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ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊

5.0 5.0 (レビュー2件)
著者: 塩野 七生
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    「ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      塩野七生の「ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊」は、思わず現代と引き比べたくなるような、古代アテネの成熟と腐敗が描かれている。

      急速に隆盛し、急速に衰退したギリシア人の歴史を、著者の塩野七生は、三巻にまとめると最初に語っている。
      ならば、この第二巻は物語のピークだ。

      政治のあり方を決定づける要因は、制度か個人か。
      この問いかけへの答えは、いつも難しいが、古代ギリシアの場合にはどうだったのだろうか。

      二度にわたるペルシア戦役で勝利を収め、ギリシアの都市国家が、繁栄の時代を迎えるところから、この本の叙述は始まる。

      その中心は、アテネである。テミストクレスの構想により、外港ピレウスとの一体化、さらにエーゲ海諸都市とのデロス同盟創設を通じて、アテネは、スパルタなどのライバル都市に大きな差をつけ始めた。

      それを引き継いだのが、ペリクレスであった。
      彼は、デロス同盟結成の15年後、紀元前462年にアテネの内閣に当たるストラテゴスに初めて選出され、30年以上にわたってトップリーダーであり続けた。

      時間的にも空間的にも、広い視野から物事を考えられる彼の政治指導の下で、アテネは空前の平和と安定を謳歌する。

      しかし、一人の政治指導者の能力が高いだけでは、政治は安定しない。アテネは、民主政だから、ストラテゴスは毎年改選される。

      ペリクレスも例外ではない。彼は市民を言葉で誘導することにより、その地位を維持して政策を展開したのだ、と著者は指摘する。

      言葉による誘導が成り立つには、誘導される市民の側にも、それを受け入れる柔軟性や理解力が必要となる。

      ペリクレスがツキディデスのいう「形は民主政体だが、実際はただ一人が支配した時代」を長く担えたのは、現状に自信があった時代のアテネ市民が、彼の言葉に安んじて多くを委ねたためであった。

      この点を私なりに敷衍すれば、この時期のアテネでは、指導者と市民の間で、課題や民主政のあり方についての価値観が共有されていたのだと思う。
      こうした時、民主政は大きな力を発揮できるのだ。

      同じことは対外関係にもいえた。アテネの宿敵であったスパルタでは、アルキダモス、ペルシアではアルタ・クセルクセスが、ペリクレスとほぼ同時期のトップリーダーであった。

      著者は、彼らを「良識」の持ち主だと評している。
      責任ある政治指導者の良識的な自己謙抑もまた、アテネのみならずギリシア全体の安定に大きく貢献したのだ。

      ところが、優れた政治指導者と、それを支える市民の委任やライバルたちの良識がもたらした平和と繁栄は、意外なまでに脆かった。

      スパルタとのペロポネソス戦争は泥沼化し、蔓延する疫病によってペリクレス自身が没すると、扇動政治家たちが、急速に支持を集める。

      デロス同盟の弱体化は、ペルシアに再びギリシアへの領土的関心を呼び起こさせた。

      ニキアスやアルキビアデスに率いられた、アテネの弱体化は、まさに坂道を転がり落ちるような没落であった。
      この責を政治指導者の無能さに求めることはたやすい。

      だが著者は、彼らを支持したのが、やはりアテネ市民であったことも忘れてはいない。
      ペリクレス没後のアテネは、社会経済的および軍事的な衰退につれて、中長期的展望を語って誘導する指導者に、市民が多くを委ねられなくなっていた。

      民主政には、次第に短慮が目立つようになってくる。

      古代ギリシアの経験は、近代に入って再発見されるが、そこで、当初追求されたのは、良識的な政治指導者と短慮に走らない市民であった。

      だがそれは、とりわけ民主政が人口や面積において、大きな国家に導入される時には確保が困難であった。

      18世紀後半以降のアメリカにおいて、権力分立論と民主政の組み合わせが試みられ、この問題は制度によって一応の解決を見た。
      良識のない政治家や、目先のことに囚われる平凡な市民から成る社会であっても、権力が暴走しないようになったためである。

      近代民主政の広がりにとって、制度的フォーマットの確立が持つ意味は決定的であった。

      しかし、制度にも個人にも還元できない要素が、現在なお民主政のあり方に、潜在的に大きな影響を与えていることも間違いない。

      民主政は、不可避的に多数の人々が政治に関与する体制である以上、その作動について考える際には、政治指導者と市民の持つ価値観、すなわち「民主政の精神」が持つ意味を無視することはできないのだ。

      リズムに富んだ著者の文体と、そこに活き活きと描き出される古代の人々の言葉や行動から、「民主政の精神」について思いをめぐらすことは、今日だからこそ大きな意味があると思う。

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      2021/03/24 by

      ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊」のレビュー

    • 評価: 5.0

      ギリシアの盟主の座をめぐってアテネとスパルタの戦いが延々と続く。27年間にもわたって戦ったという。民主制と軍事体制の国家の戦いであり、今の価値観からすれば「がんばれアテネ」となるのだが、どうもその内実はいただけない。国家の繁栄のためには「優れた指導者がいること」と「国民の民度が高いこと」だというのが分かる。結局、アテネはスパルタに敗れる。読後に残るのは「行き過ぎた民主主義には罠があるのでは」という疑問。民主主義は金科玉条でない。「アラブの春」や「ローソク革命」は本当に正しいことのか。大きな問題意識が残る。

      【このひと言】
      〇戦場には、市民権をもつ兵士しか連れて行けないのが、当時のギリシアの不文律であった。ぶっちゃけて言えば、アテネの民主制には、戦場へ連れて行ける兵士の数を増やすという意図がひそんでいたのである。
      〇「主導権をにぎった側が勝つ」とは戦場では有効な考え方だが、この考え方は、政治・外交・経済、そして文化に至るまで、通用可能な真理ではないだろうか。
      〇先を読める人は過去を忘れない。
      〇ペリクレスが男にいっさい応じなかったのは、言論の自由を尊重したからではない。言論の自由を乱用する愚か者に対する、強烈な軽蔑ゆえの振舞である。怒りもしなかったのは、この種の愚か者の水準にまで降りていくのを、拒否したからにすぎなかった。怒りとは、相手も対等であると思うから、起こる感情なのだ。
      〇政体がどう変わろうと、王政、貴族政、民主政、共産政と変わろうと、今日に至るまで人類は、指導者を必要としない政体を発明していない。
      〇勝者は絶対に正しく、敗者は絶対に悪い、とは思っていなかったのだ。勝敗はときの運に左右される場合が多いことを、知っていたのだと思う。ホメロスの叙事詩やギリシア悲劇が、"教科書"になっていたのかもしれない。
      〇兵士たちが司令官の口から聴きたいと願うのは、自分たちはどう行動すればよいかという、これ以上ないくらいに具体的な話なのである。また、批判や非難は人々を絶望させるが、兵士に向って司令官が伝えなければならないのは希望である。必ず勝つ、という希望なのだ。
      〇やはり、ソクラテスの教えは正しかったのだ。人間にとっての最大の敵は、他の誰でもなく、自分自身なのである。アテネ人は、自分たち自身に敗れたのである。言い換えれば、自滅したのであった。
      >> 続きを読む

      2017/03/15 by

      ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊」のレビュー


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