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里見蘭の「さよなら、ベイビー」を読了しました。この小説は、引きこもりの青年が主人公で、お父さんと二人暮らしなんですね。それで、お父さんが、ある日突然、生後7か月の赤ん坊を連れてくる。知り合いの女の人から頼まれた、3週間預かってくれと言われたと。そこは引きこもりの青年なので、とにかく他人と会いたくない。赤ん坊だってイヤなんですね。でも「オレが世話するんだから、いいじゃないか。おまえ関係ないんだから」と、お父さんは言う。まったく、しょうがないなと思っていると、お父さんが3日後に死んでしまって、赤ん坊が残されてしまう。しかも、誰が母親だかわからない。それで、警察とか市役所とか児童相談所に青年は電話をするんだけれども、向こうも、今日すぐ引き取ってくれと言われても困るんですね。当然の事ながら、赤ん坊は生きものですから、おなかはすくし、泣くんですね。だから、ネットかなんかで、ミルクはどうやって与えたらいいのかみたいな事を調べる事に-------。つまり、突然、育児生活がはじまるという物語なんですね。この赤ん坊がなかなか可愛くて、車が大好きで、走ってる車を見るとすぐ泣きやむから、泣くと、抱き抱えて近くの国道まで行って、トラックを見せたりする。この青年は引きこもりだから、本当は外に出たくないんだけど、しょうがないから、しぶしぶ、そうやって外に出るんですね。つまり、赤ん坊を育てる事によって、彼が少しづつ社会生活に入っていくという成長物語にもなっている。そして、それと同時に語られるのが、不妊症で悩む夫婦の話がひとつと、不倫でシングルマザーになったヒロインの悩みがひとつ。つまり、全体を通して、子供を産むという事、子供を育てるという事が、どういう事なのかというのが語られていくんですね。これだけで、すごくいいんですね。文章が実にうまくて、センスに溢れていて、それだけで充分なのに、最後まで読むと、これがミステリだという事に気がつくんですね。確かに、考えてみれば、もともと謎はあったんですね。つまり、誰が母親なのか、母親が生まれて7か月の赤ん坊を、どうしてお父さんに預けたのかという謎が-------。どうして、その母親から連絡がないんだ? という話があるから、ミステリといっても、そういう事なのかと思っていると、実は全然違うんですね。もっと根本的にミステリだったという-----。読み返したら、ちゃんと伏線がいっぱい張ってあったんですね。この小説の中では、やっぱり子育てのところが、凄く面白くて、映画の「赤ちゃん泥棒」とか「スリーメン&ベビー」とか、赤ちゃん騒動ものは、映画でも小説でも昔からたくさんあるんだけれども、この小説の場合、主人公が引きこもりというのが、すごく効いていると思う。頭はそれなりにいいんだけど、世間知がほぼゼロみたいな人が、いきなり赤ん坊を押し付けられてうろたえる、そのドタバタぶりが楽しいんですね。赤ん坊とか見た事もないから、この子が生後何か月なのかもわからない。ネットで調べるのだが、月齢に応じて----それによってミルクの量が違うわけなのですが、「月齢って何?」みたいな-------。「やつはいくつなのだ。生後3か月かもしれないし、1年7カ月かもしれない。見当もつかなかった。適当に作ったら駄目なのだろうか」と悩むわけなのだ。そして、さらに調べると、「そうか、体重と月齢は、ほぼ比例するらしい」というので、体重を計って、その数値をもとに、「どうも7か月らしい」とか判断できるようになるんですね。とにかく、この小説は"ドタバタ育児小説"かなと思って読んでいたら、実はミステリだったという奇妙な味わいを持った作品でしたね。 >> 続きを読む
2018/06/08 by dreamer
「さよなら、ベイビー (新潮文庫)」のレビュー
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さよなら、ベイビー (新潮文庫) | 読書ログ
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