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感情や感覚を言葉に置き換える文筆センスが好きで読んできた作家さんだが、この作品は未読だった。男は論理的で女は感情的という一般論を超えた不思議な世界へ誘う作品。最近、テレビ、新聞を賑わす謝罪会見を見るたび、社会は感じ方や考え方の相違で成り立つているんだなぁと実感。合理的な論理を大事にする人種と、感覚的なものを尊重する人種の摩擦が織り成す人生をどう受け止めるて歩むか?伝わっていそうで、伝わらない心の隔たりを形成する論理と感性は相反しないから、人は寄り添い、繋がり、離れ、弾き合いを繰り返すのかな? と思い巡らす読後感。 >> 続きを読む
2018/06/14 by まきたろう
恋の最中は、太さの違う剛毛や目尻のシワやぽっこりした下腹部までも、普通は幻滅するような部分も宝物のパーツになる。この時期が過ぎて、空気になって、空気が当たり前であったり、重苦しくなって辛くなったり、場合によっては毒が混じったり。途中で終わると切ないけれど綺麗なまま。磯貝くんは途中で一方的に断ち切られこの状態。ユリは空気を既に持っていて、少しその綺麗なモノが欲しくなったんだろう。ズルい。でも羨ましい。恋の終わりはなかなか癒えない傷。そうだね。「会えなければ終わる、そんなものじゃない」 >> 続きを読む
2017/11/12 by ももっち
大学4年生の小笠原は、マンドリンサークルに入っている。未来になんて興味がなく、就職活動よりも、人間関係よりも、趣味のマンドリンに命をかけている。そして、とても好きな人がいる。あいたたた・・・。何かこう、心の色んなところがほんの少し、痛いというかむずがゆいというのか。単なる、“モラトリアム大学生の現実を直視しようとしない弱さの物語”と単純に、まとめてしまえそうな話なんですがそれでは、まとまらない。そこからはみ出る様な何かこぼれ落ちるような何かがあります。正直、オッサンになってしまった今の自分からすると「甘えたこと、言ってんじゃねーよ」とか「そんなこと大して重要なことじゃねーよ」とかも思うのですが・・・。著者の書く、すごく個人的な感覚が無視できないというのか。まぁ、本当にヒロインの小笠原の不器用さというのか、気負いというのか気丈なようで弱かったり全体的に無様な感じがたまりません。(注 ほとんど話の核心に触れます)“ときどきスーツを着ては地下鉄に乗り、セミナーだの面接だのに出かけていたが、自分が社会人になるイメージがまったく湧かない。小笠原の頭の中にはマンドリンの音しかない。「私以外はみんな、演奏にやる気がないんだよ」「本当にそう思っているの?」「ああ、高潔な音を出したいな」「ふうん」「ひとつひとつの音符を、気高い音で弾きたいな」みんなはそれを望んでおらず、音楽を極めることよりも、仲良く「友だち作り」をしたあと「思い出作り」をするのが目標なのだ。みんなという言葉は、小笠原にとってはいつも、自分を取り囲む厚い壁のように感じられた。みんなが「他人のいいところを見つけないと」「自分に自信があるだけじゃ、社会じゃやっていけないんだよ」「そんなんじゃ会社に入ったら、みんなと上手くやれないよ」等々と、まるで大学時代が社会に出るための訓練期間であるかのように注意してくるので、小笠原はだんだんと、田中以外の人には、マンドリンについての自分の考えをあまり話さないようになっていた。小笠原は将来のために音楽をやっているのではないのだ。たとえ趣味でも、芸術の問題なんだから、真剣にやろうよ、そう言いたい。でも田中以外には、上手く伝えられない。”そんな中で唯一と言ってもいいくらい特別な人間である田中に“「みんなと上手くつき合えたり、人に対する優しさを知っていたり、それぞれに気を配ることができたり、場を盛り上げたりすることができる人よりも・・・・・・田中が好きなんだ」”と告白をした田中との恋愛も(この告白の文章も結構、好きですね。リアルというか等身大というか、上手く言えませんがセリフに血が通っている気がします)“「私に対しては、初めから全部勘違いしてたの?」「そう」「恋愛感情は全然なかったの?」「うん」”というあんまりな結末を迎えます。