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中山ゆかり

著者情報
著者名:中山ゆかり
なかやまゆかり
ナカヤマユカリ
      偽りの来歴 20世紀最大の絵画詐欺事件
      カテゴリー:団体
      4.0
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      • 【贋作絵画は何を根拠に真筆と判断されるのか?】

         本書は、ロンドンを舞台にして実際に発生した、極めて大規模な偽造絵画詐欺事件を丹念に取材して書かれたノンフィクションです。
         そもそも、美術品の贋作というのは、様々な動機により、古来から繰り返し行われてきたことでもあるそうです。
         例えば、若い頃のミケランジェロは、彼の師匠であったランダイオのタッチを真似た絵を描き、それを古く見せかけるために煙でいぶして師匠の真筆として売ったということですし、コローは他人が描いた模写であることを承知の上で自分のサインを書き入れたということです(そのため、コローは生涯に約2,500点の作品しか残していないのに、アメリカにはコローの「真作」が8,000点あるのだとか)。

         では、作品の真贋を決める根拠は何なのでしょうか?
         もちろん、贋作の出来不出来はあるでしょう。
         しかしそれ以上に重要視されるのが『来歴』というものなのだそうです。
         来歴とは、その作品がこれまでに、どのようにして誰の手を渡ってきたかという、いわばその作品の履歴を示す様々な資料を言います。
         売却された時の領収証のような物もあれば、展覧会に出品されたことを示す図録もあり、あるいは、その作品の履歴を記した手紙などもあります。

         こういった来歴が整っていればいるほど、その作品は真正な作品であると判断されることになるそうです。
         それは、たとえ贋作の出来が今ひとつであったとしても、「これは作者があまり調子が良くなかった時に描かれたものだろう」とか、「作品の出来としては二級だが真筆であることは間違いない」などと判断され、極めて高額で取引されることになるのだそうです。
         ですから、しっかりした美術館は、このような来歴資料を厳重に保管したアーカイヴを持っており、専任のアーキヴィストにより管理されています。セキュリティも非常に厳しくなっているのだそうです。

         本件の詐欺事件を起こした主犯は、ジョン・ドゥリュー教授と名乗る男なのですが、彼は生活に困窮していた腕の良い画家のマイアットを徐々に取り込んで贋作を製造させるようになります。
         その過程で、来歴の重要性に気付き、自ら来歴の偽造に励むことになるのでした。
         彼は有名な美術館の主要スタッフや著名な画商等に取り入り、偽造絵画を売却した利益を使って巨額の寄付などをし、アーカイヴに出入りする権利を得ていきます。
         そうして、例えばアーカイヴに偽の来歴資料を紛れ込ませることにより、マイアットが作る贋作に対して著名美術館の真作であるというお墨付きを与えるという手口に出たのでした。

         その結果、実は家庭用塗料で描かれたマイアットによる贋作が、真作と判断されて極めて高額で売りさばかれることになりました。
         この事件が起きたのは1990年~1999年頃にかけてのことで、そんなに古い時代ではなく、鑑定技術も機器もそれなりに優れた物があった時代ですが、オークションの出品作品でも中間的な値段の物(それでもものすごく高額ですが)について、一々精密な鑑定まではせず、来歴が整っていればそれを信じるというのが実情だったようです。
         主犯のドゥリューは、まさにその辺りの価格帯の作品を狙って詐欺を働いたのでした。

         そして、この巨大詐欺事件の結果、様々な来歴資料が汚染されることになり、既に市場に出回り、あるいは美術館に収蔵されている作品が本当に真作なのかを判断する資料が信頼できないものになってしまったのでした(ある調査によれば、現在著名な美術館に収蔵されている作品の4割は贋作であるというデータもあるそうです)。

         さて、ここで深刻な疑問が生じてきます。
         一体、作品の美術的価値とは何なのか? それは来歴資料が整っていることなのか?
         贋作の技量が極めて優れており、その作品だけの判断では真作と思われるようなものであれば、それは美術的価値があるということにはならないのか?
         非常に深淵な難題だと思います。

         主犯のドゥリューという男は、頭脳明晰な根っからの詐欺師でした。
         それはまるで息を吐くように嘘をつくような男だったようです。
         病的虚言癖を持った人物だったとも言われます。
         彼は、裁判の結果(この裁判自体とんでもないものになってるのですが)、6年の実刑を言い渡され、実際には4年間服役したそうですが、出所後も、なお自分は無罪であり、国家的な陰謀に巻き込まれたのであると声高に主張し、新たな詐欺を繰り返していたようです。

         本書は、美術作品の真贋とは何かという根元的な疑問をはらみつつ、非常に興味深いテーマを、丹念な取材によって再構築した良書だと思います。
         読んでいても大変面白いのでお勧めです!
        >> 続きを読む

        2021/05/27 by ef177

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