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避難所

3.0 3.0 (レビュー1件)
著者: 垣谷 美雨
定価: 1,620 円
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    「避難所」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 3.0

      なして助がった?流されちまえば良がったのに。
      3・11のあと、女たちに突きつけられた現実に迫る長篇小説。

      乳飲み子を抱える遠乃は舅と義兄と、夫と離婚できずにいた福子は命を助けた少年と、そして出戻りで息子と母の三人暮らしだった渚はひとり避難所へむかった。
      段ボールの仕切りすらない体育館で、絆を押しつけられ、残された者と環境に押しつぶされる三人の妻、母。
      東日本大震災後で露わになった家族の問題と真の再生を描く問題作。

      僕の、父方の田舎が宮城県です。
      太平洋までは山をひとつ越えて、車で1時間半から2時間の距離。
      さすがに津波の被害には遭いませんでしたが、親戚の家は建て直さねばならないほど壊れました。
      水や電気もなかなか通らず、大叔母や従姉妹たちは難渋したようです。
      それでも、本作の舞台にもなっていて、僕らがテレビの向こう側で見ていた避難所、仮設住宅に頼らねばならない状況じゃなくて、ほんとうによかったと、改めて思いました。
      プライバシーが無い、衛生的に劣悪な環境、無神経な男たち…。
      ノンフィクションでなく小説ですから、読者に面白く読んでもらう為に多少のデフォルメはあるとは思いましたが、まるっきり無い話でもないな、と思いつつ震災後の、現地での“悲惨な避難生活”を描いた本作を読み終えました。

      椿原福子は50も半ばのパートターマー。
      ぐうたらで、プライドだけは高い無職の夫に代わって、家計を切盛りする働き者の彼女は、「その日」勤め先の用事で高台のスーパーに買い物に出掛けていたことが僥倖になりました。
      突然、強い地震を立て続けに感じ、周囲はあっという間にパニック状態に。
      狂乱の最中のスーパーでやっとのことで買い物を終え、勤め先へ向かうハンドルの向こうに、海がせり上がってくるのがはっきりと見えました。
      信じられないくらいに、高い!
      Uターンして車を走らせる福子でしたが、襲いくる津波のスピードはいともたやすく福子の運転する車を呑みこんでしまいます。
      死ぬんだ…諦めかけた福子でしたが、最後の力を振り絞って車外に飛び出します。
      山に近い場所なのに、流れてきたモーターボートを捕まえ、乗り込む福子。
      幸いに水に浸かっていない2階家のベランダにいた老女に助けられます。
      改めて振り返ると、信じられない光景が広がっていました。
      町が海に変わっている…。
      そこへ、同じように流れされてきたひとりの男の子。
      福子は老女と一緒に男の子を引き上げてあげます。
      電気も止まった真っ暗な寒い夜。
      3人は体を寄せ合うようにして、助けを待っていました。
      遠く、港の方ではあちこちで火事が起きているのが見えていました。

      漆山遠乃は乳飲み子を抱いて、呆然としていました。
      あれだけ強い地震があったというのに、消防車が「津波が来るから、避難して下さい」とさかんに呼びかけてまわっているのに。
      舅も姑も、津波なんか来るわけない、この前のチリ地震のときも、来るくるって言ってやっぱりこなかった、今回もそうだ、とまったく避難を考えてくれません。
      挙句に「嫁のお前は余計な心配をしなくていい」と一蹴される始末。
      そこへ近所のママ友が買い物に行こう、と誘ってくれます。
      渡りに船とばかり車に乗り込む遠乃に、舅は罵詈雑言を浴びせかけるだけ浴びせ、また炬燵に潜り込むのでした。
      案の定、幹線道路はすでに大渋滞。
      裏道をたくみに駆って、高台へ続く道を進む軽自動車。
      ラジオからは津波到着を告げる緊迫した放送が。
      遠乃は、図書館へ出かけていた夫・岳春が気がかりです。
      「きっと大丈夫、図書館は鉄筋コンクリートの4階建だから」
      自分を励ます友人の言葉に、自らを納得させる遠乃。
      小高い丘の中腹でついに渋滞につかまり、車は動かなくなります。
      背後をふり返ったとき、目に飛び込んできたのは、数台後ろをはしっていたトラックが流されてくる瞬間でした。