その後で田中から(心ない)メールをもらった時の小笠原の反応もリアルというか。変なところが大人だったり、妙に印象的です。“(略)ぐしゃりと音がして体が潰れ、目から体液がほとばしり出たような気がした。だが電車内だったので、実際はクールな顔を保っていた。人前で泣けるほどの年ではなく、小笠原はもう二十三なのだ。それにしても、終わりを認識する感度を、人間はどのように身につけてきたのか。日本文学の授業で「小説や音楽のような、時間性のある芸術は、必ず終わりの予感があるのもである」と習ったが、小笠原には終わりの感覚が分からない。終わってない、全然終わってない。将来に繋がる就職活動よりも、先のないサークル活動に力を注ぐことがばからしいこととは小笠原には決して思えない。恋人ではない男の子と音楽を作ることが、ストイックで、刹那的で、高潔な活動で、今しかできない大事な事なのだと、と思う。小笠原は、週二回の練習で指揮者と意識を交し合うのが楽しくて生きているだけだった。残りの単位の取得や、卒論の準備や、将来の夢想は、マンドリン演奏に比べれば、余技でしかなかった。”その辺の本当にジタバタしている感じが何とも痛々しいというのかここまでなくても、サークル等、集団の中での熱意の濃淡というのかわかったような顔で諌められたり諌めたりしたことを思い出します。そんな中で、鮮やかなのはもはや、友達ですらない田中との別れのシーンや“足音というものは、いつまでも聞こえるものではない。去っていく足音は、最初の方しか、自分にはしない。いつしか聞こえなくなり、去った人の面影は失せる。”ラストでラーメン屋に入るシーン。“小笠原は人生で初めて、ひとりでラーメン屋に入ってみた。コートを脱ぐと、雪はたちまち水に変わり、布に吸い込まれた。好きな人とラーメンを食べたら、おいしいんだろうな。小笠原は好きな人とラーメンを食べたことがない、小笠原を好きな人がいない。小笠原を雇いたいと思っている人もいない。社会から必要とされていないのだ。小笠原は真剣にひとりっきり。今まで生きてきて、誰からも好かれたことがない。”この文章はスゴいと思います。自己憐憫もなく、乾いた筆致で書かれる“孤独”の姿。ある種のデッドエンドともいえるかもしれません。 >> 続きを読む
2014/02/20 by きみやす
この作品は、主人公が女性作家。山崎ナオコーラ自身のことじゃないかと匂わせる箇所が散見され、これ、実話か…?いやいや、小説だろ…?と、悶々と考えを巡らせながら読んだ。主人公は、自分を、脳だけの存在であって、肉体がない。肉体(手や足やおっぱい)は、脳の側にあるものとしか思ってなくて、自分が女だという意識が持てない。女ではなく、作家だ。と繰り返す。常々作家というものは、凡人が見えない風景を見、凡人が考えないことを突き詰めて考えに考え、実に生きにくいものだなあ。と思っていたが、彼女もまさに、その「作家」だった。この作品で、山崎ナオコーラに圧倒された。他の作品も、片っ端から読みたいと思った。 >> 続きを読む
2015/11/23 by shizuka8
著者の本を読んでみたいと思い、近くの図書館で。休日となると結構利用者も多いようで、著者の本は2、3冊のみで、入門的には薄い方かな、とこちらの本を読みました。大学生のとき、サークルでこんなことあったなぁ…と懐かしくも、切ない気持ちが思い出されました。嫌な感じは残らなかったです。さらっと読みやすかったので、他の本も読んでみたいです。 >> 続きを読む
2015/02/06 by coji
世界地図を最初に載せて、様々な国での、どこにでもあるような人間関係をつづった短編集。表題作、秀逸。著者、果敢に男性視点にこだわる。その文体にも好感。サラッと安心して読める一冊。別に世界を股にかけなくてもいいな、と思ったので、構成は平凡。ただ、随所に著者の非凡ぷりがみられる。難解な言葉を紡いでそれらしい小説を書こうとせず、平易な言葉で誰にでも理解できるような小説を書こうと試みているということが、ビシビシ伝わってくる(物語の内容はソフトだけれど)。読みかえすたびに、違う感情を抱く、そんな類の本です。 >> 続きを読む
2014/07/28 by 課長代理
