こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)

エコー・メイカー

4.5 4.5 (レビュー2件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 4,200 円

マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマーク。だが、奇跡的な生還を歓び、言葉を失ったマークの長い長いリハビリにキャリアをなげうって献身したカリンを待っていたのは、自分を姉と認めぬ弟の言葉だった。「あんた俺の姉貴のつもりなのか?姉貴のつもりでいるんなら、頭がおかしいぜ」カプグラ症候群と呼ばれる、脳が作り出した出口のない迷宮に翻弄される姉弟。事故の、あからさまな不審さ。そして、病室に残されていた謎の紙片―。幾多の織り糸を巧緻に、そして力強く編み上げた天才パワーズの驚異の代表作にして全米図書賞受賞作。

いいね!

    「エコー・メイカー」 の読書レビュー (最新順)

    最新のレビュー順 | 人気のレビュー順
    すべてのレビューとコメントを開く
    • 評価: 4.0

      【私は何者でもない】
       ネブラスカ州のプラット川には、毎年何十万羽という鶴が飛来する場所でした。
       丁度、今年の鶴がやって来たその日の夜、マークは運転していたトラックを路外に転覆させてしまい瀕死の重傷を負ったのでした。

       連絡を受けて病院に駆けつけたのは、マークの唯一の親族である姉のカリンでした。
       マークは意識がなく、脳に損傷を負っていました。
       そして、マークの病床には、誰が残したのか分かりませんが、「私は何者でもない……」と書かれたメモが残されていました。
       病院関係者に聞いてもメモに心当たりは無く、親族以外に面会した者もいないというのです。

       マークの事故については、匿名の者が警察に電話をしてくれたため、早期に覚知でき、マークを救助できたということでした。
       救出がもう少し遅れたら、マークは確実に死んでいただろうというのです。
       おそらく、メモを残してくれた人がマークを発見して通報してくれた人なのではないかと思われるのですが。

       その後、マークは徐々に回復を始めるのですが、言葉を話せるようになっても、最初のうちは耳から聞こえた言葉をただ反復して発話しているだけで、自己の意識に基づいて話しているわけではないようでした。
       そう、まさに、『エコー・メイカー』というわけです。

       しかし、治療の甲斐もあり、マークは回復するのですが、脳損傷に基づく障害が残りました。
       それはカプグラ症候群と呼ばれるもので、自分の愛する者が本物ではないと思い込んでしまう症状でした。
       マークの場合、それは姉のカリンに対して現れました。
       「あんた、カリンによく似てるけど一体誰なんだい? 政府の回し者か何か?」
       どう説明しても本当の姉と認めてもらえないカリンは絶望感に打ちひしがれます。

       そんな時、カリンは、地元で自然保護運動をしているマークの旧友のダニエルからもらった脳神経障害に関する文献の中に著名なウェーバー教授の本を見つけます。
       その本を熟読したカリンは、ウェーバー教授ならマークを助けてくれるかもしれないと思い、教授に宛ててメールを出したのでした。

       このウェーバー教授は、まるでオリバー・サックスのような感じで、一般向けのポピュラー・サイエンスの著作で有名な医師でした。
       ウェーバー教授は、カリンのメールに目を留め、外傷によるカプグラ症候群という非常に珍しいケースであったことから自己の著作の材料になるかもしれないと考え、マークに会いにいくことを決意します。

       マークの症状はその後悪化していき、姉のカリンだけではなく、愛犬もニセモノだと思い始めますし、また、自分がローンを組んでようやく買った家もニセモノだと言い始めるのです。
       そればかりか、悪友達に対しても徐々にニセモノ感を強めていきます。
       これらは政府によって仕組まれた壮大な陰謀であり、きっかけになった事故も仕組まれたものなのだととんでもないことを言い始めるのです。
       マークは、事故の真相を知っているのはメモを残してくれた人だけだと考え、その捜索に熱中するようになります。

       絶望するカリンが頼ったのは、マークの旧友のダニエルの他、マークが入院していた病院の看護助手をしていたバーバラという女性でした。
       バーバラは、看護助手などというポジションにはそぐわないほど頼りになる人で、マークもすっかり心を許していたのです。
       バーバラはどうしてあんなに素晴らしい素養を持っているのに看護助手などに留まっているのだろう?
       同じことはウェーバー教授も感じます。
       高度の知性と医学的な素養すら認められるのに、バーバラとは一体どんな人物なのだろうと。

