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斎藤家の核弾頭 (新潮文庫)

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: 篠田 節子
定価: 761 円
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    「斎藤家の核弾頭 (新潮文庫)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      女性作家のSFだが、よくある仮想の国のおとぎ話なんかではない。近未来の日本を舞台にしたディストピア小説。内容は現代社会の風刺で、しかもブラックなコメディと来ている。驚いた。
      まるで日本のSFの黎明期の力のあったSFのような。
      小松左京の壮大なスケールと筒井康隆のブラックなお笑いや厳しい社会風刺の両方がミックスしている。こんな小説があったなんて…。

      時は2075年、舞台は人口が集中し超超超高層ビルが林立する東京。

      高度にコンピューター化された社会において裁判にも人間は不要になったため最高裁判所裁判官の職を解かれ「余剰市民」に選別された特Aクラスの超エリート市民斎藤総一郎。
      文京区弥生町に代々住みつづけていた四世代同居の斎藤家一家族が「高度土地利用法」に基づく地上げの強制執行を受け、ついには国民の登録も削除され、血も涙もない行政に追い詰められた斉藤総一郎はついに日本国家へ「宣戦布告」をする。

      「やられる前に叩く。私たちに残された道はただ一つ」

      こんな日本になった訳もちゃんと説明されている。
      バブルが崩壊し日本経済が壊滅的に打撃を受け人心は荒廃し、「危機管理」の名のもとに中央集権的行政管理体制を強化する方向へ向かった。経済格差はそのままカースト制度へ移行。先後民主主義は終焉を迎え「優秀な人々」により打ちたてられた「国家効率主義」社会になっていた。各国民の情報を中央が一元管理、地方行政は不要になる。
      少子化対策は家長制度と母性愛を復権させ強化し道徳化し、公への貢献こそが国民の義務となる。
      一方で個人の尊厳や自由財産権はほぼ無きに等しい状態に陥り、仕事もコンピューターが代行し効率の悪い人間の価値は貶められていく。

      大きな節目は、2011年に「首都圏大地震」が起ったことだ。三浦半島はじめ首都圏に甚大な被害をだし、最悪の被害は旧成田空港に設置されていた米軍及び自衛隊基地の損壊だった。「絶対安全」なはずの基地は大手ゼネコンの手抜き工事による欠陥建築であったため全て崩壊し、隠匿されていた毒物が洩れ出し土壌汚染により人間の住めない土地にされてしまった。

      …と、ここまで読んでくださったあなた。
      なるほどね~。なんて軽い気持ちで読んでいたんじゃないですか?

      安倍政権と東日本大震災の風刺ね。

      私はうっかりそう思う所でしたよ!!!

      この小説が出版されたのは1997年。今から20年近くも前に書かれた小説だったのです。

      しかしこのリアリティは絵空事ではない。
      自民党の憲法草案のめざす未来がここにある。といっても過言ではありません。誇張ではないです。
      個人の権利の制限と公の優位、少子化対策と家族中心の国作り。表現の自由の制限。
      自民党の憲法草案にはそう読み取れる条項が多々盛り込まれています。公開されているので読んでみてください。
      「緊急事態条項」とかもあるし。重大事故の隠ぺいや行政の強制執行は既に現実ですしね。

      こういうディストピアをブラックなギャグにするのが得意な筒井と比べると、本作はなんだかとってもウェットだ。
      じっとりして悪い夢をみて寝汗をかいている気分。
      身重の妻、美和子という女性目線がはいるとこうも現実味を帯びてくるのだ。
      彼女の闘う男への冷ややかな目線と総一郎の思想、言動から、ヒーローを描いたものではないことも明白だ。
      感情移入ができないように作者は描いている。美談に思われたくないからだ。
      そして唯一心を打つ人間として光を放っているのは異形の娘、小夜子ただ一人だ。
      要するにこれは国家に対し個人の自由を守る抵抗なんかではなくて、大義をかざして戦おうとする「男の嘘」が描かれている小説だったのだ。

      『核兵器の使用が非人間的な戦勝手段であることは認める。しかしすでに持っている国においては認められ、未だ持たぬ国の保有は認められていないということは…(中略)…むしろ核を保有することによって、絶対的権力を有する日本国政府と勢力を拮抗させることができ、それによって極めて対等な形で交渉を進めることができるという点でむしろ、条理にかなったものと言えよう』
      某隣国の主張そのものですが、政治家でも似たようなことをいっている人がいますね。
      『…攻撃イコール、爆撃や銃撃とは限らないわ』
      実際にその通りになります。
      「一発で地球を吹き飛ばすような核爆弾も、天文学的精度を誇るミサイルも、実用性という点においてはもはや過去の遺物でしかない」

      しかしものすごい水爆なんかでなくてもターゲットが首都機能だけだったら長崎と広島で使われた原始的で力の弱い核爆弾で要は足りる。
      そして原料さえあれば、原理的には中学生でも作れるという原爆を自爆テロで使う組織が現れるのは時間の問題ではないだろうか?
      ということもこの小説では示唆している。

      まいったな…。

      というのが感想。

      これは発表当時よりも「今」だからなおさらリアルになってきていると思いますよ。
      この数年でこの作品世界に近づいてしまっている実感があります。
      そう思うとホラーでもありますね。 ((((;゚Д゚))))

      降りる人さんに「おすすめですよ~」言われて読みました。
      「読むべきです」と私も言いたいです。
      >> 続きを読む

      2016/03/20 by

      斎藤家の核弾頭 (新潮文庫)」のレビュー

    • 降りる人さん
      お勧めくださってどうもありがとうございました。非常に面白かったです。
      絶版とか信じられませんね。この小説、書かれるのが早すぎたのでは?
      今、こんなリアリティを感じるSFはないですよ。
      全く解決もしないし彼らも生まれ変わったりしないところもリアルですね。
      >> 続きを読む

      2016/03/21 by 月うさぎ

    • 課長代理さん
      『夏の厄災』ですね。チェックしてみます。結構骨太な作家さんな気がします。
      女性目線が厳しいので男性は居心地が悪いのではないかと思います。
      登場人物に感情移入ができないとかカタルシスがないとかレビューに酷評している人がいますが、作者の意図が読めていないと思います。「闘う」ことへのアンチテーゼを描いているので、登場人物がかっこよく戦って勝ったり負けたりしてはいけないんですよね。
      「エンダーのゲーム」という映画についての酷評についても感じたことなのですが、戦争への抵抗感のなさが現代の日本人の趨勢だとすればこれほど危険なことはありません。
      >> 続きを読む

      2016/03/21 by 月うさぎ

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