ランチタイムの飲食店は、主婦、OLなど女性客が多い。一方、公園やコンビニ駐車場の車内で昼食をとっているお父さんたちの姿もよく見かける。食に関する好奇心と行動力はやはり女性の方がたけているし、おいしい料理を囲んでのお喋りや情報交換もデザートとおなじくらい大切なセットメニューに見える。その点、男性は無頓着で、特に中高年になると、勝手がわからないおしゃれな店より、ひとりでののれんをくぐれる食堂の方がラクで居心地もよくなっていく。そんなオヤジたちの領域に若い女の子が飛び込んできたような作品。女子同士の連帯より、ひとりの時間を大切にするOL主人公を描いた『手』。彼女の趣味はなんとおじさんたち顔や指、腕、はげ頭などの盗撮画像を『ハッピーおじさんコレクション』というブログに収集すること。「皆が女の子にやっていることを、私はおじさんに対してやっている、ただそれだけのことだ」と罪悪感はまったくなし。彼女は、ずっと年上男性にばかり興味を持ち、今も職場の先輩や上司とたびたびデートを繰りかえしている。一風変わった異性関係には、セックス許容とセックス未満の微妙な線引きがあり、ときどき父親像もちらついたりする。そんな彼女の目を通して見えてくる男性たちの心理がとてもおもしろかった。一般的な父親像と社会的立場、世間体を背負うオヤジがひとたび若い女の子と心を通わすと、こうなるんだろうな。どんどん頭が固くなっていくおじさんにとって、直感的に大量の情報を操り、社会を明るく照らす女の子は遠い存在でありながら、ときどき恋愛や性の対象として近くに見えてしまう。そんな空振り感ただよう男心の滑稽さと哀愁、痛い現実…。寓話的二編のショートストーリー『笑うお姫さま』『わけもなく走りたくなる』も男心と女心が交錯した快作!そして表題作『お父さん大好き』へと続く。それぞれ異なる四つの短編ながら、男女の習性と社会性の違いを感じた。特におじさんと女の子は、なんの接点もないまま同じ組織や家庭に共存しているのかもしれない。恋愛感情に発展しなくても、「お昼食べにいこうか!」と軽く誘える女友達との関係性も、男社会一色に染まらないための現代オヤジの伸びしろかも? そんなおじさんたちの胸の中を、内視鏡で映しながら、「ちょっと弱っていますが、特に異常はないですよ」と微笑んでくれているような、ナオコーラワールドに拍手!切ないながらも、元気をくれる女の子たちの存在感が頼もしく、すがすがしい読後感。 >> 続きを読む
2015/04/30 by まきたろう
この作品でもグッときた。主人公(25歳独身女性)の現在と、中学時代が交差して書かれているのだが、だいたい、中学時代の話なんて、読んでいてしれっとすることが経験上多いが、この作品は読まてくれる。会話や考え方が大人びているが、いやいや私もこの時代、子供なんだけどいろいろ考えてたっけなあ。なんて思いだしたり。普通に物語が流れているようでいて、心を鷲掴みにされるセンテンスが含まれている。読んだ作品は少ないけれど、山崎ナオコーラ、好きです。 >> 続きを読む
2016/05/17 by shizuka8
カツラをかぶった桂さんがオーナーの美容室「カツラ美容室別室」。これだけでグッと来てしまったのだが、本当にグッとくるのは、登場人物の気持ちよさだ。凛とした佇まいの桂さん。ふたりの従業員の女の子。そして、自由人な友人に導かれてこの店の常連となる主人公。魅力的なキャラで、普通なようで普通でなくて、読んでいて飽きさせない。山崎ナオコーラを知って日は浅いけど、次から次に作品を読みたくなる。好きな作家です。 >> 続きを読む
2016/06/06 by shizuka8
こんなに都合よく専門学校の講師が生徒を誘うかよ、とか思いつつ読んでしまったけどこの手の小説にリアルを追求しちゃダメだよね。もう少し性模写リアルな方がいい作品に仕上がったのでは。 >> 続きを読む
2020/05/04 by キトー戦士