       本作は、マークの事故をきっかけに生じたカプグラ症候群という非常に奇異な症状からの立ち直りを目指す人びとに、鶴が飛来する貴重な自然を守ろうとする運動とそれに対して開発を進めようとする一派の動きが絡められて進んでいきます。
       そして、その中に、鶴たちのふるまいと、脳障害を抱えてしまったマークの視点が織り込まれていきます。

       ハードカバーで620ページを越えるヴォリュームであり、読了には体力が必要でした。
       それは、中心となるストーリー以外にも、自然保護に関する記述や、脳障害に関する様々な記述(それこそ、オリバー・サックスの本のような内容です)がそれなりの分量盛り込まれていることもあり、なかなかにヘビーな内容になっています。
       その分、私は、やや冗漫な印象を持ってしまいましたが。

       そして、全編を通じて感じたのは、この作品全体の構成が、まさに脳そのものを写し書きしているのではないかと思えることでした。
       作中にも触れられていますが、現在の学会の趨勢は、脳の機能を解剖学的に解明し、それぞれの機能がどう関わっているのかという視点から分析的に考察するという立場だということですが、本作の様々な視点が、個別の脳のユニットのように絡み合わされて描かれているような印象を受けたのです。
       それは、個別の記述の中にも出てくることで、例えばウェーバー教授が飛行機から見る街の夜景、その灯りのつながりが、脳内のニューロンのようなイメージと重ねられていたりと、そういう感じなんです。

       SF的な要素もありますし、謎解きの要素もあり、また、オリバー・サックス物にみられる医学的な興味もかきたてられ、さらには家族や友人間の感情についても描き込んでいるという、なかなかに重量級の一冊ではないでしょうか。
      >> 続きを読む

      2019/07/29 by

      エコー・メイカー」のレビュー

    •  この作品は、確か全米図書賞受賞作で、パワーズにとっても記念碑的な作品なのかもしれません。しかし、パワーズの作品としてはやや重すぎる感がありますね。ぼくとしては、是非『われらが歌うとき』、『ガラテイア2.2』を読んでほしいと思っています。
      >> 続きを読む

      2019/08/29 by 弁護士K

    • ご紹介ありがとうございました。

      2019/08/29 by ef177

    • 評価: 5.0

       パワーズの全米図書賞受賞作です。なんで画像がないの?
       読み終えたばかりのいま、その印象を適切に表現する言葉を選ぶことができません。敢えていえば、やっぱりパワーズは凄かった、ということになりましょうか。
       主人公の1人である脳科学者を、ぼくはずっとオリバー・サックスに重ねて読みましたが、訳者あとがきによれば、特定のモデルはいないのだそうです。日本では「妻を帽子と間違えた男」、「レナードの朝」のサックスが有名ですが、似たような仕事をしている人はアメリカにはたくさんいるみたいですね。
       脳科学というと、脳科学者という肩書でマスコミに登場するN木K一郎さんのイメージが強くて、どうしても胡散臭く感じてしまいます。しかし、人間の脳が、宇宙の果てと同様に未開拓な知的領域であることは確かであり、それをモチフとしてこういった作品世界を創造していしまうパワーズの構想には脱帽するしかありません。 >> 続きを読む

      2013/05/25 by

      エコー・メイカー」のレビュー

    •  ちょっと調べてみたら、ロバード・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズの「レナードの朝」が日本で公開されて、サックスの原作が書店に山積みになったのは1991年のことだったようです。その頃はまだ「脳科学」という言葉はなかったのではないかなあ。実はこの本を読んで、「へえ!サックスって脳科学者だったんだ!」と驚いた次第。
       実はN木さんについては、何も読んだことがなく、彼に対するわたしのコメントは全くの偏見です。彼のファンの方がいらっしゃったらお気を悪くされたかと存じます。ごめんなさい。たまたま彼が書いたこの本のレビューを見つけたのですが、簡潔にまとまった、いいレビューでした。
      >> 続きを読む

      2013/05/25 by 弁護士K

    • 本当にステキな表紙ですね~!カフェとかでステキな表紙の本を読んでいる人を見かけると、その人自体がセンス良く思えますよね♪ >> 続きを読む

      2013/05/25 by sunflower


    最近この本を本棚に追加した会員

    この本に関連したオススメの本

    取得中です。しばらくお待ちください。

    エコーメイカー
    えこーめいかー

    エコー・メイカー | 読書ログ

    会員登録(無料)

    今月の課題図書
    読書ログってこんなサービス
    映画ログはこちら
    読書ログさんの本棚

    レビューのある本

    最近チェックした本