旅に出ます。
        ひたすら、その旅行中の正臣の内省を描く、起伏の少ない物語です。
        正臣の言葉遣いや、旅行中にいろいろ抱く感想の表現が面白い。
        また、物語を貫く時代と、登場人物たちの断ち切れない関係性。
        もうひとりの自分を無意識に探し、ともに自由を手に入れたくて無為な人生をいきてきた愚かさなんかを、散文的な調子で実に読ませてくれます。

        絲山さんの作品としては初期の部類。
        ここから、まだまだ文章は削ぎ取られ、どんどん絲山さんらしさを醸し出す小説を多作しているようですから、この先、どんどん読むつもりです。
        >> 続きを読む

        2015/08/29 by 課長代理

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      妻の超然
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • <超然>…世俗的な物事にこだわらないさま。(大辞林)

        絲山秋子さんが2009年から2010年にかけて、『新潮』誌に掲載した中編3本が纏められたものです。
        表題作「妻の超然」、「下戸の超然」、「作家の超然」と、すべて<超然>という言葉を使われて書かれた小説です。

        表題作「妻の超然」は、小田原に住む主婦が主人公。
        40代後半の彼女と年下の夫との間は随分前から冷え切った状態で、寝室も別々、どうやら夫には若い愛人もいるようです。
        自分の年齢や、家族のこと、現実をとりまくあれやこれやで離婚せずにおりますが、半ば婚姻関係に投げやりな彼女の心情が淡々と語られます。
        夫のどういう裏切りに対しても、幻滅する様な素振りに対しても、決して心を動かさず、超然とした態度を貫く彼女の心の動きと、行動、友人や両親との交情などが、絲山さんらしい、ドライで切れ味の良い文章で綴られます。

        「下戸の超然」は打って変わって若い男性が主人公。
        郷里の福岡を出て、茨城県のつくばに就職の為に居を移した彼は、まったくの下戸です。
        そんな彼が下戸が故に不条理なこと、下戸が故に差別的な扱いを受けることに傷つき、いつしか慣れてしまった日常が描かれます。
        会社に入ると、学生時代とは違い、そこはやはり大人の集団。
        下戸だからといって不利益を被るようなことは少なくなります。
        今どきの若者らしく緩く繋がる職場の仲間たちとのなかから、彼はひとりの女性をみつけだします。
        彼女は下戸ではありませんでしたが、ふたりは惹かれあい、宝石のような一時期を送ります。
        ですが次第に彼女は、彼に、将来についての答えを求めてくるのでした。
        それも酒の力を利用して。
        そして、彼と彼女の将来を示す線は何となく離れてゆくのでした。

        極め付け「作家の超然」。
        これは絲山さん自身を「おまえ」という二人称で描く淡々とした、散文調の物語。
        作中で絲山さんは、「父性」であったり、「文学」であったり、「作家の実情」であったりに鋭く自説を展開します。
        この作品に関してはレビューでご紹介するのではなく、ぜひご一読していただきたいと思います。
        というか、僕の能力では、この作品は凄いな、と思えても、咀嚼してご紹介することができません。

        本作を読み終えたあと、絲山さんのインタビュー記事に、“100枚”というのがいちばん自分が出る枚数である、と仰られる記事があり、凄く興味深いな、と思いました。
        もっと長ければ自分を隠すこともできる、もっと短ければ自分のいいところだけを出すということもできる。
        100枚という原稿用紙の枚数は、絲山さんの小説のスタイルとしては絶妙の数と言い切っておられます。
        これからも絲山さんの100枚前後の中編には気をつけてチェックしてゆきたいと思いました。

        「作家の超然」で示されたように絲山さんの作品や文学全般へ傾けられる思いや考え方というのは、ひとつ頭が抜けた感があります。
        他の作家さんで、ここまで自分の作家という地位を危うげにされてまで、自説や心中を吐露されていらっしゃる方を、僕は知りません。

        ご自身で「この作品は苦しんだ」と述懐されているのは、ほぼ巻末作「作家の超然」のことでしょう。
        この作品は二度三度と読み返してみたくなる、絲山さんの私小説です。
        >> 続きを読む

        2016/01/11 by 課長代理

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      忘れられたワルツ = Valses oubliées
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 戻れない場所までは、ほんの一歩にすぎない。
        あの日から
        変わってしまった世界が、つねにすでにここにあるのだから。
        私たちが生きる「今」を、研ぎ澄まされた言葉で描出する七つの結晶。

        短編七本。
        いずれも「新潮」誌掲載のもので、2012年3月から2013年3月にかけての作品集です。
        深刻さのなかにも、思わず吹き出してしまうような描写もあり、それでいて壮大なテーマが隠れていそうな、いかにも絲山さんらしい作品集です。
        これは、よかったです。

