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愛なんて嘘

3.7 3.7 (レビュー3件)
著者: 白石 一文
定価: 1,728 円
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    「愛なんて嘘」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 3.0

      誰といても孤独なのは、結局、この世界が人々の裏切りで満ち満ちているから。
      結婚や恋愛に意味なんてない。
      けれどもまだ誰かといることを切望してしまう。
      正解のない人生ならば、私は私のやり方で、幸せをつかみとる。
      かつての恋人を探し続ける女、死んだ親友の妻に同居を強要された男、離婚しそれぞれ再婚しても二人で添い遂げる約束をし続ける夫婦。
      自己愛という究極の純愛を貫く6つの短編集。

      短編6本。
      新潮社の文芸誌『yomyom』『小説新潮』に掲載されたものと、角川の『小説 野生時代』に掲載されたもの(『傷痕』)を纏めたものです。
      普通、こういう短編集というのは表題作がタイトルになって一冊の本となるのですが、今作では冠したタイトルの作品はありません。
      6本の短編を貫くテーマを見事に表した、素敵なタイトルと思いました。
      また、掲載順番も単純な時系列ではなく、発表時期が微妙に前後している点も、タイトル決定含めて著者の意向と深読みすれば(勘ぐり過ぎているかもしれませんが)、その一冊に込めるこだわりがファンとしては嬉しいかぎり。

      どの作品も白石さんらしく丁寧な心理描写で、時に静かな、時に激しい男女の心の交情を描いた佳作です。
      中でも印象に残ったのは『河底の人』。

      果穂と以前に交際していたオサムさんが、「ちょっと煙草を買ってくる」といって部屋を出てそれきりになって10年。
      今は、グラフィックデザイナーの昇さんと同居していて、もう31歳になりました。
      ある日の、気の置けない女友だちとのお酒の席で、池袋の回転すし店でオサムさんが働いているのを見かけたという情報が。
      果穂は迷わずオサムさんを訪ねます。
      これまでの10年の間も、オサムさんに関するどんな些細な情報でも耳に入れば、捜しにゆくを繰り返していた果穂。
      なぜ、あなたは何も残さず私から離れて行ったの?
      今は、どうして暮しているの?
      あなたは昔と変わらないままなの?
      その夜、場末の居酒屋でいくつもの疑問符を胸に、オサムさんと向き合う果穂の心中には、“今”の現在進行形の暮らしはすっぽりと消えていました。

      あらすじはこんなところで、格別、取り上げるような出来事も、意外性に富んだ結末もありません(結末の意外性については個人差があると思いますが、少なくとも僕は自然な終わりと思いました)。
      ただ、こんなに少ない枚数の中で、果穂とオサムさんを書ききった凄さというか、月並みな表現ですが小説の巧みさ、表現の美しさ、また白石さん独特の言葉づかいと直截的な発言、などに感心することしきりでした。

      果穂は今、付き合っている昇さんを心の中で、

      彼はインタビューなどでよく、「芸術から狂気を引くとグラフィックになる」と語っている。タブレットの映像を見つめている姿はある種の神々しさと静謐さをたたえている。この人がプロ中のプロであるのは、果穂にもよく分かる。
      でも…、と思う。
      この人に本当の狂気なんて絶対に理解できない。

      と、思っています。
      ということは、少なくとも果穂が狂気と定義づけている感情のようなものを昇さんは持ち合わせていなくて、果穂が心から渇望しているのは、そんな狂気を持ち合わせていたオサムさんだということを読み手に赤裸々に告白させてみせています。

      オサムさんという人物の造形は秀逸です。
      つかみどころのない雲のような大きな塊で、傷つきやすく、常識でははかれない基準で物事を決め、ひとつところに長い間居つかない。
      過去に優秀な野球選手だった時期があるそうなのですが、ある日の目の覚めるような好成績を最後に、ピタリと野球を止めてしまうのです。

