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荻生待也

著者情報
著者名:荻生待也
おぎゅうまちや
オギュウマチヤ
生年~没年:1933~

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      辞世千人一首
      カテゴリー:詩歌
      5.0
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      •  @おもしろきことも  なき世を  おもしろく 住みなすものは こころなりけり

         これは、幕末の志士・高杉晋作(たかすぎ・しんさく)の辞世の歌(死に臨んで詠む短歌)です。奇兵隊を創設し、長州藩を倒幕に導いた高杉は、師の吉田松陰(よしだ・しょういん)の弟子に似つかわしく、詩文を得意としました。惜しいことに彼は志半ばで労咳(結核)のため、28歳の若さでこの世を去るのですが、その短い生涯は実り多いものでした。味方がほとんどいない中、一人決起して長州藩にクーデターを起し、いわゆる「俗論派」を駆逐し、長州藩の国論を統一し、ひいては日本の歴史に不滅の業績を刻んだ彼。高杉晋作には人生の長短は関係ないようですね。師の吉田松陰は、どんなに短い生涯でも、かならず春夏秋冬はある、と言っていましたが、高杉晋作の場合も、鮮やかにそれがあります。

         上の歌、死の床にあり、前半を書いてもはや続きが書けなくなった彼に代わり、懇意の尼さん(望東尼)が完成させたといいます。(NHK1977年大河ドラマ・花神より)

         実にいい歌です。結局、楽しいも楽しくないも、あくまで「自分の心」の有り様によって決まるのだ、という太陽のようにあけっぴろげでひろびろとした境地が歌われています。「要は、主体的に世の中に働きかけることさ。」と言っているのです。極めて男性的な歌ですね。男女の恋を歌った和歌は置いておき、高杉晋作の辞世の歌は最高の和歌の一つです。私も、よく口ずさみます。

        高杉晋作の辞世に刺激を受け、他の人びとはどんな辞世を残しているか知りたくなったので、「辞世千人一首」(荻生待也:柏書房)を紐解いてみました。辞世は、それを詠んだ人の人生の総決算ですから、その人となりがよく出ているな、との印象を持ちます。いくつか論評つきで紹介してみましょう。

         まず、もっとも目立つ、戦乱期に詠まれた辞世。
        @孝典もう食えません お母様 情け身にしむ母の蔭膳
           川地孝典   昭和・陸軍伍長
          これは、イデオロギーに囚われることなく、肉親の自然の情を歌 った秀歌だと思います。

        @よしや身は いづこの浦にしずむとも 魂はみやこの 空にとどめ む
           仙石隆明   江戸・勤皇の志士
        @仇うたで 野辺には朽ちじ われはまた 七度生まれて 矛を執らむ ぞ
           栗林忠道   昭和・陸軍中将・硫黄島攻防戦指揮官
          これらの辞世には、心意気を感じますが、現世への執着が抜きが  たくあり、私はそれほど高く評価しません。同じく戦乱期の辞世  でも、私は次のものを押します。

        @討つ者も 討たれる者も 土器(かわらけ)よ 砕けて後はもとの土 くれ
           三浦道寸   室町・武将
         一種の諦観に満ちています。次は戦乱期の女性の辞世。

        @よそほはん心も 今は朝かがみ むかうかひなし 誰がためにかは
           
          和宮   明治・内親王・公武合体策のため将軍家に嫁ぐが将軍 は早世する
         夫・家茂は早くに亡くなってしまい、孤閨をかこつことを余儀なく された彼女の悲哀が強く胸に迫ります。それでも色香を感じるの  は、この辞世の手柄でしょう。

         それから、如何にも詠んだ人の個性を感じる辞世をいくつか。
        @落すなら地獄の釜をつんぬいて あほう羅殺に損をさすべい
           水野十郎左衛門   江戸・「かぶきもの」の武士
          いかにもアクタレの面目躍如です。

        @若い衆や死ぬがいやなら今死にや 一度死ねば もう死なぬぞや
           白隠慧鶴   江戸・禅僧
         「死ぬ」の意味を深読みすれば、含蓄のある辞世です。辞世ではな く説法にも聞こえますが。

        @今日もまた胸に痛みあり。/死ぬならば、/ふるさとに行きて死なむ と思う。
           石川啄木   明治・歌人
         分かち書きにこだわるのはさすが。しかしみみっちい辞世です。

        @世の常のわが恋なくば かくばかり おぞましき火に身はや焼くべ き
           有島武郎   明治・小説家
          奔放な恋愛に生きた人らしい辞世。でもあの世でも地獄の業火に 身もだえすることでしょう。
         最後に、ありがちだけど、辞世としては情けない作品を一つ。

        @老いはてて命惜しとは思はねど 死ぬとおもへばかなしかりけり
           井上文雄   明治・医師・国学者・歌人
           ただの一般論を31文字に並べただけ。辞世と呼ぶに値しません。

         
         以上、高杉晋作、和宮の辞世が特に印象に残りました。
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        2013/02/16 by iirei

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