思い込みって、恐いですね。山崎ナオコーラさんって、ずっと男の方と思っていました。一冊も本を読んだことが無いのに、なぜ・・・・。たぶん、買おうかどうか迷いながら本屋でパラパラめくった本、「人のセックスを笑うな」の題の所為か。なかなか芯ある方です。言葉に敏感、うわべだけの言葉を嫌い、それでいて言葉の力を信じる。言語芸術として、小説を書く。周りの人(読者)に媚びる必要な何一つ無い、「『完全に世界と繋がった』という感覚を、持ってもらわなくてもいい。各々が何かしらを感じてくれればいいのだ」と・・。書き手と読み手、短歌の31文字にもつながる言葉ですな。山崎ナオコーラさんの小説、まずは一冊読んでみたくなりましたな。 >> 続きを読む
2020/02/03 by ごまめ
あとがきが3度もつづく(それだけ思い入れが強かったんだろうと察する。異色を狙った技巧ではなかったと思う)めずらしい作品集。僕が読了した頃のメモを見ると、「なんだかんだ言って、最近ハマってるな、山崎ナオコーラ。」。たてつづけに読んでも食傷しない、さっぱりとした作家さんで、皆さんにもおすすめです。(本作のレビューになっておらず、申し訳ありません。。。) >> 続きを読む
2014/07/24 by 課長代理
二人で黙るのは楽しい。喋ると『伝え合う』ような気分になってしまうけれど、黙ると『共有』のような気持ちになる。沈黙を耐えられない方が多い中、こうゆう考え方もあるのだなと思いました。黙って相手の温かさを感じているのは、それは素敵ですね。 >> 続きを読む
2015/05/04 by leaf
1978年生まれの私は大学をでて働きながら、小説を書いている。お金を稼ぐこと。国のこと。二人暮らしのこと。戸籍のこと。幾度も川を越えながら流れる私の日常のなかで生まれた、数々の疑問と思索。そこから私は、何を見つけ、何を選んでいくのだろうか。読了した頃の、僕のメモには、「私小説?メッセージ性には溢れてる」。多分、読んで、すぐレビューが書ければ、伝えられることは多かった作品だったと思う。間違いなく言えるのは、僕は、このあと山崎ナオコーラを全部読もうと決めており、未だにそれは続いているということ。あと、中村文則や山崎ナオコーラや、ついに年下の作家の方々に癒されたり、救われたり、心を自由にされることになったなぁ、と、少し悔しがったことは覚えている。 >> 続きを読む
6つの都市で紡がれる物語。マレーシアのクアラルンプールで家を借り、ふたりきりで老後の生活を始めた夫婦。42年間思いを寄せている幼馴染と、その子供と三人で旅立ったニューヨーク。等々。舞台は海外で仰々しいのだが、静かに、ときに心波立つように過ぎていく日々を、繊細に書いている。「山崎ナオコーラ」というペンネンームと、デビュー作「人のセックスを笑うな」のタイトルに敬遠して、今まで作者の本を手に取らなかったのが、悔やまれる。。 >> 続きを読む
2015/09/15 by shizuka8
著者の設定らしくない主人公、年収2,000万、都内マンション2LDKにひとり住むプロカメラマン、村岡ニキ。彼女は極端に女性として、特に女の子として扱われることを嫌う。「どうも、写真の村岡です」撮影現場でのあいさつはいつもこんな感じ。写真でなく、カメラマン村岡ニキの雑誌記事では、自分のことを美人カメラマンとかいう表現の記事に出くわすと吐き気をもようすほど。そんな彼女のところへアンシスタントとして採用された加賀美和臣。同世代で異性のニキへの羨望、憧憬から彼女の懐へ飛び込む。そんな設定で物語は始まるが、徐々にニキのほんとうの姿が見え隠れし始める。それは加賀美というアシスタントが身近にできたということにも起因するところが大きかったのだが。かわいらしい女性らしさ、凛とした職場でのプロ意識。結局、特殊な設定の始まりを著者はだれにでもあるような、場所場所による人格の変化、コミュニケーション能力の欠如を抱えた女性の姿をせつなく、美しく表現しだす。ほぼ登場人物が二人だけなので加賀美の存在は、ニキの変化に必要不可欠なスパイスだが、そうでなくともニキの悩みや、ちょっとした女の子らしい願望など、ほほえましく読んだ。「屈辱」という題に否はないが、加賀美がニキの許を去り、独り立ちしてゆく過程がそれだとしたら、少し違うような気がした。しかし、相変わらず、人物造形の妙は冴えわたる著者。「アルゼンチン」という単語が作中でてきたが、そういえばよしもとばななの「アルゼンチンばばあ」を思い出した。「デッドエンドの思いで」などのばなな作中の男女間の表現と、当然、作者が違うのだから違うのだけれど、少し似ていて、ナオコーラのほうが肉肉しい。少なくとも本著では性を少しだけ強く意識した。終盤、加賀美はニキを「ニキ」と呼び捨てる。ニキはきっと、かなり喜んだと思う。どうしてか?読んでみてください。嫌な気分になる作品ではありませんから。 >> 続きを読む
