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吉原御免状

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 700 円
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    「吉原御免状」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      隆慶一郎の作品はほとんど読んでいるのですが、今回「吉原御免状」を「影武者徳川家康」に続いて、再読しました。圧倒的な読後の充実感に浸っています。

      肥後の山中で宮本武蔵に育てられた松永誠一郎は、武蔵の遺言に従って山をおり、江戸吉原の惣名主・庄司甚右衛門を訪ねます。ところが、明暦の大火で消失、浅草日本堤に誕生したばかりの新吉原には、裏柳生の刺客どもが身を潜め、甚右衛門はすでに他界。誠一郎を迎えたのは吉原に隠然たる勢力を持つ謎の老人幻斎であった。

      徳川家康が甚右衛門に与えた「神君御免状」の謎とは何なのか? 裏柳生との死闘の中で、幻斎は、実は自分が死んだはずの庄司甚右衛門であり、吉原が単なる遊郭ではなく、傀儡子たちによって作られた自由と平等の砦「公界」であることを誠一郎に明かすのです。

      しかし、吉原と裏柳生の対決の時は、刻一刻と迫りつつあった----。

      隆慶一郎のデビュー作であるこの作品は、類まれな物語性と最新の歴史研究を根底に据えた、"知的ダイナミズム"に裏打ちされた傑作だと思います。

      そのテーマとは、ひと言で言えば、歴史の中に秘められた壮大なユートピア物語の構想であり、そして、それを可能にしたのが、隆慶一郎の作品にたびたび登場する「道々の輩」「公界の者」たちの発見です。

      歴史学者の網野善彦は、その画期的な中世研究の中で、そうした様々な職業についた特殊集団が、天皇や神仏に帰属することで全国を自由に放浪する特権を得ていたこと、さらに彼らが、公界と称するユートピアのネットワークを形成していたことを明らかにしました。

      しかし、あらゆる権力に屈しない彼らは、天下を狙う武将にとってはまさに目の上の瘤だったのです。

      中世には数多く存在したのですが、戦国期を経て、徳川家康亡き後の徳川政権下で次第に不当な差別を加えられ、遂には歴史の表舞台から追いやられてしまうのです。

      だが、彼らをもう一度、歴史の表舞台に立たせてみたらどうなるか? -------。

      隆慶一郎の作品のテーマは、こうした放浪の自由民の末裔と歴史上の有名無名のヒーローが展開してきた、人が人であることの"誇りと尊厳"を守るための闘いを描くことにあったのだと、確信を持ってそう思います。

      そして、この作品の主人公の松永誠一郎にも、作者は自身の作品を貫く雄大な構想にふさわしい、尋常一様ではない設定を施しているのです。それは、すなわち、新たな江戸神話における「荒らぶる神」としての役割です。

      ただし、ここで間違えてはならないのは、松永誠一郎が神であるのは、作中で明らかにされる彼の出生の秘密、すなわち、後水尾天皇の皇子であるからではないということです。

      作者が旧弊な"皇国史観"に与するつもりがないのは明らかで、その答えは、本来、侵されざるべき存在であった松永誠一郎が、禁裏を抑えようとする幕府の走狗となった裏柳生により暗殺を画策され、無惨に踏みにじられ、差別され、そして放逐されねばならなかったという出生の悲惨さにあるといってもいいと思います。

      しかし、その悲惨さゆえに、私は、"一つの真実"を見出すことができたのです。

      踏みにじられ、ゆえなき差別を受けた者たちにこそ、"真の聖性"が宿るというあの逆説的な真実を-------。

      松永誠一郎は、虐げられた者の"怒りと哀しみ"を知っているのだと思います。だからこそ、彼は神であり、そして許さないのです。人間の"自由と誇り"を奪おうとする者たちを-------。

      隆慶一郎は、この作品に続いて「かくれさと苦界行」を発表し、一時停滞していた"伝奇小説"は、彼の登場により再び"物語性の復権"の狼煙を上げるのです。
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      2017/09/19 by

      吉原御免状」のレビュー


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