こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)

眺望絶佳 (角川文庫)

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: 中島 京子
定価: 518 円
いいね!

    「眺望絶佳 (角川文庫)」 の読書レビュー (最新順)

    最新のレビュー順 | 人気のレビュー順
    すべてのレビューとコメントを開く
    • 評価: 4.0

      「東京」は中島京子の小説のひとつの原風景だ。
      それは地方からみた憧れの都会――サクセスストーリーや映画の舞台のようにカッコイイ、嘘くさい町――ではなく、自分の幼少期の記憶そのもの、または物語を読むことで脳内に形成された視覚的な景色を伴った暮らしのある町としての東京である。
      もしも自分が四次元の眼を持っていたとしたら、東京の町がいくつものビジョンで見えるだろう。
      これはそんな作家の眼を感じる小品集だ。だからちょっと想像力を働かせないといけない。
      読者も四次元の眼をもって「今」と「失われしもの」のダブルビジョンを楽しもう。
      ノスタルジーをまといつつどこか不思議で、けれど少しぞっとする。品の良いホラーのような。
      寸止めのエンディングの技法にも磨きがかかっている気がした。
      彼女の小説の結びは結構好みだ。
      オチをつけるのではなく、時にぶった切るような終わり方。
      でも充分に余韻のあるラスト。
      あまりよそでは見かけないテイストを中島京子は手にしている。

      この作品集のもう一つのテーマがこの「失われしもの」なのだと思う。
      技術革新や生死や出会いと別れや様々な理由で、人は人生の中の非常に大切だったかもしれないものと、関わりを絶たれることがある。
      そこに残るのは「思い」だ。
      例えおぼろげで不確かな夢のような姿へ移ろおうとも、思いが完全に消滅することはない。
      そんな不安定でありながら時として事実よりも鮮やかな色を持った記憶なのだ。

      東京タワーにとっては建設された昭和30年代当時の東京の景色がやはりそれにあたる。
      東京タワーの使命は立ち続けることだと「彼女」は言う。
      そして人々の暮らしを見つめ、見守り、人々から見上げられること。

      油断してうっかり涙を誘われている自分がいて驚きました。
      もしもあなたに、失われたものへの「記憶」が残されているとしたら
      必ずそれがよみがえってくることでしょう。

      3・11、その直後のスカイツリーの竣工。
      少なくとも、この記憶は東京近辺に暮らす人々には共通の記憶でしょう。
      その新しい記憶と共に、物語の世界へ、さあ、どうぞ。


      【内容】
      「眺望良し。【往信】」
      新人の「彼」が先輩に当てた手紙。
      僕の最近の楽しみは「干し野菜カフェ」「腹ばいテラス」「気ぐるみカフェ」を眺めること。


      「アフリカハゲコウの唄」
      東京のはずれの団地で育った二人が再び出会ったのは、依頼人と弁護人としてだった。
      御子柴早苗は、ユーザー向けの会社のブログ運営を任されていた。
      ダイエット記事のコメント欄で親密なやりとりしていた種末との間に何が起きたのか?

      「倉庫の男」
      出版社の社長・糸川紗江子は、倉庫係の今橋が病欠したため、新人の小菅優を伴い久しぶりに倉庫を訪れた。
      ふいにとうの昔に失った恋がよみがえる。その男は倉庫の男だった。

      「よろず化けます」
      なんでも屋の尾上セイジは、子守り相手の男の子にねだられ、人間に化けて「よろず化けます屋」を開いたたぬきの兄弟の話を聞かせる。
      お話しをしながら、実際に夫を発注した未亡人の老女ミツコとの思い出がよみがえる。
       
      セイジは本当に狸なのではないか?とついつい思ってしまいます。本当はどうなの?