こんな感じは、恋の始まりに似ている。しかし、きっと、実際は違う…カツラをかぶった店長・桂孝蔵の美容院で出会った、淳之介とエリの恋と友情、そして様々な人々の交流を描く。先週は、自分で、今まで読んだことがない女性作家さんの作品だけを読む、と決めて結構手こずりました。得たものも多かったんですが、好みの作家さんを選べないストレスっていうものを味わいました。その初めて週間が終わったので(終わらせた)、早速、大好きなナオコーラ作品を手に取りました。不思議なもので「僕はこういうのが好きなんだ…」と、自分の好みを再発見する読書になりました。これも“初めて週間”の効能か、と思いました。3月30日、高円寺に引っ越してきた佐藤淳之介は、、早速、友人の梅田さんに連絡をとります。近くの商店街にある美容室に髪を切りに来ているから、とにかくおいでよとのお誘い。淳之介が向かった先には、誰がどうみてもカツラとわかるカツラをつけている店主・桂孝蔵が店主を営む『カツラ美容室別室』が。その美容室は店主の桂と、27歳の樺山エリコ、24歳の桃井ゆかりの3人で切盛りしている小さな美容室。緩い人間関係を築きつつ、美容室のお花見会に参加することになった淳之介は、エリコにほのかな想いを抱きます。これは恋なのか、「つきあおうよ」って言ってみようか。判然としないまま、人間関係同様に緩やかに過ぎ去っていく日々。何気ない一言に傷ついたり、邪推してケンカしてみたり、労りあいのなかにも大人のベタベタしない関係があったり。男性と女性の友情がテーマの、ナオコーラらしい繊細な物語。ナオコーラ初期の中編ということで、未だ定まらぬ作風の中を、暗中模索しながら書いている風が読んでいて伝わってきます。このあと、『ニキの屈辱』あたりをひとつのピークとして右肩上がりに、作品としての形態や、スッキリ感ができあがっていき、作品の完成度が高くなってゆくのですが、本作ではまだまだ寄り道が多く、省くことのできる描写、文章も多く見られたように思いました。異性の友情、をかならずテーマのどこかには置いて、ずっと小説を書いているナオコーラさん。初期の本作でもそのことがいちばん書きたかったこと。突拍子もない女性の登場人物は自身を投影したものでしょうか。著者本人の人間関係に対する強い思いと、裏腹に臆病な実際がデリケートなタッチで描かれています。ナオコーラさんの内部にある男性はすでに芽を出しつつあり、それは近著ではもう拭ったり否定したりすることもしないほど明らかなのですが、本作ではまだそこまでは到達していない感です。かくあるべしという定型的な人間関係作りにこだわってしまっているところが強く、伸び伸びして一見すると野放図とも捉えられがちな、独特の緩い人間関係を描ききるのを邪魔してしまっている段階ともとれました。引くとすれば、十中八九、以下を引くと思うのですが、…男女の間にも友情は湧く。湧かないと思っている人は友情をきれいなものだと思い過ぎている。友情というのは、親密感とやきもちとエロと依存心をミキサーにかけて作るものだ。ドロリとしていて当然だ。恋愛っぽさや、面倒さを乗り越えて、友情は続く。走り出した友情は止まらない。読んでいるこちらが、恥ずかしくなるほど、若々しい表現で友情を綴ります。こういう矛盾に満ち溢れている感情や、その中身を、上手に、綺麗に表現してくれるので、ナオコーラは好きです。毒々しく生々しいだけが人間じゃないし、真実じゃない。だから、小説も、そうでなくてもいいのだと思います。 >> 続きを読む
2015/03/29 by 課長代理
