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海と毒薬

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 470 円

生きたままの人間を解剖する―戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍舗虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか?神を持たない日本人にとっての“罪の意識”“倫理”とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編。

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    「海と毒薬」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      研究生の戸田は、なぜ生体解剖実験(殺人)を手伝ったのだろうか・・・。

      >良心の苛責とは・・・・子供の時からぼくにとっては、他人の眼、社会の罰にたいする恐怖だけだったのである。
      >姦通だけではない。罪悪感の乏しさだけではない。ぼくはもっと別なことにも無感覚なようだ。・・・ぼくは他人の苦痛やその死にたいしても平気なのだ。
      >醜悪だとは思っている。だが、醜悪だと思うことと苦しむこととは別の問題だ。
      >他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが除かれれば恐れも消える自分が不気味になってきた
      >柴田助教授も浅井助手も唇に微笑さえうかべていた。
      (この人たちも結局、俺と同じやな。やがて罰せられる日が来ても、彼等の恐怖は世間や社会の罰にたいしてだけだ。自分の良心にたいしてではないのだ。) (戸田)

      >「どうせ近い内に死ぬ患者だったんです。安楽死させてやった方がどれだけ人助けか、わかりゃしない。」(看護婦)
      「死ぬことがきまっても、殺す権利はだれにもありませんよ。神さまがこわくないのですか。あなたは神さまの罰を信じないのですか。」(執刀した橋本部長の妻ヒルダさんが看護婦に)

      橋本部長や助教授たちは自分の保身のため、良心はない。
      上田も医学の発達のためだなどと言い訳をする。

      神(の罰)が恐いから、神に対して罪になるから人を殺してはいけない・・・というのが神を信仰する人の考え方なのかな?
      では、神が許せば人を殺すのか?罰せられなければ殺すのか???
      神も、他人の眼も、社会の罰も、恐れという点では同じではないか。

      日本人は神を信じないから恐れを知らないのかもしれない。でも世間(他人の眼)や社会からの制裁を恐れる人は多い。
      良心はどうだろう。
      作者は、神と良心とを結びつけて考えたいのかもしれないけど、結局、戸田が実験に荷担したのは恐れもなかったし、良心も痛まなかったからだろう。
      それは、神を信じてないからではないと思う。恐れと良心とはちがう。強制と自律。外からと内から。
      神と良心とを結びつけるのは難しい。(・・・愛と良心なら似てる)
      神を信じなくても、神の罰を恐れなくても、良心は育てることはできると私は思うのです。
      (神を信じて殺す、聖戦?やテロなんかもある・・・)



      人が人を殺さないのは、人間に対する「慈しみ」の心があるからじゃないかな?平等の意識、仲間意識、差別しない気持ちからなんじゃないかな。誰にも殺す権利はない。自分の命と同じようにみんな等しく大事な命だと。

      同じ研究生の勝呂は、実験に参加しても何も出来なかった。それは、恐れだけでなく彼の良心がさせなかったのではないか。
      なぜ彼は引き受けたのか。それは絶望感であり、無気力になっていたからだ。
      >本当にみんなが死んでいく世の中だった。病院で息を引きとらぬ者は、夜ごとの空襲で死んでいく。
      >どうでもいい。・・・どうでもいいことだ、考えぬこと。眠ること。考えても仕方のないこと。俺一人ではどうにもならぬ世の中なのだ。

      でも、
      >(俺あ、あんたに何もせん。)
      (成程、お前はなにもしなかったとさ。おばはんが死ぬ時も、今度も何もしなかった。だがお前はいつも、そこにいたのじゃ。そこにいてなにもしなかったのじゃ)

      勝呂には人間(患者や捕虜)に対する良心があった。良心があったから何もできなかった。でも、その良心は弱々しいものだった。

      自分の行動をきめるのは外からの「恐れ」ではなく、内なる「良心」。

      良心を育てること。(心は放っておいたら育ちません)
      どんな時代であれ、どんな世の中であれ、世間や社会に負けない本当の良心、慈悲の心を自身の中に育てることが大事なんだと思う。

      考えさせられました。
      >> 続きを読む

      2013/11/01 by

      海と毒薬」のレビュー

    • >良心を育てること。(心は放っておいたら育ちません)

      普段はあまり意識しませんが、本当にいざという時に自分の行動や判断を決めるのは良心な気がしますね。 >> 続きを読む

      2013/11/01 by sunflower

    • この話はたぶん高校の時に読みました。とても衝撃を受けました。
      でも今この小説を読んだらきっと別の読み方になりそうな気がします。
      科学者の心、神と良心の関係、遠藤の日本人観など。

      当時でも肺を切開するシーンなんて読んでいて陶酔感さえ感じました。
      単純に悪と言い切れない何かが見つかってしまうかも知れません。
      我ながらそれも怖いなあと思って。
      >> 続きを読む

