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聖耳 (講談社文芸文庫)

5.0 5.0 (レビュー1件)
著者: 古井 由吉
定価: 1,620 円
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    「聖耳 (講談社文芸文庫)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0


      私の畏敬する作家のひとり、古井由吉の「聖耳」は、表題作を含む12の短篇小説からなる連作短篇集で、病いと老い、そして死の感覚を、微細な描写の中に捉えた、魂を震わす作品群だ。

      「聖耳」という最後におかれた短篇のタイトルが象徴するように、目の手術をしたことをきっかけに、視覚と聴覚のバランスのずれが、日常生活の中では隠されていたものを明るみに出す。

      そこに現われてくるのは、外界の風景なのか、主人公の内面の、その心象風景なのかわからないような微妙な"あわい"なんですね。

      「晴れた眼」という短篇の冒頭はこうです。
      「さわさわと鳴る音が林をつつんで、行く手に葉が降りはじめた。初冬の薄曇りの風のない正午前、雲間から陽が洩れて、わずかに残る黄葉が芽吹きのように照ったのと同時だった。それほど頻りな降りようでもなかった。」

      「今年は季節の巡りが早く、雑木林の楢も櫟もあらかた裸木になっている。見渡した時には止んでいた。しかし葉の鳴る音は地面に続いて、目を瞑るとさらに降りしきり、身体の内に林がひろがった。目を上げて変わらぬ林の風景を訝る姿が径の背後に見えた。」

      見えないものが見えはじめ、聞こえなかったものが聞こえる。
      人が身体の老いと衰えのうちに体験するものは、健康や力のみなぎりにおいては感覚されなかった世界だ。

      衰弱は感覚の衰えを意味しない。むしろ反対に、そこでは感覚は研ぎ澄まされ、鋭さを増し、これまで通り過ぎていた生のあらゆる断面に光を当てる。

      著者・古井由吉の代表作「仮往生伝試文」もそうであったが、衰滅と死に対する表現の可能性は、この作品でもいかんなく発揮されていると思う。

      老いや死ということが、現代社会の問題として一般化され、そのことによって形骸化されている今日、ここにはそうした通念に対する文学の言葉による挑戦があるのだと思う。

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      2018/11/13 by

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