        個人的に好みだな、と思ったのは、冒頭から3つの作品。

        …恋愛とはすなわち雑用である。不要ではなく雑用である。
        といった、妙な信念を持って生きている四十歳を目前にした工務店事務員の女性の話『恋愛雑用論』。

        小学生の頃からの女友達から「離婚したから遊びにきませんか」という誘いをうけ、のこのこ出かけ、ひたすら地震モニタをネットでチェックする女友達との一日を描く『強震モニタ走馬燈』。

        人付き合いがほんとうに苦手な会社員が、恩師の葬儀に出席するために片道三時間以上もかかる街へ車を走らせる道中で出会う女性、思い返す昔について書かれた『葬式とオーロラ』。

        どの作品にもちらっちらっと震災の影がちらつきます。
        これは作者の意図的なものであったか、版元からの要請によるものであったか。
        いずれにしても、短編そのものを邪魔するほどではないので、気にせずに読み進められます。

        文章が上手ですので、物語が文章に引き摺られている感じがあって、そこのところが鼻につく、という人はいらっしゃるかもしれません。
        突拍子もない設定は無いのですが、他の作家さんにはない感性をもっている著者のこと、われわれ凡人の想像を遥かにこえる物語を書き連ねています。

        「美人」について、書いているところにおもしろいところがあったので、写しておきます。
        『強震モニタ走馬燈』より。

        …寝返りを打って井手はさっき魚住と話したことを思い出す。自分には何もない。三十代までは楽しかったけど、今となってはそれが本当だったのか楽しいふりをしていたのかわからなかった、と井手は魚住に言った。
        「いっちゃんは素朴だからいいんです」
        井手はこれまで、ひとから素朴などと言われたことがなかった。
        「それに美人って本当にいいことなんですよ。今だってミスコンたくさん取ったのわかります。美人はみんなに好かれます」
        私なんてもう腐れミスだ、と井手は思っている。
        若いころ、美しいことは才能だと思っていた。だが、一度も美しくなかった魚住のあまりにも変わらぬ姿を見て、そのツケを払わないで済むことがうらやましいと井手は思う。
        美しいということは、とても面倒なことでもあった。
        「ちょっと美人だからってうぬぼれて」
        と、悪口を言われないように、早くから井手は気をつけていた。自己主張をせず、目立たないように静かに笑うようにしていた。
        人は僻む。見えないところで、レーダーに映らないステルス戦闘機のように僻む。だから、僻みというものをまったく知らないような顔をして躱さなければならない。
        見てくれだけで寄ってくる男性はたくさんいた。そうではない、ほんとうにくつろげそうな相手から「自分とは釣り合わない」と遠ざけられることもあった。
        やがて井手が必死で維持している美しさよりも、若い女性の魅力が勝る年頃になり、井手は楽になるはずだった。
        だが、楽にはならなかった。残ったのは自己嫌悪だけだった。
        私なんかほんとに面の皮一枚だ、と井手は思う。アンチエイジングという利子だけ払っていれば美しさの元本が保証される、そんなことを平気で考えていた。身体にいい食べ物とか適度な運動とか美白とか、或いは大人のふるまいとか気遣いとか品のいいしゃべり方とか、なにもかもうすっぺらだ。中身がない。あさましい。

        「努力」についても。
        『葬式とオーロラ』より。

        …巽がくさらずに小学校に通えたのは安西先生のおかげだと思う。面白い本を貸してくれたり、金魚の飼い方の相談にのってくれたり、歴史はさかさまに勉強するものだと教えてくれたりした。
        印象に強く残る言葉があった。どういうわけかそのときは、面談のように向かい合って座っていた。先生は巽に、
        「人間の努力は必ず報われる」
        と言った。
        多分それが、生まれて初めて覚えた反発だった。
        そんなわけあるかと思った。努力が報われないのが世の中であって、だからみんな苦労するのだ。努力しなくても報われる奴はいっぱいいて、だから嫌な気分になるのだ。巽は強い気持ちを感じたが、それを言葉であらわすことができなかった。
        ほかのことを忘れても、努力の件だけはいつまでたっても覚えていた。巽は大人になっても「努力」という言葉が嫌いだった。努力が報われるのだったら、ストーカーなんてものすごい努力してるぞ。そうじゃないだろう。それに報われるとか報われないとか、そういう勝ち負けみたいなもんじゃないだろう。
        だが、最近になって先生の言うことにも一理あるような気がしてきたのだ。
        外に向っての努力や、外からの決定や評価を求める努力は得てして報われない。しかし勝ち負けを放棄して内向きになったとき、自分のための努力は実るんじゃないか。自分自身を認められるんじゃないか。経験値になるんじゃないか。意外なところで生きてくる、それが報われるという言葉の意味なんじゃないか。
        >> 続きを読む

        2016/03/13 by 課長代理

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