      港町で、母親と食堂兼スナックを営む山野渚は、昼休憩で自宅に帰っているところでした。
      酷い暴力をふるう夫と離婚が成立し、母親の援助を受けて自分の店を持ってから数年、わき目もふらず働いてきました。
      最近では常連さんも増え、ようやく商売も軌道にのってきたところでした。
      夕方からの営業に備え、家を出ようとした途端、足元を揺るがす大きな地震。
      近所のお年寄りたちも慌てて道路に飛び出してきます。
      見ると、アスファルトの地面には大きく口を開けた亀裂が。
      店は、大丈夫だろうか。
      渚は一瞬、母の身を案じますが、揺れによって自宅内の散らかりように気を奪われ、いそいそと片づけを始めます。
      しばらくした頃、曲げたままだった腰を伸ばそうと立ち上がった途端、不思議な浮遊感に襲われます。
      なんだ?
      窓から外をみるとそこに在るはずの隣家の塀がなくなっており、ただただ広い海原があるだけでした。
      階下から凄い勢いで上がってくる水の音。
      これまで感じたことがないほど強い恐怖が突き上げてきた渚は、思考停止状態に。
      家は流され続け、幸運にも消防団員が数名たき火をおこしていた山肌にひっかかります。
      九死に一生を得た渚。
      ガタガタと震える体は、その夜、疲れていても眠ることはできませんでした。

      3人が出会うのは、避難所に指定された学校の体育館。
      生き残った人々は埃と垢に塗れ、一様に疲れ切った顔で横たわっています。
      福子は、惨事のあとで不謹慎とは思いつつも、たぶん死んでしまったであろう夫からの解放感で浮き立つ心を抑えられずいました。
      こうして死別してみて改めて感じる夫への嫌悪感。
      そうはいいつつも、今後の暮らしをどう立ててゆけばよいか。
      とりあえず、今の渇きと空腹を、どう満たせばよいか。

      遠乃を責め立てる舅。
      よくも、儂ら年寄りふたりを見殺しにしたな、おかげでオッカアは津波に流されちまったんだぞ!
      その舅を宥める、義兄。
      遠乃だって、まさかあんな津波がくるなんて考えてなかったんだよ、岳春が亡くなって遠乃だってかわいそうじゃないか…。
      言葉とは裏腹に、遠乃の体を嫌らしい目つきで見つめる義兄が、心底嫌いでした。
      人からはよく「きれい」と言われてきた遠乃でした。
      この避難所でも、さっそく「あの綺麗なママさん」と呼ばれるようになった美貌の人が詰られているのを、たくさんの好奇の目が見つめます。
      この先は、4人で力を合せてやっていがねばなんね。
      ついては、死んだ弟の嫁っこを独身の兄弟が娶るというのは、昔からよくある話しだ。
      信じられない舅の言葉に愕然とする遠乃、舅の傍らで恥ずかしげに身じろぎしつつ遠乃を上目使いに見つめる義兄。
      吐き気に襲われ、発作的に遠乃は避難所から飛び出します。

      一人息子を探し続けて、この避難所に辿り着いた渚。
      昌也が、椿原福子という優しい中年女性に保護されていたのを知り、脱力感と安心感に包まれ、涙が止まりませんでした。
      昌也を探し続ける過程で、自分が水商売をしているばかりに、昌也がクラスでいじめられていたのを知り、母親失格と自分を苛めながらあちこちの避難所を訪ね歩いていたのでした。
      昌也の無事を知り、ひとまずは安心した渚でしたが、これからのことを考えなければならない。
      それにしても、疲れてしまった。
      お風呂に入りたい、柔らかい布団で眠りたい。
      落ちかけた意識の隅で、リーダーを自認する年配の男性が「絆」を声高に話し始めていました。