      2013/11/01 by 月うさぎ

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      新潮社 (1960/07)

      著者: 遠藤周作

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      • 評価: 5.0

        西松原住宅地に引越してきた「私」は、その町にある勝呂医院に気泡を打ってもらう。
        勝呂医師には技術のみごとさにかかわらず、患者の生命本能を怯えさせるものがあった。
        彼は戦争末期、九州F医大の医局員たちが捕虜の飛行士八名を医学上の実験材料にした事件の当事者だった。


        登場人物の日常生活が描かれ、まるで身近な出来事のように読者を導きます。
        八月の暑さも、ショーウインドーの人形も、病室の異様な臭気も。
        すべて自分自身が体験しているかのようでした。
        彼らと同じように生活し、流されるように事件に関わり、そして過去を引きずりひっそりと生きていく。
        読んでいるときは特に難しさは感じなかったのですが、読了と同時に本書がもつテーマをどう捉えたらいいのか悩みました。

        「神なき日本人の罪意識」

        正直に言いますが、信仰があったからといってこの事件を止めることができたのか私にはわかりません。
        わからないなりに、本書で感じたことを書いていこうと思います。

        まず恐怖を感じたのは、手術シーンの生々しさ。
        文章から静かな手術室に響く電気メスの音、八ミリ撮影機の無機質な音を感じます。
        印象的だったのは何時もの手術とは違い、患者のショック死や急激な脈や呼吸の変化を恐れる緊迫感が捕虜のときにはなかったこと。
        栄誉を懸けた田部夫人のときと比較すると歴然ですね。

        捕虜を殺した後の、各々の感情もおぞましさを感じます。
        浅井助手は、
        ―一人の人間をたった今、殺してきた痕跡はどこにもなかった。
        戸田は、
        ―ながい間、求めてきたあの良心の痛みも罪の呵責も一向に起こってこない。なぜ、自分の心はこんなに無感動なのか。自分の殺した人間の一部を見ても、ほとんどなにも感ぜず、なにも苦しまないこの不気味な心なのだ。
        唯一顔を背けていた勝呂に少しほっとする思いでしたが、
        彼らはこの後も七名の捕虜を生体解剖するのですよね。(全てに携わっているわけではありませんが)
        どのような思いだったのでしょうか。
        戦争で人が死ぬようにだんだん感覚が麻痺していったのでしょうか。

        裁かれ何年か経った後、
        ―あの時だって仕方がなかったのだが、これからだって自信がない。これからも同じような境遇におかれたら僕はやはり、アレをやってしまうかもしれない・・・
        と呟いた勝呂の言葉がアンサーかと思ったらやりきれない気持ちになります。
        もし自分が同じ境遇に立たされたら拒否できるのかと言われると、断言することはできません。
        否定したいとは思いますけど。
        身近にこのような大事件はありませんが、昔より自分の正義を貫くことがなくなったと感じるので。

        「三世にわたって尽きることのない心の病がある」
        何度か出てきたこの言葉も、読了後は心に響くものがありました。


        感想がとても難しい読書でした。
        上手く纏まりませんでしたが、知ることができて良かったと思いました。
        >> 続きを読む

        2016/10/05 by

        海と毒薬」のレビュー

      • 月うさぎさん
        「ブロントメク!」とても良かったです!!
        あとがき読んで、以前の作品にアモーフ、スザンナ、マーク・スウィンドンの話があることに驚きました。すべて新訳で読みたい・・・

        そして、キリスト教遠藤派に妙に納得、というかおなかに落ちました。
        おかげで「沈黙」は、もっとすんなりと入ってきそうな予感がします。
        >> 続きを読む

        2016/10/18 by あすか

      • dreamerさん
        度重なる出張で、返信が遅くなり申し訳ございません!
        なんという力作・・・私のコメント欄だけでは勿体ないです。
        よろしければ、ぜひレビューをお願いします!
        素晴らしい解説ありがとうございました。私ひとりでは自分の解釈のみで終わってしまうところを、読書ログのおかげでもっと多くのことを考えることができました。本当にありがとうございます。

        >人間の生活とは踏絵を踏んでしまった後、いかにして生きるかという事なのかも知れません。
        この作品では、勝呂のみでしたね。他の人たちは裁かれたという文章だけだったので。彼のその後の人生を見ると、しょうがないと言いながら引き摺る後悔、そして犯したからこそ刻まれた医師としての経験・・・すみません、うまく言えないのですが、「私」と勝呂医師のやり取りに全て現れていたように思います。

        近いうちに「沈黙」に着手しようと思っているので、(できれば今年中・・・すでに手元にはあるので!)「ころぶ」をテーマと頭に置いて、挑戦します。
        またそのときには頂いたコメントを参考にさせていただきます!
        >> 続きを読む

        2016/10/18 by あすか


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