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KurkovAndrei

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著者名:KurkovAndrei
KurkovAndrei
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生年~没年:1961~

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      ペンギンの憂鬱
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! Tsukiusagi asa_chann
      • (・θ・)ペンギン本をチェックしていた時に読書ログで出会いました。
        ウクライナの小説家によるちょっと不思議な物語。
        ウクライナ民話の「てぶくろ」をレビューしたノリでこの本にトライしてみました。

        ペンギンが出てくる話でつまらないものはない!という思い込みに違わぬ面白さ。

        本作に登場するのは、皇帝ペンギンのミーシャ。

        物書きのヴィクトルは、1年前の秋に動物園からペンギンをもらい受け、互いの孤独を分け合うように暮らしています。
        家の中を放し飼いです。
        ミーシャは気が向けばどの部屋にも入っていけるように配慮されています。
        じっと佇んでいたり、そこらをペタペタ歩いていたり、鏡やテレビをじっと見ていたり、時々寄り添ってきたり
        お世話といえば冷凍の魚やエビなどを鉢に入れてやるだけ、冷たい水をバスタブに張って水遊びさせるくらい。
        でも互いがそこにいるだけで心が寄りかかって安心感が生まれてくる。
        そんな関係。

        ペンギン学者のピドパールィによると、ミーシャは憂鬱症で、生まれながらの障害で心臓が弱いのだということです。
        やがて、ミーシャはインフルエンザが元で重体になってしまいますが、獣医の見立ては深刻でした。
        方法は心臓移植しかない。しかも人間の幼児の心臓が必要だというのです!

        日常を描きつつ、そこに滑り込んでくる非日常を
        憂鬱症にかかっているペンギンと作家志望のライターの孤独なコンビという取り合わせによってうまく紡いでいます。

        ヴィクトルは新聞社の依頼で〈十字架〉と呼ぶ死亡した要人の追悼記事を書く仕事をしていました。ただし、死後ではなく生前に準備するという点が通常と異なる奇妙な点でした。
        やがて、彼の追悼記事が新聞に掲載される日がやって来ました。
        デビューおめでとう!
        作家で議員のヤコルニツキーが、つまり〈十字架〉を捧げられた要人がようやく一人死んだ訳です。
        やがて〈ペンギンじゃないミーシャ〉が残していった4歳の無邪気な少女ソーニャと、ミーシャを介して友人になった警官のセルゲイの姪でシッターとして雇ったニーナとの、疑似家族のような生活が始まるのでした。

        ソーニャとミーシャのやりとりはほほえましく目に浮かぶようですし、セリフもかわいい。
        「ねえ、何が見える?」「ふゆ!」

        しかしこのまま平和な生活が続くとは思えません。
        この小説には死が随所に顔を出します。
        バイオレンスではなく、あくまでも日常の一コマである分、一層不穏な気がします。
        エンディングを迎えると、彼の仕事が何を意味するのかという謎が、氷が溶けるように明らかになります。

        おおかた予想がついていた謎ではありますが、ヴィクトル本人が知らない別人格のヴィクトルが世間ではより知られ、自分の人生の運命を決定づけてしまう。
        そんなミステリーは現実ならご勘弁です。

        しかし、ウクライナという政治情勢を背負うと、個人の力の微力さを、笑ってすます気になれなくなります。

        『以前は恐ろしいと思われていたことが、今では普通になっている。つまり、人は余計な心配をしなくていいよう、以前恐ろしいと思ったことも「正常」だと考えて生活するようになるのだ。だれにとっても、そう、自分にとっても、大事なのは生き残るということ。どんなことがあっても生きていくということだ。』

        国土は大きく肥沃で資源もある国なのに、ロシアに隣接という政治的に不安定な位置にあるため、他国の干渉を受け続けています。

        町中で銃声が鳴り響き、殺人がすぐ隣で起こりうる日常。
        生きのびるという言葉が、絵空事ではなく、文字通りの意味を持つ生活。

        私達日本人は災害などで突然人生を奪われたり変えられたりすることは、多々経験したり見聞していますが、
        政治的立場が人を死に追いやる社会の中で生きているという感覚はもっていません。

        ロシア語で書かれていますが、ロシア文学ではありません。
        ウクライナ人の立場でウクライナを眺め、語っているものを読むのは初めてでした。

        キエフの秋から春にかけての季節感が印象的です。
        特に真冬の光景が。
        なるほど、酷寒地ではお酒を飲むのは寒さ対策として当たり前、昼間でも街中のカフェでもコーヒー&コニャック
        キエフでは自宅では靴を脱ぐのが普通らしい事も意外でした。
        家に入ってくる人が靴を脱ぐ描写が度々出てきます。
        靴のままで入り込む事(人)もあるようですが。
        日本では家に上がる時わざわざ靴を脱ぐと断り書きしませんよね。当たり前すぎるからです。
        これはちょっと面白いと思った点でした。

        ストーリー、テーマ、主人公の人間性、一様に暗い話素材なのですが、ペンギンの存在が絶大な効果を生んでいます。

        「夜中、不眠に悩むペンギンのぺたぺた歩く足音が、浅い眠りを通して聞こえてくる。ドアはどれも開けっ放しにしてあり、ペンギンは部屋中歩きまわっては、ときどき立ち止まる。人生にも自分自身にも疲れた老人のように深い溜め息をついているんじゃないか、と思うことがあった」

        擬人化は特になく、こんな程度の事しかしていないのに、ヴィクトルの愛着が伝染してくるみたいに、ミーシャがかわいくなってきます。
        この孤独なもの同士の静かな関係が好ましく感じられ、
        ヴィクトルがペンギンを愛しているというその一点が、まさにこの小説の魅力なのでした。

        なのにミーシャはこの後どうなるのか?


        読後みんながそう案じているようです。
        読者からの熱い要望で「カタツムリの法則」という続編が書かれたとあります。
        邦訳はまだされていないようです。
        ヴィクトルは生きのびるみたい。
        英語では翻訳されていますが、タイトルが「Penguin lost」なんていう味気ない…。

        「ペンギンの憂鬱」も英語だと「Death and the Penguin」だそうで、内容そのまんまです(*´Д`*)

        本書の原題は現在は「氷上のピクニック」となっているそうです。
        セルゲイとミーシャを連れて出かけた、凍りついたドニエプル川の休日の楽しい光景。
        思えばあれが最後の平和でした。
        >> 続きを読む

        2018/12/11 by 月うさぎ

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