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四千万歩の男

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 990 円
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    「四千万歩の男」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      この井上ひさしの「四千万歩の男」は、講談社文庫で全5巻の歴史大作小説です。希代のエンターテイナー作家、井上ひさしの作品世界を十分に堪能させられました。

      寛政十二年(1800)、幕府に蝦夷地の測量を願い出た伊能忠敬は閏四月十九日に三人の弟子と二人の従者を連れて江戸を出発します。その真の目的は、誰も実測していない日本の子午線一度の長さを測ることだったのです。

      陸羽街道を経て、蝦夷地の南岸までの道中、同行する仲間の一人が、実は白河藩の隠密であったことが発覚したり、仙台では幕府の巡察人と間違われたりと、行く先々で彼らは困難に遭遇するのです。

      隠居と同時に、本格的に星学暦学の勉強を始め、五十六歳から七十二歳までの十七年間、「二歩で一間」の歩幅で日本国の海岸線を歩き回り、実測による日本地図を完成。距離にして約三万五千キロ、歩数にして約四千万歩を歩いた伊能忠敬の実像に肉薄した、井上ひさし渾身の大作です。

      伊能忠敬と言えば、このように寛政十二年から幕命により、蝦夷を振り出しに全国を測量し、幕府天文方とともに、「大日本沿海輿地全図」を完成。かつて、太平洋戦争中に修身の教科書にも載ったことのある、"艱難刻苦の人"としても知られています。

      この歴史大作「四千万歩の男」は、蝦夷を舞台とした前半では、日本の子午線一度の長さを測るべく腐心する忠敬の姿を、公儀、松前藩、アイヌの三つ巴の思惑の中で、実に生き生きと描いていると思います。

      それまでの伊能忠敬につきまとっていた"修身色"を排し、その"バイタリティーの在り方"に焦点を絞って描いているのです。

      ストーリーの運びも、史実や歴史ものの骨格を保ちつつも、エンターテインメント小説のあの手この手が駆使され、伊豆方面に測量が及ぶ後半は、幕府から十分な協力も得られぬまま、武蔵の国から相州、豆州に及ぶ三国を廻り始めた忠敬たちが、川崎宿で藍の栽培をめぐるもめごとに首を突っ込むところから幕が開きます。

      保土ヶ谷宿では、十返舎一九と飯盛歌舞伎を作り上げ、金沢道では松尾芭蕉の書をめぐる俳諧師の下僕殺しの捜査に乗り出すという一幕もあります。

      このように、道中ものの面白さが横溢する中、忠敬を陥れようとする奸計もあり、その都度、彼は持ち前の沈着冷静な判断力で難局を脱していくのです。

      この他にも、忠敬と韮山の代官・江川太郎左衛門や、薄幸の浪人の忘れ形見で、後に忠敬の弟子となる少年との出会いなども描かれており、一方で、当時の学者・文化人たちの群像を巧みに作品中に盛り込むことによって、寛政から享和へと移り変わる時代相も生き生きと描かれているのです。

      この歴史大作「四千万歩の男」を読み終えて思うことは、作品中に刻まれた一歩一歩を支える、伊能忠敬という人間の"精神の在り方"に触れた時、つまるところ、その一歩がこの作品を産み出すために呻吟を重ねた作者・井上ひさしの一歩であり、日々の生活の中でこの作品をひもとく私の一歩であることに気づかされるのです。
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      2017/09/13 by

      四千万歩の男」のレビュー

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