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中路啓太

著者情報
著者名:中路啓太
なかじけいた
ナカジケイタ

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      うつけの采配
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 祖父に毛利元就、父は吉川元春、叔父に小早川隆景と、名将たちの血筋に生まれた吉川蔵人頭広家。
        文禄・慶長の役で勇名を馳せ、隆景とともに中国の大大名・毛利家百二十万石を支える「毛利両川」の片翼だ。
        しかし、幼少よりなにかと反発してはトラブルをおこし、毛利・吉川両家中からは「うつけ」と呼ばれていた。
        戦国時代の最終局面、歴史上名高い関ヶ原の戦いを背景に、ただ一人毛利を守るべく知略の限りを尽くして奮戦する広家。
        その苦悩と葛藤の姿を、人間味豊かに描いた傑作歴史巨篇。

        「Web小説中公」平成22年11月号から、平成23年12月号まで連載されていたものを加筆・修正し、まとめたものです。
        初めての作家さんになりますが、歴史小説の書き手さんの劣化が著しい昨今において(書き手さんの数はむしろ増加しているようです。ただ、ゲームや同様のライトな小説を入り口にして入ってくる方が多いようで、作品として評価できるものが少ない現状ではあります)、中路さんという作家さんは悪く言えば“可もなく不可もなく”、良く評価させて頂ければ“読み手に違和感を覚えさせない時代小説を書くことができる”作家さんです。
        これが、いらっしゃるようで、なかなかいない。
        主人公の魅力や出来事の面白さに重きを置きすぎると、たとえば「立花の義!」とか、徳川家康のことを他の登場人物が「家康殿」「家康さま」と呼ぶというたいへん興ざめなシーンがあったりで、なかなか物語に没入できません。
        かたや史実にある程度忠実に描こうとすると、登場人物に個性がなくまったく面白味のない小説に仕上がってしまったり、部将の名前は似たようなものが多いいので、一族同士が戦う場面のある小説などでは、誰が誰やらさっぱりわからなくなったりする不都合があります。
        そういった時代小説の難点をすべて克服してみせてくれた作家さんが司馬遼太郎さんでした。
        中路さんも少なからず司馬さんの作品の影響を受けられている作家さんだと思います。
        登場人物の個性の引き出し方、史実への姿勢などは実に巧みで、読んでいてつまらないものではありませんでしたし(“小説”という体を強く意識されておられるようでした)、時代考証もそれなりで読み手に不快な違和感を持たせるものはありませんでした。
        ただ「」が多いのが気にはなりましたが。
        それから、タイトルと装丁は改良の余地が十分にあるものと強く思いました。
        これでは、手に取る前から読み手を選んでしまいます。


        物語は、世にいう「朝鮮の役」在陣中の描写から始まります。
        “毛利の両川(りょうせん)”と言えば、世に名高い毛利家の2本の支柱である吉川元春と、小早川隆景の2家のこと。
        始祖・毛利元就の子として家を支え、毛利家を中国地方の覇者と為さしめた功労の家であり、智勇ともに長けた両家始祖は、毛利家中のみならず近隣他家に至るまで名声が轟いていました。
        その一方、吉川家を嫌々継いだのは元春三男・広家でした。
        「うつけ」と自他ともに認め、ともすれば自ら吹聴して歩くような軽々の者でしたが、その智謀の深さ、勇敢さを影ながら認めていたのは、やはり一方の智謀で知られる小早川隆景その人でありました。
        隆景は、この能力はあれど懸命に働くは嫌、と明言する甥に、事あるごとに戦乱の世を生き抜く術、合戦に臨んでの心構えなどを説きます。
        毛利家を支えるなど御免蒙る、と嘯くのは広家本人。
        いくら周囲が諌めようと柳に風、本人に聞く気は毛頭ありません。
        うつけ者よと家中で謗られながら臨んだ朝鮮の地で、広家は、大谷刑部ら奉行衆の制止を振り切って、苦戦の加藤清正の救助に駆けつけます。
        及び腰の多勢に業を煮やした格好の、いわば仕方のない攻撃でしたが
        多勢に無勢と侮るなかれ、意気軒昂な吉川勢は十倍以上の明軍に単軍突っ込み、散々に打ち負かします。
        この、本人の望まなかった戦功により加藤清正ほか豊臣軍の猛者たちの覚えめでたくなり「毛利に出雲侍従殿あり」と言われるまでに。
        逆に、大谷刑部ら豊臣家文官衆とはこの一戦を契機に反目するようになります。
        豊臣奉行衆筆頭と言えば、今や天下の仕置きに無くてはならぬ、飛ぶ鳥を落とす勢いの石田治部少輔三成。
        毛利家にも強い影響力を持つ三成は、昵懇の毛利家老臣・安国寺恵瓊を橋頭堡に毛利家家中を自ら味方に取り込もうと躍起になっていました。
        太閤秀吉の崩御を受け、時代は加速度つけて進みます。
        秀吉亡き後の天下に野心をのぞかせる徳川家康、そしてその野望を打ち砕かんとする三成。
        広家と毛利家は、好むと好まざるに関わらず天下を二分する、両者の暗闘の渦に呑みこまれていきます。
        亡き偉大なる叔父・小早川隆景の薫陶を胸に、うつけ殿の采配が毛利家の苦難を救います。

        巻末に、附記として本作には多数の参考文献があり列挙にいとまがない旨の記述と「しかしながら、いわゆる小田原評定から徳川家康西上の経緯については、笠谷和比古氏の『関ヶ原合戦と大坂の陣』に大きな示唆を受けたことをここに記し…云々とあります。
        なるほど、関ヶ原に向けて徳川家康軍が東海道を取って返す経緯についての記載は、これまでの定説を覆す斬新な見方で描かれています。

        歴史小説の美点は、史実そのものは動かないものの、その前後もしくは周囲で起こっていた様々を作者なりにアレンジして、面白みを増す事ができるところです。
        実際、史実は揺るぐことはないですが、それに関わった人々の言動は我々の知るところではありませんので、史実から著しく逸脱しなければ好きなように個性を持たせることができるし、経緯を推察することができます。
        ですから、定説通りでなく、「自分ならこの史実をこう解釈する」という作者の試みというのは、読んでいてとても好感がもてます。

        本作で主に描かれている、関ヶ原合戦を巡る数年については、やはり司馬遼太郎さんの『関ヶ原』に勝るものはないでしょう。
        本作もしかりで、司馬関ヶ原を王道とするならば、脇を固める傍流の小説と言えると思います。
        ただ、司馬関ヶ原が三成、家康といった、日本国民であれば誰でも知っている様な主役を中心に据えたものであったのに対し、本作のような時代の主役ではなく、いわば“時代の脇役”たちの視線からの物語は、歴史小説好きには非常に興味深いもので、有難いかぎりです。

        昨今、そういう傍流ブーム(和田竜さんの『村上海賊の娘』などがあたりますか)の波が来てるように感じられますが、どの作家さんの作品が読むに値する作品かというのは、これは読み手に求められた課題でしょう。
        どれもこれもが佳作とは言えぬ現状にですから、ことさらに吟味して読書に臨むことが肝要かと思いました。

        >> 続きを読む

        2015/07/04 by 課長代理

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