      「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」
      東京のタワーマンションに引っ越したマサルは、クラスでのお別れ会と餞別にクラスで飼育していた亀をもらえることを楽しみにしていた。
      父にあてて、仕事のお礼として父が太千代市から土偶ににたキャラクター人形が送られてきた。
      新しいマンションのインテリアに強いこだわりを示す母には土偶も亀も気に入られないことは明らかだ。
      マサルは母に亀の事を言い出せずにいたが、3・11のその日がやってきて…。

      どうしてもその日の記憶は蘇ります。誰にとっても共通の記憶。
      不幸な事ですが、その記憶は大切にしたい。そうも思います。

      「今日はなんだか特別な日」
      大学入学のために上京した渡辺伽耶は都内を一人で観光して過ごしていたが、方向音痴のため道に迷い、不思議な『ギャラリー』にたどり着く。
      重要文化財の凝った外装のビルヂング内の様々な部屋で個展が開かれていた。
      同い年のワタナベミヤという女性と知り合い、彼女の部屋に遊びに行ったり夕方からのパーティーに参加したりするうちに…。

      倉橋由美子の「幽霊屋敷」に似たプロットで、ファンタジックでノスタルジックで、少し不気味で
      でもこちらはずっとかわいいお話でした。

      「金粉」
      その家は薔薇屋敷と呼ばれている。
      老婆二人の姉妹が住む。今はれっきとしたゴミ屋敷だ。
        
      「ねえ、学生さん。この薔薇が枯れるときが、わたしたちの健康が脅かされるときよ」
      「そうよ。どう考えたって、薔薇が守ってくれるんですもの」

      薔薇には魔力がある。そんな伝説も信じたくなることがある。

      「おさななじみ」
      48歳の稲垣玲は、おさななじみと再会し結婚することになったと大はしゃぎだ。
      フェイスブックで中学の入学式で一目惚れした藤堂修平を見つけたのだという。
      修平は、NGOに勤務し長年海外に居住していたが、父の死により一時日本に帰国し、玲と再会したのだった。

      初恋を三十五年かけて成就するっていう話ですが、しかしこれは予想外の展開でした。
      人って先入観があるのね。私も例にもれずということでした。

      「キッズのための英会話教室」
      子どもを望み妊娠に執着したために離婚し、新しい恋人とも破綻。
      自分の子供は諦めた代わりに、幼児の英会話教室の教師としてレッスン時間の45分だけ
      母親気分を満喫するというささやかな幸せを味わっていた。
      ある日、三歳の男の子・ツヨシが、母親が迎えに来ないまま連絡もつかなくなり、
      やむを得ず自宅で面倒を見ることに。

      初めはブサイクに思えていたツヨシが関わるごとにかわいく愛おしく感じるようになっていく
      その過程が見事にえがかれている。
      そして最後の一言が!痛いですね~。これは。

      そりゃ、これ以外の展開はありえないのですが。
      それにしても描き方がすごく上手いです。残酷さが潔いと思う位に。
      ああ、これからどうなるんだろうと。心が痛みます。フィクションなのに。

      「眺望良し。【復信】」
       彼女が見守ってきた東京。ただ一人孤高の存在だった時の孤独。
       逆にその地位を脅かされるような不安や嫉妬が生じるようになり。
       とっても気持ちがわかる気がします。
       私は彼女の観てきた景色を実際に目にしていたギリギリの年代かな。
       だから彼女の思い出の景色は私の幼児の頃の記憶と被ります。
      (実際に中島京子とは同年代だし)
       この「景色」を描けるのが中島京子の個性なんですよね。

      藤野可織の解説もいい。「取り返しがつかない」ということ。その指摘は正しい。
      >> 続きを読む

      2015/06/16 by

      眺望絶佳 (角川文庫)」のレビュー

    • 始めは結構固め文学的な方かと思ったんですが、自由で柔らかい感性の人なんですね。題名とあらすじだけでも自由自在なイメージが湧いてきました。
      大分お気に入りですね(*^。^*)
      >> 続きを読む

      2015/06/17 by ありんこ

    • ありんこさん
      「小さいおうち」はやはり一番よかったかなと思いますが、この方、短篇の方が主流みたいなんですよね。
      「妻がしいたけだった」なんて書いちゃうんですから、ユニークな感性ですよね。
      ネタバレをちょっとだけすると、往信と復信の手紙をやりとりしているのは
      人間ではありません。(^^)

      必ずしもわかりやすい作品ばかりとは思いませんが、作家としてはもっと進化しそうに思えるので期待したいです。
      >> 続きを読む

      2015/06/17 by 月うさぎ


    最近この本を本棚に追加した会員

    この本に関連したオススメの本

    取得中です。しばらくお待ちください。

    眺望絶佳 (角川文庫) | 読書ログ

    会員登録(無料)

    今月の課題図書
    読書ログってこんなサービス
    映画ログはこちら
    読書ログさんの本棚

    レビューのある本

    最近チェックした本