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魔の山

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 935 円
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    「魔の山」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      【何度トライしてもどうしても読了できなかった本ってありませんか? 私にとってそんな本が「魔の山」でした。】

       3度目の正直!
       何度トライしても、どーしても、どうしても読めなかった本ってありませんか?
       この度、その一つをようやく読了できました。

       私は、結構しぶとく読み続けるタイプなのですけれど(それは良くないという指摘を頂くこともあるのですけれど)、そうやっていても、今までにどうしても読めなかった本がいくつかあります。
       その一つが、このトーマス・マンの「魔の山」でした。

       最初にトライしたのは、高校生位だった記憶です。はい、挫折しました。
       その後、多分、大学生だった頃か、就職した後に、もう一度トライしたと思うんですね。
       でも、やっぱり、あえなく再度挫折しました。

       で、その本は、「実家送り」になっていて、もう、何年もお蔵入りのままでした。
       だって、な~んにも起こらない物語なんですもの。
       いえ、それなりの出来事はあるのですけれど、なんていうか、結末に向かっての一貫した「流れ」のようなものはなく、ただただ、時が過ぎていくだけ。

       この度、実家を改築するという話が出て、学生時代に私が買った本が実家に溜まっていたのですけれど、その中で、必要な本だけ引き上げてきたのでした。
       その時の本を、最近読み直していたりします。
       「魔の山」も、そうやって戻ってきた本で、今回が3度目のトライ。
       今回は目出度く読了できました。

       主人公、というか、このお話の軸として描かれているのは、ハンス・カストルプという、何の変哲もないふつーの青年です。
       いとこのヨーアヒム・ツィームセンが、高い山にある国際療養施設、サナトリウムですね、「ベルクホーフ」に入院していました。
       ハンスは、これから造船会社に就職することが決まっていたのですが、ちょっと体調を崩したこともあって、いとこの見舞いがてらにこのサナトリウムで3週間の休暇療養を過ごすために高地を訪れました。

       ベルクホーフは、いたれりつくせりの施設です。
       毎日5回の、滋養に溢れる、贅沢な食事が振る舞われ、絶妙の寝心地を提供する寝椅子に、毛布にくるまって横になり、「水平生活」と揶揄されるような、穏やかな療養生活を送ります。
       滞在者は、みんな病気を抱えており、時々亡くなってしまう人のことも描かれますが、総じて「病人」というイメージは湧いてきません。
       多少の熱がある人でも、通常人と同じような生活(それも、とても贅沢な)を送り、優雅に暮らしている様が描かれます。
       それは、「下界」のことを忘れさせるような、素晴らしい体験であるように、「外来者」のハンスには思えました。

       しかし、いとこのヨーアヒムは、軍人志願で、もう、入隊が決まっていたのに、病気のためにそれも叶わず。
       ヨーアヒムとしては、病気を治すために与えられた日課をきっちりとこなし、一日でも早く「下界」に戻り、軍人としての生活を全うしたいと誠実な暮らしをしていました。

       最初は、「外来者」であったハンスですが、ここで、発病してしまうのですね。
       熱は下がらず、専門医の診断では間違いなく肺病だとか。
       最初は、3週間の見舞い療養だって長すぎると思って訪れたのに、ここで数ヶ月過ごすようにとの診断を下されてしまいます。

       さて、ここからが、「魔の山」の世界になっていくのですね。
       な~んにも起きません。
       いえ、起きますよ、日常生活の細々としたこととか、ハンスが知り合いになるセテムプリーニというイタリア人との形而上的な会話(……これは、その後、セテムプリーニの論敵であるナフタとの論争に発展します)、あぁ、クラウディア……いえ、ロシア人であるショーシャ夫人に惚れ込んで、恋してしまうハンスとか。
       それなりのエピソードはありますが、でも、それは完全に閉鎖されたサナトリウムの中だけのことです。
       また、全体を強く貫く物語全体に一本通った「筋」というものが見あたらないように思えるのです。

       最後まで読みましたが、最後のシーンに連なる伏線、あるいは、そこに導くためのストーリーなど、なにもありません。
       ただ、ただ、雪に覆われ、薄い空気を吸い、下界と隔絶された、サナトリウムの中の日々が連綿と綴られていくだけです。

       むしろ、この作品は、丹念に「時間」を書いているように思えました。
       ええ、作者も、読者に向かって、そういうことを書いていますし、ハンスの口や思考を借りて、そのテーマを論じてもいます。
       ベルクホーフ周辺の季節感もその伏線になっているように感じられます。
       季節感、と、書きましたが、実はこれが無い(狂っている)のです。
       夏のような、真っ青な空が広がる日々があるかと思えば、季節的には夏なのに、ひどく冷え込み、雪まで降ってしまう日もある。
       私たちが、時間を感じるよすがの一つでもある季節感が完全に狂わされています。

       そして、ベルクホーフの滞在者達も、そのような時間の流れに身を浸しきっているのでした。
       後半に出てくるちょっとしたエピソードですが、ハンスは、ある時、時計を落として壊してしまったのですが、もう、それをなおそうともしません。
       時間など、無くなってしまう世界なのかもしれませんね。

       私たちが、小説を読む時に費やす時間があるじゃないですか。
       でも、それは、時間軸で比べたなら、要領よく描かれている作中の人物達の時間の方が早く過ぎていくことでしょう。
       それは、「小説」というスタイルを取る以上仕方のないことなのですが、何だか、この作品は、ところどころで、そういうことに反旗を翻し、作中人物の時間と読者の時間を同じテンポで流しているのではないかと感じる部分があったりしました。
       それは、たとえば、セテムプリーニとナフタの難解な議論を丁寧に追って書き込んでいたりする部分など。

       でもね、いくら書いてみたところで、それは、彼等の思考の速度には追いつかなくて、だからどうしてもはしょらざるを得ないから、やっぱり作中の時間の方がどうしても早く流れてしまうのだけれど。
       作者が、そういう時間に論及するところもいくつかあります。
       特に、初期の頃など、そういう作品を目指していたのではなかったのだろうか、と思わせたりもします。
       何と、この作品を書き上げるまでに要した時間は11年程だったとか。
       ラストは、それなりの描写がありますが、やや強引に「閉めた」とも感じられます。
       きっと、そのままにしておいたら、「魔の山」は、いつまでも続く物語だったのかもしれません。

       長い長い物語でしたが、読了してみると得も言われぬ読後感があり、良い作品だなぁと感じました。
      >> 続きを読む

      2019/06/26 by

      魔の山」のレビュー

    • 読了おめでとうございます。
      なかなか読み切れない本って、あるんですね。
      でも、☆5つ評価、ということは、満足感の得られる本だったのですね。
      自分にとっては村上春樹作品を高校時代に読んだことが、それにあたりました。当時の私には理解するのが難しかったんですよね。
      でも、efさんのレビューを読んでみると、それを上回る難しさっぽいですね。
      >> 続きを読む

      2019/06/26 by taiaka45

    • 読了したのは大分昔なんですけどね(私のレビューの多くは過去に書いたものを転載しています)。
      そうですね、☆5つ分の満足感がありましたよ。
      >> 続きを読む

      2019/06/26 by ef177


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