      訛りを文字化すると、…ちょっと変。
      こんな言葉で話すのは、岩手なのかな?
      宮城の訛りとは、だいぶ違うので、少し違和感がありました。

      違和感といえば、東北地方の山村では、未だにこんな男尊女卑が蔓延っているのでしょうか。
      確かに、僕の田舎でも、東京やその近隣都市に比べて、男を立てる風潮は残っていると感じたことはありますが、この作品に書かれているほど酷くない。

      赤ん坊に母乳をあげる遠乃が恥ずかしがって毛布を被るのですが、それを引きはがそうとする舅。
      避妊用ピルを配布して、こういう混乱した状況だと男は女性に縋りたくなるものなの、ごめんなさいね、わかってくださいね、と平然と口にする避難所リーダー。
      女子が賢しらに口をきくんじゃない、と、女性の発言自体を毛嫌いする福子の生きていた亭主。

      いちばんまともな“男”が、野獣のように遠乃を襲おうとした男たちを察知し、危険を知らせた昌也、小学生。
      よく頑張った。

      酷い自然災害が去った後に、残された人々のご苦労は筆舌に尽くせないほどであったことでしょう。
      著者の垣谷さんも、敢えてこのテーマに取り組まれるにあたっては、批判も想定内と、相当の覚悟を持ってお書きになられたものと思います。

      どうしようもない現実を前にして、強く確かに立ち上がるのは、いつも女性が先。
      偉そうにしている男どもは肝心なときにまったく役にたちません。
      絆や、思いやりでは食べていけない。
      形のない理想みたいなものにしがみついていないで、現実を直視する強い行動力をもって、生きなおそうとする女性たちの姿は、やっぱり輝いてみえます。
      夢みたいな物語だっていいじゃありませんか。
      フィクションで元気づけられるなら、いくらでも夢物語を読みましょうよ。
      それが冒涜だとは、僕は思わないです。
      >> 続きを読む

      2015/09/01 by

      避難所」のレビュー

    • 震災直後、気仙沼の方とほんの小さなご縁で援助の申し出をさせていただいたことがあります。
      その折に、九死に一生を得た方の生のお声を聴かせていただきました。
      私がお手伝いできたのは、主に救援物資のお届けですが、
      単に役に立ったねめでたしめでたしでは済まない難しさを感じました。
      受ける側の心の負担がこちらでは考えられない程大きい問題なのです。
      現地の取りまとめ役の方の負担も相当なものだったようです。
      お送りした品を受けとっていただけた方からお葉書を頂戴し、
      今も手元にあります。
      生々しい体験を読むと涙が溢れます。
      被害にあった方は等しく傷つき、他人を攻撃できるような「元気」など、ありはしないようでしたよ。
      そういうことは仙台のような、命に別状のなかったエリアの方みたいに、
      もっと余裕がないとできないのだと考えます。

      被災者はもっともっと小さくなっておられました。気の毒でした。
      この小説は絵空事ですね。

      今、皆さんはどうしているのか心配ではありますが、「心配される立場でいる」と思わせることにも失礼な気がして、遠慮ができ、今は何もできていません。
      平常のお暮しに戻られていることを祈っています。
      >> 続きを読む

      2015/09/07 by 月うさぎ

    • >月うさぎさん
      いつも、コメントありがとうございます。
      テレビでは、いいところしか報道しないから(Nスペだって)、ほんとうに苦しんでいた苦しみを我々は、やっぱり遠い事としかとらえきれなかったんだと思います。
      何をしても、自己満足になるのじゃ…と躊躇するのは、僕もそうです。
      何を寄付しても、何を思っても、心底、寄り添えているか、胸を張って答えられる自信がありません。
      >> 続きを読む

      2015/09/07 by 課長代理


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