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ザボンの花 (講談社文芸文庫)

5.0 5.0 (レビュー1件)
著者: 庄野 潤三
定価: 1,728 円
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    「ザボンの花 (講談社文芸文庫)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0


      吉行淳之介、遠藤周作、安岡章太郎などの、いわゆる"第三の新人"と文学史上で言われている作家たちの中で、別に特別な意味はないのですが、唯一、読んでいなかった庄野潤三の「ザボンの花」を読みました。

      「ザボンの花」というタイトルに魅かれ、この本の中には何か素敵な愉しみが詰まっている感じがして、書店で手にしたのですが、絶対に面白いに違いないという予感というより、確信がありました。

      私と本の出会いというのは、そういう言葉では表現しずらいような、何かに魅かれてという場合が多いような気がします。

      私は今まで庄野潤三の小説は、「プールサイド小景」「静物」「夕べの雲」などの名だたる名作と言われているものがありながら、まったく読んだことがなかったのですが、この「ザボンの花」という作品で、すっかり庄野潤三のファンになってしまいました。

      私にしては、珍しく毎晩ゆっくりと少しずつ読みましたね。
      つまり、この作品は、そういう読み方をさせる小説なんですね。

      三晩かかって読み終えた時は、もう、この小説の世界から離れなければならないのかと、ちょっと淋しかったくらいです。

      この作品の舞台は、昭和30年代初頭の東京。と言っても、そうとう郊外で、あたりは麦畑や雑木林が広がっている。
      そんな中にぽつんと建つ一軒家には、数年前に大阪から越して来た若い夫婦と三人の子供、そして一匹の犬が暮らしている。

      この作品は、そんな若い一家の日常生活のスケッチなんですね。
      著者によると、大阪から東京に引っ越した著者一家がどんな風にして暮らしているか、大阪にいるお母さんに知らせるつもりで書いたということだ。

      とりたてて強いテーマはない。文章に飾り気もない。
      それなのにスイスイ読んでしまうのは、何かもったいないと思わせる。
      そして、深い味わいがある。小さな日常を描きながら、どこか大きく、健やかな美しさがあるんですね。

      庄野潤三の小説の魅力は、どうやら、このあたりにありそうな気がします。

      私が好きなのは、例えばこんなくだりです。
      一家の主婦の名前は千枝というのですが、クリスマス・ツリーのためにヒマラヤ杉の苗木を買おうとすると夫に反対される。

      「木を植えるということは、そういうけちな考えのものではない。木を植えるのは、もっと気宇壮大な精神のものだ」と夫は言うのだ。

      それに対して、千枝は心の中で思うんですね。
      「プラタナスの木の大枝の上で、大風に向かって嵐だあと叫ぶ方が、クリスマス・ツリーのためにヒマラヤ杉の苗木を百円で買うより、ずっといいに決まっている。」

      「千枝は、そもそも、木に登って嵐だあと叫びたい人間であり、そんなふうに育てられてきたし、そんな風に生きて行きたいのだ」と。

      現実の生活は、それを許さないものだけれど、そんな思いを心の底に持っている人間と持っていない人間とでは何かが違う。

      千枝は「平凡な主婦」であっても、自分の頭でよく考え、ていねいに生きている。
      男性作家によって、こういう種類の「平凡な主婦」像が描かれるのは、非常に珍しいと思うんですね。

      三人の子供、特に「自分の持ち物を失うことがなにより辛い」性格の幼い末っ子の描写が、実に生き生きとしていて、まるで映画を観ているように目に浮かびます。

      この作品全篇にうっすらと漂う、"明朗な無常観"もとても味わい深いと思いましたね。

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      2018/09/11 by

      ザボンの花 (講談社文芸文庫)」のレビュー


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