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光のない海

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: 白石 一文
定価: 1,890 円
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    「光のない海」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      社長、僕は一体いつまであの会社に縛られ続けるのですか。

      建材会社の社長・高梨修一郎は、取引先の紛飾決算による経営危機に翻弄され、事態の収拾を図ると共に引退を考えはじめる。
      彼の脳裏に浮かぶのは、怒涛のように過ぎ去った日々の記憶。
      先代の女社長と彼の間には、誰にも言えない秘密の愛憎関係があった。
      個人と社会の狭間にある「孤独」を緻密に描き出す長編。

      集英社の文芸誌「すばる」に2014年8月から、2015年10月に亘って連載されていたものに加筆・修正を加え、単行本化したものです。

      白石さんの小説の主人公は、近著では、社会的地位を確立し、経済的余裕のある単身の年配男性が多いです。
      本作の主人公・高梨も白石作品の主人公らしい主人公といえます。

      中堅建築資材メーカーの社長職を10年間務めてきた高梨は、社長室のキャビネットを新調するにあたり、古い名刺ホルダーを整理していました。
      出てきた懐かしい名刺たちに目を細めながら、一枚一枚丁寧にシュレッダーにかけてゆく高梨。
      奇跡のように目を止めた名刺は、ずいぶん前にデパートの販売員だった女性からもらったものでした。
      彼女から購入したのは陶器製の水甕ボトルで、当時二万円ほどしたものでした。
      そのボトルに水道水を入れておくだけで、内側に焼き付けた特殊な鉱石の力で、驚くほどまろやかで美味しい水に変わるという、いささか眉唾もののアイテム。
      彼女の軽快で巧妙な販売トークに乗せられて買ってみたものの、半信半疑で使い始めた高梨は、そのボトルの不思議な力に魅了されることになるのでした。
      その水甕の水を飲み始めた途端、不眠症気味で憂鬱だった夜から解放され深く安らかな眠りを手にすることができましたし、仕事が多忙すぎ鬱々とした感情も雪が溶けてゆくようにほろほろと無くなっていったのです。
      以来、大事に大事に使っていたボトルでしたが、つい先日ふとした失敗から床に落としてしまい、割ってしまったのです。
      ネットで同じようなボトルを探して試してみるのですが、やはりあのボトルのような効果は見られず、半ば諦めかけていたところに、この名刺。
      藁にもすがる思いで電話を掛けてみると、購入からだいぶ時間が経ったにも関わらず、彼女も高梨のことを覚えていてくれました。
      事情を説明すると、今は販売職から離れているが、昔のツテを頼ってメーカーに在庫の確認をしてくれるとのこと。
      その翌日、高梨に急な来訪者が。
      試用品にひとつだけ自分で持っていたと、例の水甕ボトルを手にした女性が、高梨のいる社長室を訪れたのでした。


      この女性、筒見花江との運命的な再会から物語は始まります。
      徐々に明らかになってくる高梨の生い立ち、社長になるまでに歩んできた道のり、身内の不幸と、妻の不貞と離婚。
      さらには花江自身の境遇や、花江の母親までが高梨の人生に絡み合ってきます。
      白石さん独特のオカルトじみた“運命の偶然”や“超常現象”も、嫌味になることなく、それでいて存在感をしっかり放ちながら物語中に存在しています。

      運命と孤独、ということを書きたかったように思いました。
      字面が静謐でも、語られる登場人物たちの境遇はとてもドラマチックで、世の不幸や不運が詰め込まれている感があります。
      どのような人間でも、等しく孤独であり、生きている限り罪を犯し続け、純粋に孤独たらんと欲したとしても必ず他の誰かの支えがあって生きていられる。
      そんなことを、たくさんの挿話に託して、読者に語りかけたかったものと読み取りました。

      「命の支え」という言葉を使って、主人公が、今、自分が生きていることを、自分自身に納得させる場面が印象的です。
      同じように自分も知らないうちにほか誰かの「命の支え」になっている可能性だってあり得る。
      そうであるならば、命ひとつは、決して自分ひとりのものではなく、繋がり広がってゆくすべての人間関係に必要なもの。

      たくさんの出来事が波のように押し寄せては引いて行きますが、抑揚の少ない静かなタッチが、良い具合に派手さを抑えていて、非常に好感が持てました。
      マンネリといわれようと何だろうと、これぞ白石一文というような「らしい作品」。
      佳作と言っても差し支えないでしょう。

      蛇足ながら。
      「火口のふたり」以来、白石さんといえば過激かつ濃密な性描写が持ち味みたいに評価されているのが、個人的には心外です。
      主人公が軒並み金持ちであるということに対してのクレームならまだ理解できるのですが、過激な性描写は「火口~」くらいなものと記憶しています。
      「不自由な心」「私という運命について」「一瞬の光」「ほかならぬ人へ」など、傑作を多数、書いておられます。
      白石=エロ、と決めつけず、みなさんにぜひ読んでいただきたいです。
      >> 続きを読む

      2016/03/07 by

      光のない海」のレビュー

    • >ほんとうにいいものを出版しようとする努力がたりないから、本を読む人が減って、今の出版不況に至っているとも言えますか?
      まったくその通りですよ。だから今さら谷崎特集したり、過去の名作を新訳で新しく出してみたり、ネームバリューを利用するしか能がないんです。
      だから「火花」があれだけ評判になったんでしょう。
      (作品としては文学的かつ著者のネームバリューも利用できる)
      貧しいですね。
      >> 続きを読む

      2016/03/08 by 月うさぎ

    • 「火花」、いまだに増刷し続けていますね。
      かわいそうに受賞後1作目が遠い、又吉さん
      出版不況、とくに純文学が売れていないからって、芸人さんひとりの運命を弄んじゃいけませんよ、文壇のご重鎮の先生方。
      貧しい!確かに貧しい。
      だから、名前を知らなくとも、とりあえずアタックしてみることにしています。
      打率は下がる一方ですが。
      まぁ、月うさぎさんの「アタリ」と、僕の「アタリ」は若干、というかずいぶんズレがありますが(笑)。
      >> 続きを読む

      2016/03/08 by 課長代理


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