      「そのホームランをかっ飛ばした瞬間、何か大事なものが消えたんだよ。この胸の真ん中にあった大黒柱みたいなものが、折れたんでもなく壊れたんでもなく、煙のように消えてなくなった」
      果穂はその言葉を耳にした瞬間、全身に戦慄が走るのを感じた。
      「その日から、どうしても本気で野球がやれなくなった」
      淡々とした口調でオサムさんは言った。

      いかにも漠然とした理由で大切なものを手放してしまう彼の狂気に、果穂は魅了されてしまいます。
      結局、オサムさんが果穂を離れた理由も、漠然としたものだったのですが、そのひとときでも魅了されたという事実が果穂の中では何より重要な自分の生き方だったわけでです。
      今という確かに地に足の着いた生活を呆れるほどあっけなく手放して、池袋の回転すし店に勤め、居酒屋で緑茶ハイを注文する、この狂気をはらんだ男との人生は、果穂にとっては必然だったのです。

      6本の小説を通して、様々な人間模様が描かれますが、一貫しているのは“愛”という不確かなものを拠り所に生きている人たちの弱さと強さ。
      自分の人生に軌道修正をかけるエネルギーは、もしかしたら妥協や計算にあらず、本能的な恋情なのかもしれないという問いかけ。

      こういう良質の本はBGM無しで静かに読みたかった(僕の勤務先はうるさいくらいテンションがあがる音楽が流れつづけています)ので、読む時間を選んでいたら、読み終えるまでに少し長くかかってしまいました。
      >> 続きを読む

      2015/04/16 by

      愛なんて嘘」のレビュー

    • >月うさぎさん
      いつも、コメントありがとうございます。
      愛も友情も信じないで生きている人たちが、巷に溢れているようです。
      引きこもりや、ホームレスなんか。
      社会と、他人様すべてと隔絶した、ひたすら自己の中にこもってしまう人たちが、こんなにも顕在化しているのは、情報量の多さ故でしょう。

      いわゆる「普通」と自分では思っている我々は、彼らほど超然とできませんが、
      苦しくとも繋がりを大切に生きていくほかありませんね。
      >> 続きを読む

      2015/04/17 by 課長代理

    • >arinkoさん
      いつも、コメントありがとうございます。
      安定が武器の男ですかー。安定は武器になり得ますか。なり得ますね。
      僕は、プラス、マイナスどちらかに振り切っているのが魅力と思っているところがありますが、選ぶ側(女の人)にとって、安心・安定は選ぶ材料の重大なひとつですね。
      今の日本でほどほど、人並みっていうのも口で言うほどたやすくないですからね。
      でも、やっぱり、バランス感覚おかしーだろーオマエっていう奴は魅力的じゃないですか?(笑)
      >> 続きを読む

      2015/04/17 by 課長代理

    • 評価: 4.0

      私には、白石一文さんらしい短編集だと思って読み進めました。
      どのような展開でどんなラストなのか いつも想定外な感じが好きです。

      2015/01/01 by

      愛なんて嘘」のレビュー

    • あらすじを読みましたが、愛の形はそれぞれの男女毎に有るんだなぁと思わされます。

      度きりの人生ですし、既成概念に囚われ過ぎずに2人なりの正解を見いだせれば良いですね。 >> 続きを読む

      2015/01/02 by ice

    • 評価: 4.0

      6組の男女の恋愛や結婚観を描いた6作品の短編小説です。
      白石さんの本は2冊目ですが、毎回不思議な男女の恋愛観が描かれている気がします。こんなことも世の中にはあるのだろうと思うのでが、私には、想定外の感じなので、不思議に思ってしまうのでしょうか?
      でも淡々としていて読みやすい本でした。

      2014/09/24 by

      愛なんて嘘」のレビュー

    • > 死んだ親友の妻に同居を強要された男。

      どういうシチュエーションなんだろう...

      2014/09/24 by ice

    • >iceさん
      死んだ親友の妻も自分もお互いに好きだという気持ちを抱き続けていた・・という事なのでしょうか?でも親友の奥さんの大胆な行動には驚きました。 >> 続きを読む

      2014/09/24 by ゆうゆう


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