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桜田門外ノ変

5.0 5.0 (レビュー1件)
著者:
カテゴリー: 小説、物語
定価: 2,243 円
いいね! dreamer

    「桜田門外ノ変」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0


      この吉村昭の歴史長編小説「桜田門外ノ変」は、襲撃時、直接の現場指揮者であった水戸藩脱藩の関鉄之介を主人公とし、他の類書を圧倒する歴史資料の踏査により、この事変の全貌を描いた傑作だと思います。

      安政四年(1857)正月二日、水戸の城下は異様な空気に包まれていた。水戸藩内の派閥抗争で劣勢になっていた元家老の結城朝道を中心とする門閥派の再起を願い、徳川斉昭を頂点とした改革派の壊滅を企てた、元奥右筆頭取の谷田部藤七郎とその実弟の大嶺荘蔵が、その日、護送されてくる予定であったからなのだ。

      そして、その護送を見物する人々の中には、後に安政七年(1860)三月三日、江戸城桜田門外において、大老井伊直弼の暗殺を指示する、水戸藩北郡務方、関鉄之介の姿があったのです。

      水戸の下級藩士の家に生まれ、水戸学の薫陶を受け、尊王攘夷思想に目覚めた関鉄之介を主人公に、日米修好通商条約締結等をめぐる幕府と水戸藩の対立から、大老井伊直弼暗殺に到る桜田門外ノ変の全貌を描いた歴史大作で、読み終えた後の充実感はもの凄く、読書をする悦びに満たされてしまいます。

      この作品の中でしばしば、水戸藩士による井伊大老襲撃が、赤穂浪士の吉良邸討ち入りに譬えられる箇所がありますが、桜田門外ノ変を引き起こした安政の大獄をめぐっての井伊大老と水戸藩との確執、あるいは、襲撃後の関鉄之介らの逃亡生活や薩摩藩の背信等が詳細に描かれている点は、作風の違いこそあれ、大佛次郎が「赤穂浪士」において、初めて、浪士たちの討ち入り前後の状況を、当時の政治・社会・文化の各方面より綿密に浮かび上がらせたことに匹敵するのではないかと思います。

      また、この事件を水戸藩側からリアルに描くことを可能にした8年にわたる作者の歴史資料の収集は、襲撃に際して五挺の短銃を提供した加藤木賞三の存在をクローズ・アップし、鉄之介捕縛の地をこれまでの説とは異なる越後国湯沢とする等の新たな発見を、この作品にもたらしているのです。

      中でも面白いのは、水戸藩と井伊大老(彦根藩)との対立の要因に、異国船の襲来をめぐる地形の相違という視点を盛り込んでいる点です。

      長い海岸線を持ち、太平洋に面している水戸藩領は、外敵が侵入してくる場合の格好の上陸地であり、しかも江戸に近い。全国でこのような条件を備えている海岸を持つ藩は水戸藩以外になく、こうした対外的な危機感が、苛酷なまでの尊王攘夷思想を生んだというわけです。

      だが、一方、海岸線を持たぬ彦根藩主であった井伊大老にとって、こうした危機感は理解の外のものであり、外国との協調を図ろうとする立場から言えば、水戸斉昭は単なる危険思想の持主でしかなかったのです。

      作者の吉村昭は、この日本史のエポック・メイキング的な事件を、常に海との関わりにおいて描いてきた作家だと思います。この作品は、海からの外圧が過激な尊王攘夷思想という一個の「狂」を生み、さらにそれが安政の大獄という今一つの「狂」となり、両者が絡み合いながら歴史の歯車を転がしていく様を描いた作品として捉えることができると思います。

      そして、作者が、桜田門外ノ変に興味を抱いたのは、この事件を機に、倒幕運動が加速され、明治維新が達成されるまでの経過と、二・二六事件によって軍部が政治を支配し、日本が第二次世界大戦に突入して敗北するまでの経過が、酷似していたからだと語っています。

      前者が8年、後者が9年と時間的にもほぼ一致しています。時代の間を自在に往還する吉村昭の筆致は、時として「歴史は繰り返す」という感慨となって私の胸に強く伝わってくるのです。


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      2017/09/18 by

      桜田門外ノ変」のレビュー


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