女流作家による切なく美しい恋愛アンソロジーです。名前は聞いたことのある方はチラホラいるものの、どの作家も未読の方ばかり。お試し気分で読みました。ちょっとした隙間時間とかにチョボチョボ読んでいたんですが、それぞれの著者に特徴があり、色々なパターン・タッチのお話を楽しめました。そのなかで、個人的に特に気に入ったのが『銀縁眼鏡の鳥の涙』。写真部に入った高校生の男の子のお話なんだけど、甘酸っぱくてキュンキュンしました。あと、意外と楽しめたのが『アンセクシー』。昔だったら嫌悪感しか感じなかった内容なんだけど、自分が年取ったせいかなんだか気に入っちゃいました。逆になんかイラっときたのが『無人島』。娘を持つ親として、主人公の女って結局ベンリに騙されただけじゃないの? って気がしました。大人な自分の視点から、オトコの自分の視点から、いろんな角度で読めて楽しめました。 >> 続きを読む
2013/10/28 by 緒浅丸
恋とは別の可能性。男の人と友情を築きたいというのは、決して恋愛からの逃避ではないと思う。お笑い芸人、大学生、ミュージシャン、写真家。山崎ナオコーラが、様々な職種、年代の男性たちと言葉をかわしてゆく。短篇小説のような味わいに満ちたエッセイ集。エッセイ集とあるが、正確には対談集プラスナオコーラの考え方集。基本的にインタヴュー形式で会話が進み、メモを取りながら、ナオコーラが後に、その時感じたもろもろを書き加えながら文章化したもの。対談相手はお笑いのジャルジャル、一般大学生、劇団主催者、編集員、芸術家と多岐にわたるが、みなそれぞれフレンドリーな雰囲気の中での会話。和む。ナオコーラは小説でもそうだが、会話はフラット。小説世界と現実世界にそれほど差異はない。レビューの『短編小説のような味わい』というのは、そこらへんに由来するものと思う。ナオコーラ自身は男性と友情を育みたいと本気で思っているようだが、会話の中で「それは男性にはNG」みたいな発言を連発していて、なお、それに気づいていないようで面白い。男性「アイツ馬鹿じゃないかと思う」ナオコーラ「○○さんて、すぐ馬鹿って言いますよね」男性「うん」ナオコーラ「あははは」↑これは相当傷つく。「おまえ、器小せぇな~」と、同義語。致命傷に近い。同行している編集者が指摘すればいいと思うが、作中にも頻出するこの編集者はフェミニンな人で、それを本人も自覚しているらしいからわからないのかも。しかし随所に「この出会いを人生に活かそう」という心意気のようなものが見えて、日常の中で仕事をしていると自認している作家の仕事ぶりに尊敬を覚えた。人生に活かす=仕事、創作に活かす。また、またまた男性が描く女性像、女性が描く男性像。この違和感はどこまでいっても交わらないな~と思ったりもした。たとえば、ナオコーラ作品の男性登場人物は、おおよそ酒を飲まない。男性は心が弱いからたいていのオッサンや青年は酒に逃げる。ひどいのは朝から晩まで飲み続ける主人公を書く男性作家もいるが、そちらの方が同性から見るとリアル。ありがち。東直己の「探偵」みたいな。男性は周囲の目が気になり、アイデンティティが常にないと落ち着かないから、ナオコーラ世界の登場人物のように「ふわり」と生きていくことができない。羨望を交えつつ、大好きなナオコーラ作品を今年は全部読み通そうと思います。本作も、とてもナオコーラらしくて、読んでよかったです。たくさんの人と、仕事として真面目にお話をされる姿に好感がもてました。 >> 続きを読む
2014/08/10 by 課長代理
僕自身、評論したがる人々とうまくつき合えず生きてきた。なんか借り物、受け売りファッションで武装した上から目線、神目線が苦手だった。そんな外圧に左右されない個人の感受性と価値観こそたった一度の人生の色だと信じている。評論に縛られない責任と自覚をいつ確率できるか? 葛藤の連続だったな。そんな当たり前の半生にファンキーで刺激的な絵とテキストで寄り添ってくれる一冊。ちょっとパンクな星の王子さま的読後感にシビれたぜ。ありがとうモサ、山崎ナオコーラ、荒井良二! >> 続きを読む
2018/11/16 by まきたろう
【山崎ナオコーラ】(ヤマザキナオコーラ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(著者,作家,作者)
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